転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第35話 村人転生者、ヨーク村にビッグワーム農法を伝える

「乾燥野菜か、これは盲点だったな。こうすればいつでも野菜が食べれると言う事なのか?」

今は夕餉の時間、俺とドレイク村長代理はヨーク村村長に宿泊の礼の名目で乾燥野菜を進呈、乾燥野菜料理に舌鼓を打ちながらそのプレゼンを行っていた。

 

「流石にいつまでもとは行きませんが、カラカラに成る迄乾燥させれば春先までは持つかと。風通しの良い日差しの当たらない場所での保存が最適となります。村での安定的な貯蔵を考えるのなら空き家を改装してもいいかもしれません」

ケイジ村長は春まで持つのならそれも悪くないかと思案するのであった。

 

村長夫人のエリナさんにそれとなく話を聞いたところ、乾燥野菜自体は知っていたがその作り方に関してはさっぱり分からないとの事。村のお年寄りを大事にしない風潮があるこの村では、こうした高齢者から齎される知恵があまり伝わっていない様であった。

 

「ところでケイジ村長、先ほど広場でやせ細った“よそ者”を見たのですが」

ドレイク村長代理が“よそ者”と言った瞬間あからさまに嫌な顔をするケイジ村長、ヨーク村での“よそ者”の扱いがこれほどまで酷くなっているのには、ケイジ村長の意向も強く働いている様である。

ドレイク村長代理はそんなケイジ村長の様子を見やった後、何かを考える素振りをしてから“よかったら邪魔者は引き取りましょうか?”と提案したのであった。

 

 

「いや~、上手い事話が進んでよかったね~」

「イヤイヤイヤ、上手い事話が進んだってドレイク村長代理が一方的に丸め込んだだけじゃないですか。それに何ですか、”キャタピラー食材の研究”って。村長代理は俺の事を何でも食べちゃう食欲魔人かなんかだと思ってません?俺ってそこまで酷くないですからね?」

“え~、十分酷いと思うんだけどな~”って失礼な。俺だって言われるまでキャタピラーを食べようだなんて思わなかったわ。

 

村長代理の提案は次の様なものであった。

“ヨーク村の邪魔ものであるよそ者はマルセル村で引き取る。その代わりヨーク村の草原にいるキャタピラーを十匹用意して欲しい”

そう、ヨーク村の隣に広がる草原にはキャタピラーがいるんですね~。グラスウルフの草原でいくら探しても見つからなかったって言うのにケイジ村長が“そんな事でいいのか?”と訝しむ程にごろごろと。

しかもキャタピラーを欲しがる理由が“食材としての研究の為にマルセル村で飼育したい”って。確かに通常キャタピラー繊維を取る場合はキャタピラーを殺して糸袋を取り出すから亡骸が無駄になりますけどね、それを食べようだなんてこの国の人間は考えませんからね?

 

グラスウルフやビッグクロー、ゴブリンからボアに至るまで。多くの魔物の餌としてその食を支えるキャタピラー、おそらく毒はなく食性も植物のみ。よくよく考えれば食材としての条件は満たしてるんだよな~。後は肝心の味ですけど、取り敢えず丸焼き?色々試してみる価値はありそうです。

 

「おや、その顔は既にどうやって食べようか思案中かな?流石は<仮性>、その発想力は半端ないね。

キャタピラーの飼育はただ増やすだけなら数匹を草原に放すだけでいい。あの辺はキャタピラーの天敵もいないから好きなだけ増えると思うんだよね。そうなればいずれキャタピラー繊維の加工に踏み切った際の言い訳にもなる。

それに食材としてのキャタピラーの調理法が確立すればその分飢えから解放される者も出るしね」

 

“ま、全部後付けの理由なんだけどね”と言ってはにかむドレイク村長代理。まぁ昼間の“よそ者”の様子を見ちゃったら手を差し伸べたくなる気持ちも分かりますけどね。本当に村長は“格好いい大人”なんだから。

“だって無駄死にしちゃったら勿体無いじゃないか~”って分かりましたから、ちゃんと協力しますから。

“取り敢えず包焼きと丸焼きにしてみるか~”と新たな食との出会いに夢を膨らませるケビン少年なのでありました。

 

 

 

「皆さんおはようございます」

ケイジ村長が指定した村の畑の周りには村長子飼いの者をはじめ、多くの村の大人たちが集まっていた。

 

「それでは早速ではありますがこれよりビッグワーム農法の肝である肥料を作る場所、ワームプールの説明を始めます。このワームプールはビッグワームの養殖場を兼ねていますのでよく話を聞いて正確に作成してください。

尚詳しい作り方に関しては予めエリナ村長夫人に説明書きを渡してありますので、分からない場合はそちらをご確認ください」

さて、漸く俺の出番だ、今日のスコップは土に飢えているでござる。俺は愛用のスコップに魔力を巡らせると横三メートル、縦四メートル、深さ一メートルの大穴の作製に取り掛かるのであった。

 

「ワッハッハッハッ、今日も相棒は絶好調、凍てつく冬の大地も俺と相棒に掛かればズバンズバンのギッタンギッタンだぜ~!」

 

「はいお疲れ様~、ケビン君は一旦穴から出ようか~」

ドレイク村長代理に促され一度プール建設予定の穴から這い出る。・・・何だこの空気?

 

「うん、今日も勇者様は絶好調だったからね、ヨーク村の皆さんも勇者様の気迫に押されちゃったみたいだね。さて大穴の準備も終わったので具体的な作製に移ります。先ず用意する物はレンガになります。これに関しては後で説明するとして、今回はこちらで用意したレンガを使って簡単な手順を説明いたしますので覚えてください」

で、こっからは俺がやるんですね、了解です。俺は再び村人の前に出て説明を始めた。

 

「先ずはバケツか盥を用意してそこに掘り出した土を入れます。これはレンガとレンガを接着する為の粘土作りの作業になります。そうしたらそこに<ウォーター>の魔法で作った水を加えてください。その際に多くの魔力を込める様に考えながら行うとより丈夫な粘土になります。

 

“大いなる神よ、我に一杯の潤いを与えたまえ、ウォーター”

水を加えたらよく練って混ぜてください。水が多い様なら土を足し、足りない様なら再び<ウォーター>を加える事で調整してみてください。

 

次に一個ずつレンガを並べ張り合わせて行きます。ただその際に全部を粘土で埋めてしまうと水捌けが悪くなりビッグワームが溺れてしまうので、水抜き用の隙間を作りそこに砂を詰めておきます。砂が用意できない場合はレンガを砕いて粒状にして代用してください。今回は予め用意した砕いたレンガを使います。

そしてきちんと並べ終わったらレンガを<ブロック>の魔法で接着します。これは建築現場や街道整備の現場で使われているやり方です。

”大いなる神よ、我に大地の力を示せ、ブロック”

 

ここまでが一連の流れになります。後は同じ要領で壁面の建設を行ってください。

生活魔法の<ウォーター>を使わなくても作る事は出来ますが、その場合はかなり脆くなりますのでお勧めしません。なるべく頑張って<ウォーター>を使いこなしてください。

 

続きまして、魔法レンガの作り方に移ります。要領は日干し煉瓦と同じです、材料は先ほど作った粘土を使います。

先ずこの様な木枠を用意します。そこに先ほどの粘土を流し込みよく突いて空気抜きをしたら表面を滑らかにします。準備が終わったら先程の<ブロック>の呪文を唱えます。

“大いなる神よ、我に大地の力を示せ、ブロック”

 

木枠を剥がせばブロックレンガの出来上がりです。これ位の大穴の壁面を埋める量のレンガは大体一月ほどで作る事が出来ます。これまで使った魔法は全て生活魔法ですのでワームプールは誰でも作る事が出来ます、皆さん頑張ってください」

 

俺はゴルド村でのやらかしを反省し、“誰にでも出来るワームプールの作り方”の説明を終えた。・・・なんかシンと静まり返っているんですけど?どう言う事?

「ドレイク村長代理、今回俺問題なかったですよね?」

 

「あ、うん。前回みたいな問題はなかったね。ただ“誰にでも出来る魔法レンガの作り方”はちょっとショックが大きかったかな?

この国では、魔法レンガは土属性魔法の<クリエートブロック>じゃないと作れないって言うのが常識だからね。それが手間は掛かるとはいえ誰にでも作れるって言うのは画期的な事なんだよ。大概の場合日干し煉瓦を使ったりするからね。

魔法レンガと日干し煉瓦ではその耐久性が雲泥の差だから。この村の建物があちこち壊れていただろう?あれも日干しレンガ造りなら仕方のない事なんだ。ゴルド村の様に魔法レンガを使用した建物ばかりと言った村はまずないんだよ」

 

「へ~、そうなんですね、勉強になります。でも今回は問題無いですよね、ちょっとだけ生活が便利になっただけですから」

 

「そうだね、冬場の内職にレンガ作りが加わったくらいじゃないのかな?家の修繕も自分たちで出来る様になるし、是非ワームプール建設でその技術を磨いて欲しいものだね。エリナ村長夫人、いかがだったでしょうか?」

ドレイク村長代理が隣に控える村長夫人に話を振ると、彼女は両手を掴み頭を下げ、感謝の言葉を述べるのでした。

 

 

「ドレイク村長代理、今回は家の修繕の仕方まで教えてくれたそうじゃないか、随分と大盤振る舞いだな」

ヨーク村村長宅に戻るとケイジ村長が大仰に俺たちを出迎えてくれた。

 

「いえいえ、私どもがお手伝い出来る事はそれほど多くはありません。それよりも今回お伝えした事を生かして村の農業を発展させて頂く事がなにより、私も監察官様の覚えが良くなると言うもの。お互いに利益のある話でございます」

 

「フン、よそ者の小物は生き残りに必死と言った所か。この俺様に媚を売ると言う態度は褒めてやるがな。ほら約束のキャタピラーだ、確認して貰おうか」

見ればそこには籠に入れられた十数匹のキャタピラーがウゾウゾと(うごめ)いているのでした。

うん、こんなにはいらない。まぁ名目上は食材ですし、試しに数匹捌いてみますか。

 

俺はカバンから愛用のナイフを取り出すとキャタピラーの腹を縦にスパン。これが糸袋か~、取り敢えず麻袋に収納。

お腹の中に香草を詰めて周りを紙で覆ったら土で粘土を作って周りにペタペタ、これで準備完了。‟庭先を失礼します”と断りを入れてから馬車の荷台に積んである昨日の枯れ草束を幾つか下ろし、その真ん中に泥の塊をポン。

「“大いなる神よ、その慈悲を持って我に炎を与えたまえ、プチファイヤー”」

 

ぼうぼうと燃え盛る炎、これはしばらく放置。その間にもう二匹ばかり内臓処理をしてっと、こっちは単純に丸焼きでいいかな?お腹側に岩塩を振り掛けておけばいいでしょう。香草は、今回は無しで。木串に刺して焚火であぶり焼きですね。

とまぁ、そんな感じで準備を進めておりましたら、背後から“ドレイク村長、彼ってもしかして<仮性>?”とか、“すげ~、あの坊主キャタピラーを食べようって。やっぱり本物の<仮性>は半端ないわ”とかの声がですね~。ケイジ村長ドン引きしてるし、そんな可哀そうな者を見る様な目で見なくてもいいのよ?別に悲しくなんてないんだからね?

 

そして待つ事四十分ばかり、キャタピラーの串焼き&包焼きの完成です。

では早速串焼きから実食、表面の焦げを剥がしてその蕩ける様な身を一口。

“ハムッ”

うん、全然青臭くない。どちらかと言えば白子の様なクリーミー加減。口内に広がる甘みと旨味そしてほんのり感じる魔味。この白子部分に岩塩を少々、再びパクリ。

うん、悪くない、俺結構好きかも。でもこの食感は賛否が分かれそう。

 

続いて包焼きの方はと言いますと。

“コンコンコン、パカン”

“ブワッ”

周囲の粘土を剥がした瞬間周辺に広がる香草の香り。口腔に広がる唾液が期待を膨らませてくれます。周りの紙を剥がし、キャタピラーの背中にナイフをスッと添わせると、立ち昇る湯気と共に旨そうな香りがプ~ンと漂い始めました。

俺は背中の一部を切り取りそこからスプーンを中に差し込むと、その白いプルプルした身を掬い出し“パクリ”。

ウマ、イヤイヤイヤ、旨、えっ、マジっすか。香草の包焼きってこんなに風味が変わるものなんですか?

 

俺は背後で様子を窺うドレイク村長代理にスプーンを差し出します。

スプーンを受け取ったドレイク村長代理は恐る恐るプルプルの白子を口に運び。

「旨、ナニコレ。えっ、キャタピラーってこんなに美味しかったの?今夜の一品これで決定じゃね?」

(のたま)うのでした。

 

 

「それじゃ出発しようか」

ドレイク村長代理の合図の下、馬車は一路マルセル村を目指して出発した。その荷台には籠に入れられた十匹のキャタピラーとマルセル村に引き取られる事になった“よそ者”の親子。

美味しいは正義。これまで見向きもされなかった食材“ビッグワーム“、これまで食べられるとすら思われなかった食材“キャタピラー”。忌避感はある、躊躇する者も多いだろう。だが毒もなく調理次第ではメイン料理にすら昇格するポテンシャルを秘めたこれらの食材は、紛れもなくヨーク村の人々の飢えを救う事だろう。

“衣食足りて礼節を知る”

食の目処が付いた今、この村の人々がどう変わって行くのか。

願わくば心穏やかな優しい気持ちを抱いて欲しい。

これまでの全てを諦めた虚無を見詰めるような瞳に僅かばかりの光を宿し始めた子供に目をやり、少年ケビンはそう願わずにはいられないのでした。




本日一話目です。
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