転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第334話 村人転生者、己を見詰める

村人の朝は早い。

東の空が白み始める頃には起き出し畑に向かう。収穫の終わった春野菜の畝にビッグワーム肥料を撒き、耕し直してから夏野菜の苗を植えたり、果菜類の畝周りの草取りや追肥を行ったり。

 

「おはようございます、パトリシアお嬢様」

「おはようケビン、今朝の予定はホーンラビット牧場の世話と実験農場での収穫だったかしら?」

 

マルセル村の中心に位置する健康広場、そのすぐ脇に建てられたアルバート子爵家仮本邸。

その邸宅前では子爵令嬢であるパトリシア・アルバートに対しお付きの騎士であるケビン・ドラゴンロードが朝の挨拶を行う。

 

「はい、ですがよろしかったのでしょうか?

実験農場での収穫は私の家の問題、パトリシアお嬢様の御手を煩わせるのは心苦しく」

「何を言うのです。私は既にアルバート子爵家の娘、マルセル村の一員。村の者として村の産業に従事するは当然。

ですが何も知らぬ貴族娘がしゃしゃり出る事で村人に余計な負担を強いる事などあってはならない事。

ケビンには負担を掛けますが、実験農場での収穫作業は私が村に馴染むための学習の場なのです。

ケビンが気に病む事はないのです、寧ろこちらの方が申し訳なく感じているのですよ?」

 

そう言いニッコリと微笑まれるパトリシアお嬢様。

それは“マジっすかお嬢様、収穫作業の邪魔なんで大人しくしていてくれません?”と言うケビンに対し、“え~、収穫作業って楽しそうじゃん、やりたいやりたい。他の村人には迷惑掛けないから~、ケビンは・・・諦めて?”と暗に伝える高貴なる者たちの会話。

 

「で、本当のところは?」

「「二期生の皆と戯れたいから!お仕事するから遊ばせて?」」

 

丈夫な攻撃糸繊維で出来た白いシャツと紺色のオーバーオール姿に着替えられたパトリシアお嬢様は、本日のお付きメイドの方(着替え済み)と共にそう懇願なさるのでした。

 

 

「「ラビちゃんたち~、朝ごはんの時間ですよ~」」

ホーンラビット牧場の飼育場の中で、干し草を並べて行きながら角無しホーンラビット達に声を掛けて行くパトリシアお嬢様とメイドさん。

お嬢様とお付きのメイド隊の皆様は<魔力纏い>と<覇気>を習得なさり、すっかり元気なマルセル村の一員となられました。

その代償と言いますか、優雅なお貴族様らしさをどこかにお忘れになってしまわれたご様子、己の欲望に忠実な村人にですね~。

元大貴族、順応が早いな、おい。

自分の中で何か折り合いが付いたのでしょうパトリシアお嬢様は、今朝も元気に農作業に勤しんでおられます。

 

「そう言えばケビン、そちらの用は無事に済んだのですか?

この前は何やら慌てた様子で出掛けて行きましたが」

「ハッ、ご心配いただきありがとうございます。今回の件は無事に。

ただ今後も同様に暫しお傍を離れさせていただく事があると思いますので、その際はよろしくお願いいたします」

 

闇属性魔力と収納の腕輪の機能を使いサクッと厩の掃除を終わらせ、休憩用の飲み物の準備をする俺にお声掛け下さるお嬢様。

主従関係の適度な距離感、やはりこの御方は聡明でいらっしゃる事。

 

「そうですか。ケビンがマルセル村の為に色々と手を尽くしている事はドレイクお義父様より伺っています。

その中には大きな声で言えない様な事も含まれているとか、辺境の地をここまでの村に育て上げるのには私では窺い知る事の出来ない様な苦労があったのでしょう。

私も貴族家の娘、領地運営が綺麗事だけでは済まない事など承知しています。その為にケビン一人に負担を強いてしまっている事は、大変心苦しくはありますが。

ですが自分一人で抱え込む様な真似だけはしないでください、あなたも大切なアルバート子爵領の領民、マルセル村の一員なのですから」

 

そう言い優しく微笑まれるパトリシアお嬢様。

これがお嬢様の本質、様々な経験がパトリシアお嬢様を育て為政者としての在り様を作り上げたのであろう。

俺は無言で礼をし、テーブルにお茶とクッキーを並べる、“言えない事には違いないんだけど、お嬢様の考えている事と相当違ってると思うんだけどな~”と言う内心を隠しながら。

 

―――――――――

 

“フィヨルド山脈のドラゴンから知り合いの家の脱皮場の掃除を頼まれたと、それで相手先のドラゴンに仕事を気に入られて洞窟全体の掃除も頼まれたと”

 

俺の話を聞き額に手を当てるあなた様。

俺、今のところまだおかしなことは言ってないよね?

なぜ変な顔をされないといけないのか分からないと言った風の俺に、あなた様が呆れ交じりに言葉を向ける。

 

“あのね、世の中のどこにドラゴンの棲み処の掃除を頼まれる人間がいるって言うのよ。ドラゴンは普通縄張り意識が強いのよ?

棲み処である洞窟に侵入する事は勿論、その周辺に近付く事すら嫌がるものなのよ?

今回問題になっているエルドラ国のドラゴンは地域住民から信仰の対象になっている稀有な存在、年に一度洞窟前の広場に貢物を捧げに行っても攻撃してこない稀な者。 

ではあると言っても洞窟内に招いて、ましてや掃除を頼むなんてあり得ないどころか想像すら付かないわよ。

 

それにドラゴンの洞窟と言えば魔力の源泉と呼ばれるほど魔力濃度が高いのよ?魔物はおろか天上人ですら近付く事をためらう様な場所、そんな所になんで人間であるケビンが平気な顔をして入り込む事が出来るのよ、意味解んない”

 

何か不思議生物でも見る様な呆れた顔でこちらを見られておりますが、その辺は慣れとしか言い様が。

俺としてもどうしてこうなってしまったのかよく分かっていないんですよね~。

 

深夜の礼拝堂、そこにお越しいただいた天上のOL(総合職)のあなた様に“ドラゴン大洞窟に聖域造っちゃいました、報告はしたよ?”と言った感じでお話をしていた俺氏、何故かそれ以前の問題で呆れられてしまいました。

何やら“帰ったらアーカイブを見直さないと”とかぶつぶつ仰っておられますが、その独り言聞こえてますから、念話に独り言なんてあり得ないですからね?

せめてそうした事は念話を切って頭の中で考えていただきたいと思うケビンなのであります。自身の観察日記を見直されるみたいでなんか複雑だわ~。

 

「まぁ流れと言いますか、最強生物からの頼みごとを断れるほどの度胸は持ち合わせていませんので、誠心誠意仕事に取り組ませて頂きました」

 

“でもエルドラ王国って言ったらミゲール王国の更に先よね?そんなところまでどうやって?

まさかドラゴンに送って貰ったとか?”

 

「イヤイヤイヤ、そんな事をしたら大騒ぎじゃないですか、ドラゴンなんて物語に登場するくらいの存在ですよ?

流石に俺でもそんな恐れ多い事は出来ませんて、人に祀られてるドラゴンの下にドラゴンで向かったらどんな事になるのか、想像すら付きませんから」

 

“そうよね、流石にケビンでもその辺の分別は付くわよね”

 

「ですんで最強生物の配下のワイバーンに送って貰いました。何でも最強生物に血を貰った個体らしくって、普通のワイバーンの三倍くらい大きな方ですね。

会話がしにくいんでガーディンさんって呼び名を付けさせてもらいましたが、早い早い。あっという間に到着する事が出来ましたよ。

ただ空の上って寒いんですよね、あれには参りましたけど」

 

そう言い笑う俺に、“ドラゴンの血を貰った三倍大きなワイバーン、名持ちにしちゃったらその強さってどうなるのよ。しかもワイバーンライダーって・・・そんな種族もいたかしら?だったら問題なし?”と、これまたぶつくさ悩まれる天上のOL(総合職)。

後からまとめる報告書の文章構成でも考えているんだろうか?

 

「で、掃除なんですがドラゴンの脱皮場、要は垢すり場ですが目茶苦茶頑丈な岩にドラゴンが身体を擦り付ける場所なんですけど、細かい突起の間に剥がれ落ちた脱皮皮(だっぴがわ)が挟まっちゃうんですよ。

ですんでそれら全体を魔力で指定して収納の腕輪に仕舞っちゃうって方法で掃除を行ったって訳です。

後ドラゴン種って生き物は収集癖があるそうで、大概の棲み処が散らかってるんだそうです。

中でも今回お伺いしたドラゴンさんのお宅は散らかり方が酷くてですね、一通り掃除させて頂いたって訳です。

 

で、その時何故か人族の書籍の詰まった本棚を複数発見しまして、聞いたら人族からの貢ぎ物で身体を縮小化させて読まれるのだとか。

実際二メートルほどの大きさに姿を変えられたのを見た時は、驚きで言葉が出なかったですよ。

ただ書籍ですし、大きさ的にやたらな片付け方も出来なかったんで専用の読書スペースを作ろうと。

ドラゴンは基本光属性魔力が好きですからね、それに相応しい空間と言う事で聖域読書部屋を作ってみたって訳です」

 

俺のとても分かり易い説明に頭を抱えられるあなた様。

“だからなんでそこから聖域に繋がるのよ~”って言われましても、聖域って要は光属性魔力の発生地点じゃないですか、ドラゴンさんにとっては大変い心地の良い場所じゃないですか。

それにあの洞窟ってば魔力の澱みが凄いんだもん、空気清浄機ならぬ魔力清浄機が必要なんですって。

一家に一台魔力清浄機(ドラゴン限定)、これって世界の魔力バランス的にも必要な事だと思いますよ?

 

“だからあんたは口で話しなさい口で!

でも話は分かりました、ドラゴン洞窟の魔力の澱みについては以前問題になった事もあるの、結局野生動物の事だからって事で要観察案件になっていたんだけど、そっちの部署にこの話は伝えておくわ。

でもケビンってばこの件でまた称号が増えたんじゃない?

あなたちゃんと自分のステータス確認してる?”

 

ウグッ、流石高位存在、人の痛い所を突いて来る。

色々やらかしてる自覚はあるんで見ない様にしていたのに。

そんな俺の心情を察してかニヤニヤした顔で、“だったら表示してあげましょうか~?”と提案してくるあなた様。

この御方性格悪、なんかめっちゃ楽しそうなんですけど!

 

“管理者権限、ステータスオープン、モニター表示”

礼拝堂の壁一面に現れる巨大ステータス画面。その大きさを見やすいサイズに調整するあなた様には感謝しつつも、“せめて心の準備の時間を~”と恨み言の一つも上げたくなる俺氏。

 

名前 ケビン・ドラゴンロード

年齢 十三歳

種族 普人族

職業 田舎者(辺境)

スキル

棒 自然児 田舎暮らし(*) 自己診断

魔法適性 無し

 

称号 

辺境の勇者病仮性患者(*)

 

加護

食料神の加護

 

スキル詳細

<田舎暮らし>

・田舎暮らし(魔法)・・・魔力支配(統合済み)(+魔力圧縮)、影魔法、全属性魔法、生活魔法、重力魔法(New)

・田舎暮らし(戦闘)・・・刀術、体術、斧術、弓術、槍術、盾術、索敵、身体支配、走術⇒空走術、ラビット格闘術(中伝)、空間把握、龍の籠手⇒龍の全身鎧、浮遊(New)、覇王の威圧(New)

・田舎暮らし(生産)・・・調薬術、鍛冶、錬金術、魔道具作成、農業全般、ポーション生成(New)、糸生成(New)、糸操作(New)

・田舎暮らし(生活)・・・解体、調理、清掃、建築、生存術、魔物の雇用主、送り(びと)、食いしん坊、模倣、召喚術、結界術(New)、友達生成(New)、自己領域(New)、ポケット収納(New)

 

称号詳細

<辺境の勇者病仮性患者>

表示限界オーバー

 

「「・・・・・」」

 

“なんか凄く気になるスキルがあるんですけど、それよりも表示限界オーバーって何?あなた一体何したの?”

 

「イヤイヤイヤ、そこまでの事はしてないと思いますよ?って言うか称号の表示限界って。

因みに幾つくらいの称号が表示されるんです?」

俺の問い掛けに“ちょっと待って”と言い何やら操作するあなた様。

 

“あぁ、分かったわ、表示限界は千個ね。ってあなた称号が千個もあるの?そんなの人類史上初よ?歴史に名が残るわよ?”

 

「ブフォ、俺って基本マルセル村育ちですよ?世界を股に掛ける勇者様じゃないんですよ?いくら何でもそこまでの偉業は成し遂げてないですって、これ絶対何かの間違いですって」

俺の言葉に“それもそうね”と何やら考え込むあなた様。

 

“ちょっと上に確認してみるわ。

**#@様、度々申し訳ありません。その事については粗方、やはりケビンがケビンしたってところでしょうか。

はい、そうですね。

それと今ケビンのステータスを確認していたんですがおかしな点が、表示データを送ります。

はい、称号の表示限界オーバーの表示ですが。

・・・はぁ~!?なんですかそれは?

復旧には、はい、そうですか、分かりました、本人にそう伝えておきます”

 

何やら本部長様と難しそうなお話をしていたあなた様は、念話が終了するやドッと疲れた顔をされてテーブルに突っ伏されるのでした。

 

「・・・えっと、一体何が起きてるんでしょうか?

凄い気になるんですけど」

俺の言葉に顔を上げられたあなた様。マジで何があったし?

 

“あぁ、ごめんなさい。あまりにも阿呆らしくてつい。

前にケビンが<召喚術>を成功させたことで大騒ぎになっちゃったことがあったでしょう?私が堕天し掛かった奴。

あの時は凄い迷惑をかけたわね、ごめんなさい。それとなんやかんやでちゃんとしたお礼も言ってなかったわね、ありがとうケビン、お陰で助かったわ。

前に**#@様も仰っていたと思うけど、天上人が使う魔法を地上人が使う事はこれまでの歴史にない快挙だったの。その為多くの天上人があの出来事に注目したのよ。

そのお陰で私に対するパワハラの実態が明るみに出て、天界内の綱紀粛正が行われてかなりの意識改革が進められる事になったんだけど、ケビンのこれまでの業績にも注目が集まったのよ。

要するにケビンは一躍有名人になったって訳。

で、話がここで終わればよかったんだけど、あなたの行動って面白いじゃない?色んな人があなたに称号を付けて、自分のお気に入りの場面を張り付け始めたのよ。

お酒の神様がケビンの神級バーテンダーの話を取り上げてカクテルを作ってる所を編集したり、武闘派の神様たちが格闘名場面集を編集したりとかね?

他にもケイトちゃん派とアナさん派の論争があったり、パトリシアちゃん派が誕生したり。

 

そんなんであなたの称号って一万近くあるらしいわよ?

システムの関係上消去する訳にもいかないんで追加機能を付けてシステム由来の称号とその他に分ける作業を行うんですって。

ケビンには迷惑を掛けるけど暫く待って欲しいって**#@様が仰ってたわ”

そう言いこめかみに手を添えるあなた様。

 

「・・・掲示板かい!

称号は切り抜き動画の紹介文かなんかなのかい!!」

礼拝堂に響く魂の叫び。

思わず声を上げた俺は悪くないと思います。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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