転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第348話 村人転生者、高位存在にご説明申し上げる (2)

“コトッ”

テーブルに木製のコースターを並べ、そこによく冷えた麦茶を注いだコップを置いていく。季節は夏の気配を運び、村人は夏野菜の収穫に思いを馳せる。

 

“ゴクッゴクッゴクッ、プハ~”

口腔に広がるサッパリとした味わいと冷たいのど越しが、モヤモヤした気分を洗い流す。

 

「「先に進みましょう」」

いと尊き御方様方はお気持ちを切り替えられたご様子、賢明な判断かと。

 

「では概要をざっと。バルカン帝国がヨークシャー森林国を自国の版図に加えようと画策していた事はそちらもご存じの事かと思います、過去二度に渡り大きな戦争を起こしていますから。

今回は三回目ですね、狙いはおそらくヨークシャー森林国の鉱物資源。これは帝国の特殊工作部隊に所属していた呪術師から裏が取れています。

で、今回行われたのは呪術を使った内側からの弱体化工作。

帝国では呪病と呼称していた様ですが、王都リーフェリアの精霊姫誕生騒ぎに乗じて感染型の呪術をばら撒く事で一気に国力を落としに掛かった様です。

帝国の目論見は見事に嵌り、ヨークシャー森林国は崩壊寸前にまで追い込まれていました。

で、この問題を何とかしてくれと言う依頼がグロリア辺境伯家から入りまして、渋々動いたって形です。

 

先程も言いましたが私の所にはバルカン帝国の特殊工作部隊に所属していた者がおりまして、状況から“呪術による呪病”の可能性が最も高いとの結論に達しましたので急ぎオーランド王国とを結ぶ街道の国境の街に向かい感染者の流入対策を行い、その足で王都リーフェリアに向かい全体の対処を行いました。

感染症対策は初動が全て、もたもたしていれば取り返しの付かない事態に発展しかねません。

時間最優先で手札を切り、飛行による高速移動を披露した事は少々痛手でしたが、そこは致し方ないかと。

 

それで“上”で問題になってるのは王都リーフェリアで行った聖域現象とヨークシャー森林国全体の大浄化って事でよろしいでしょうか?」

 

“コクコク”

麦茶を飲みながら頷かれる御方様方、やっぱり問題になってたようです。まぁ派手にやりましたからね、自覚はございますとも。

 

「それにつきましては幾つか理由がございます。

まずここヨークシャー森林国が精霊信仰を中心にまとまった国である事。当然女神様に対する信仰は有りますが、精神の支えは精霊信仰であり“精霊とは共に暮らし共に戦う生涯に渡るパートナー”というのがこの国の在り方です。

そこにへたな横槍を入れる訳にはいかない。

その為には精霊信仰の中心たる聖霊樹様と精霊姫様の存在を前面に出さなければならない。

そこで考えついたのが儀式による王都リーフェリアの浄化です。

浄化と言っても聖域空間を作り出すってだけなんですが。

これはフィヨルド山脈の聖域の洞窟の応用ですね。エルドラ王国のドラゴンの塒もそうですが、例の光る魔法陣には結果として聖域を作り出す力がある、であるのならその魔法陣に積極的に力を注げば広範囲における聖域生成も可能なのでは?と言うのが元々の発想です。

 

まぁ魔法陣の効果なのであのような儀式は別に要らないんですけどね、大規模魔法陣を魔力操作で作り出し完成したところで魔力を循環させた。王都全体を覆う聖域空間くらいなら俺だけでも行けたんですけどね、そこは精霊姫様の見せ場って事で、最上級精霊のレガード様には予め話を通して頑張って貰いました。

 

問題は国内全土で清浄の霧を発生させられるかって点でした。これに関しては正直出たとこ勝負でした。

スキル空間把握でヨークシャー森林国の範囲を指定、これは詳細に把握するのではなくただの範囲指定にする事で可能となりました。

紬と御神木様、メイプリー様には俺の力の増幅をお願いしました。その辺は雇用契約を結んだ効果か、スムーズに執り行う事が出来ましたが。

あっ、メイプリー様ってのは聖霊樹様のお名前ですね。俺が御神木様の事を神聖樹と言う種族だと紹介したら自分も名前が欲しいと仰られましたんでね、僭越ながら(わたくし)が付けさせていただきました」

 

“コトッ、ゴクゴクゴクッ、プハ~”

 

「いや~、夏も直ぐですからね、この時期は麦茶に限りますよ。

どうなさいました?頭を抱えられて。

“聖霊樹がネームドになってしまった”って別に名前くらいね~。

“なんでそう簡単に名づけが出来るんだ”って名前くらい誰でも付けれるんじゃないんですか?存在値が離れていると大量の魔力を消費する?

そう言えば何かがごっそり抜けた気はしましたけど、大した事はなかったですよ?

 

まぁその事は置いておきましょう、続けます。

このヨークシャー森林国と言う国の範囲って実はメイプリー様の支配領域そのものなんです。その為各精霊たちも大きな力を行使出来る。今回はこの点を利用させてもらいました。

支配領域のネットワークを通じて清浄の霧を発生させたって訳です。そして発生させた霧には光属性魔力を大量に付与、光属性魔力マシマシミスト、清浄の霧の効果も倍増しになって光り出しちゃったって訳です。

でも元々ある回線を使ってますからね、何も無い所に影響を及ぼすのとは訳が違う、こちらの負担は想像の半分以下で済みました。

 

以上が今回行った儀式の全容となります。

ヨークシャー森林国としては同時進行で起こっていたバルカン帝国からの侵攻の方が大問題だったみたいでしたけど、それに関しては予め暗黒大陸の魔王軍に情報を提供しておいたんで、彼らが旨い事やってくれたみたいですね。

現場を見て来ましたが悲惨なものでしたよ。

これで当面侵攻作戦どころじゃなくなるんじゃないんですか?」

 

“ジョロジョロジョロ”

「麦茶のお代わり如何です?お注ぎしますよ」

俺はそう言いよく冷えた麦茶の入ったポットを手に取る。

話を聞いていた皆さんが無言でコップを差し出すので、それに順に注いでいく。

なんかおやつをくれ?しょうがないな、ちょっと待ってろ。

紬先生からご要望があったので大皿のクッキーを一つテーブル中央に置き、深皿山盛りクッキーを紬の前に差し出す。

 

「ケビン君が相変わらずケビン君だと言う事はよく分かりました。それと一つ、今回の事態を受けケビン君には儀式魔法のスキルが発生しています、後程確認してみてください。

儀式魔法と言うもの自体は過去多くの国や地域で行われていました。それは祭壇の前で集団で祈りを捧げるものや巨大な魔方陣、もしくは魔法陣を用いるもの、神々の加護を授かった者が中心となって行うものや、生贄を用意して執り行うものなど多種多様な方法が執り行われてきました。

ですがこれほど大規模な影響を及ぼすものは過去数例しかありません。

その結果の殆どは国が消滅するレベルの大失敗に終わっています。

ケビン君の行った偉業は天界の歴史に名を遺す程の、人類の歴史に燦然と輝く大事業であったのです。

本来であればここで称号を確認したい所ではありますが、先程も申し上げた通り、ケビン君の称号はシステムエラー中ですので数日の猶予を頂きたいと思います。

 

ですが状況と経緯は分かりました。先程の鑑定結果改変の件も含めまして上には私の方から報告しておきましょう。

それと今後も何か大きな事態が起きましたらまず$$%&に連絡を入れてください。

予め相談して欲しいと言うのが本音ではありますが、それでは地上世界の事象には基本不干渉と言う天界の方針に反してしまいますので。

ケビン君は大した事ないと思っている様ですが、聖霊樹クラスの高位存在に名前を付ける事はそれだけでも大事なんですよ?

本来人の身では不可能と言う事を自覚してくださいね?」

 

そう言いあなた様と共に席を立たれる本部長様。

 

「そうそう、聖茶の件ですが、これって大丈夫なんですか?なんかえらいヤバい薬効が・・・問題ないんですね、分かりました。ですんで無言の笑顔で俺の事を見詰めるのは止めてください。

本部長様は何も間違いは犯していない、マルセル村の名物聖茶、大事に育てさせていただきます。

それではまた何かございましたらご報告させていただきます、<送還>」

 

地面に再び広がる光輝く魔法陣、その中心で全身を光の粒子に変え姿を消されるお方様方。この後も仕事なんですか、お忙しい中お越し下さりありがとうございました。マルセル村に帰りましたら、礼拝堂にて新鮮な夏野菜料理を捧げさせていただきたいと思います。

炭酸水割りも飲みたい?了解です、ご用意いたしましょう。

 

姿を消す二柱の高位存在、その場には安堵と静寂が訪れ、メイプリー様がテーブルに上体を倒されます。

 

“アハハハハ、あの様な格の違う存在が一度に二人も訪れるとは。御神木様や紬殿は流石ですね、まったく平然となさっておられて”

 

「あぁ、我も驚いてはいる。特にあの本部長様と言うお方はこれまで見たどの存在よりも隔絶した力をお持ちの様であるしな。

だがまぁケビンがやる事だしな、そう言う事もあるであろう」

そう言い呆れた表情でこちらを見詰める御神木様。

何か精霊契約を交わした相手からは情報が伝わるとのことで、紬や紬の眷属を通じて人間観察を行っているとのこと。

表情による豊かな感情表現も、たゆまぬ学習の成果なんでしょう。

 

“ビーン・メイプル、いえ、ケビンと言った方が良いのでしょうか。御神木様、紬殿、ケビン殿、この度はヨークシャー森林国の為に尽力いただきありがとうございました。

このご恩にどう報いればよいのか、今後何かお困りの事がありましたら気軽にお声がけ下されば出来る限りのご助力をすると誓いましょう。

それとケビン殿にはこれを”

 

“ドサッ”

メイプリー様の背後に聳えたつ本体である巨樹がサワサワと揺れ、何かが地面に落下する。すると巨樹の周りで戯れていた精霊の一体がその何かをこちらへと運んで来た。

 

“昨晩お伺いしましたが、ケビン殿は我が国の甘木の樹液がいたく気に入っているご様子。私の樹液にも感嘆の声を上げられておりましたし。

これは我が眷属にして甘い樹液を作る事に特化したものとなります。よろしければお連れになってください”

 

そう言い手渡されたものはいつか御神木様に頂いたものと同じ様な巨大なドングリ。

俺はそのドングリを両手で恭しく受け取ると、膝を突き頭を垂れる。

 

「メイプリー様よりお預かりした眷属様はこのケビンが責任を持ってお育ていたします。

メイプリー様に心よりの感謝を」

 

いやっほ~~~い、甘々の木、GETだぜ~!!

俺は頂戴した巨大ドングリを天に掲げ、“この眷属様を全身全霊を持ってお育てもうしあげよう”と固く決心するのでありました。

 

―――――――――――

 

「なんかケビンお兄ちゃん、結界の中に閉じこもっちゃったね」

 

それはすさまじい光景であった。

マルセル村を訪れたグロリア辺境伯様からのご依頼で急遽ヨークシャー森林国の疫病対策に赴く事となったケビンお兄ちゃん、最初はフィリーとディアを連れて三人で出向くことになっていたんだけど、出発当日にアルバート子爵様が再婚なさったデイマリア様の連れ子であるパトリシアお嬢様が同行することになって、安全の為と言ってボビー師匠やシルビア師匠、イザベル師匠が護衛に就くことになって、何故か勉強の為と言って俺やエミリーが同行することになって。

ヨークシャー森林国の王都リーフェリアに向かうとなればどんなに急いでも二十日は掛かる行程、そこにどんな困難が待ち構えているのかと思えばケビンお兄ちゃんのスキルで影空間に閉じ込められてあっという間に国境の街に連れてこられて、そのまま直ぐに王都リーフェリアまで移動させられて。

目まぐるしく変わる状況の変化に思考が追い付かず、思わず“ルーラかよ!!”と叫びそうになった俺は悪くないと思う。

 

王都リーフェリアの状態は俺が想像していたものよりも更に深刻で、まるで死の街の様相。救いを求め教会や診療所の周りの地面に倒れ伏し衰弱する人・人・人。

ケビンお兄ちゃんが言った“これから見る事になる光景はかなり衝撃的なものになる”と言った言葉の意味や俺たちに声を掛け力なく笑ったボビー師匠の表情の意味も今なら理解出来る。

自分たちがいかに無力で矮小な存在なのか、剣術に魔法に、出来る努力は重ねて来た。

でも俺は無力だ、俺には何も出来やしない。

ケビンお兄ちゃんが見せたかったもの、それは平和なマルセル村の中では知る事の出来ない世界の真実。世界とはこんなにも理不尽に満ち溢れているのだという事、世界に羽ばたく冒険者になるという事は、その理不尽を直視しなければならないのだという事。

 

「シルビア師匠、イザベル師匠。ケビンお兄ちゃんは一体何をしたんでしょうか。

俺にはただ物凄い光景を見せられたとしか」

「あぁ、そうね、これは直ぐ側で見ていたからって理解出来るものじゃないわね。

詳しくは後で本人から聞かなければ分からないと思うけど、初めに行ったあれは周囲一帯の浄化、所謂聖域と言ったものを張ったんだと思うわ。あれほどの術式を見たのは初めてだから正確なところは分からないけど、おそらくはあれだけで王都リーフェリアの浄化は完了したんじゃないかしら?

次に行った光る霧、これは広域治癒魔法に匹敵するものね。これがどれほどの範囲で行使されたのかは不明、少なくとも王都の人間は今回の呪病どころか元から持っていた持病すらも完治してるとおもうわよ?

で、最後のアレ、聖域の効果と霧の効果で大地や人々から弾き出された呪いや穢れと言ったものの塊、それを一身に受けるって、自殺行為どころの話じゃないわ。

下手をしなくてもこの広場の者は全滅、この地は永劫に呪われた大地になる、そのはずだった」

 

シルビア師匠とイザベル師匠は黙って広場の中心を見詰める。

そこには真っ黒に染まったドーム状の結界と、それを守るかの様に周囲を取り囲む兵士たち。

 

「“産まれた穢れもまた人の罪、その全ては人たる私が被らねばならぬもの”

何もあなたが被る事じゃないでしょうに。馬鹿な男」

その瞳はどこか遠く、今ここではない、何かを思い出すかのような悲し気なもの。

 

「ふむ、皆して暗い顔をするでないわい。あの理不尽の事じゃ、これくらいの事直ぐに払い除けてまたあの聖者風の演技を再開する事じゃろうて。

なんと言ってもマルセル村の理不尽ケビンなのじゃからの」

そう言いニヤリと笑うボビー師匠、その顔は無理やりにでもこの場の空気を換えようとしている事が見て取れる。

 

「そうですね、こんなところで俺たちが落ち込んでても仕方がないですよね。

俺たちの役目はパトリシアお嬢様の護衛、精霊使いビーン・メイプルが不在となれば自然注目はその弟子であるフィリーとディアに向かう。でもそれはケビンお兄ちゃんの機転で精霊姫様の護衛と言う形で回避された。

であればその注目が彼らを連れて来たオーランド王国の使者パトリシアお嬢様に向かうは必至。

俺たちも頑張らないと」

 

俺の言葉に優しい笑みを向けるボビー師匠たち、エミリーは力こぶを作り「お姉ちゃんは私が守る!」と気合を入れる。

 

俺は視線を広場の中央の漆黒の結界に向ける。

“目的を見失ってはならない。一番大事な事は何であるのか”

嘗て冬の草原で父トーマスから言われた言葉が脳裏を過ぎる。

 

「ケビンお兄ちゃん、お兄ちゃんが戦っている間、俺たちも自分たちのやるべき事をします。お兄ちゃんの分のお土産もちゃんと買っておきます。だから早く帰って来て下さい」

 

俺たちは踵を返しその場を後にする、自分たちのやるべきことを行う為に。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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