“カチャッ”
テーブルに差し出されたティーカップからは、温かな湯気と若葉の爽やかな香りが広がる。
取っ手を掴み、口に運ぶ。ほんのりとした自然な甘みが、波立つ心を穏やかなものに変えてくれる。
お茶に含まれる濃厚な光属性魔力が疲れ切った精神を癒し、いつもの自分が戻って来るのが分かる。
「失礼、少々取り乱してしまいました」
俺は取り乱し声を荒げた事をあなた様に謝罪し、話の続きを促すのでした。
“そうね、いくらケビンでもあれだけの話を聞けば取り乱すのも仕方がないわねって違うから、何しれっと話を進めようとしてるのよ!
そのメイドは誰?いつからそこにいたの?私全く気が付かなかったんですけど!?”
「ん?あぁ、月影ですか?始めからいましたよ?
“メイドとは主人の介添えであり影である”、その存在を主張するなど
何で分かるのって聞いたら“勘”って言ってましたんで、どうしようもないですよね」
俺の言葉にお口ポカンとなるあなた様。高位存在に気が付かれないとは、月影の奴また腕を上げおったな?褒めてつかわす。
“だ~か~ら~、前にも言ったけど私達は無暗に地上人に姿を見られちゃいけないのよ!
ケビンは召喚主だから仕方がないとは言え、他の人にはなるべく見られない様にしなきゃいけないの!
アンタの事だからお祭りの余興とか言って召喚しそうで怖いわ、本気で止めてよね”
「アハハハ、そんな事する訳ないじゃないですかー。考えた事もないですってばー」
“なら何で目を逸らす!ケビン、目を見て話せ、目を!”
ヤッベ~、あなた様に釘を刺されてしまった。
ミランダ師匠とデイマリア様のご懐妊が決まったらいっちょ派手に祝福して貰おうとか考えてたけど、これは賢者師弟にお願いした方が良さそうですな。
アナさん曰く、イザベルさんのクリーンの魔法は超一流みたいですし。
“まぁいいわ、最初から見られてたんなら仕方がないし。
それよりもケビンのスキルの確認よ。以前に**#@様が確認したのって一年程前よね?何でたったの一年でこんなにスキルが増えるのよ。中には変容してるのもあるし、本当に意味が分からない。
普通は増えても二つが精々なのよ?
<スキル詳細表示>”
スキル詳細
<魔力支配(統合済み)(+魔力圧縮)>
魔力を圧縮する事が出来る。通常よりも濃度の濃い魔力が作り出せる。
<重力魔法>
重力を操り自身を軽くも重くも出来る。また周囲に影響を及ぼすことも可能。
<空走術>
地上も空も自在に駆け抜ける事が出来る。
<龍の全身鎧>
全身を覆う龍鱗はいかなる攻撃にも怯む事はない。部分的に覆う事も可能。
<浮遊>
身体を浮き上がらせることが出来る。
<覇王の威圧>
強大な覇王の威光を前に、全ての者は
<ポーション生成>
魔力によりポーションを作り出す事が出来る。素材を使用する事で魔力の節約も出来る。
<糸生成>
魔力により糸を作り出す事が出来る。
<糸操作>
糸を自在に操る事が出来る。
<結界術>
様々な結界を作り出す事が出来る。
<友達生成>
友人とは強制的になるものではない。真の友となるのかはあなた次第。
<自己領域>
創ろう、マイベストプレイス。
<ポケット収納>
ポケットの中には何がある?空間領域は魔力依存。
通常収納、時間停止収納の選択可能。
「「・・・・」」
“カチャッ”
テーブルに新しいティーセットが並べられる。
礼拝堂にふわりと癒し草の新芽の香りが広がる。
春に摘んでお茶にしておいたものを収納魔術で保存しておいたのだろう。
月影さん、実は収納魔術が使えます。いつもスッとお茶を差し出して来るんで不思議に思って聞いてみたら、空間に黒い穴を作って手を突っ込んでおられました。
流石に時間停止と迄は行かないもののかなりの遅延効果があるそうで、淹れ立てのお茶が三日くらいは熱々で飲めるんだそうです。
“よし、分かり易いものから行きましょう”
お茶を飲まれて気持ちを落ち着けたあなた様、チャッチャと仕事を終わらせる事にしたみたいです。
流石天上のOL(総合職)、効率最優先なんですね、素敵です。
“<魔力圧縮>は何時もケビンがやってる魔力マシマシウォーターを魔力単体でやる様な物ね、使い方次第ではとんでもファイヤーボールとかも撃てちゃうから気を付けなさいね?
<重力魔法>ってアンタなんて魔法を身に付けてるのよ、これって魔物由来の魔法よ?影魔法と言いかなり特殊な部類って事を自覚しておきなさいね?
まぁ重くなったり軽くなったり、重くしたり軽くしたりって認識でいいんじゃない?
<空走術>はそのままね、空でも走れるわ。確かフェンリルやナインフォックスが使ってた奴じゃないかしら?
人族でも偶に見ることがあるスキルね。
<浮遊>は浮けるわね、ただそれだけだけど。高い所から落ちても平気だし、便利ではあるのよ?
<ポーション生成>って調薬術のポーション作製とどう違うのかしら?聞いた事の無いスキルなのよね?
内容はほぼ一緒?魔力だけでも作れる分便利と言えば便利だけど、大概使用魔力量が多かったりするのよ。
・・・ケビンには関係ない話だったわね、便利に使いなさい。
<ポケット収納>は<収納>スキルの下位互換と呼ばれるスキルね。こっちも魔力依存で収納量は少ないし、仕舞える物はポケットサイズだしって事で評判は良くないんだけど、ケビンなら上手く使うでしょう。
<糸生成>と<糸操作>・・・。
キャタピラー?
そう言えば前にキャタピラーになりたいとか言ってたけど、夢が叶っちゃった?
<結界術>はまぁ普通?よくあるタイプのスキルよ?
でも<自己領域>って、以前異世界転移者が言っていた引き籠りって奴になれるとか?
説明があいまいだし、使って覚えろってタイプのスキルなんじゃない?
それで問題は<龍の全身鎧>と<覇王の威圧>よね~。
ケビン、あなた大陸の覇者にでもなるの?”
「イヤイヤイヤ、ならないからね?俺って辺境の村から出たくないタイプだから、マルセル村大好きっ子だから。
って言うかもう一つスキルが残ってるよね?
何でそこで話を終わらせた?月影、何故お前迄顔を逸らす?
小声で“ご主人様、おいたわしや”って言うの止めて、結構心に来るのよ?」
あなた様の心遣いに余計傷付く俺氏。
十三歳は多感なんだぞ!もうすぐ十四歳だぞ、左手に包帯撒いて眼帯しちゃうぞ!!
俺だってなー、友達の一人くらい・・・(涙)
だって仕方がないやん、マルセル村って子供が少ないんだもん。
ジェイク君やエミリーちゃんは弟や妹って感じだし、ケイトが来て漸く友達が出来たと思って「ケイトは大事な友達だよ」って言ったら闇属性魔力溢れさせるし、外堀埋めるし。
白が来て男友達GETだぜ~って思ったら、「何言ってるんです兄弟子、兄弟弟子の上下関係は絶対っすよ?」とか言うし、友人って感じじゃないし。
あなた様、心が読めるからって慈愛の籠った瞳で見つめるの止めて?マジで悲しくなるから。
ほ、ほら、旅立ちの儀を迎えて成人しちゃえば年の離れた友人とか出来たりしたり?仕事絡みの友人とか、ドレイク村長と行商人のギースさんみたいに。
俺の身長と同じで伸びしろはある、大丈夫、未来は希望に満ち溢れてるんだから。
だから二人して聖母の様な目で見るな~、頭を撫でるな頭を~!!
自らのスキルにより精神を抉られた俺氏、これって何度目だろう。しかもスキルから<友人とは強制的になるものではない。真の友となるのかはあなた次第。>とか言われちゃってるし!
そりゃ強制的になるもんじゃないよ?そんなの魅了系の洗脳だし。
でもさ、だったら端から<友達生成>なんてスキル名を付けなくてもよくね?内容からして作られた眷属的ナニカに対する支配は出来ませんって事なんだろうけどさ、他に言い方があると思うのは俺だけかな?
だからスキルを見たくなかったのに。
辺境と言う厳しい環境で自分の状態を把握しないなど自殺行為、スキルの確認はマルセル村の村人としての必須事項。
普通は旅立ちの儀の後にそれほど大きな変化は無いらしいが、俺の場合雇用契約で増えたりするからな~。
“契約魔物が進化したら確認しないといけないんだろうな~”
ティーカップを手に取り、星明り差し込む天窓を見詰め黄昏るケビンなのでありました。
優しさが辛い。
―――――――――
「友達か~」
ホーンラビット牧場での作業を終えた俺たちは、グルゴさんに挨拶をしてから実験農場へと移動。既に畑で作業を行っているキャロルやマッシュ、緑と黄色に声を掛け、一緒に野菜の収穫を行いました。
アナさんは朝食の準備、ホーンラビット牧場に向かう前に声を掛けておいたので怒られる事はありません。
報連相、これ大事、ケビン、学習しました。
「ケビン、どうしたのですか、急に。友達がどうとか聞こえましたが」
「あっ、いえ、大した事ではないんですが、マルセル村って子供が少ないじゃないですか?
俺って同年代の友人と呼べる者が居なくて。
父やトーマスおじさんから若い頃の話とかを聞いているんで友人がどう言ったものかって言うのは知っているんですが、実際の友人ってどんなものなんだろうかって思いまして。
弟たちを見てるんで理解はしてるんですけどね、俺って子供らしくないと言うか割と早いうちから大人に混じってましたから。
何かすみません、お嬢様に愚痴みたいなことを言っちゃって」
いかんいかん、昨夜は色々あり過ぎて油断してしまった。
ステータスチェックの後例のドラゴンの卵も診て貰ったんだけど、それはそれで大騒ぎになったんだよな~。
“ケ、ケ、ケビン、あなたなんて物を持って来ちゃったのよ!こんな事が相手のドラゴンにばれたらこの国消えるわよ!?
実際そうして滅んだ国もあるのよ?
ドラゴンライダーは見果てぬ夢なのよ!?”
あなた様は真顔で心配するし、月影はドン引きするし。
事情を説明したら何とか分かって貰えたけど、それまでは“返していらっしゃい、私も一緒に謝ってあげるから”の一点張りだったもんな~。
そんで診てもらった結果ですが、どうもこちらの卵様、魂が上手い事育たなかったとの事。
そんな事ってあるのとか思うでしょう?これって結構あるんだそうです。人で言う所の未熟児、二十二週未満で生まれてしまう流産状態のお子様の事ですね。
魂が成長し切れないため人として機能しない、でも身体が出来上がって赤子として生まれてしまう、そう言うお子さんも実際いるんだとか。
この世界の場合そこまで医療も発達していないため、そうした子供は一歳未満で亡くなる事がほとんどらしいです。
で、問題の卵ですが、ドラゴン種の生命力の強さが仇となったのか死ぬことも孵る事も出来ず、おそらくずっとこのままだろうとの事でした。
長年魔力を吸収し続けて来ている為幼体は出来上がっているだろうが、機能する事はないのではないかと言うのがあなた様の見解でした。
・・・う~ん、これもまた運命、致し方のない事なんでしょうけど、何ともやるせない気持ちになります。
卵さんは卵さん、もうこういう存在って事にしましょう。
って事で命名:エッガード。殻は丈夫だし、最強の盾兼魔力吸収装置として頑張って貰うって事で。
そんな俺の様子にあなた様が、“ケビン、あなたそこまでして友達が欲しいのね”と涙ぐまれていましたが、違うからね!
“卵に名前まで付けちゃって”とか言うの止めて~!!
「そうですか、そうですね。
でも多くの貴族が幼少期に似た様な感情を抱くのではないでしょうか。貴族にとっては友人関係も立派な政略、真の意味の友人など作るべくもない。
よく学園時代の友人と言った言葉を聞きますが、それが上辺だけのものであったことを私は実体験として知りました。
真の友情など存在しない、家同士の関係性の中で友情は容易く切り捨てられる。
マルセル村に来るまで、私はずっとそれが真実だと思っていました。
このマルセル村には貴族社会の柵から逃げ延びた者も多数おられます。皆命を狙われ家を失い友に裏切られた者ばかり。
ですが彼らが言うのです、そんなギリギリの状態でも手を差し伸べてくれようとした友がいた、だからこそ自分は今こうして生きていられるのだと。
でも私にはそんな者は誰一人としていなかった、そう思い込んでいた」
そこで言葉を切り、俺の事を真っ直ぐ見詰めるパトリシアお嬢様。その瞳はとても力強く、そして決意の籠ったもの。
「でも違った、私にもいたんです。
見ず知らずの私の為に、自身の立場が危険に曝されるかもしれないにも拘らず忠告を行ってくれた方が。
私がどん底の精神状態で弱り細って行く中、不思議な方法で私を癒してくれた方が。
ケビン、これはアルバート子爵家の娘としてでもグロリア辺境伯家の縁者としてでもない、ただ一人の人間、パトリシア・アルバートとしてのお願いです。
どうか、私とお友達になってくれませんか?」
そう言い前に差し出された右手。それは力強く、自信に満ち溢れている様に見える。
だが俺には分かる、その瞳が不安に揺れている事が、そんな胸の内を見透かされないように、一生懸命に身体に力を込めていると言う事が。
・・・この御方は本当にお強くなられた。そして魅力的な人物に成長された。
このなけなしの勇気を振り絞って伸ばされた右手を振り払う事など、どうして出来ようか。
「プッ、お嬢様、無理し過ぎです。そんなに緊張しなくてもケビンは逃げませんよ?
でも嬉しかったですよ、ありがとうございます。
貴族社会的には駄目なんでしょうけどね~、まぁここはオーランド王国の最果てですし?
智将ドレイク・アルバート子爵が治めるマルセル村ですし?
うるさく言う人もいないでしょう」
そう言い差し出された手を握り返す俺氏。
そんな俺に羞恥で顔を赤らめたパトリシアお嬢様が「ケビンは意地悪です!」と言いながら空いた左手でパカパカと。
まぁ可愛らしい攻撃ですことと笑っていると打撃音が“バチバチ、ドカドカ、ドスンドスン”とですね~。
パトリシアお嬢様!?揶揄った事は謝りますんでその辺でって右手を放してくれない!?
ってこの人<魔力纏い>と<覇気>を身に付けてたじゃん、歩く兵器の道を歩み出してる御方じゃん!!
不用意に女性を揶揄ってはいけない。特に相手が真剣な時は。
ケビン、学習しました。
「ケビン、<魔力纏い>と<覇気>の使用を禁止します!
これは命令です!!」
「友達発言はどこ行った~、そんなん死ぬわ~!!」
メイドと魔物従業員が温かく見守る中、村人ケビンとお嬢様の交流は何時までも続くのでした。
ってアナさんは「次は私の番ですね♪」(ニチャ~)ってウォーミングアップをするな~!!
本日一話目です。