転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第369話 村人転生者、辺境子爵に報告する (2)

“コンコンコン”

「失礼します。ケビン・ドラゴンロード、パトリシアお嬢様ならびエミリーお嬢様の護衛任務終了報告に参りました」

 

アルバート子爵家仮本邸当主執務室。

避暑地レンドールの別邸へ向かう事となったアルバート子爵家令嬢パトリシアと妹エミリー。その護衛を言い渡されていたケビン・ドラゴンロードは、帰村し任務が終了した事を領主であるドレイク・アルバート子爵閣下に報告する為、アルバート子爵家仮本邸を訪れていた。

 

「“開いています、入って下さい”」

“ガチャ”

「失礼します」

 

落ち着いた雰囲気の執務室は過度な装飾なども無く、幾つかの家具と品のいい調度品が置かれている。

部屋の主ドレイク・アルバート子爵の座る執務机には多くの書類が積み上がり、今も尚書き物仕事に没頭する様子が見て取れる。

 

「来て貰っていてすまないがテーブル席に座って少し待ってくれるかい?すぐに書き終えるから」

ドレイク・アルバート子爵の言葉に、室内に控えていた執事長ザルバが訪問者であるケビンに着座を勧める。

 

“カタッ”

「フゥ~、待たせてすまなかったね。少し書状の返事を書いていたものでね」

そう言いインクペンを置きテーブル席へと移動してくるアルバート子爵。ケビンは執務机に積み上げられた書類の山に目をやると、訝しそうに言葉を向ける。

 

「アルバート子爵閣下、あれは一体?アルバート子爵領ってあんなに書類仕事が溜まる程の産業ってないと思うんですけど」

ケビンの疑問は尤もであった。アルバート子爵領は先のグロリア辺境伯領の動乱の際に生まれた名目上の子爵領地、その人口は子爵領としては考えられないほど少なく、その辺の貧乏男爵領よりもさらに少ない程。

住民を抱えている土地はマルセル村のみであり、そこで行われている産業でもあるビッグワーム干し肉・角無しホーンラビット干し肉・聖水布の取引は、グロリア辺境伯領領都グルセリアのモルガン商会と中継都市ミルガルのバストール商会を主として行っている筈。

 

「あぁ、これかい?ケビンは今回何故パトリシアとエミリーだけでレンドールに向かわせたかは聞いているだろう?

オーランド王国南西部地域での内乱、大貴族連合による討伐軍の大敗。力ある貴族家、武勇に優れた家と(よしみ)を結ぶ事で自領を守りたい、自家の発言力を高めたいとする家は多くてね。

今やオーランド王国中に広まった“鬼神ヘンリー”“剣鬼ボビー”の武勇、力試しに向かった高位冒険者の(ことごと)くを返り討ちにしたばかりか借金まみれにした話は、アルバート子爵家の名と共に冒険者たちの語り草になっている様なんだよ。

これはその噂を聞き付けた貴族諸侯からの婚姻申し込みだね、パトリシアやエミリーばかりでなくロバートの分もあるって言うんだから笑えない話さ」

 

そう言い乾いた笑みを浮かべるアルバート子爵に、「た、大変ですね、これ改良版のローポーション軟膏です。打ち身や捻挫、筋肉の疲労に効きます。腱鞘炎や肩こりにも効きますんでどうぞ」と収納の腕輪から小瓶を取り出し手渡すケビン。

 

「あぁ、これは助かるよ。ケビンの生活薬は本当によく効くからね、ミランダも自慢の生徒だとよく言っているよ。

それじゃ報告を頼もうかな」

 

「はい。今回のレンドールまでの移動は行きに五日、帰りに六日の行程でした。途中ゴルド村のホルン村長の所に顔を出させてもらいましたが、皆さんお元気で周辺四箇村のお話を聞かせてもらう事が出来ました。

農業重要地区入りに伴う公共事業は順調に進んでいて各村を結ぶ街道の整備はほぼ終わったとの事です。現在は各村の監察官並びに領兵の詰め所の建設と、ホーンラビット牧場の建設が行われているとの事でした。

ゴルド村とエルセルを結ぶ街道整備はおよそ三分の一程度が終了した段階らしく、来年度中には完成を見るとの見込みと現場監督から聞いているそうです。これは当初の予定より一年も早く、エルセル側で冒険者たちが真面目に働いていることが影響しているのではとの話でした。

 

それとヨーク村のケイジ村長ですが、案の定事業に失敗し借金返済の為にご子息と共に草原でキャタピラーの攻撃糸繊維を集める生活を送っているとか、村の経営自体は既に監察官様の管轄であり離婚した奥様が引き続き管理なさっているので問題ないだろうとの事でした」

 

「あ、うん。何と言うか、うん。ザルバ、麦茶を持って来てくれるかい?それとクッキーも、甘木汁を使ったものがあっただろう」

アルバート子爵はケビンの言葉に引き攣った顔を浮かべると、執事長ザルバにお茶の準備を申し付ける。

 

「あ、でしたらこれを。こちらはレンドールの別邸で管理人のグリル氏と共に作り上げた甘木汁のクッキーとなります」

ケビンはそう言うや収納の腕輪から皿に盛られたクッキーを取り出すのであった。

 

“サクッ、!?#$%&$%*@!!”

クッキーを一口口に含み、声にならない声を上げるアルバート子爵と執事長ザルバ。

 

「こちらは厳選された素材を使用してのものですので同様のものをと言われましても難しいですが、甘木汁の戦略的可能性を示すものとなるかと。

そう言えばヨークシャー森林国から苗の方は届きましたでしょうか?あちらの国王陛下には“ビーン・メイプル殿”がよくよく頼んでおいてくれたはずなのですが」

 

「ケビン君、何だねこの美味しさは。この様なものの味を知ってしまったら、他の甘味がただ甘いだけの低俗品に感じてしまうじゃないか。

これは村内で出さない様に、ちょっとした暴動じゃ済まないからね。それと甘木の苗だが現在マケドニアル閣下がグロリア辺境伯家の使者としてヨークシャー森林国へと向かっていてね、その帰りに一緒に持ち帰る手筈になっているよ。

本来苗木の植え付け時期は落葉後から春先までがいいとされているんだが、甘木の場合は夏が過ぎて秋口に入った頃からであれば大丈夫との事なんでね、ならば丁度いいという事でそういう事になったんだ。

そうした事情もありケビン君には報酬の支払いは今暫く待って欲しいとマケドニアル閣下からお言葉を預かっているよ。それと約束の大樽六つ分も帰国次第渡すとの事であったよ」

 

「そうですか、そういう事であれば致し方が無いですね。現物無しの空手形では人は動かないという事をよくよく分かっていただけたのなら結構です。

俺も少し大人げなかった様ですし。

 

では続けます。

これは今回の行程での私の主観ですが、オーランド王国国内はかなり荒れて来ている様です。行きの行程での盗賊遭遇回数が四回、帰りが二回、難民が一回。この難民も街道を走る我々の道を塞いで助けを求めて来たので、王国法に照らし合わせれば盗賊に該当しますが、パトリシアお嬢様のお言葉もありましたので今回は不問といたしました。

今や彼らのパトリシアお嬢様に対する忠誠心は物凄い事になっていますからね、マルセル村で悪さをする事もないでしょう。アルバート子爵様の策謀恐るべしと言ったところでしょうか。

 

他の盗賊たちですが流石にこれから避暑に向かうというのに屍を踏み越えて行くというのも(はばか)られましたんで、聖茶の効能実験にお付き合い願いました。

光属性魔力マシマシ聖茶二杯で大概の盗賊は改心しますね。幹部クラスは三杯から四杯と言ったところです。

これを光属性魔力マシマシマシ聖茶にすると一杯でもどこかの聖人様みたいな感じになってしまいます。完全に別人ですのでこれは倫理的にどうかと。

社会的には悪人の更生ですが人格破壊と何ら変わりませんので。

そう言う訳ですので、ザルバさんは光属性魔力の込め過ぎに注意してください。アルバート子爵様が聖人様の様になってしまいますので。って大丈夫ですか?何か頭を抱えておられますが」

 

ケビンの報告に思わず聖茶を飲みたくなったアルバート子爵と執事長ザルバ、だがその危険性を告げられたばかりではそれも憚られる。両者は仕方がなくそのまま話を続ける様、ケビンに促すのであった。

 

「レンドールの別荘地は素晴らしい所でした。管理人のグリル、ミリア夫妻は人当たりも良く、グリル氏の料理は絶品でした。

その腕の確かさは先程のクッキーを見てもらえれば分かるかと、本当にいい人材を雇用なされましたね。

それとお隣の貴族様、ロナウド様と仰いますがアルバート子爵閣下はロナウド様の事はご存じですか?」

 

「あぁ、昨年エミリーと遊んでもらったからね。それがどうしたのかな?」

 

ケビンの物言いに首を捻るアルバート子爵。

 

「ではその素性もご存じだったんですね。

私はお伺いしていなかったので驚いてしまいましたが、知っていて敢えてその事に触れなかったのはエミリーお嬢様とロナウド様が身分差に関係なく余暇を楽しめるようにとのご配慮だったのですね。流石アルバート子爵閣下は度量が深い。

 

説明のため敢えて口にしますがお隣であるテレンザ侯爵家三男ロナウド・テレンザ様は昨年同様エミリーお嬢様とシリアル湖で「ケビン君ちょっと待って!?」・・・はい?何か問題でも?」

 

「うん、問題と言えば問題かな?確認するけどロナウド君はテレンザ侯爵様のところの三男様でいらっしゃったと言うのは本当の事なのかな?」

困惑と言った表情で聞き返すアルバート子爵、対してケビンは何という事もないと言った顔で言葉を続ける。

 

「はい、テレンザ侯爵家三男ロナウド・テレンザ様で間違いございません。因みにお付きメイドの方、ローラと名乗っておいででしたが、ダイソン侯爵家長女アイリス・ダイソン様でございました。

これはパトリシアお嬢様が確認なさったので間違いございません。お二人は王都中央学園でのご学友であらせられた由にございます」

 

「ザルバ、スマンが聖茶の準備を、それと抹茶クッキーも頼む」

「畏まりました。それと私とガーネットの分も用意させていただいてもよろしいでしょうか?

ちょっとここから先の話が怖いものでして」

執事長ザルバはそう言いドアの横に控える王国諜報機関“影”から配属された諜報員兼メイドのガーネットに目を向ける。

 

「構わん、ガーネットもそんな所にいないで座って話を聞きなさい。衝撃は分かち合おうじゃないか。

大丈夫、胃薬の補充は十分用意してある、帰りに一瓶支給しよう」

アルバート子爵の言葉にゆっくりと礼をするガーネット。

だが顔を上げたその目からは、何故か輝きが失われているのであった。




本日一話目です。
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