転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第356話 転生勇者、別荘地のお貴族様に挑まれる

グロリア辺境伯領有数の避暑地レンドール。シリアル湖を臨むその地には、毎年多くの観光客や余暇を楽しむ別荘所有者などがやって来る。

 

「俺は去年この場所でエミリーに敗北した、正直完膚なきまでに打ちのめされた。だが俺はその事実を受け止める事で更なる飛躍を果たした。

授けの儀を受ける前に魔法の発現を見た天才であるこの俺が、人に頭を下げ、教えを乞い、日々の努力を惜しまなかった。

それは偏にエミリーを越える事、この真の天才であるロナウド様が最も優れていると言う事を証明する為に。

 

だがその前に俺はエミリーに見せ付けなければならない、この俺がジェイク、貴様より優れているという事実をな!!」

 

閑静な湖畔の別荘地、そこでは夏の避暑に訪れた家族連れであろう子供たちの声が響く。

この地に若者の声が木霊する、これもまた夏のレンドールの風物詩なのだろうか。

 

「えっと、うん、そうなんだ。

それで俺は一体どうしたらいいのかな?」

 

到着したばかりの高級リゾート地に気圧されていたマルセル村の青年ジェイク(十一歳)は、その燃える様な髪をかき上げ目の前の青年ロナウドに声を掛ける。

 

「フッ、決まっている。この世界、決闘と言えば魔法だろう。

だが平民の貴様が行き成り魔法と言われても困惑しよう。

特別だ、見せてやろう、これが俺様の修練の成果だ、<ウォーターボール>」

“バシューーーーーーーーーーズド~ン”

 

サッとシリアル湖に向け伸ばされた左手、その先より撃ち出されたボール魔法<ウォーターボール>は、瞬時に飛び去り湖面に水柱を作り上げる。

その様子に周囲は静まり返る。

 

「なんだあのボール魔法の威力は、それに短縮詠唱、あの歳でどれ程の才能を持っておられるのだ」

別荘管理人グリルの呟きがその場に木霊する。

 

「ハハハ、いや、すまない。俺はいささか気が高ぶってしまっていたらしい。

そうだな、いくらなんでもこれは大人げなかったな。

平民、貴様に決闘を申し込んだことは取り消そう、俺も大人だ、余りに隔絶した力で弱い者いじめをする趣味も無い。

貴様がここで素直に負けを認め「えっと、この辺に立てばいいかな?ケビンお兄ちゃん、魔法が逸れた時の対処をお願い出来る?」「分かった~。でも撃ち返すんならシリアル湖の沖合にしろよ、水辺は人がいるかもしれないからな」って俺の話を聞け~!!」

 

大声を出し息を荒げるロナウドに、赤髪の青年ジェイクはニコリと笑みを返し応える。

 

「さぁ、何時でも来い。その思い、スタンドの向こうに叩き込んでやろう」

ジェイクは手に持つ木刀をブンッと振ると、その切っ先をロナウドに向け宣言するのでした。

 

――――――――――

 

それは悪夢の様な光景であった。

 

“カキーーーーン”

俺の右手から撃ち出された水属性魔法<ウォーターボール>は、目の前の男により軽々と打ち返され、シリアル湖沖合に向かい飛んで行く。

 

「いい球来てるよ~、どんどん来い~!!」

その男、ジェイクは俺の“魔法攻撃”をものともせず、言うに事欠いて「いい球来てるよ~」と次の攻撃を要求する。

 

「ロナウドく~ん、去年より走ってるよ~。これなら今年は楽しめるかな?まだまだ伸び代があるよ~」

エミリーはジェイクの勝利を確信しているのかこちらの応援すらする始末、何と言う屈辱。

 

出会いは去年の夏であった。毎年のようにこの避暑地レンドールを訪れていた俺は、不意に聞こえる女の子の声に庭先に出て辺りを見回した。

そこにいたのは楽し気にケルピーと戯れる少女、シリアル湖の悪夢と呼ばれる凶暴な魔獣をまるで愛馬の様に撫でるその姿に驚愕したのは勿論だが、俺の心はその愛らしい少女の姿に釘付けになった。

 

「そこの平民、それは魔獣ケルピーだな。その魔獣はこの俺様の様な高貴な者にこそふさわしい。大人しく献上せよ」

 

切っ掛けは何だってよかった。確かにケルピーは珍しい魔獣でありそれを従えるとなれば周囲から一目置かれるだろう。だがそんな事よりもこのケルピーがいればそれを理由に少女と親しく出来るのではないか、“ケルピーを撫でさせてやる”といえば喜んで俺の下に来るのではないか、そんな思いからの言葉であった。

 

「え~、ケルちゃんは物じゃないし寄越せと言われても~。

う~ん、じゃあこうしようか、君が私に勝ったらケルちゃんにお願いしてあげるね?」

 

少女はそう言うと俺に向かいニコリと微笑んだ。

そうして俺はこの少女、エミリーに挑み続ける事となった。

 

「行ってしまわれましたね」

夏の終わり、エミリーは家族と共にレンドールの街を去って行った。俺のこれまでの人生でこれほど楽しい夏はない、そう断言出来る程エミリーと過ごした日々は輝かしいものであった。

 

「ローラ、俺に魔法を教えてくれないか」

「えっ、ロナウド様にですか?」

 

「あぁ。俺は弱い、エミリーに遠く及ばぬ程にな。エミリーが俺よりも故郷の男に思いを寄せるのも当然だ。

女性と言うものは強い男性に、優れた男性に惹かれる。そう言うものだと聞いた事がある。

それが全てではないだろうが、少なくとも心に留め置く事にはなるだろう。

今の俺ではこんな男の子がいたと言った思い出話で終わってしまう。そんなことはこの俺様の誇りが許しはしない。

俺は強くなる、その為なら誰にだって頭を下げよう。

魔法ばかりじゃない、勉強も、剣術も、エミリーが無視出来なくなる程に」

 

その日から俺の修練の日々が始まった。これまで見下していた者達にも頭を下げ、謝罪の言葉を述べ、教えを請うた。

ローラはそんな俺に付き添い、俺の修練に根気よく付き合ってくれた。

そんな俺の変化は始めは驚きとどうせ直ぐに飽きるとした冷めた目で見られていた。だがそれはやがて信頼に変わり、俺がウォーターアローやウォーターランスまでをも短縮詠唱で放つ様になる頃には、使用人たちの俺を見る目は侮蔑から敬意の籠ったものへと変わっていた。

 

「父上、ダイソン侯爵家がダイソン公国を名乗り王家に反旗を翻したというのは本当ですか?」

その知らせは突然であった。

 

「うむ、彼の領は現在の当主デギン・ダイソン卿に代が変わってからと言うもの頻繁にバルカン帝国と接触していた様だ。

バルカン帝国の最新兵器を導入する事で数の不利を覆す算段なのであろう。我が領とは隣領となるが幸いなことに領境は山岳部になっている為容易な侵攻は無いであろうが、油断する事は出来ない。

ロナウドも警戒の心を持つ様に」

 

「はい、このロナウド、自身を磨き何時でも父上のお役に立てるように備えておきましょう」

「うむ、良い心掛けだ。近頃は魔法訓練ばかりでなく剣術や勉学にも力を入れていると聞いている。男はひと夏で変わると言うが、お前も何かよい出会いがあったのかな?」

 

ニヤニヤとした笑みを浮かべ問い掛ける父、あの厳格な父にこの様な側面があったとは。

答えに窮する俺に「アッハッハッ、よいよい、頑張れよ?」と声を掛ける父は、かなり性格が悪いと思ったものだ。

 

そんな一年の集大成、俺の思いの全てを込めたボール魔法、それが・・・。

 

“カキーーーーン”

“ドサッ”

地面に膝から崩れ落ちる。激しい頭痛、荒い息、これは魔力枯渇、また俺はなす術無く負けてしまうのか。

薄れ行く意識中、俺の事を心配するローラの声が聞こえる。そして・・・

「ロナウド君、凄いね。去年とは全然違うんだもん。魔法の威力や速さ、正確性、そのどれをとっても格段に良くなってたよ。

本当によく頑張ったんだね。

でもエミリーたちだって負けてないんだからね、今年も一杯遊ぼうね♪」

 

それが俺の聞いた最後の言葉だった。

 

――――――――

 

「ロナウド様、お疲れ様でした」

ロナウドの専属メイドローラは、昨年同様魔力枯渇で気を失ってしまった負けず嫌いの主人の下に近寄り、その身を優しく抱き上げる。

 

「ローラさんお久し振りです。今年も遊びに来ました。

今年はお姉ちゃんとお友達とで来たの。よろしくお願いします」

頭を下げ礼をするエミリーに、優し気な笑みを浮かべ言葉を返すローラ。

 

「そうですか、昨年お別れする際に来年はお友達をお連れになると仰っておりましたものね。

彼がお話に聞いたジェイク様ですか。ジェイク様、ロナウド様が不躾な事をいたしまして申し訳ございませんでした。

ロナウド様はこの一年今日の日を楽しみにしていたものですから。

これからも仲良くしていただけましたら助かります」

そう言い頭を下げるローラに「アハハハ、大丈夫ですよ、あれくらいなら全然平気ですんで」と答えるジェイク。

 

「エミリーちゃん、ジェイク君、お部屋に入って着替えてらっしゃい。フィリーちゃんとディアも自分たちの部屋を見て来るといいわ、とっても素敵だったわよ。

こんにちは、あなた方がお義父様から伺っていたご近所さんですね、義妹たちが遊んでいただいたみたいでどうもありがとう。

私達はこの夏一杯ここで過ごす予定です。お隣同士、仲良くしてください」

 

掛けられた声に、その場の者が皆目を向ける。それは柔和な笑みを浮かべた美しい女性、その姿を認めるやローラは驚きに目を見開き思わず口を開く。

 

「えっ、パトリシア様、何故あなた様がこの様な場所に」

「あら?アイリス、アイリスではありませんか。久し振りです、お元気でしたでしょうか。

と言うかあなたこそ何故ここに?それにそのメイド服。私も大概色々ありましたが、あなた程ではない気がしてきました」

それは思わぬ出会い、懐かしの友との再会であった。

 

 

「お待たせケルちゃん、レンドールに到着したよ。ケルちゃん楽しみにしてたもんね、今解放するね。<オープン>」

 

“ピカー”

エミリーが伸ばした左手に嵌められた指輪から光が放出される。それは徐々に形を作り、その場に一体の魔物を出現させる。

 

“キュルル~♪”

大きな身体、水の妖精とも謳われる馬型の魔獣ケルピーは、エミリーの姿を認めると嬉しそうに頬を擦り付ける。

 

「アハハハ、ケルちゃんくすぐったいよ~。窮屈な思いをさせてごめんね?ここなら思いっきり走り回れるよね。

背中に乗れ?しょうがないな~。それじゃ行くよ~、それ~♪」

“キュルキュルピ~♪”

 

シリアル湖の湖面を疾走するケルピー、その馬上からはエミリーの楽し気な笑い声が響く。

 

“コトッ”

テーブルに差し出されたティーカップ。シリアル湖を臨む様に広がる庭園はよく管理されており、その場に敷かれた絨毯とテーブルセットが違和感なく馴染む。

 

湖から流れる涼し気な風を受け、パトリシアはカップに口を付ける。鼻腔に広がるカモネールの穏やかな香り、旅の疲れを気遣うケビンの優しさを感じる。

 

「アイリス、ロナウド様はよろしかったのですか?」

パトリシアは視線を上げ、目の前に座る懐かしの友人に声を掛ける。

 

「はい、屋敷には他に数人のメイドがおりますので。ロナウド様が魔力枯渇で倒れられる事は当屋敷ではよく知られた事、いつもの事と対処していただけますので」

使用人達が当たり前として受け止める程魔力枯渇を起こすような訓練を行っているという話に、驚きに目を開くパトリシア。

 

「ロナウド様は凄いのですね、あの御歳でそれ程までの訓練を熟されるとは。魔力枯渇の苦しさはよく知られた事、そう易々と続けられる事ではありません」

パトリシアは“そう言えばさっきも数えきれない程のボール魔法を撃ち出していた”と思い出す。いくらボール魔法と言えども三桁を超える数を撃てるなど、普通ではありえない。

 

「ロナウド様は昨年エミリー様に会われた事でお変わりになられました。早くに水魔法の才能に目覚められたロナウド様はどちらかと言えばお屋敷でも浮いた存在でした。

勇者病<仮性>症状特有の妙な自信、努力などしなくとも他の者になど負けるはずはないという思いがあった。

そんなロナウド様がエミリー様に会われた事で自らを律し努力を欠かさない様になった。

その姿に御屋敷の者たちのロナウド様を見る目も変わって行った。

全てはエミリー様のお陰、本当になんと感謝申し上げて良いのか」

 

そう言いケルピーに跨り湖面を疾走するエミリーを見詰め目を細めるローラ。

 

「そう、そんな事が。流石は私のエミリーちゃん、多くの人に良い影響を与えていたのですね。

それはそうと何故侯爵家令嬢のあなたがメイドを?」

 

パトリシアの問い掛けに視線を戻すローラ。

ローラは、元ダイソン侯爵家長女アイリス・ダイソンは、寂しそうな笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開くのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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