転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第333話 村人転生者、出頭する

「ただいま~」

玄関を開け声を掛ける。台所からは母メアリーとアナさんが談笑しながら、夕食の支度をする音が聞こえる。

 

「ダ~、ケビ、ダ~♪」

最近ふらふらながらも二足歩行を体得したミッシェルちゃんが、よちよち歩きをしながらお出迎えをしてくれる。

まぁ通訳いたしますと、“ケビンどこへ行ってた!!貴様は我が配下にして愛馬、さぁ、我を抱っこするのだ!”とどこかの皇帝様の様なことを仰っておられるのですが。

 

と言うかミッシェルちゃん何者?マジで皇帝様の生まれ変わりか何かなの?

前に聞いてみた事があったんだけど、“フンッ、ケビンはつまらぬことを気にする。我はミッシェル、唯一無二の存在。

我は我であるが故に我なのだ!”と唯我独尊的発言をですね。

もうね、ミッシェル様はミッシェル様な訳ですよ。

でも周りには「ダ~、パッパン、コッ、コッ!」って感じにしか聞こえないんですけどね。

心の声とのギャップの凄さよ。因みに先程の言葉は、“パッパン号、抱っこだ、抱っこをするのだ!”です。

お父様、お父様はパパではなくパッパン号と言う移動用生物と見られているようです。早く人間に昇格するといいですね、私も同様なんですが。

 

「ハイハイ、ケビンでございます。留守にしていて申し訳ありませんでした。

アナさんに遊んで貰っていたんじゃないんですか?」

「ドゥ~、ニャ、ドゥ~」

どうやらミッシェルちゃん、アナさんが苦手なご様子。

“う~、アナは怖いのだ。笑顔なのに迫力が違うのだ”とはミッシェルちゃんのお言葉。流石年の功、元隠れ里の長は生まれて一年やそこらの子供にも容赦がない事で。

 

「ケビンお帰りなさい、今回は早かったのね」

「メアリーお母さん、ただいま。アナさんもありがとうね、何時も助かってるよ。

今回は何とかね、俺でもどうにかなる様な問題でよかったよ」

 

母メアリーには俺が多くの魔物と雇用関係を結んでいる事は話してあります。マルセル村の魔の森の最奥、老木の傍にオークのブー太郎やグラスウルフ軍団に棲んでもらい、魔の森のホーンラビットの間引きや大森林の防衛線を担って貰っている事。

他にも多数の魔物と契約を結び大森林の警戒に当たって貰っていること等々。

今回も契約魔物からの緊急連絡があったって事で外出許可を貰って出掛けたって訳です。

・・・噓は言ってない、嘘は。

 

「あっ、これお土産。なんか凄くいい匂いがする木。香木とかいう物だとは思うんだけど、俺ってその辺詳しくないから。

ブラウスを掛けておけばほんのり香りが付いていい感じかなと思って、衣類掛けを作ってみたんだ」

 

そう言い母メアリーに渡したのは、ごみ屋敷の帰りにガーディンさんの背中の上で作った香木ハンガーですね。

人里に観光に行ければそこでお土産を見繕ってもよかったんですけど、そうも行きませんでしたので。

後から考えたら魔物の用事で出掛けたのに人里でお土産を買って帰ったらどこに行ってたのって話になる訳で、まぁ結果オーライって奴です。

 

俺にしてはこじゃれたお土産に母メアリーはご満悦。

アナさん、聖母のような笑顔を見せながら“私の分もあるんですよね?”って言うプレッシャーを掛けるのは止めましょう。

って言うかあなたハンガー使わんやん、畳んで木箱に仕舞う人やん、クローゼット文化圏の御方じゃないじゃないですか!

ふむふむ、ドラゴンロード騎士爵家の者としてそうした文化も取り入れて行くと。なるほど、柔軟な思考はいい事です。

もうね、外堀ガッツリ埋め尽くされちゃってるしね、別に抵抗する気はないんでそのまま大人しく料理修行でもしていてください。

母メアリーもジミーが武者修行に出てしまった寂しさを、アナさんと交流することで埋めているみたいですしね。

 

「ケビン、夕食の準備が出来たからヘンリーを呼んできてくれる?部屋で道具の手入れをしていると思うから」

「分かった。声を掛けたら着替えて手を洗って来るよ」

俺はミッシェルちゃんを抱っこしながら、農具を磨きながら悦に浸っている父ヘンリーの下へと向かうのでした。

ですのでミッシェルちゃん、髪の毛や耳を引っ張って“走れ~、ケビン、走るのだ~!!”とか言うのは止めてください。

 

―――――――――――――

 

最強生物から頼まれたごみ屋敷の清掃依頼は、依頼人に大変好評をいただき、無事完遂する事が出来ました。

と言うかここまでの大仕事とは聞いていなかったんですが?

ガーディンさんに送っていただきフィヨルド山脈の大洞窟に到着した俺がその事を問い質したところ、そっぽを向かれ顔をポリポリ掻かれる御方様。

こいつ、ごみ屋敷の惨状をすっかり忘れていやがったな!?

 

最強生物曰く、ドラゴン種の収集癖は本当の事らしく、ドラゴンという生き物は大なり小なり片付けられない症候群に罹患しているのだとか。

 

“うむ、あ奴の塒の状態の事を忘れておったことはすまなかった。ここ千年ほど訪ねていなかった故な。

最後に足を運んだのはあ奴の子が巣立ちした時であったか、二百歳ほどの若者であったが今ではどこぞで卵を産んだとかなんとか。

時の流れとは早いものであるな”

 

何か親戚のおじさんが子供を産んだ姪っ子の話をする様な口振りですが、時間の経過が。千年前がついこないだってどんだけよ。

やっぱり最強生物のスケールは人の身には推し量れないものがあります。

 

「それで依頼人の御方からこんなものを頂いたと言いますか、どうにかしてと押し付けられたと言いますか。

ちょっと状態を見ていただきたいんですが?」

そう言い俺が影空間から取り出したのは、一抱えはあるかという大きな卵。依頼人が二千年前にお産みになって結局孵らなかったドラゴンの卵ですね。

 

“ふむ、見た感じ特に問題はなさそうではあるのだがな。周辺魔力もしっかり吸っておるし、死んでいる訳でもなさそうではあるのだが。・・・こう、何と言うか反応がな?

一般的にドラゴンは普通の生物よりも卵の時期が長い。そして卵の中で意識が芽生えるものが多い。

これはドラゴンが生まれて直ぐにドラゴンとして生きて行けるように進化した結果であると言われておるのだが、念話による会話すら行う者もいるくらいでな。

そこまで行かなくともかなりの自己主張をするはずであるのだが、この卵からはそれを感じぬ。

どこか空虚な感じすらする、これは一体どうしたものか”

 

そう仰って腕を組まれる最強生物。

そりゃそうか、いくらずぼらなごみ屋敷オーナーとは言え、二千年間ずっと放置していたはずもない。

様々な手段を尽くし、その上でどうにもならなくて放置してしまった。真相としてはそんなところなんでしょう。

 

最強生物たちが手を尽くしてどうにもならない事態をぽっと出の俺がどうにか出来る筈もありませんし、この件ばかりを構ってもいられません。

ちょっと試したい事があるのでそれをやってみて、それでもどうにもなら無い様なら黒鴉さん二号になってもらうという事で。

幸い魔力吸収自体は行ってくれているとのことですので、いい修行アイテムになる事でしょう。

 

“そうであった、あ奴から感謝の念話が来ておってな。今度仲間にも自慢して美しい塒を見せびらかすとか言っておったぞ?

急な依頼にも関わらず期待以上の結果を出してくれたようで、我も鼻が高い。

ケビンには本当に感謝しておる、すまなかったの”

 

そう言い頭を下げる最強生物。ぽろっと口を滑らせたとは言え、これで最強生物の面子も立ったことでしょう。

俺も今回はちゃんとお代を頂いた事ですし、何の文句もございません。

俺は収納の腕輪から頑丈な木箱を取り出し、金貨がぎっしりと詰まった様子を見せながら話をするのでした。

 

―――――――――

 

社会人として世の中に出た時、必ずこれは守りなさいと言われることが幾つかある。そのうちの一つに<報・連・相>という物がある。

報告:何か事があったり、何か事を行った場合は、上司やそれにあたる立場の者に確りと報告をしましょう。

連絡:情報の共有、必要な物事の連絡を密に行い、周囲との協力関係を構築しましょう。

相談:人が集団や組織に属する以上、勝手な判断で物事を推し進める事は組織にとって不利益を生じる事があります。また分からない事や悩みなどを自分一人で抱え込むことで結果的に周囲に不利益を与える事もあります。

物事をより良い方向に導く為にも、よく相談をし多くの知恵を出し合いましょう。

 

それら<報・連・相>を怠るとどうなるのか?

 

暗い夜空を彩る星々の明かり。人々の寝静まる美しくも優しい暗闇の世界。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

人気のない星明り差し込む礼拝堂に響く靴音。

一つの人影がその中央で跪き女神像に向かい祈りを捧げる。

 

“ポワッ”

淡い光を上げる床、そこに浮かび上がったのは六角の星を模った魔法陣。星の六つの頂点からは光の柱が伸び、礼拝堂を幻想的に照らし出す。

 

「天上界に住まいしいと尊き御方よ。我ら地上を這いずる卑しき者たちを見守り導いて下さる御方よ。

願わくば我が声に応え、今ここに顕現してくださることを望まん。

我が守護天使、あなた様よ、報酬は光属性マシマシマシマシ蜂蜜カクテル(キラービーバージョン)とエクアドルラのステーキで!」

 

そう言い収納の腕輪から飴色のテーブルセットを取り出し配膳を行うケビン。

中空には神秘的な光の集束が起こり、大きな力を持った高位存在が顕現する。

 

“カタッ、カタッ、カタッ”

礼拝堂の壁際に設置された燭台置き場に魔道具のランプを設置し、部屋の中を明るく照らす。

お客様の来店、本日のメインディッシュはエクアドルラのステーキ。皿のメニューに合わせグラスに注がれた赤ワインの芳醇な香りが、この料理への期待をより一層高めてくれる。

 

“カチャカチャカチャ”

切り分けられ口に運ばれたエクアドルラのステーキ、捕獲制限の掛けられた高級食材と謳われるだけあり、その爆発的な旨味は食す者から言葉を失わせる。

皿の上で踊るナイフとフォークの音だけが、深夜の礼拝堂に響き渡る。

 

“ゴクッゴクッゴクッ”

定命(じょうみょう)なる者よ、素晴らしき料理でした。

更に合わせたワインの選択も見事、感謝しますよ”

 

心に響くいと尊き方のお言葉、敬虔なる者は感激に胸を詰まらせ、自然跪き頭を垂れる。

 

“って言うかこのくだりいる?毎回言うけど何その無駄に洗練された演技、心の底からの信仰と感動って、ケビン絶対そんなこと考えてないでしょう!

アンタってば面白い事には命懸け、怖いモノはお饅頭って答えるタイプじゃない。信仰心なんて欠片もないじゃない”

 

何かいと尊き御方が仰っておりますが、私のような矮小なる者には高度なお話はちょっと・・・。

 

“だ~か~ら~、口で話せ口で~!!どうせ心が読めるんだから一緒でしょとか考えてるんじゃな~い!

この態度のどこが敬虔な信徒なのよ、めっちゃふざけてるじゃない。そのウルウルした瞳はやめろ!なんかムカつく!!”

 

どうやら(わたくし)の信仰はあなた様には届かなかったようでございます。まだまだ修行が足らないという事なのでしょう。精進しなければなりません。

 

「って冗談はこれくらいにして、本日お越しいただいたのはそろそろそちらでも問題が発生しているかなと思いまして、ご報告と言いますか?前回それで怒られましたんで、予め連絡を入れさせていただいた次第でございます」

 

俺の言葉に“こいつまた何かやらかしたのか!?”と引き攣った表情をなさるあなた様。

イヤイヤイヤ、俺そんなに毎回やらかしている訳じゃないっすよ?たま~によく分からない事になるだけですってば~、いやだな~。

 

「それでご報告なんですが、エルドラ王国って国をご存じですかね?昔からドラゴンを信仰する地域がある事で有名な国なんですが、ちょっとその塒の中にこの礼拝堂と同じような建物を建てましてね?この魔力を吸収して光る魔法陣を設置したもんですから、多分聖域化してるんじゃないかな~と思いまして。

依頼人のドラゴンさんが“なんで聖域が!?”とか言ってたんで上手く作動しているものかと」

 

“ブフォ”

俺の言葉に思わず噴き出すあなた様。って言うか噴き出すときも思念なの?ある意味器用だな、流石高位存在。

 

“なっ、アンタ一体何しでかしちゃってるのよ!ちょっと待ってなさい!

**#@様、お忙しい所すみません、例の特異点です。

はい、はい、それでケビンからの報告でエルドラ王国のドラゴンの洞窟に聖域を作ったと。はい、経緯についてはこれから。

はい、分かりました。

後ほど報告書をお持ちします、失礼します”

 

上司である本部長様に連絡を入れてから、どっと肩を落とされるあなた様。

美人を怒らせると恐ろしいと言いますが、下から睨み上げるような視線が超怖い。雰囲気が井戸から這い出す怨霊みたいなんですけど。

 

“ちゃんとお話ししてくれるんですよね?”(ニッコリ)

「あっ、はい、お任せください」

俺は取り繕ったかの様な笑顔を向けるあなた様に姿勢を正し、事の詳細をお話しするのでした。

 




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