転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第366話 転生勇者、夏の終わりを感じる

“ブワーーーーーーーーッ”

 

それは大地を覆い尽くす光の奔流であった。人が、物が、眼下に広がる全てが覆い尽くされ、激しい爆音と共に消失した。

立ち昇る土煙は大地の傷を覆い隠し、言葉を失い立ち尽くす俺たちの前から大切な愛しい兄と友を連れ去ってしまった。

頬を伝う何か。

それが目から零れる涙だと気が付くには暫しの時間を要した。

 

「「ケビンお兄ちゃーーーーーん!!」」

俺とエミリーの叫びが結界内に響く。

フィリーとディアは無言で立ち尽くし、ローラさんは絨毯に両手両膝を突いた状態で「ロナウド様ーーーーーー!!」と叫び声を上げ、パトリシアお嬢様は膝から崩れ落ちたかのようにしゃがみ込むと両手で自身の身体をギュッと抱き締め、「私のせいだ、私のせいだ、私がローラの事を頼み込んだから、私が頼りきりになったから、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」と虚ろな瞳で呟き続けるのだった。

 

“チュドンッ”

それは突然起きた爆発であった。

広域破壊兵器により討伐軍を完膚なきまでに殲滅したダイソン公国の軍勢が、今まさに進軍し掃討作戦を開始しようとした時であった。公国軍の中央部、この惨状を作り出した広域破壊兵器があるであろう場所を起点として出来上がったクレーター。

それが一体どうした理由で出来上がったものなのか、この場の戦いは未だ終わっていないとでもいうのか。

 

「プヘ~ッ、土埃が酷いのなんの、いや~参った参った。皆ごめんね~、お待たせしちゃって~。

なんか戦闘も終わったみたいだし、今日の社会見学は終了です。

まぁこれが今の戦争って奴だね、ロマンもへったくれも無いというか、ある意味ロマン兵器の登場とでも言いますか?

どの道個人でどうのこうの出来るような問題でもないって話だね、英雄様が剣を片手に戦場を駆ける時代は終わったって事なんでしょう。どっちにしても殺し合い、碌でもない事には変わりないしね。

 

それよりも移動しますよ、次はテレンザ侯爵家です。

ロナウド君から報酬のコッコを貰い受けなければなりませんからね、皆さんもそのつもりで頼みますよ?」

 

不意に結界内に現れた人物は明るい声音で先の予定を口にする。

それは小脇にぐったりとしたロナウドを抱えたケビンお兄ちゃんであった。

 

「「!?ケビ“トプンッ”」」

俺たちが声を上げようとした瞬間、辺りは暗闇に包まれた。

転々と光るヒカリゴケの淡い明りが、自分たちがケビンお兄ちゃんの影空間に送られたのだという事を教えてくれる。

 

「「「「「この理不尽がーーー!!ケビーーーーン!!」」」」」

俺達マルセル村の者たちが揃って声を上げたのは、無理からぬことなのであった。

 

 

この世には自分たちの手には負えない事がある、力及ばず振り回される事がある、理屈など関係なく人の常識など知った事ではないとばかりに叩き潰す、そんな事象のなんと多い事か。

人はその様な境遇に置かれた時“理不尽”という言葉を使うのだろう、そしてそれは驚きと衝撃を人々に強く印象付ける事だろう。

マルセル村の“理不尽”により有り得ない程の衝撃に見舞われた俺たちは、暫くは何にも動じる事はないだろう、そう思っていた。

そう思っていた、そんな時代もありました。

 

“クワッ、クワクワクワクワクワクワッ”

“パタパタパタパタパタパタ”

 

テレンザ侯爵領、その一角に作られた実験農場。そこではマルセル村では見る事の出来ない魔物が飼育管理されていると言う。

 

「ケビン殿、此度の一件、なんと感謝申し上げて良いのか分からない。あなたは我がテレンザ侯爵家のみならず南西部貴族を含む多くの諸侯を救ってくれた恩人だ。

テレンザ侯爵家三男ロナウド・テレンザの名に於いて深く礼を言う、本当にありがとう」

そう言い深々と頭を下げるロナウド。

 

「礼の言葉はいいと言いたい所だが、貴族家の者としてそうもいかないのだろう。その言葉素直に受け取ろう。

さて、それよりもコッコですよコッコ、夢にまで見た卵料理ですよ。子供の頃ビッグクローの卵を盗み取ろうとして追い掛け回されて以来諦めていた卵料理ですよ、積年の思いが今ここに、夢って諦めちゃ駄目なんですよ!」

そこには雰囲気も何も関係ないとばかりに己の欲望を剥き出しにする干し肉の勇者様がですね。

本当にケビンお兄ちゃんは食べ物の事になると我を失うというか、猫まっしぐらと言うか。ヨークシャー森林国の一件も、グロリア辺境伯様から提示された報酬に目が眩んで引き受けたって言ってたもんな~。

 

「甘木汁を大樽で六樽と苗木十株、それで感染症をどうにかしたんだから破格だと思わない?それを“すまない、今はまだ其方に支払う分が手元にはないのだ、今暫く待って欲しい”って完全に空手形じゃん、増額を要求しちゃうって話だよ全く。

ジェイク君はこんな口約束をするような大人になっちゃ駄目だからね?せめて書面で支払期日とそれが果たされなかった時の罰則を明記し契約を交わすような人物になって下さい。

お貴族様ってそれが通用しないから嫌、身分が高いからってふざけるな?

これからは速攻取り立ててやるんだ~」

 

レンドールの別荘で目茶苦茶荒ぶってたもんな~、パトリシアお嬢様に別荘地で使用した甘木汁の量を記載した借用証文にサインさせてたもんな~、パトリシアお嬢様の背中が前世のテレビで見た多重債務者の姿と重なって見えたもんな~。

 

農場に案内するロナウド、めっちゃ引いてるんですけど、顔が引き攣ってるんですけど。流石はケビンお兄ちゃん、あの負けず嫌いのロナウドをドン引きさせるとは、マルセル村最強は伊達じゃありませんね。

 

“ガチャ”

開かれた飼育場の扉、そこには沢山の“コッコ”の姿が・・・。

 

“クワッ、クワクワクワクワクワクワッ”

“パタパタパタパタパタパタ”

柵の中を右から左に走る数体の“コッコ”。背中を(つつ)き合って戯れる“コッコ”。藁で作った巣の上に座り卵を温める“コッコ”。

 

・・・ペンギンじゃん!!

しかもあれだよね、イワトビペンギンとかいう奴だよね!?眉毛がワサッて伸びてる奴だよね!?

えっ?コッコって異世界版の鶏かなんかじゃなかったの?って言うか鳥って言ってなかった?確かにペンギンも鳥だけどもさ!

 

「こいつらは鷹の目コッコと呼ばれる種類のコッコだな。我がテレンザ侯爵領とヨークシャー森林国とを遮る山岳部には他に数種類のコッコ種が生息しているが、比較的おとなしく飼育に適しているのがこの鷹の目コッコになる。

我がテレンザ侯爵家ではこの鷹の目コッコの飼育を領内全域に広げ新たな産業として“ガシッ”・・・」

ロナウドの言葉を遮るように彼の両手を掴むケビンお兄ちゃん。

そのやや俯いた身体は、小刻みに震えている。

 

「素晴らしい!!ロナウド君、いや、ロナウド様!!

このケビン感動いたしました!

コッコの飼育とそこから始まる新たな食文化の創造、テレンザ侯爵家万歳!!

是非我がアルバート子爵家とよしみを結んでいただきたい!

そうだ、丁度ここに未だ婚約者のいないお嬢様が“バシンッ”」

興奮し何やら(のたま)わっていたところをパトリシアお嬢様に思いっきり引っ叩かれたケビンお兄ちゃん。

お嬢様の手にはいつの間にかエミリー愛用の棍棒が。

うん、これは先走ったケビンお兄ちゃんが悪いね、こういうデリケートなお話は領主であるドレイク・アルバート子爵様に進言する程度にとどめておいた方が無難だね。

パトリシアお嬢様の背後で巨大なホーンラビットがシャドーボクシングをしている幻影が見えるのは、俺の気のせいじゃないと思います。

 

「ロナウド様、我が家の騎士が大変な無礼を働きもうしわけございませんでした。この者には後程よくよく言い聞かせておきますので、平にご容赦願えればと存じます」

そう言い謝罪の意を示すパトリシアお嬢様。

 

「あ、いや、うん。それは構わない。此度の一件は俺とケビン殿との個人間で行われたもの、その事についてアルバート子爵家に対し何か不服を述べる事はないと誓おう。

だがケビン殿が行った功績はこの様な形で済まされる程度のものではないという事もまた事実、それについてはケビン殿の主家であるアルバート子爵殿にもお話を通さねばならぬ。

これは当主である父上が戻られてからとはなるが、そちらに使者を向かわせる事になるとご了承願いたい。アルバート子爵家当主ドレイク・アルバート殿にはその席で正式に感謝の意を述べさせていただこう」

 

「ロナウド様の御心使い、感謝いたします。

この件に関しましては家に戻り次第義父ドレイク・アルバートに伝えたいと思います」

そう言いニコリと微笑みを返すパトリシアお嬢様。

 

「あ~、ジェイク君は“よく分からない”といった顔をしてるね~。

あれはお貴族様同士の独特の会話でね、パトリシアお嬢様が“何かうちの馬鹿がすみません、えっと余計なことを口走ってたみたいですが忘れてくれると助かります”と言ったのに対して、ロナウド君が“あ、大丈夫ですよ、こっちは借りばかりあるんで。それより今度御挨拶に行っていいですか?このままって訳にもいかないんですよ、貴族ってその辺面倒ですよね”って返したんだよ。

パトリシアお嬢様は“そうですね、お互い大変ですよね。まあ面倒事は当主であるお義父様に丸投げなんですが”って答えて会話が終了したって感じだね。

結構面倒臭いでしょ?

でもこれが分かって来るとそれなりに楽しいんだけどね。

商人の会話なんてもっと複雑よ、腹の探り合いなんて日常だからね?

でもその辺は誰かの側に付いて勉強しないと身に付かないからな~。ジェイク君が有名な冒険者になったらそうした交渉担当のメンバーを仲間に入れるといいかもね」

 

そうか、色々難しいんだなってケビンお兄ちゃんいつの間にそこにいたのさ!?パトリシアお嬢様にのされてたんじゃって誰も倒れてないし!

どうだとばかりに腰に手を当て胸を張るケビンお兄ちゃんと、棍棒を手にワナワナと震えるパトリシアお嬢様。

 

「ケビン、そこへなおりなさい!今日こそはあなたのその無軌道振りを徹底的に矯正して差し上げます!」

「パトリシアお嬢様に申し上げます。それは魚に(おか)で走れと言うが如きもの、長い年月と進化の果てに漸く叶えられるかどうかといった話かと。

いや待てよ、確か勇者物語にはマーマンとか言う半人半魚の魔物の話が。以前蒼雲さんに扶桑国の話を聞いた時は海に住む人魚とか言う種族の事を教えてもらった記憶が。

パトリシアお嬢様、何とか取り繕う事でしたら可能かと。

このケビン、パトリシアお嬢様の御期待に沿えるよう誠心誠意努めて行く所存でございます」

 

そう言い慇懃に礼をするケビンお兄ちゃん。その洗練された所作はとても辺境の村人とは思えない見事なもの。

 

「さて、ロナウド様、早速ではございますがお譲りいただけるコッコをご紹介いただけませんでしょうか?それと飼育方法についてご指導願えればと」

「あ、あぁ。こちらに今年生まれたばかりの若い個体がまとめられている、案内しよう」

そう言いパトリシアお嬢様の事をスルーし奥へと向かう二人。

 

「エミリーちゃ~~ん、ケビンが、ケビンが~~~!!」

エミリーに泣き付くパトリシアお嬢様とそんな義姉の背中をよしよしと撫でるエミリー。

フィリーとディア、パトリシアお嬢様付きのメイドさん(クローディアさんと仰るそうです)はローラさんの案内でコッコの餌やり体験をなさっておられます。

ウ~ン、これって何てカオス。

俺は聖母の様な微笑みを浮かべ義姉を宥めるエミリーを見ながら、乾いた笑いを漏らすのでした。

 

 

「それではこれからレンドールに戻ります。ロナウド様とローラ様にはお手間を取らせますが、本来レンドールの別荘にいる事になっているお二方にはきちんとした形でテレンザ侯爵領にお戻りになっていただく必要がございますので、ご了承ください。

パトリシアお嬢様、エミリーお嬢様、フィリーちゃん、ディアさん、ジェイク君、夏の余暇はお仕舞です。

事態はまた難しい展開を見せています、今はマルセル村に戻るのが最善でしょう。それとディアさんはいい加減旅立ちの儀を受けに行って来て下さい。ボビー師匠が一緒なら領都のメルビン司祭様がパパッと行ってくださいますから。

それと冒険者登録ですね、ササッと依頼を熟して銀級冒険者になっちゃってください。

いずれジミーたちと一緒にパーティーを組むとしても、先に銀級に昇格しておいた方が何かと都合がいいでしょうから」

 

そう言い俺たち一人一人に顔を向けるケビンお兄ちゃん。その周りには沢山のコッコが群がり、ケビンお兄ちゃんを(つつ)いています。

フィリーとディアはコッコを抱えてるけどどうしたの?懐かれたからロナウドに言って貰い受けたんだ。

餌とかどうするの?コッコは基本雑食だからそこまで気を使わなくてもいいと、野菜屑でも喜んで食べると、それは安心だね。

エミリーは、ケルちゃんがいるからいいのね、エミリーが良識を弁えてくれてるようで俺も嬉しいよ。

 

俺はエミリーの可愛がりにより儚くなるコッコが生まれなかった事に、ほっと胸を撫で下ろすのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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