転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

367 / 860
第367話 村人転生者、湖畔の避暑地から帰村する

「パトリシアお嬢様、エミリーお嬢様、またのお越しをお待ちしております。

ここシリアル湖は冬の魚料理も大変おいしいものがございます、お時間が出来ましたらいつでもご連絡をください。

私共が精一杯のおもてなしをさせていただきます」

 

夏の暑さが幾分和らぎ、季節は秋の気配を見せ始める。

避暑地レンドールに訪れていた人々も、少しずつ自分たちの生活へと戻って行く。

 

「グリル、ミリア、この夏の間大変世話になりました。私達姉妹、共によい余暇を過ごす事が出来ました、礼を言います。

今は戦時、ここレンドールでも不穏な話が届いて不安もあるでしょう。ですがそれに負けずこの屋敷を切り盛りして行ってください。

今度はお義父様やお義母様と一緒に訪れたいと思います。

早くこの戦乱が終わる事を祈るばかりです」

そう言いニッコリと微笑むと、優雅に会釈をし幌馬車に乗り込んで行かれるパトリシアお嬢様。

 

「グリルさん、ミリアさん、美味しいお料理をいつもありがとうございました。

これ、二人にお礼。ケルちゃんが今朝取って来てくれたの。

とっても美味しいんですって、二人で食べてね」

そう言い手に持つ木桶を渡すエミリーお嬢様。その中には幾つかの大きなマール貝と大振りのエビが数匹。

 

「エミリーお嬢様、この様な貴重な品は私共にはもったいなく・・・」

「フフッ、いつまでも元気でいてください。それじゃまたね」

そう仰り幌馬車に乗り込むエミリーお嬢様。

その後にメイド様とフィリー、ディアが続きます。

ジェイク君は俺と一緒に御者ですね、先に御者台に上って貰います。

 

「グリルさん、ミリアさん、本当にお世話になりました。

それと例の件、よろしくお願いします。コッコの卵は手に入り次第お持ちいたします」

「お任せくださいケビン様。隣のテレンザ侯爵家の調理人とは長い付き合い、コッコ料理については幾つか教わっております。

既にケビン様よりお預かりした甘木汁で買収済みです」

互いに顔を見合わせ悪い顔になる男達。

 

「「全ては旨い料理の為に」」

利害の一致した生産者と調理人。ガッシリと握られた手は、まだ見ぬ食の世界を追い掛ける熱い情熱に燃えているのでした。

 

「進め、ロシナンテ」

俺の掛け声と共に幌馬車は動き出し、ガタガタとレンドールの街に向かって進んで行く。

シリアル湖湖畔の別荘地、ここでは思わぬ出会いがあった。若者たちは新たな友と共に研鑽し、互いに高め合った。

楽しい思い出が出来た、辛い日もあった、この世の現実に打ちのめされそうにもなった。

彼らは強くなる、様々な経験を経て更なる世界へと飛躍を果たす為に。

俺はそんな若者たちの姿を、何か眩しいものでも見るかのように目を細め見守るのでした。

 

「・・・ケビンお兄ちゃん、またなんかくだらない事を考えてたでしょう。ジミーが言ってたよ、ケビンお兄ちゃんがどこか悟りを開いた様な表情をしている時は間違いなくくだらない事を考えてる時だって」

「そ、そんな事ないよ~。俺は真面目に御者をしてるよ~。

そうそう、ザルバさんが言ってたけど学園生は無詠唱はおろか短縮詠唱も出来ないんだって。それと魔法の回数もそんなに打てないらしいよ?

そういった意味じゃロナウドは全く参考にならないから気を付けてね。

ロナウドってああ見えてあの年代だと神童って呼ばれるくらい優秀みたいだよ?って事はジェイク君たちも最悪ロナウド程度かそれよりちょっと上程度に抑えておかないと大騒ぎになっちゃう可能性大です。

来年になったらその辺の手加減も覚えないとね」

 

そう言い咄嗟に話を逸らす俺氏。

だからジェイク君、そんなジト目でこっちを見詰めるのは止めようか。なんか弟分が鋭過ぎて辛いっす。

 

“ガタガタガタガタ”

土の道を馬車は進む。夏の思い出に別れを告げ、故郷マルセル村へと帰る為に。

 

――――――――

 

幌馬車は進む、土の街道を地方都市エルセルを目指して。

避暑地レンドールで過ごした日々は、若者たちに大きな影響を与えるものとなった。ご近所のお貴族様ロナウド君との修行の日々はこれまでにない喜びを齎したであろう、毎日振る舞われたグリルさんの料理は食の喜びと奥の深さを教えてくれただろう、王国の討伐軍と公国軍との戦闘とも呼べない戦いは、戦争の恐ろしさと虚しさを教えてくれた事だろう。

 

別れ際、テレンザ侯爵家三男ロナウド・テレンザは「別れは言わない、マルセル村に必ず会いに行く」と宣言していた。

元侯爵家令嬢のローラさんは「自身の道を確りと考えてからご挨拶に伺います」と語っていた。

 

この内戦は多くの人々を不幸にし、多くの人々の命を奪って行った。その影響はオーランド王国南西部地域に留まらず、ここ北西部地域にも及ぶものであった。

 

「ジェイクの兄貴、俺、強くなりたいんす。どうしたら兄貴みたいに強くなれますかね?」

「ジェイクお兄ちゃん、私も強くなりたい!お願いします、私に修行を付けてください!」

御者台の上、幼女二名に絡まれ困り顔になるジェイク君。

やったねジェイク君、君の望んだハーレムだよ!

えっ、違う?こんなハーレムは要らない?ですよね~。どこからどう見ても小学校低学年の生徒さんとその父兄だもんね~。

年の離れた姪?デパートで買って買って~って強請られちゃうって奴?

どうしてこうなったと聞かれたならば敢えてお答えいたしましょう、ジェイク君とエミリーちゃん、それとパトリシアお嬢様が悪いと。

 

レンドールから出発した帰りの行程、行きでは四回の盗賊と接触という波乱の道中ではありましたがその全てを退け、盗賊の皆様には新しい人生へと旅立っていただきました。それだけ野盗を排除したならさぞや安全な街道になっていると思いきや、しっかり現れちゃうんだもん。

面倒だからスパッとやっちゃう?かとも思ったんですけどね、「あれは戦災病と言う心の病に罹った患者です、ケビン、サクッと行動不能にしてお薬を処方してあげなさい!」ってパトリシアお嬢様が。

まぁ俺としても被験者が増える事はいい事なんで構わないんですけどね、襲われた回数は計三回、その内の二件は確りと治験対象者になっていただきました。

野盗の皆さんは俺の清掃スキルですっかり身綺麗になっていただき、身も心も整えられた状態で南西部地域に戻っていただくことといたしました。

 

問題は最後の一件でして、あれを盗賊に襲われたと言ってもいいのか若干微妙なんですが。

 

「ケビンお兄ちゃん、街道前方に複数の人がいます。止まって固まっている?

エミリー、フィリー、ディア、幌馬車の左右と後方に待機。第一級警戒態勢に入れ」

ジェイク君の呼び掛けにサッと配置に就く三人。既に三人とも前方の集団には気が付いていた様で、いつでも動けるように準備していたみたいです。

 

「ジェイク君、ケビン、先ずはどういった人たちなのか確認します。ケビン、街道周辺に隠れている様な者達はいますか?」

「そうですね、向かって左に数名、ただあれは隠れているというよりも匿われている?

何か酷く弱っているようにも感じられます。

それとこの魔力の感じからすると子供でしょうか?

結構な数の子供がいますね」

 

俺の報告に眉をしかめるパトリシアお嬢様。国内で起こる内戦、弱った者を含む集団、多くの子供の存在、そこから導き出される答えは。

 

「「「お願いします、どうか止まって下さい。

どうか、私達の仲間をその馬車に乗せては下さいませんでしょうか?」」」

 

街道のど真ん中で土下座の体制で声を上げる、汚れた格好の数人の男性。それはどう見ても難民と言ったもの、だがその行っている行為は盗賊のそれと何ら変わらない。

 

「聞け、地に伏す者たちよ。貴様らは今街道を塞ぎ馬車の通行を阻害している。それは王国法に照らし合わせても完全に盗賊とみなされる違法行為である。

直ちに道を譲りその場からたちのかれよ!!」

 

俺は立ち上がり声を上げる。

そう、街道の交通は国の経済の根幹、それを阻害する行為は王国法により固く禁じられているのだ。

馬車の足止めをし、その隙に襲い掛かると言った事は盗賊の常套手段、その為どの様な理由があろうとも強引に足止めを行う事は盗賊行為とみなされる。これは街中においても同じ事で、飛び出した子供を庇う為に馬車の前に飛び出しその動きを止める正義漢がいた場合、法律上は盗賊行為として罰せられる事になるのだ。(モルガン商会行商人情報)

 

「はい、私共が法を犯している事は百も承知しております。ですがこのままでは私共の仲間は遠からず命を落としかねません。

私の事はいかようにも処罰していただいて構いません。ですがどうか弱ったものと子供たちは、伏してお願い申し上げます」

 

そしてこうした通行阻害行為が王国法で禁止されている理由がもう一つ。

 

「エミリー、フィリー、ディア、左前方より接近する魔物多数。

周辺他よりの接近は見られず!

いつでも迎撃出来るように注意を。

ケビンお兄ちゃん、御者を頼みます。俺は幌馬車前方の警戒に入ります」

 

ジェイク君はそう言うと御者台から飛び降り、引き馬の前方で木刀を構える。

そう、魔物の襲撃である。足止めをされた馬車は魔物にとっては絶好の獲物、足止め行為は馬車移動をする者を魔物の餌食にする事と変わらないのである。

 

「なっ、魔物だと!?

お前たち、棍棒を取れ、子供と病人を守るんだ!

旅人殿、大変申し訳なかった。魔物は我々が引き付ける故急ぎこの場から離れられよ!」

 

街道から立ち上がり、魔物に対処すべく動き出す男達。

一人だけ腰に剣を携えたリーダーらしき壮年の男性が、こちらに詫びを入れ剣を引き抜く。

それは既に刃こぼれを起こしたボロボロの剣、剣と言うより棍棒の代わりとして使っているだろう事が見て取れる代物。

 

“スクッ”

立ち上がったのはパトリシアお嬢様であった。お嬢様はレンドールで差し上げた素振り用棍棒を手に取ると、大きな声を響かせました。

 

「ジェイク、エミリー、フィリー、ディア、私達は何者ですか?

そう、私達はアルバート子爵家の者。

ならば貴族家に連なる者として魔物から民を守ることは当然の義務!

ここにいるのは魔物に対抗する力を持たぬ民、なれば私達の矜持を示しなさい。

私はアルバート子爵家が長女パトリシア・アルバート、ここには我が騎士もいる、私の守りは気にせず存分に力を振るいなさい。

全てはアルバート子爵家の誇りの為に!」

 

「「「「ハッ、パトリシアお嬢様の思し召しのままに!」」」」

 

そこからの戦闘は戦闘と呼べる程のものでもなかった。

襲い来るはグラスウルフの群れ、その悉くを躱し、透かし、頭部に対する木刀の一撃で確実に葬って行く若者たち。

十数体のグラスウルフが襲い来る勢いそのままに大地に沈んで行く、それはまるで食肉加工所の解体作業を見ているかのように正確に、冷静に。

 

「周辺に魔物の気配なし、エミリーは引き続き警戒を。フィリーとディアは警戒を保ちつつ獲物の回収作業に当たれ。

ケビンお兄ちゃん、収納の方よろしくお願いします」

ジェイク君の掛け声にそれぞれの行動に移る若者軍団。

それは軍の精鋭部隊を彷彿とさせる無駄のない動き。

 

「状況終了、引き続き幌馬車周辺に待機。警戒に当たれ」

そして再び警戒態勢に入るジェイク君たち。

それはまだ完全に安全とは言えない状況である事を理解してのもの。幌馬車の直ぐ側にまるで英雄を見た後の民衆の様にキラキラした目をさせて立ち上がる警戒対象を意識しての行動であった。

うん、ジェイク君分かっていらっしゃる。その判断は花丸差し上げちゃいます。

 

「パトリシアお嬢様、魔物の排除は終了いたしました。

出立の指示を」

 

確かに彼らは不幸であったのだろう、命からがら逃げだして来たのであろう。だがそれは他の多くの者達とて同じ事。

今は戦時、同様の事柄は各地で起こっている現実。親切心から差し伸べた手に幾重もの手が絡み付き地獄の沼に引き摺り込まれかねない、それがこの世の在り様。

 

「ケビン、私は先程申しました。“私達はアルバート子爵家の者である”と。“貴族家に連なる者として魔物から民を守ることは当然の義務”と。

では民を守るとはどういう事でしょうか?

ただ目の前に迫った魔物を排除した、それで終わりとしてよいのでしょうか?

彼らの命は確かに救われたかもしれません、ただしそれは今この場においてのもの、私達が去った後再び魔物が現れた時彼らが生き残れると?

その様な事が出来ようはずもない事を知りながらみすみす切り捨てると?

それが本当に守ったと言えるのでしょうか?

それは単に貴族の矜持と言う言葉に酔った自己満足とどう違うというのでしょうか?

 

ケビン、彼らをマルセル村に迎え入れます。当主ドレイク・アルバート子爵様には私の方からお話ししましょう。

全ての責任はパトリシア・アルバートが引き受けます」

 

それはただ状況に流されたというものではない、力ある決意の籠った言葉でした。

 

「ケビンお兄ちゃん、俺からも頼みます。どうかあの子達を、マルセル村に、盗賊に落ちるその前に」

それは多くの盗賊と対峙し自分の手を汚して来た青年の心からの叫び、せめて彼らが巣立ちの時を迎えるまでは、その命を繋いであげたいと思う純粋な心。

 

「畏まりました、全てはパトリシアお嬢様の御心のままに。

そこの者、パトリシアお嬢様のお言葉である。病人の元へ案内せよ」

 

そこからの行動は早かった。薬師ケビンの面目躍如、八面六臂の活躍で全ての病人に対処いたしましたともさ。

コッソリポーションビッグワームのふりかけを使用した事は内緒です。だってあれが一番手っ取り早いんだもん。

 

で、現在。

「お嬢様、お嬢様、お嬢様はお姫様なんですか?凄くお綺麗でお話に出てくる精霊様みたい」

「剣士様、どうしたら剣士様みたいにあれ程優雅な剣を振るえるんですか?僕、大きくなったら剣士様みたいな剣士になりたいんです」

 

・・・ここは孤児院か何かかな?病人たちは今しばらく休養が必要なため荷台で休ませていますが、子供たちが元気な事。

やっぱり肉ですわ、肉、ビッグワーム干し肉は正義なんですわ。

ヨーク村で行った炊き出しの再現、よく煮込まれた野菜とビッグワーム干し肉のスープ、確りとした食事を与えたら元気になるなる。

 

「パトリシアお嬢様、エミリーお嬢様、エルセルの監督官様へのご挨拶はお嬢様方のみでお願いいたします。

我々はゴルド村方面西街門前で野営とさせていただきます。

ジェイク君、フィリーちゃん、ディアさん、お嬢様方をよろしくお願いします。

メイド様、後の事お任せいたします。何かありましたらジェイク君を使いに寄越してください。

 

皆の者、聞け。まもなくエルセルに到着する、但しこの中には身分証を持たぬ者も多くいる。そうした者は街の中に入る事は出来ないし、無理やり入ろうとすれば処罰の対象となる。

しかるに我々は街壁沿いに移動し西門前でパトリシアお嬢様方をお待ちする事となる。

身体の利く者は病人に手を貸せ、病が癒えたとはいえまだ本調子ではないからな。

子供たちは周りの大人の言う事を聞き後に続け。

皆パトリシアお嬢様方に感謝の言葉を」

 

「「「パトリシアお嬢様、エミリーお嬢様、皆様、本当にありがとうございました!!」」」

 

グロリア辺境伯領北部の地方都市エルセル、その南街門前でパトリシアお嬢様方と別れた彼らは、街壁沿いに移動し西街門を目指す。

訳アリの民が最後に辿り着く“オーランド王国の最果て”、マルセル村に向かう為に。




本日一話目です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。