転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第370話 村人転生者、辺境子爵に報告する (3)

“カタッ”

差し出されたカップ、仄かに香る若葉の匂いが心を穏やかにしてくれる逸品。聖茶は季節に関係なくいただきたくなるマルセル村の特産品でございます。

普通に飲む分には思考がすっきりするとても良い飲み物なんですよ?本当に。夏の暑い時期には水出し聖茶もお勧めです。

 

“サクッ”

テーブルの大皿に盛られた抹茶クッキーを一つ。最近は蜂蜜に代わり甘木汁を使った抹茶クッキーが登場した様で、これがまたいけるんですよね~。抹茶本来の味がより引き出されていると言いますか、ミランダ夫人腕を上げられましたな~。

 

「さて、それでは話の続きと行きます」

俺は何故か覚悟を決めたと言った表情の三人に向かい、報告の続きを話して聞かせるのでした。

 

「まぁそんな感じでロナウド様とマルセル村の若者軍団はひと夏の魔法合宿を行ったという訳です。

パトリシアお嬢様とローラ様は完全におまけですが、人に頼みごとをしたらそれなりの責任を負うという事を分かっていただく為にも、お二人には敢えて魔力枯渇訓練に参加していただいた次第です。って大丈夫ですか?」

 

一通りシリアル湖湖畔での出来事を話したところで三人に目を向ければ、眉間の皺を揉んだりこめかみを(ほぐ)したりクッキーに手を付けたり。クッキーは単に小腹が空いたのかな?

 

「うん、ケビン君が皆に確り訓練を付けてくれた事は分かったけど、湖面をケルピー数体で爆走したりボール魔法を百発以上も沖合に打ち込んだりその魔法を捕らえようと湖面を走り回ったり、空中歩行訓練と称してシリアル湖上空を走り回ったり湖面に巨大なウォータードラゴンを出現させたりってのはやり過ぎかな?

気配を消しての湖面走り込みがギリギリ許容範囲だと考えるのは私だけじゃないと思うよ?

レンドール不動産の会長には後でドレイク・アルバート子爵の名で謝意を記した書状を書いておくので、時間が出来たら届けてもらってもいいかな?」

 

「はい、承知いたしました。いずれにしても別邸のグリル氏の所にはお伺いする約束をしていますので、その時にでも。

まぁ訓練自体は今お話しした内容だったんですが、最後に社会見学と言いますか、若い皆にこの国の現実を見てもらおうと思いまして、南西部の紛争地帯アスターナ男爵領に行ってまいりました」

「「「・・・・・」」」

 

“人間思考が停止すると動きが止まる”というのはどうやら本当の事の様です。これは“はぁ?こいつ一体何を言ってるの?馬鹿なの?”といった表情ですね。聖茶のお陰で混乱はしていない(出来ない)様ですが。

 

「やはりどれ程訓練を積んでも訓練は訓練、実際の戦場を知らないと話になりませんからね。

移動方法はヨークシャー森林国に向かったのと同じ、影空間に入っていただいて、俺が空を飛んで行くってやり方です。これが一番手っ取り早いですから。

到着したのは紛争地帯の上空四百メート地点。強風が吹いていたので箱型結界を張り、上から下を見下ろす形で戦場の見学をしたんですが、その際大きな動きがありまして。

王国討伐軍とダイソン公国軍がにらみ合う形で布陣していたんですが、双方の代表者同士がその中央部に集まるといった状態になっていたんです。

 

恐らくですが休戦交渉か停戦交渉、もしくは捕虜の交換交渉といったところだったんじゃないかと思われるんですが、丁度その真っ最中だったんです。

そうしたら何か公国側から大きな魔力の高まりを感じましてね?よく見たらこれがバルカン帝国の最新兵器“精霊砲”からのものだったんです。

あっ、俺が何でそんな物を知ってるかと言えば、ヨークシャー森林国で見て来たからですね。

バルカン帝国軍によるヨークシャー森林国侵攻作戦で使用された精霊砲によりボロボロに破壊された国境の要トリニア砦、攻勢を強めるバルカン帝国軍に横合いから突っ込んで行く大規模スタンピード、吹き飛ぶ魔獣、焼かれる大地。

結果的に数と移動速度に勝るスタンピードに押し負けてしまいましたけど、あの兵器がもう一機あったらバルカン帝国の侵攻作戦は成功、帝国の大勝利で幕を閉じたかもしれないという超兵器です。

詳しい話はヨークシャー森林国で聖茶の刑にした工作員から聞き出したんで確かですよ?

 

でもそんなものが使われたら運が良くて半壊、へたをしなくても全滅は免れない。

討伐軍の後方にテレンザ侯爵家をはじめとした南西部諸侯の軍勢がおられましてね、ロナウド様に頼まれたんですよ、“あの場所に助けに行かせて欲しい”って。

でもそんな義理なんてないじゃないですか?かなりきつい言い方で“俺に死ねと言うのか?”って問い質したんです」

 

“カタッ”

それは収納の腕輪から取り出した料理の盛られたお皿。黄色くふわふわとしたそれからは、えも言われぬ甘い香りが漂う。

 

“ゴクリッ”

それは誰が鳴らしたのか、生唾を飲む音が静かな執務室に流れる。

 

「テレンザ侯爵領とヨークシャー森林国の国境沿いの山岳部の森には、昔から“コッコ”と呼ばれる鳥の魔物が生息しているんだそうです。テレンザ侯爵様はその中でも比較的性質の大人しい“鷹の目コッコ”と呼ばれるものを飼育し、卵や食肉を確保する試みを推し進めておられるとか、その様な素晴らしい事業を手掛けておられるテレンザ侯爵様ならびにテレンザ侯爵家に連なる方々を見捨てるなど誰が出来ましょう。

これはそのコッコの卵に甘木汁を加えて味付けしたもの。

先ずは一口お味見を」

 

俺がサッとスプーンを差し出すと、それを受け取り卵料理に手を伸ばすアルバート子爵様。

 

“~~~~~~!!”

ですよね~、グロリア辺境伯領って卵料理がなかったですもんね~。

 

「で、ロナウド様に御助力する報酬として十数体の鷹の目コッコを貰い受けて来たんですが、飼育場を建設しても?いいんですね、ありがとうございます。

雑食性ですが比較的大人しいのでそれほど問題はないかと。

そうそう、ロナウド様が一度ご挨拶に伺うと申しておりました、なんでも今回の働きはコッコ十数体を差し出すだけでは釣り合いが取れないとか。貴族の矜持の問題らしいのでその辺は俺には何とも言えないんですが、テレンザ侯爵家の皆様がお越しになられた際は対応をお願いします」

 

俺はそう言うと話は終わったとばかりに席を立「すみません、少々よろしいでしょうか?先ほどの精霊砲はその後どうなされたのでしょうか?」

うん、ガーネットさんとザルバさんは逃がしてくれないんですね、そうですよね、ふわトロ卵焼きを食べてないですものね。

アルバート子爵様、無言でスプーンを運んでおられるんですもん、酷い領主もいたもんです。

 

「えっと防護城壁、巨大なアースウォールを作って防ぎました。まぁそれでも一発で崩れちゃったんで、二回作った感じです。

精霊砲自体はロナウド様がウォーターボールを撃ち込んだ際に破壊する事が出来ました。全魔力を一撃に込めたのが良かったのかな?相当な破壊力でしたよ」

俺はそこまで語ると今度こそ執務室を後にする。

何か納得いかないといった視線を背中に感じますが、気にしてはいけません、コッコ飼育場建設が待ってるんです。

俺はこれから始まる卵ライフを夢想し頬の緩みを止められないまま、実験農場へと走って行くのでした。

 

――――――――――

 

“コンコンコン”

「失礼いたします、パトリシアです。少々よろしいでしょうか」

ドレイクお義父様の執務室の扉を叩き返事を待つ。

 

「“あぁ、開いているよ、入って来なさい”」

“ガチャ”

執務室から聞こえるドレイクお義父様の声に、扉を開け中へと入る。そこではドレイクお義父様と執事長のザルバが何やら難しそうな顔で話をしている。

 

「パトリシア、難民の皆さんはもういいのかな?宿泊先や食事の手配などがあると思ったんだが」

 

「はい、宿泊先に関してはケビンが礼拝堂の隣に大型倉庫の様な宿泊所を用意してくれましたので、当面問題はないかと。

食事に関してはマルセル村の移住支援策を適用していただき、支援を受ける事といたしました。

今回の難民の内訳ですが男性が五名、女性が六名、子供は上が八歳から下は三歳までで八名となります。

男性は老人が主となります、女性は既婚者が四名、未婚が二人。

子供たちは幸いそれぞれ母親がおりました、孤児はおりません。

全体を取りまとめていたのはマリンバと言う隻腕の者で、村の用心棒の様な事をしていたとの事です。元冒険者でケガがもとで村に帰った者との事でした」

 

ドレイクお義父様は私の話に暫し考え込むそぶりを見せると、気になる事を口にするのだった。

 

「パトリシア、その村の者の家族構成をきちんと聞いてくれないかい?男性五名と女性六名、男性には老人が多いとなれば夫婦の可能性は低い、であるのなら今度の戦で徴兵された者たちの中に村長や既婚女性のご主人が含まれている可能性が高い。

そうであるのなら村に帰ってみれば誰も居らず大騒ぎと言った事も考えられる。

その場合彼らがこのまま村に移住するかどうかも分からない。

今は生きるのに必死で考えられなくとも、いずれ離れ離れになった家族が恋しくなる。そうした場合どうするのか、どうしたいのか。

マルセル村の者になるのか、生まれ育った村に帰れるものなら帰りたいと思っているのか、それはとても重要な事だからね。

 

それとさっきも言ったけど、彼らの事は基本的にパトリシアに任せようと思っている。マルセル村の一員として迎え入れるのか、それともある程度生活の手助けをして帰村を促すのか。

幸いマルセル村の食糧生産は上手く行っているが、だからと言ってそれに頼り切りという訳にはいかないよ?

よく考えて判断を下して欲しい」

 

ドレイクお義父様は私の目をじっと見詰めると、「うん、この件についてはこれ以上言わずとも大丈夫そうだね」と言ってニコリと微笑まれるのでした。

 

「それと幾つか聞きたい事があるんだが、レンドールの避暑地で隣の別荘がテレンザ侯爵様のものであったと言うのは本当なのかな?それとロナウド様とローラ様の事なんだが」

 

「はい。別荘に関しては寄子子爵家の所有となっていますが、実際にはテレンザ侯爵家で維持管理している物の様です。

この事はレンドールでもごく一部の者にしか知らされておらず、お忍びで使用する為に用意されている場所と伺っています。

 

アイリスですが私が王都の学園に通っていた際の学友となります。アイリスは先代当主シオン・ダイソン侯爵の令嬢に当たり、ダイソン侯爵家での立場は危ういものであったとの事です。

テレンザ侯爵家第一夫人エリエール様とアイリスの母ライア様は学園時代から親しくされている旧知の間柄で、アイリスの事を非常に心配しておられたとの事でした。

名を変えロナウド様の専属メイドとして匿ったのは、エリエール様とスコッティー・テレンザ侯爵様の総意であったとの事です」

 

「そうか、分かった、ありがとう。

それとアスターナ男爵領での戦闘についてだが、分かる範囲でいいから聞かせて欲しい」

ドレイクお義父様は暫し瞑目して考えを巡らせた後、話の続きを促すのでした。

 

「私達がケビンに連れて行かれたのは、アスターナ男爵領の荒野の上空四百メート地点でした。そこからはダイソン公国軍と思わしき軍勢と王国貴族軍と思わしき軍勢が、距離を置き対峙している様子を見下ろす事が出来ました。

そして互いの軍の真ん中にあたる場所には十数名の人々が集まり、何やら話し合いを行っているように見えました。

ケビンは休戦交渉か停戦交渉、捕虜の交換交渉が行われているところなのではと推測していましたが。

 

丁度その時でした、ケビンが公国軍側に強い魔力の高まりを感じると言い始めたのです。そしてそれは精霊砲というバルカン帝国の最新兵器によるものだと。

ケビンの予測では王国貴族軍の大半が精霊砲の攻撃で壊滅するとの事でした。

 

同じ場でその様子を見ていたアイリスとロナウド様は王国貴族軍の中にテレンザ侯爵様の軍勢を発見、ロナウド様がケビンと交渉し、助力の為に二人でテレンザ侯爵様の下に向かう事となりました」

 

私はそこで言葉を止めます。ロナウド様に自身の覚悟、相手を死地に向かわせる覚悟を問い質したケビン。

・・・何故卵でコロッと態度を変えるのですか!

確かにアルバート子爵領に卵は有りませんけど!あの晩の卵料理は舌が蕩ける程美味しかったですけど!!テレンザ侯爵家の別邸調理人が作ってくれたコッコモモ肉の卵とじは天上の食べ物でしたけど!!

あの時に感じた何とも言えない気持ちが蘇りモヤモヤッとした気分になります。

 

「あ、うん。ザルバ、パトリシアに聖茶とクッキーを。

パトリシアはちょっと休憩を入れてから話をしようか」

 

態度に出てしまったのでしょう、ドレイクお義父様が私に優しい言葉を投げ掛けてくださいます。

 

「いえ、申し訳ありませんでした、続けます。

精霊砲の攻撃は二度ありました。

一度目は王国貴族側がダイソン公国側の代表者を地中に隠れていた兵士たちで包囲し、捕縛しようとした時でした。

公国代表者はそうした罠を予測していたのか結界魔法によりこれを阻止、精霊砲の攻撃により周辺の軍勢を一掃、状況を一気にひっくり返すと言う奇策を行いました。

 

その光景は今でも忘れません、地上全体を覆い尽くさんばかりの光の奔流、大きな爆発と共に全てが吹き飛び、そこにはただ焼け野原が広がっているだけでした。

二回目はそれから暫くしての事でした。

それは攻撃というよりも一掃、その場にいる全ての者を消し去ろうとしたもの。

私は、私達は、ケビンとロナウド様も消え去ってしまったと思い言葉を失いました」

 

私はそこで言葉を切る。ふつふつと沸き起こるぶつけようのない怒り。

今でも忘れない、絶望のどん底にあった私達の前にロナウド様を小脇に抱え飄々と現れたあの男の姿を!

“プヘ~ッ、土埃が酷いのなんの、いや~参った参った。皆ごめんね~、お待たせしちゃって~”って、“それよりも移動しますよ、次はテレンザ侯爵家です。ロナウドから報酬のコッコを貰い受けなければなりませんからね、皆さんもそのつもりで頼みますよ?”って!

 

「私達がどれほど心配して心を痛めたと思ってるんですか、ケビーーーーーン!!」

爆発する感情、こんなの叫ばずにはいられません!

 

「ハァ、ハァ、失礼しました、少々取り乱してしまいました」

急ぎ身を整え姿勢を正す。

 

「あっ、いや、うん、大丈夫だよ。

そっか~、ケビン君されちゃったのか~。それじゃパトリシアが難民に手を差し伸べちゃっても仕方ないか~。

色々思う所はあると思うけど、多分それは一時的なものだから、困った事があったら相談に来なさい。

取り敢えず今日は部屋でゆっくり休みなさい、難民の事はこちらでも気に掛けておこう。

ガーネット、パトリシアの事を頼む」

 

「畏まりました、アルバート子爵閣下」

 

私はドレイクお義父様に退室の挨拶をすると、ガーネットに連れられ部屋へとさがる。

 

「パトリシアお嬢様、私が言うのもなんですが、あまり気負い過ぎないでください。お嬢様には多くの御味方がいらっしゃる、周りを見て、周りに頼る様にしてください。

頑張り過ぎて潰れてしまっては結果的に難民ばかりか多くの者を傷付けてしまう。

大事な事はなんであるのか、それをお忘れなきよう」

 

部屋の去り際、ガーネットはそう告げると深い会釈をした。

それは互いの立場を越えた、本当に相手の事を思う慈愛の籠ったもの。

その言葉に、自身が空回りしている事に気が付くパトリシア。

 

「ありがとうガーネット、先ずは休んで、それからゆっくり考えることにするわ」

パトリシアはそう言葉を返すと、柔らかく微笑むのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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