転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第338話 元辺境伯、マルセル村を訪れる (2)

「お爺様、良くおいで下さいました。

こうして再びお会い出来ましたこと、大変うれしく思います」

 

カーテシーを決め、来客に挨拶の口上を述べるパトリシアお嬢様。

 

「遠路よくぞおいで下さいました。家の者一同、グロリア辺境伯様のお越しを心より歓迎いたします」

当主ドレイク・アルバート子爵閣下の動きに合せ一斉に頭を垂れるアルバート子爵家の面々。

ミランダ夫人、デイマリア夫人、パトリシアお嬢様、エミリーお嬢様は勿論、状況の良く分かっていないロバート様からアルバート子爵家騎士団、メイドの皆さん、執事のザルバさんやボイルさんジョンさんジェラルドさんと言った事務官の方々迄。

アルバート子爵家勢揃いでのお出迎えでございます。

 

「うむ、アルバート子爵殿、アルバート子爵家の皆の者、歓迎心より感謝する。

だが我は既に隠居した身、名もマケドニアル・グロリアと改めた故、これからはただマケドニアルと呼んで欲しい。

グロリア辺境伯と呼ばれるのは、いつまでも過去の栄光に縋っておるようで気恥ずかしいのでな」

 

そう言い苦笑いを浮かべるマケドニアル様に、「ハハハ、分かりました、それではお義父様と。皆もお言葉の通りに」と言葉を返すアルバート子爵閣下。

皆はそれに倣い「はい、マケドニアル様」と返事をする。

 

「ではどうぞ中へ、移動でお疲れでしょうから」

そう言い屋敷内に入って行くアルバート子爵閣下とマケドニアル様、それに続いてご家族様方が戻って行かれます。

筆頭執事ザルバさんの目配せに屋敷前に集まっていた者たちはそれぞれの持ち場に“ガシッ”

 

「・・・え~っと、何か御用でしょうか、パトリシアお嬢様?

(わたくし)ケビンはこれから農場の方に・・・」

「何を言っているのですか、ケビン。あなたの役目は私の世話係、であるのならば仕事場はこの屋敷内なのでは?」

 

そう言いニッコリと微笑まれるパトリシアお嬢様。ですががっしりと襟首を掴まれてしまいますとね、身動きが出来ないと言いますか何と言いますか。

 

「ハハハ、いやだな~、御屋敷にはメイド様方がおられるではないですか。ケビンの役割は村の中でのお世話、屋敷内はメイド様方の領分。(わたくし)、分別はきちんと付いている方ですので」

「では客人と言う事でしょうか?お爺様が是非お話をしたいと仰っておられますので。

参りましょうか、ケビン様?」

 

そう言い強引に屋敷内へと引き摺り込もうとするパトリシアお嬢様。ヘンリーお父様、ヘルプミーってみんなして敬礼するな~!

「ケビン、お前はいい奴だったよ」ってやめろ~!!

こうして俺は皆に見送られながら屋敷の中へと入って行くのでした。(グスン)

 

 

「やぁケビン君、騎士になったんだってね、おめでとう。騎士服姿がすっかり板についたんじゃないかな?」

そう言いにこやかに話し掛けて来る俺が騎士にならざるを得なくなった元凶の一人。

ぐ~っ、わざとか、わざとなのか!

 

貴族にとって爵位を得る事、陞爵すると言う事は名誉であり慶事以外の何物でもない。そうした価値観からすれば平民から騎士に取り立てられる事は祝い事となる、なるのだが、俺は平民の村人が良かったんす、身分なら調薬師と言う立派なものがですね?

冒険者と違って身元保証もバッチリ、薬師ギルド最高~!!とか思ってたのに、旅立ちの儀を迎えたら調薬師との兼業農家として頑張って行くつもりだったのに。

 

“領主命令、君、今から騎士だから”

なんてパワーワードなんだか。その地域に住まう人間としては逆らえんやん、嫌なら出て行けって話だもん、やってられんわ。

これでなんやかんや命令された日には即行逃げ出すんですけどね、その辺は緩いからな~。

だってマルセル村って騎士の仕事なんかないんだもん。精々村の門番?その仕事も最近は暇って言うか。

 

立身出世を望む自己顕示欲の塊みたいな冒険者連中は、皆デギン・ダイソン討伐戦に向かっちゃったみたいでこのところ大人しいし、観光客も話題の中心がダイソン公国対貴族連合軍に移ってからはぱったり来なくなったみたいでして。

まぁそりゃそうだよな、内戦が始まろうってのに呑気に観光なんか出来ないっての。周りに何言われるのか分かったもんじゃない。

 

まぁそんな訳でアルバート子爵家騎士団は農兵な訳ですよ。

兵農分離?無理っすね。アルバート子爵領って人口が少ないのよ?つまり産業も生産も少ない、要するに納税額もたかが知れてるんですよ。

そんな領地で専属騎士?お給料どうするのって話です。

それじゃアルバート子爵家騎士団とは何か?アルバート子爵家という看板の付いた自警団ですな。

つまり名目騎士、言う事を聞かせたければ給料払ってちゃんとした騎士を雇うんだなって奴です。

一応お給料も出てるんですけどね、マルセル村って使うところが少ないから。散財のしようがないんですよね、平和な村です事。

 

話はズレましたが、何が言いたいかといえば「はぁどうも、ありがとうございます?」としか言い様が無いって言うね。

俺が微妙な苦笑いを浮かべていると、それを察したアルバート子爵様が皆に着座を勧めて下さるのでした。

俺ですか?立ってますが?

座れ?無茶言わんでください、お嬢様、ハウス、立場ってものを考えろ立場ってものを。

 

「ハハハ、孫のパトリシアがマルセル村でどうしているのか心配であったが、すっかり村に溶け込んだ様で何よりであるな。

村門の門番詰め所から顔を出した時は何事かと思ったが、あれも社会勉強の一環であったのであろう。

表情もすっかり明るくなったと言うか快活になった、以前は何処か無理をしているようにも見えていたからの、本当に良かった」

 

流石はオーランド王国の懐刀と呼ばれた元名宰相、しっかり見ているところは見ていたんですね。パトリシアお嬢様、バレバレだった様ですよ?

痛い痛い、叩くな叩くな。照れ隠しか顔を赤らめて拳を振るうお嬢様、可愛くないです。

 

「オホンッ、想像以上に元気な様子、我もホッとしたよ。

ドレイク殿、この度は無理な縁談であったにも拘らず娘デイマリアと孫パトリシアを迎え入れて下さり感謝する。

二人の顔を見ればいかに大切にして貰っているのかがよく分かる、本当にありがとう。

グロリア辺境伯家はいずれタスマニアが継ぐ事が決まっておった、そうなった場合二人の処遇がどうなるか、我はその事だけが心配であったのだ。

ミランダ殿、エミリー嬢、ドレイク殿をつまらぬ政争に巻き込んでしまった事、ここに謝罪しよう、すまなかった。

そして二人を受け入れてくれた事、心より感謝する、本当にありがとう」

 

そう言い頭を下げるマケドニアル・グロリア様。こうした礼や謝罪も、辺境伯という肩書を背負っているうちは無暗に出来なかったのだろう。貴族と言うものは本当に面倒で複雑である。

 

「頭をお上げください、マケドニアル様。デイマリア様は同じ夫を持つ者同士、言わば仲間、同じ家族なのです。エミリーも優しいお姉ちゃんが出来たと喜んでいるのですよ?

それにデイマリア様は私の持ち合わせていないものを沢山持っていらっしゃる、アルバート子爵家には必要な御方。

共に夫を支え、アルバート子爵家を盛り立てて行きたいと思っております」

 

ミランダ夫人の言葉、それはデイマリア夫人を認め身内として迎え入れると言うもの。

その言葉に涙ぐむデイマリア夫人、そしてそっと寄り添うドレイク・アルバート子爵。仲良き事は美しき事かな。

亀さんのお肉、いい仕事をしたようです。

 

「うむ、ミランダ殿にそう言っていただければ父親として安心できる。娘の幸せ、孫の幸せは、幾つになっても心配してしまうものであるからの。

娘と言えばヨークシャー森林国に嫁いだ次女が特産品を送って来てくれたのだ。ドレイク殿に喜んでもらえるかどうか、どうか納めていただきたい」

 

そう言いマケドニアル様が目配せをすると、ハロルド執事様(執事長は引退なさったそうです)が蓋で密閉された壺をお持ちくださいました。

 

「これは甘木の樹液から作られた甘味でな、スッキリとした味わいで王都の御婦人方にも人気の品なのだ。市井に出回る事はまずない為あまり知られてはいないのであるが、皆で味わおうとこれを使ったクッキーを用意して来たのだよ。

ハロルド、お茶の用意を」

 

マケドニアル様がそう言うやササッと人数分のティーセットを用意するハロルド執事様、動きに卒がない。

背後のメイド様方との連携も完璧でございます。

・・・あの、一セット多い様なんですが?俺の分なんですか?

イヤイヤイヤ、まずいっしょ、俺っち使用人の立場っすよ?

いいから席に着け?

何で全員でこっち見るし。

 

「ケビン、いいから席に着きなさい。珍しいお菓子もある事だ、頂こうじゃないか」

アルバート子爵様から言われては断る訳にも行きません。

って言うか後からコッソリくれても良かったのよ?

領都のお城じゃないですが、お貴族様に囲まれてのお食事ってなんか緊張するんですよね。

まぁこの場にいるお貴族様らしい御方様って、マケドニアル様とデイマリア様だけなんですが。

パトリシアお嬢様?さぁ、誰の事でしょう。

 

俺は席に着くとテーブルのティーカップを口許に運びます。柔らかく心安らぐ香り、これはブレンドされたハーブティーですね。

ミランダ夫人なら何が入ってるのか分かるんでしょうが、俺は流石にそこまでは。

そしてお勧めの甘木の樹液から作った甘味を使ったクッキーを一つ。

“サクッ”

 

しつこくなくスッキリとした味わい、それでいて確り甘みも感じる上品な甘さ。高貴なる方々、特に御婦人方が喜ぶのも頷けると言うもの。

 

「中々に趣のある味わいであろう?財力を示す為だけの甘味とは違った、楽しむ為の甘味。我も気に入っておるのだよ。

ただの~、これも今後味わえんかもしれん。

戦とは悲しいものだの」

 

ってやっぱりそこかい!分かってたよ、だから居たくなかったんだよ。

そこ、ドレイク・アルバート、顔を逸らすな、目を見て話せ!

 

「ヨークシャー森林国で蔓延しつつある病、ケビン殿の見立てでは呪いの病、呪病と言ったか。

次女ラナーニャの追加の情報では投薬治療では効き目がなく、治癒術師のヒールでは症状が和らぐものの直ぐに再発、ハイポーションと聖水が症状緩和に効果を示したと言ってきておる。

だが未だに完治した者はいないとの事であったか。

この病がケビン殿の言う呪病であるのならそれも説明が付くと言うもの、どうかヨークシャー森林国を、娘ラナーニャを救ってはくれまいか」

 

出たよ為政者のお願い、だから嫌なんだよ。そう言うのは勇者様に頼みなさいよ、何で村人にそんなクエスト出すかね。

 

「ただでとは言わん。先程の甘木の甘味、大樽で三つ、いや、六つ付けよう。それと甘木の苗を十株でどうだろ「お任せくださいませ。このケビン、身命を賭して事に当たりましょう」」

 

俺は席を立つや片膝を突き頭を垂れる。甘木の甘味、要はメープルシロップみたいなもんじゃないですか、お金があっても伝手が無いと手に入らないタイプの甘味じゃないですか。

しかも苗木付き?これは受けない手はないでしょう。

やたらな所で育てたら問題になるしね、御神木様の所で育てよう。蜂蜜にメープルシロップ、後はサトウダイコンでも見つければ完璧?

素晴らしきかな辺境、マイベストプレイス、マルセル村!!

 

「おぉ、そうか、引き受けてくれるか。では我の書状を持って行くが良い、さすればラニーニャもケビンを受け入れてくれるであろう」

「あ~、それでしたら私の事はビーン、ビーン・メイプルとしてください。旅の精霊使いとでもしていただければ。

それと弟子を二名連れて行きますので、その事もお願いします」

 

立ち上がり書状の内容について言及する俺に、「二名の弟子?」と若干訝しむマケドニアル様。

俺は“トントン”と足先で床を鳴らしてから目線を足元に向けます。

 

「まさか・・・」

「さぁ、どうでしょうか。ですが心の区切りと言うものは必要かと。どちらとは言いませんが。

書状についてはお任せいたします。そうした事はマケドニアル様の方がお得意でしょうから」

俺はそう言うや一礼をし、部屋を下がるのだった。

 

 

「ドレイク殿、ケビン殿の言っていた事は」

「あぁ、ケビンは一つの物事に複数の意味合いを持たせるのが得意ですからね。この件についても複数の意味合いを持たせるつもりなのでしょう。

そしてそれはマケドニアル様に対してもそうです。貴族の書状とは複雑怪奇、文面の一行で大きく歴史が動く事もある。

先程のケビンの行動が何を示すのかは予測の範囲でしかありませんが、何をしたいのかは分かります。

であるのなら後はその状況をどう生かすのか、どうぞマケドニアル様の御随意に」

 

この師匠にしてこの弟子あり、智将ドレイク・アルバート子爵とその弟子ケビン・ドラゴンロード。

マケドニアル・グロリアはマルセル村に訪れた自身の判断は間違っていなかったのだと確信すると共に、僅かな言葉で全てを読み切る二人の奇才に戦慄を覚えるのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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