旅、それは多くの出会いと別れ。
初めて出会ったその人は、もう二度と会う事の無い人になるかもしれない。一期一会、人生もまた旅なのだ。
「「「ケビン・ドラゴンロード様、大変お世話になりました!!」」」
その場に集う者達は姿勢を正し、自身の人生を大きく変えてくれた恩人に礼をする。
「はい、皆さん顔を上げてください。
皆さんは罪人です。これまで多くの人々から幸せを奪い、多くの命を弄んで来た。それは決して許される事ではないし、被害に遭われた方々からすれば皆さんが生きている事そのものが罪なのかもしれない。
でも皆さんが死んでしまってそれで何かが変わるとでも?
皆さんの代わりなど幾らでも湧いて来る、悲しい事にそれが現実です。皆の命などそれ程価値の無いもの、生きていようが死んでしまおうが、世の流れに何の影響も与えない存在。
それは皆さんが望む望まぬを別にしても作り上げて来てしまった人生の結果なのです。
ならその命、誰かの為に使ってください。
奪ってしまったものは返らない返せない。時が戻せない様に、物も命も、一度奪われてしまったら、奪ってしまったら元には戻せないのです。
ならばその一割でもいい、人の為に尽くしてください。
その無意味な命に意味を持たせてください。
冒険者となり魔物を退治するのでもいいでしょう、困っている人に手を差し伸べるのでもいいでしょう、土を耕し作物を育てるのでもいいでしょう。
その全ては誰かの為になる。自身が罪人である事を忘れる事なく、命尽きるその時まで、誰かの為にあろうとしてください。
それが私が皆さんに望む唯一の事であり、皆さんに出来る贖罪なのですから」
彼らは皆その話を真剣な瞳で聞き、黙って耳を傾ける。自らの罪の重さに涙する者、決意の籠った瞳でグッと拳を握り締める者。
「皆さんとはここでお別れです。
女神様は常に皆さんと共に在ります。皆さんの進む道が光ある物になる事を望みます」
「「「はい、二度と過ちは繰り返しません。我々の命は誰かの幸せの為に!!」」」
彼らは旅立つ、男も、女も。誰一人として振り返る事なく、自身の罪に向き合う為に。
その背中を見送る青年、アルバート子爵家騎士ケビン・ドラゴンロードは思う、“盗賊多過ぎだろう”と。
いや~、スゲーの、盗賊ゴロゴロ。地方都市エルセルから避暑地レンドールに向かう幌馬車の旅、今回は特に急ぎと言う事ではないので若者軍団の経験も兼ねて幌馬車の操作、周囲の警戒の全てをお任せして俺は御者台の隣で指導に当たらせていただいたんですけどね。出るわ出るわ、五日間の行程の中で初めの待ち伏せを含め襲われること四回。エルセルが盗賊の塒だったころでもここまで酷くはなかったってレベル。
集団で幌馬車を囲む者から倒木なんかで足止めして矢を射ってくる者、気のいい商人を装う物等々、オーランド王国南西部で悪さをしていた連中がわんさとやって来たって感じ?
一々付き合ってられないんで、アウトの時点で伸ばした魔力の触手による魔力枯渇&影空間にGO。後は聖茶の効能実験の被験者になって貰ったって感じです。
実験で分かった事は光属性魔力を強くし過ぎると悟りを開いた僧侶みたいになってしまうって事、盗賊の悪党具合により改心に必要な光属性魔力マシマシ聖茶の量に違いが生じると言った事。
一般的な盗賊、所謂下っ端や一般構成員は二杯、幹部構成員は三杯、リーダークラスは三杯から四杯必要と言う事が分かりました。
これは以前光属性魔力マシマシウォーターと魔力枯渇のコンボで自白強要を行った際と似たような結果かな?
もっとも向こうは酷く怯えるだけで人格が変わるみたいな妙な事にはならないんだけどね。この辺は聖茶と光属性魔力の相乗効果なんだろうか。やっぱあちら産の植物ってヤベーわ。
で、出来上がっちゃったのが更生なさった悪党の集団。薬が決まってラリってるって訳じゃなく、魂の漂白が行われたと言うかなんと言うか。
記憶はそのままに別人の様に変わってしまったみたいな?
でもまぁこの連中をマルセル村に連れて帰る気はサラサラないんで、混迷極まる南西部地域に放流です。
聞けば村人全員が野盗と化しちゃったり領主屋敷が襲撃にあったり?何時かの追い剥ぎ村みたいなのが生まれちゃったり、後継者問題で内ゲバが起きてるって事なんですかね~。
これも全てダイソン公国との戦いで多くの貴族当主や騎士なんかが亡くなったから。
次は我が身と言った不安から国が荒れ、行き成り転がり込んできたチャンスからお貴族様方は我を見失ってるって感じなんでしょう。
これも戦争が終わって高位貴族が力を示せば自然と治まるとは思うんですけどね。
民度の低いこの時代、冒険者ギルドじゃないですが力こそ正義ってところは有りますから。綺麗だろうが汚かろうがジャイ〇ンは必要って事です。
「ケビン、もう宜しいですか?」
背後から掛けられた声に振り返れば、パトリシアお嬢様をはじめとした旅の面々がこちらを眺めておられます。
「パトリシアお嬢様、大変お待たせいたしました。こちらの用は済みましたので早速シリアル湖湖畔の街レンドールへと向かいましょう。
今の時期は湖面を流れる風が大変心地よいと聞き及んでおります。皆様の旅の疲れも直ぐに消え去る事でしょう」
「そうですね、シリアル湖湖畔の街レンドールはグロリア辺境伯領きっての風光明媚な場所と伺っています。私も大変楽しみにしているんですよって違いますからね?
先程の方々、あれはこの前から街道に出没した盗賊ですよね。エミリーちゃん達が警戒態勢を取り迎撃準備をしたところでケビンがちょっと用があるからと言って直ぐに対処してしまった。
その後の報告で南西部地域の混乱状態であるとか農民が盗賊まがいの事をしているとか、敗残兵が盗賊になっているとか後継者問題で荒れている領地があるとか伺いました。
エルセルから五日の行程で四度の襲撃を受ける異常事態、ケビンの言葉が真実であるという証左でしょう。
それはいいのです。問題は先程の彼らです。
綺麗な服装、髭を剃り身だしなみもちゃんとしている。何より理知的できちんと人の目を見て真摯に話を聞く態度、どこの訓練された兵士ですかと思ったほどです。
あれがこの数日見続けてきた盗賊?誰も信じませんよそんな事。
聖茶でしたか?ドレイクお義父様がご愛飲されているお茶。精神が落ち着き物事を冷静に考えられる様になる素晴らしい飲み物。
・・・そんなものじゃないですよね?完全に別人ですよね?
ケビンはお義父様に一体なんてものを飲ませているんですか!」
パトリシアお嬢様激おこ、他の方々はドン引きなさっておられます。
まぁ結果だけ見れば衝撃以外の何物でもないですからね、だって荒くれ者の盗賊が品行方正な好人物に変わっちゃうんだもん、どんな劇物だって話ですよ実際。
「え~、これは薬全体に言える事なんですが、毒と薬は紙一重なんです。食事も食べ過ぎれば害になるのと同じで薬も用法容量を誤れば害となる。逆に毒も使い様によっては薬となるんです。
それは聖茶も同じ事、聖茶はただ普通に楽しむ分には美味しいお茶です。考えがまとまり易くなったり冷静になったりする効果も、自身の状態が特に精神的に問題ないのであれば便利で済む話。
カモネールや癒し草の煮出し茶と変わりません。
ですが何か混乱する事態に陥った場合強制的に落ち着いた状態になるのは精神に負担を掛けます。それを解消する為に光属性魔力水を使い聖茶を淹れるというやり方を思い付きました。
ただこれは更に魔力を込める事で想定外の効果を示した。それが光属性魔力マシマシ聖茶です。
結果は見ての通り、素晴らしいと言えばいいのか凄まじいと言えばいいのか。この状態がどこまで続くのかが分からない以上、彼らをマルセル村に連れ帰るなんて選択肢は最初からありませんが。
先程も言いましたが薬とは使い様、正しく飲まれる分には聖茶も美味しいお茶、便利なお茶に過ぎません。それを確認する為の実験であり検証だったのです。
実験の結果、光属性魔力水での聖茶の安全性は確認出来ました。込める魔力量だけ注意してくれればただの便利なお茶ですので、お気軽にお楽しみください」
俺の言葉に額に手を当てられるパトリシアお嬢様、俺何か間違った事でも言ったのだろうか?
「そうでは無くて安全性の確認が出来ていない危険物を領主に差し出す事の危険性、安全確認の為に多くの人を危険に晒した事に対する話をしているんですよ!
少しは自重してください!」
パトリシアお嬢様の言葉に頷きで同意を示す面々。うん、確かに安全性に疑問符が出た品物を領主に差し出すのはまずいよね、そこは反省しないといけません。
「そうですね、アルバート子爵様には申し訳ない事をいたしました。今後は安全性を確認した上で献上いたしたいと思います。
それでは出発しましょうか、ここからレンドールまでは直ぐですよ~」
そう言い出発を促す俺に「イヤイヤイヤ、人体実験はいいんですか!?そっちの方がまずくないですか?」と突っ込みを入れるジェイク君。
・・・ん?何か問題があったんだろうか?
魔獣(人科)を使っての安全性の検証、とっても効率的だと思うんだけど。
俺がそんな事を聞き返すと「駄目だこの人、どうにかしないと」と言う一同。う~ん、分からん。
俺は何故かドン引きする一同に先を促し、避暑地レンドールへと向かうのでした。
――――――――
「うわ~、シリアル湖の湖面がキラキラ輝いてる、綺麗~。
どう、ジェイク君、ここが避暑地レンドールだよ。
凄いよね、こんな大きな池なんてマルセル村にいた時には想像も出来なかったもんね。
でもね、バルカン帝国には“海”って言う所があって、そこはシリアル湖よりももっと大きな水辺が広がっているんだって。世界って凄いよね~、私達の知らない事ばかりだよ。
フィリーちゃん、ディアさん、びっくりした?」
エミリーが陽気な声で感動を口にする。確かにシリアル湖の雄大さは見事、煌めく湖畔や周囲の建物群、まるでヨーロッパのどこかの景色の写真を見せられているみたい。これは一見の価値が有ると思う。
でも海は知ってるんだよ、前世で海水浴には何度か行ってるしね。多分俺はその感動を共有出来ないかもしれない。
いや待てよ、地中海の様なエメラルドグリーンの美しい水面だったら・・・うん、いけるかも。
海外旅行をした記憶は無いし、これは期待出来るかもしれない。
「そうだね、今はダイソン公国との戦争があって行けないけど、俺たちが冒険者として独り立ちする頃にはバルカン帝国にも行ける様になってるかもしれないし、そうしたら海を見に行くのもいいかもね。
このシリアル湖よりも大きな水辺、なんかワクワクするね」
互いに目を見合わせニッコリ笑う俺たち。
フィリーとディアは・・・あれはジミーと一緒に感動を分かち合う所を想像してるな、表情が凄くだらしない。
フィリーに至っては顔を手で覆ってイヤイヤって身体を振ってるし。一体どんな妄想をしてるんだか、ちょっと怖くて聞けない。
ジミー、今頃どんな修行を行っているのか知らないけど、ちゃんと帰って来いよ?
あと暗黒大陸でハーレムなんか作って来るなよ、マジで頼むぞ!
俺は遠く異国で頑張る剣術馬鹿で腹黒ジゴロな親友の事を想い、無事な帰りを祈るのでした。
「ようこそおいで下さいました、パトリシアお嬢様、エミリーお嬢様、それとマルセル村の皆さん。
こちらの別邸の管理を仰せつかっております、グリルと申します。お部屋の準備は整っております、どうぞ中へ」
そこは立派なレンガ作りの建物、マルセル村にあるアルバート子爵家仮本邸とはまた違った趣のある外観と周辺の樹木、先に広がるシリアル湖の湖面がまるで一枚の絵画の様で、ザ・別荘地と言った雰囲気。
こんな高級リゾート一泊幾らするのさ、庶民の俺が泊まっちゃって本当にいいの?アルバート子爵家の持ち物だから問題ないと、そうですか。
小市民である俺、目茶苦茶ビビってます。
ヨークシャー森林国のプラウド侯爵家の御屋敷はあまりにも別世界で全く実感が湧かなかったけど、自分でもイメージ出来るお金持ちの領域に踏み込むのって、違った意味でドキドキします。
俺たちはエミリーに先導され建物の中に、
「おい、エミリー、約束通りやって来たな。この俺から逃げずにいた事を褒めてやろう。
この俺様を去年と一緒だと思うなよ?今度こそエミリーに勝ってケルピーを貰い受けてやろう、覚悟をするんだな!」
何か俺たちに向けビシッと指を指す青年。
「エミリー、知り合い?」
「うん、近所のロナウド君。去年の夏はシリアル湖で一緒に遊んだの。ケルちゃんとも仲良しなんだよ」
「なんだ貴様は、エミリーに対して馴れ馴れしいぞ。
まさか、貴様、ジェイクだな!ジェイク、貴様に決闘を挑む、俺様の方が優れていると証明してやろう!」
何故か行き成りロナウドとか言う青年に決闘を申し込まれ動揺する俺。
パトリシアお嬢様とお付きのメイドさんは「キャー、エミリーちゃんを巡って男同士の決闘よ~」と目を輝かせ、フィリーとディアは「エミリーちゃん、羨ましい。ジミー君は私達のために戦ってくれるかしら」と妄想にふけり、ケビンお兄ちゃんに至っては「これが青春、俺の人生にはあり得ない展開」と何故か両手両膝を突いて敗北感に苛まれているし。
目の前では既に勝ち誇った表情のロナウド君、隣では期待に胸膨らませるエミリー。
・・・どうしてこうなった。
旅、それは多くの出会いと別れ。
新たに出会ったジェイクとロナウド。
湖畔の別荘地レンドール、若者たちの夏はまだ始まったばかりなのであった。
本日一話目です。