魔力、それはこの世界を構成する不思議エネルギー。どこからやって来るのか、どこにあるのか。それを検証し証明した者はいないが、誰もがその身に宿し大なり小なりその恩恵に与る生活の一部である。
しかしそれは何も人間ばかりではない、植物や森の獣、果ては昆虫に至るまで、よくよく目を凝らせば(目に魔力を纏い詳細に観察すれば)その中に流れる魔力の煌めきを見る事が出来るだろう。魔獣や魔物と言われる生物はその“魔力”に適応進化し、より強大な力を得た生き物に過ぎないのだ。
ではこれだけ魔力に影響を受ける生き物がその身から魔力を失ったらどうなるのだろうか。魔力の恩恵を然程受けていない植物や森の獣、昆虫などは何事も無く日々の営みを続ける事だろう。だが自分たち人間はどうだろう。
人々は言う、“魔力など一部の魔法使いが使うもの、自分達には関係がない”と。果たして本当にそうなのだろうか?日常の中で使われる生活魔法と呼ばれる技術、辺境の寒村、飢えや寒さの中でもなんとか生き残り生を繋ぐ事の出来たその肉体。これまでの暮らしの全てに魔力が関係していなかったなどと言い切れるのだろうか。
ケビン少年は重度の勇者病仮性患者である。彼は己が仮性であることを自覚し尚且つそれを誇りに思う手遅れの仮性である。そんな彼は思ってしまったのだ、“一切魔力を使う事の出来ない環境、もしくは魔力を全て吸い取ってしまうような魔物に出会ったりしたらアウトじゃね?”と。
人が魔力を大量に消費したらどうなるのか、答えは簡単である。ぶっ倒れる、所謂魔力枯渇状態である。これは多くの魔法使いに成り立ての少年少女に見られる現象だが、所謂“魔法”の様に魔力使用量の多い現象ならばともかく、誰にでも使用可能な生活魔法で魔力枯渇を起こすのはかなり難しい。
ケビン少年自身生活魔法を初めて覚えた四歳の頃には水辺で“ウォーター”の魔法をふらふらになるまで練習したものであるが、それでも五歳の頃には一日中でも水を出せる様になっていた。生活魔法とはそれほどまでにコストパフォーマンスに優れた魔法なのである。
この世には様々な奇病が存在する。治癒魔法が存在し、ポーションと呼ばれる便利な薬が存在するこの世界でも調薬師が日々研究を行い、治癒魔法使いが研鑽の日々を送るのはこうした病気に対処する為とも言える。薬師ギルドや魔術師ギルドの治癒魔法使いたちは互いに情報を交換し、次々と訪れる様々な難題に対処していっている。
そんな奇病の一つに魔力過多症と言うものがある。人は成長に伴い魔力に対する耐性を付ける。そしてある程度身体が出来上がった段階で魔力を無意識のうちに制御出来る様になり、その身に宿す魔力を生かし生活する様になる。
ここで言う“魔力”とは所謂魔法使いの言う“魔法を使う為の魔力”とは概念が異なり、人と言う生命を支える為に自然に使われる“魔力”の事を指す。
魔力過多症とはその制御すべき魔力が生まれつき膨大であり、本来身を守り己を育む為の魔力により自らを傷付け生命を弱らせてしまう症状の事である。
その発症は幼少期の子供に多く見られ、長く不治の病として恐れられて来た。
だがそこにとある天才調薬師により光明が
彼は考えた、“魔力制御が出来ない膨大な魔力が病状の原因ならばその魔力を取り除けばいい”と。そして彼が注目したのがヒカリゴケと呼ばれるコケの特性であった。これは薄暗い洞窟などに割とよく見られるコケ植物である。その特徴は周辺魔力を吸収し光を発すると言うもの。そしてその胞子は成長のために大量の魔力を吸収すると言うものであった。
彼は冒険者に依頼し大量のヒカリゴケを購入、研究開発の結果安全性の高い魔力過多症の対処薬の開発に成功したのである。
その薬の開発以降魔力過多症患者の生存率は劇的に上がり、今では“魔力過多症は優秀な魔法使い誕生の知らせ”としてありがたがられるほどである。
勇者病<仮性>ケビン少年が注目したのはその薬の効果、“魔力を吸収する作用”であった。そう、彼はこの魔力過多症治療薬を使って疑似的に“魔力枯渇状態”を再現しようとしているのである。
「お父さん、この辺でヒカリゴケが採れる場所なんて知らない?」
だがここで一つの問題が生じた、そう、マルセル村周辺に洞窟なんてないのだ。大体洞窟なんてものがありそうな山と言ったら遥か大森林を越えたさらに先の本物の魔境“フィヨルド山脈”、危険回避の為にさらに危険な場所に飛び込むなど本末転倒もここに極まれりである。
虎穴に入って虎の子を取るなど馬鹿としか思えない。虎のお母さんが復讐に来たらどうするのか。似た様な事をしてドラゴンに滅ぼされた国があるくらいである。(元冒険者のお爺さん情報)
父ヘンリーは暫く腕組みをして考えを巡らせた後、何かを思い出したように語り始めた。
「確かこの森の更に奥、老木を越えた先の森の中に地下に続く洞窟があったはず。そこに少しだがヒカリゴケが生えていた様な記憶がある。だがそこに行くまでにはホーンラビットの森を抜けなければならない、大変危険だ。決して一人で行こうなどと・・・そう言えばお前は老木まで通ってるんだったな。ホーンラビットに襲われたりしないのか?」
そう言えば父親に気配を消してる所を見せた事が無かったわ。
俺は“こうやって気配を消して行けば全く気が付かれないよ?ホーンラビットの角狩りもこうやって近付いて眠りクスリの煙玉を使ったんだよ”と言いながら完全に気配を消して父ヘンリーの後ろに回り込み、棒でツンツン
“ガバッ”
咄嗟に椅子から飛びのき構えを取る父ヘンリー。ヤベ、やっぱ元冒険者は危険生物だわ。離れた所から棒で突いて正解、下手に抱き付こうものならちょっとした怪我じゃすまなかったぞ、この天然オーガ。
親子の交流も命懸け、その辺はジミー君に任せよう。遥か記憶の彼方にある地上最強の親子喧嘩を繰り広げた男の物語を思い出しつつ、絶対お茶目はしないぞと誓うケビン少年なのでありました。
「お父さんどうもありがとう、早速探してみるね」
「あ、あぁ。お前なら大丈夫だと思うが十分気を付けるんだぞ」
“分かった~”と子供らしい返事をしつつ部屋を出る俺氏。背後から“あの子は暗殺者でも目指してるのか?今度ボビー師匠に相談に行くか?”とか聞こえて来ますが気にしてはいけない。何度も言うが俺は生涯村人だから、都会は怖いです。
「緑~、黄色~、お出掛けするよ~」
洞窟探索と言ったら落盤事故、穴倉は危険が一杯でござる。と言う訳で土属性魔法とポーション水のスペシャリストのお二人にご登場いただきました。
ケイト君はどうしたのか?あの子に森は危険ですから本日はお留守番。団子と紬のお世話をお願いしております。要は俺の部屋でモフモフと戯れてるだけなんですけどね。ケイトの奴、団子と遊んでる時めちゃくちゃテンション上がってるからな~。
動きが緩慢で無表情だから普通は分からないんですけどね、魔力の動きが。無制御の魔力は感情の動きに敏感だからな~、魔力嘘付けない。よくよく観察してると表情も結構変わってるんですけどね、お父さんのザルバさんも分からないレベルですが。
それは置いといて今日は森に洞窟を探しに行きます、目的はヒカリゴケの発見です。暗闇で光るとっても便利なコケです、お二人とも張り切って行きましょう。
“ズイズイズイ~♪”
久方ぶりの遠出でテンション上げ上げの二匹。森のご神木様の所に連れて行ってあげないのかって?いや、だってこの巨体よ?ホーンラビットとの乱闘必至よ?負けるとは思わないけど危ないじゃないですか。
“ブンブンブン”
ん?尻尾振ってどうしたの?俺たちを嘗めてもらっては困ると。畑の夜間警備に無音移動は必須技能?ほ~、だったら見せて貰おうではないですか、その実力とやらを。
“スーーーーーーーーーーッ”
は?イヤイヤイヤ、待て待て待て、何その高度な技術、俺がその領域に達するまで何年掛かったと思ってるの。常在戦場ずっと修行の日々だったんよ?それを何そのスニーキングミッション、全く音なんてしてなかったやん、枯草小枝の落ちるこの森で、しかも気配迄消えてるし。
ビッグワームを嘗めるな?俺たちならば余裕だぜ?うっそ~ん。
大人の腕ほどもある巨大外骨格ミミズビッグワーム、魔物の中の底辺、最弱最下層生物、これが底辺。・・・・絶対、絶~対、冒険者なんかにはならないぞ~~~~!
改めて固く心に誓うケビン少年なのでありました。
「ご神木様こんにちは。今日は俺のペットを紹介しますね、ビッグワームの緑と黄色です」
“ズルズルクネクネ”
“ワサワサワサ”
互いに動きで挨拶を交わす双方。何言ってるのかは分かりませんが意思の疎通は取れている様です。俺はまず施肥を行い、それから森の奥にあると言う洞窟の事を聞いてみました。
「ご神木様、この森にヒカリゴケの生えてる洞窟があるらしいんですけど知りませんかね」
“グニュグニュグニュ、ツンツン”
「あ、向こうの方にあるんですね、ありがとうございます」
“サワサワサワ”
ご神木様が揺れ、数枚の葉っぱが舞い降ります。
「これくれるんですか?ありがとうございます。緑、黄色、ご神木様が葉っぱを下さったよ。一枚ずつ食べていいからね」
“ハムッ、ハムハムハム、!?”
バタバタ動いて喜びを表現する二匹。そりゃご神木様の葉っぱだもの、魔力は豊富だろうさ。体中に広がる膨大な魔味に、打ち震えているご様子です。
「それじゃまた来ますね~」
俺たちはご神木様に挨拶をし、洞窟を目指して一路森の奥へと向かうのでした。
「あ、なんかあった」
歩く事数十分(体感)、少し地面が盛り上がった場所に地下へと続く洞窟を発見。まぁ森の中も平坦って訳じゃないですからね、こんな形で洞窟が出来る事もあるんですね。
うん、意外にしっかりとした洞窟、動物の巣穴程度を想像してたんだけど奥行きもそれなりにあるし、これは期待出来そう。メアリーお母さんならしゃがまずに入れそうなくらいのそこそこの大きさの洞窟に向かい歩を進める俺氏、前方は緑、後方は黄色が確りバックアップしてくれています。
うん、完璧な布陣。お二方、俺の事を守ってね。小心者ケビン、安全対策はバッチリであります。
で、洞窟の中ですが、恐れていた様な冬眠中の魔獣の類も
それで肝心のヒカリゴケなんですが、うん、少ない。調薬一回分あるかないかじゃん。ちょっとこれだとね~。それでこいつらが魔力を吸収して光ってると。確かに光ってるけど淡く光るって程度、寝室の明かり程度には逆にいいかも。
・・・魔力を与えて見ましょうか。俺は魔力マシマシウォーターを霧状にした生活魔法<ミスト>を唱えます。これって必要だったからやってたら出来た生活魔法なんだけど・・・、新作じゃないよね?どこかに実在するよね?取り敢えず“まどうのしょ”行きで。今度詠唱を考えておかないと、また何言われるか分からないし。そう言えば<破砕>の詠唱も考えてなかった、やる事てんこ盛りだな、おい。
“ホワ~ッ”
お、光った光った、結構明るいな。イメージとしては蛍の群れが光ってるくらいの明るさ。本くらいならなんとか行ける感じ。このコケが壁一面なら生活に不自由しないくらいには明るいだろうか。
なに黄色、お前もやりたいの?俺の隣にのそっと顔を出した黄色が、なにやら”自分にもやらしてください”と言った風に覗き込んできます。こいつらミストの魔法も速攻で習得したからな~。今じゃジェットミストも出来るほど、家中丸洗いも出来ます。
“ピカーッ”
「うおっ、眩しい!黄色お前なにやった!?魔力が豊富になる様に、ポーション水を魔力マシマシで噴き掛けた~!?馬鹿、そんな事したら」
“ボフンッ”
弾けるヒカリゴケ。ヒカリゴケから広がった光の粒子が洞窟の隅々にまで広がって行き、
“ホワ~ッ”
洞窟全体が淡い光に包まれた光の壁に覆われてしまいました。
その幻想的な光景に暫し言葉を失う俺氏。
「なぁ、緑に黄色、やっぱこの世界って不思議に満ち溢れてるわ」
剣と魔法の世界、ザ・ファンタジーワールド。自分の小ささを改めて思い知るケビン少年なのでありました。
ふと隣にいる二匹に目をやるケビン少年。
「・・・ブハハハハッ、緑と黄色、ヒカリゴケに覆われてめっちゃ光ってやんの。お前ら最高~。まるでクリスマスの電飾、LEDライト付けまくりって奴ですか?」
“ツンツン”
「何?自分の身体をよく見てみろ?ウォ、俺も光ってるじゃん。服まで淡く光りまくりじゃん。・・・魔力開放」
”ピカーッ”
「これ楽しい~♪」
“ピカーッ”
「おっ!お二人とも、お見事。それじゃこんなんはどうよ」
“ピッカピッカピッカピッカ”
「点いたり消えたりってのは電飾の基本ですから~♪」
“ピカピカピカピカ”
「ぐぬぬ、明かりの点滅を移動させることで光のウェーブを作るとは、負けた」
ミミズの長い胴体を利用した光の妙技に敗北を
その後必要量のヒカリゴケを集めた後イルミネーションごっこに夢中になり過ぎて帰りが遅くなり、父ヘンリーに光る魔物と間違われて討伐されそうになったり母メアリーに病気を疑われてミランダさんの家に運び込まれた事は、・・・まぁ自業自得と言う事で。
本日一話目です。