照り付ける日差し、深く濃い青空、山間に立ち昇る入道雲。
「バッチ来~い。ロナウド~、全力で行け~!!」
「黙れ平民、俺は何時だって全力だ!!
“行け、雷光の如く、ウォーターボール”」
“ドシュンッ”
それは飛び去る閃光、前方に伸ばされたロナウドの右手、その掌から撃ち出されたウォーターボールは文字通り雷光のような速さで標的目掛けて突進する。
「来た来た来た~~~!!ロナウド君、走ってるよ~~!!」
“カキーーーーン”
振り抜かれたエミリーの木刀、それは水属性魔力を纏いながら正確にウォーターボールの芯を捉える。
「うぉーーーーー、今度こそ取ってやる~!!」
“タッタッタッタッタッタッ”
飛び去ろうとするボール魔法、その打球を必死に追い掛け食らい付こうとするジェイク。
「取ってやる~~~!!」
“バッ”
今まさに落下寸前という打球に飛び込むジェイク。
“パシンッ”
「よっしゃ~~!!」
“ザブーーン”
「セーフ、エミリーちゃん一点追加」
「やった~!!」
“ガクッ”
湖面に膝を突き項垂れるロナウド。
「この俺様の会心の一撃が、ジェイク、貴様もっと本気で走らんか~!!」
“ブクブクブクブク”
憐れシリアル湖の沖合に沈み泡を出すジェイク。
“ザバーーッ”
救助隊のケルピーの背に乗せられ湖畔に戻るジェイク、そんな彼の様子に「情けない」と呟くロナウドと、「次は私達の番ね」と気合を入れるフィリーにディア。
シリアル湖の湖面で繰り広げられるプライドを賭けた戦いは、今日もロナウドが魔力枯渇で湖面に沈むまで続けられるのでした。
「はい皆お疲れ~、おやつのクッキーと蜂蜜きな粉飴、それと麦茶だよ~。水分を取らないと頭に血が上ってひっくり返っちゃうからね、夏は小まめに水分を取る事、分かった~?」
「「「「は~い」」」」
ロナウドが魔力枯渇を起こしたところで、ケビンお兄ちゃんから休憩の言葉が掛る。俺はシリアル湖の沖合から急ぎ別荘のある湖畔へと戻って行く。
フィリーとディアは打ち上げる感じの打球だからいいんだけど、エミリーはライナーで打ち返す時があるからな~。あんなの取れんわ!打球が速過ぎだっての!でもそれに追いつくケビンお兄ちゃんって。
「いいかいジェイク君、エミリーちゃんの動きをよく見るんだ。その挙動からどういう打球が返って来るのかを予測、打つ前には動き出すくらいじゃないと流石に追い付かないよ。
暫くは頭に光属性魔力を集めるといいよ、素早い判断が出来るようになるし、エミリーちゃんの動きが克明に解析出来ると思うから。それと目に魔力を集めて魔力の流れを見るのもいいかな?
何処に力が入っているのかが分かれば、次の動作も予測し易くなるからね。
いずれにしても研鑽あるのみ、頑張れ若人!!」
そう言い励ましてくれるけど、複数の異なる魔力操作を並行して行うのって結構難しい。水面の上を走るのはだいぶ慣れて来たけど、まだ時々水中に沈んじゃうんだよね。
休憩が終わったら空中追い掛けっこ。ケビンお兄ちゃんって鬼畜だからな~、年下相手にも容赦ないんだもん。
ロナウドの事も始め同じ歳か年上だと思ってたみたいなんだけど、俺やエミリーと同年代って分かるや「クッ、この発育優良児どもめ!力が欲しい?ならばくれてやるわ!我が特訓受けてみよ!」とか言って容赦が無くなっちゃったんだもんな~。
ロナウドは俺たちとは別メニュー、午前中は魔力切れを起こすまで水上野球でピッチャー役、普通は自然に魔力が回復するのを待つんだけどそこはケビンお兄ちゃん、魔力マシマシ蜂蜜ウォーターで強制覚醒、午後は地獄の魔力枯渇訓練って言うね。
鬼だ、やっぱりケビンお兄ちゃんは悪魔だ。
こっちに助けを求めるような瞳を向けるロナウドに何もしてやれない俺たちを許しておくれ。これは俺たちも通った道だから。
「ロナウド君は毎日魔力枯渇を起こすほど魔法に取り組んでいたんだろう?大丈夫、下地は出来てる。この夏が終わるころには立派なマルセル村の村人になれるって~♪」
ケビンお兄ちゃん、どうやら同じ勇者病<仮性>のロナウドをいたく気に入ったみたいで、相撲部屋で言う所の“可愛がり”をですね。
あれって確か問題になった事がなかったっけかな~。ここは異世界だから問題ないのかな?お貴族様の剣術訓練は刃を潰した鋼の剣で行うって言うし、これくらい普通?(グルゴさん情報)
ロナウドも大変なんだろうな~。
でもロナウドってどのくらいのお貴族様なんだろう。俺の事を平民って言うくらいだし、こんな高級別荘地でメイドさんを連れているくらいだから子爵以上は確実、まさか伯爵様?
後から無礼討ちとか勘弁してほしいんだけど。
ケビンお兄ちゃんは「本人が名乗ってないから大丈夫。ジェイク君もお貴族様の遊び友達って立場だから、完全な平民と違ってアルバート子爵家に守られてるって事になるしね」って言ってたけど、凄く不安です。
“ゴクゴクゴク、プハ~”
やっぱり夏は麦茶でしょう。ケビンお兄ちゃん曰く、水属性魔力に風属性魔力を加えると氷が作り出せるって事らしいけど結構難しい。麦茶を冷やすのもその応用とか言ってたんだよな~。
“サクッ、サクサクサクサク”
甘木汁クッキー最高!!グリルさんは三ツ星間違いなしです!
「はい、休憩が終わったら始めるよ~。お昼はみんな大好きマール貝と夏野菜のスープだよ。角無しホーンラビット干し肉の炙りも出るからね、頑張って行こう」
“ゴクリッ”
口の中に溢れる唾液、思わず生唾を飲み込む。
よ~し、この後も頑張るぞ~!!
俺は口に頬張ったクッキーをゴクリと飲み込むと、席を立ちストレッチを始めるのでした。
―――――――――――
夏の眩しい日差し、空は青く澄み、真っ白な雲がモクモクと山を作る。
ここは湖畔の避暑地、若者は声を上げシリアル湖で戯れる。
うん、なんか凄いリア充感。俺、ここにいていいんだろうか?
“ヴォ~~~~~~”
そして俺の後ろでは深淵の闇より這い出て来た様な唸り声を上げながらのろのろと歩き回るおぼっちゃま。
落差が酷いな~、天国と地獄、絵面がやばい事になってるし。
どうしてこんな事になったのかと言えば、時はこの別荘にやってきた翌日に遡る。
「ケビン殿、頼みがある。俺を鍛えてはくれないだろうか」
そう言い高い視線の先から俺の目を真っ直ぐに見詰め、サッと頭を下げる好青年。
一瞬誰このお方と思いきや、前日にジェイク君に勝負を挑んで魔力枯渇を起こされたテレンザ侯爵家のロナウド様じゃないですか。聞けば昨年エミリーお嬢様にお会いになってから己の未熟を知り、連日魔力枯渇を起こされる程の訓練を積んでおられるとか。
素晴らしい、まさに理想の魔術師の姿。
授けの儀の前に魔法に目覚め俺様発言をしていたことから、周囲からは勇者病<仮性>扱いをされていたようですが、そんなの全然普通でしょう。
それに今は授けの儀も終わってらっしゃるのでしょうし、努力家の魔術師様なのでは?
「ロナウド君おはよう、朝からどうしたの?」
そんなところに声をお掛け下さったのは、我がアルバート子爵家のエミリーお嬢様。エミリーお嬢様は昨年ドレイク・アルバート子爵閣下他ご家族様とこの別荘地に訪れた際にロナウド様とお知り合いになられたとか。
「あぁ、エミリーか。前にエミリーが言っていただろう、魔法の事はケビン殿に教わっていると。
俺はこの一年自分なりに努力を重ねて来た。家の者に教えを乞い魔法書も読みふけった。
剣術や勉学も励んだが、それだけでは到底エミリーに及ばぬことを昨日ジェイクに教わったよ。
ならばすることは一つ、俺が及ぶ事の出来ない者たちを指導し育て上げた者に教えを乞う事。独りよがりの研鑽で届き得る事が出来るほど、エミリーたちのいる場所は甘くないという事ぐらいこの俺でも分かるからな。
ケビン殿、この避暑地レンドールに滞在している期間だけでも構わない、どうかこの俺に指導をお願い出来ないだろうか」
そう言い姿勢を正し、スッと視線を下げてこちらを見詰めてからしっかりと頭を下げるロナウド様。
自らの行いを顧みる事の出来る者は少ない。ましてや自身の未熟を認め、自らを卑下するのではなくより高みを目指し、目下の者や身分の低い者に頭を下げる事の出来る者がどれほどいる事か。
その姿は凍えるような冬のマルセル村で共に研鑽を行った銀級冒険者パーティー“草原の風”のソルトさんとベティーさん、ケイトの学園ダンジョン攻略パーティーメンバー、アレン、ベティー、ローズ、ミッキーたちの姿を思い起こさせる。
「ロナウド君、本当に頑張ってるんだ。そうだよね。来年は私たちと同じで授けの儀を受けるんだもんね。
ロナウド君なら魔法使いか魔導士か、もしかしたら賢者様?
いずれにしても学園に入学する事は決定だろうから、今のうちに確り研鑽を積むのはいい事だよね」
ん?エミリーお嬢様は今なんと?来年授けの儀?
「ケビンお兄ちゃん、エミリー、おはよう。それとロナウド様?「ロナウドでいい、俺は貴様に負けたのだからな」えっと、それじゃロナウド、おはよう。俺の事はジェイクと呼んでくれると嬉しいです」
「ふん、ジェイクだな。これは勝者の権利、甘んじて受け入れよう。だが俺は変わる、その為にケビン殿に教えを請いに来たのだ。そしてジェイク、貴様に勝つ!覚悟しておけ」
「お~、ロナウドって熱血漢?でもいいね~、俺もそう言うのって好きだぜ。
ならば俺も宣言しよう、絶対に負けてなるもんか!」
言葉を交わし見詰め合う青年ジェイク(十一歳)と青年ロナウド様(十一歳・推定)。俺の目の前、視線の高い位置で繰り広げられる男同士の熱い交流。
「クッ、この発育優良児どもめ!力が欲しい?ならばくれてやるわ!我が特訓受けてみよ!」
まだだ、俺は少しばっかり伸びが遅いだけ、十四歳だし、大分大きくなって来たし、母メアリーやエミリーちゃんにも届いて来たし!!(自己申告)
在りし日の記憶では二十歳を過ぎても背が伸びる者もいるって言うし、成人式で中学生の頃の友人に会ったら目茶苦茶デカくなっててビビった事あるし!
望むなら、与えて見せようその試練。
期限は避暑地滞在期間、年齢を考えれば基礎をがっちり固めるべき。ならばロナウド、貴様を準マルセル村住民にまで引き上げようではないか!
目指すは魔纏いと覇気の習得。既に魔力枯渇耐性取得一歩手前の貴様に必要なのはケビン式魔力枯渇耐性取得ブートキャンプじゃ~!!
まぁそんな感じで今もジェイク君たちに施した蛇の生殺し訓練を行っているんですけどね、ロナウド君頑張る頑張る。
負けず嫌いのお貴族様の底力ってスゲー、ロナウド君って<仮性>じゃなくて<真性>だったんじゃ?って思うくらい頑張るし。
「ほら、ぐずぐずするなよ~、だらけてないで身体を動かす!ジェイク君たちは皆この特訓を乗り越えたんだぞ~」
「グッ、グガ~~~~~、マゲルガ~~~!!」
焦点が逝っちゃった目で前に進み続けるロナウド君、君は男だよ。
俺はそんな彼のふらつく背中を見詰めながら、頑張れよとエールを送るのでした。
――――――――
避暑地レンドールのシリアル湖湖畔、昨年同様この地を訪れたロナウド様。以前は家に居場所がなく逃げる様にこの地にやって来ていたロナウド様、でも今年は違う、ロナウド様には明確な目標がある。
それは昨年お知り合いになったお隣のお屋敷を購入されたドレイク様ご一家のお嬢様エミリー様に追いつく事、そしてその記憶に留められるような男になる事。
その為にロナウド様はこの一年間必死に頑張って来られた。
ですが現実は厳しく目標は遥かに高かった。結果は惨敗、ロナウド様は昨年同様魔力枯渇に陥る事となりました。
「ローラ、俺はまだエミリーたちに追いつく事が出来なかったのだな。所詮俺は自領の事も碌に知らない田舎者の世間知らずだったって事か。
来年は王都の中央学園に行かねばならんと言うのにこの体たらく、これでは父上や母上、二人の兄上たちに顔向け出来ないではないか」
そう言い大きく肩を落とされるロナウド様。
「ローラ、俺は決めたぞ。俺はケビン殿に教えを乞う事とする。
早速願い出なければ」
翌日の早朝、目を覚まされたロナウド様は私にそう告げると、直ぐに行動に出られました。
「グッ、グガ~~~~~、マゲルガ~~~!!」
その後ロナウド様はわずか一日で<魔纏い>を習得なさり、現在は次なる課題に向け訓練に励まれています。
魔力枯渇耐性取得訓練、方法は分かりませんが魔力枯渇を起こす寸前まで魔力を減らし、その上で身体を動かす事で基礎的な運動能力を向上させようというもの。
少なくともこの訓練を修めれば魔力枯渇でひっくり返る事は無くなるといったもの。
魔力枯渇が決定的な命取りになる魔法使いや魔導士にとって、魔力枯渇を乗り越える事は自身の命を長らえる事ばかりでなく大きな武器ともなる。
私はそんな厳しい訓練に励むロナウド様を見守りつつ、視線はいつの間にか傍で指導をするケビン様に向いてしまいます。
家を離れ行方の知れなかった大好きな兄、兄の犯した罪、兄の志した思い。兄の真実の全てと共にダイソン侯爵家家宝の剣をお届けくださった御方。
兄を討ち取り、兄の最後の言葉を伝えてくださった御方。
兄の仇であり、兄の恩人でもあるお方。
私は一体。
「ローラ、何か悩み事か?近頃様子がおかしいぞ?」
それは夕餉の席でロナウド様から掛けられたお言葉。
「俺はローラの悩みがどんなものであるのかなど分からんし、理由が分かったとしても真の意味で理解することは出来ん。
だからその悩みを聞き出そうなどと言う烏滸がましい事はせん。
これはこの俺、テレンザ侯爵家三男ロナウド・テレンザの独り言だと思って聞いて欲しい。
ジッとしていては何時まで経っても悩みは解決せん。動く事、行動する事、それが悩みを解決する第一歩だ。
少なくとも俺はそう思うし実行している。
ローラは何を悩むことがある。自分一人で解決出来ないのなら他人を頼れ、時間は有限だ。
深く考える事を否定はせんが、止まっていてはどこにも行けない事もまた事実。動けば自身が本当に求めるモノも見えてくるだろうさ」
それは自身がそうであったからこそ辿り着いた一つの答え。
悩める自身を変える為の方法論。
「ロナウド様、どうもありがとうございます。
私自身どうしたいのか、どうすべきなのかが全く分っていませんが、まずは行動してみたいと思います」
私はロナウド様に一礼しその場を下がる。
“カチャッ”
開いたのは胸元から取り出したペンダントロケット。
「キャスパー兄さん、私、頑張ってみようと思う。知恵を借りて、力を借りて、より良い未来を選び取る為に」
時代の流れに翻弄された一人の女性は、今また大きな時代の分岐点に立たされる。彼女の選択がどの様な未来を引き寄せるのか、それはまだ誰にも分からないのであった。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora