転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第371話 村人転生者、収穫の秋を迎える

夏が過ぎ、秋の気配が訪れる頃、マルセル村は本格的な秋の収穫期を迎える。

 

「キャロルとマッシュは収穫した野菜を十六夜たちの所にドンドン運んじゃって、箱詰めは向こうに任せていいから。

緑と黄色は収穫が終わった畑の残渣を集めてくれる?コッコたちが餌として(つつ)くみたいなんだよね。コッコってビッグワームやスライムほどじゃないけど、結構何でも食べるみたい。

後で収納しちゃうから適当に山にしておいて」

 

““キュアキュア””

““クワッキュ、キュワ””

 

ケビンの実験農場と呼ばれるそこでは、多くの魔物と従業員がせっせと収穫作業に勤しむ。秋の収穫物はこれから迎える冬に向けての大事な備蓄食料となるのだ。

 

「さ~て、今日のコッコちゃん達の調子はいかがですかね~♪」

そこは実験農場隣の草原に新たに建設されたコッコ飼育場、周囲をケビンの背丈程の塀に囲われたその中では十数羽の“鷹の目コッコ”が飼育されている。

 

“カチャ”

コッコ飼育場の入り口は脱走防止の為二重扉になっており、一つ目の扉を開き中に入ってから確りと扉を閉じ、それから飼育場に続く扉を開く造りとなっている。

これはコッコという魔物がこの辺に生息する種族ではなく、生態系への影響を考慮してのものであった。

 

「まぁテレンザ侯爵領では飼育管理されてるくらいだし大丈夫だとは思うんだけどね、問題があってからじゃ遅いしね。

おはようコッコ諸君、今日も新鮮な野菜くずをお持ちしたよ」

““““クワッ、クワクワクワクワクワクワッ””””

 

うん、今日も元気だ事。この鷹の目コッコ、見た目の割によく食べるからな~。基本なんでも食べるから餌やりをするこっちとしては助かるんですが。

中でも食い付きの良かったのがビッグワーム、まんま鶏じゃんって思ったのは内緒です。あの蛇のようにデカイビッグワームを銜えて走り回る姿は、家畜そのものでした。

キャタピラーやスライムも食べるんですが、やっぱり一番はビッグワームの様でした。

だもんで飼育場の隣に大きめのビッグワームプールを建設、並行してビッグワームの飼育もおこなっております。

鷹の目コッコの生息地が山沿いの森との事でしたんで、飼育場に岩場を作ったところ大そうお気に召されたご様子、その大きな鉤爪を使って頂上に上っては“クワックワックワ~”と叫んでおられます。

それと枝から枝を飛び跳ねるのも好きな様なので、アスレチック場にある様な木製の遊具を作ったところこれが大好評。

等間隔の丸太の上を飛び跳ねたり、ロープに掴まってブラブラしたりなさっておられます。

 

そんな環境が良かったんですかね、脇の飼育小屋の藁の上に作られた幾つかの巣には何個かの卵がですね。

早速の卵供給、ありがとうございます。

俺はそんなコッコたちに報いる為に、シリアル湖で大量に貰って来たマール貝の貝殻を砕いたものを、餌場の深皿に補充しておくのでした。

 

―――――――

 

“グツグツグツグツ”

五徳に掛けられた鍋が音を立てる。

キャロル、マッシュ、キャベール、畑で採れた秋の恵みが旨そうな香りを立てながら揺れ動く。

一緒に入ってるのは小麦団子か、平たい餅のようなそれは、スイトンの柔らかい食感とはまた違った味わいを見せる。

 

“コトッ”

お椀によそわれ差し出されたそれに箸を付ける。

 

“ズズズズッ”

味付けはビッグワーム干し肉、野菜の旨味を引き立てる為に敢えて基本である岩塩で漬けた物を使用している様だ。

シンプルだが深い味わい、野菜本来の旨味が優しく身体に染み渡る。

 

「はぁ~、美味しい。アナさん、また腕を上げましたね」

囲炉裏の前でスープをかき混ぜるアナさんは俺の言葉にニコリと微笑むと、「どうぞ、お代わりもありますからね?」と言葉を返すのでした。

 

あ~、食べた食べた。モチモチ団子入りの秋野菜スープ、めっちゃ旨かったわ~。収穫作業を行った後ってのもあるけど、“秋をいただいてます”って感じがまたね。

もう少しして寒さが厳しくなって来たら、干し芋を作らないとな~。出荷用の乾燥野菜もあるし、まだまだ仕事はてんこ盛りですな。

 

えっ、住宅建設はいいのか?やるよ、当然。でもその辺はパトリシアお嬢様の管轄ですからね、詳しい建設戸数の確認や移住の意思確認など、難民が落ち着いてからじゃないと出来ない事って結構ありますから。

今は取り敢えずの衣食住を提供して、大人たちは村の農家の手伝いですね。収穫期は本当にブー太郎の手を借りたいくらい忙しいですからね。

うちは俺の収納の腕輪さんや戦利品のマジックバッグなんかがあるんでいいんですが、村人たちはそうもいきませんから。

日持ちの悪い葉物野菜は村長の所のマジックバッグへ、根っこ野菜や日持ちする果菜類は村の保存庫へと運び込んでおります。

 

これって人口が増えたら保存庫の拡充とかもしないといけないんだよな、ケビン建設大忙しじゃん。

本来そうした事は村に石工さん方をお呼びして行うのが通例なんですけどね、石工さん方は現在アルバート子爵家本邸の建設をですね。

漸く始まったんですよ、本邸建設。お隣ゴルド村で公共事業に携わっていた方々がお越し下さった形ですね。なぜかその中にホルン村長をはじめとしたゴルド村の男衆が混じっていたんで、収穫期にこんな所にいていいんですかってお伺いしたら、村を出ていた若い衆が戻って来たからそっちに収穫作業を任せて出稼ぎに来たと仰っておられました。

凄いなゴルド村、既にUターン組が現れたのかよ。

聞けば戦争の影響でどこも仕事が少なくなってるんだとか。そこに来て故郷ゴルド村が公共事業景気に沸いているという噂を聞いて、一縷の望みで戻って来たとの事。

スルベ村やマルガス村でも同様に帰郷してくるご家族が現れてるとの事でした。

ヨーク村?ハハハ、何の冗談で?

ヨーク村を去るってのは命からがらって枕詞が付きますからね?

どんなに好景気の噂があっても何かの罠だと思うに決まってるじゃないですか、嫌だな~。

でもそうなるとそのうちマルセル村にも帰村家族とかがやって来るのかな?そうなればいいなと願う今日この頃です。

 

“コトッ”

差し出されたのは偽癒し草の煮出し茶。出されるお茶にも季節の移ろいが現れる、こういうのって田舎暮らしのいいところなのかもしれません。

ゆったりと流れる時間、囲炉裏には鍋に代わり薬缶が掛けられ、湯気を上げている。

 

「ケビン君、最近無理してませんか?」

それはアナさんからの問い掛け、俺はその言葉の真意を聞こうとアナさんに目を向ける。

 

「ケビン君は前に言っていましたよね、“自分はマルセル村の村人ケビン、それ以上でもそれ以下でもない”と。

以前のあなたはその力を隠し、マルセル村の中でこっそり楽しむといった人だった。

でもマルセル村の為になるのならと少しずつその英知を分け与え、村を発展へと導いた。

その根底にあるものはマルセル村で楽しく暮らす事、食べ物に困らず村人や魔物と共に暮らせればそれでいい。

 

ケビン君は優しい人です。困っている者を見ればつい手を差し伸べてしまう。まぁそこには“自分で努力し懸命に生きようとする者”という明確な線引きがありますが。

でもそれはあくまで個人、その者が独り立ちする為の手助けといったものだった」

 

“シュ~~~”

薬缶から立ち昇る湯気の音が、静かな小屋の中に響く。

俺は手に持つ湯呑を床に置くと、ボツリと口を開く。

 

「う~ん、どうしてこうなっちゃったんですかね。

以前は“お貴族様怖い、大商人怖い、冒険者怖い、王都、駄目、絶対”とか言っていたんですけどね。

何の因果か騎士爵様なんかになっちゃって。自業自得と言われればそれ迄なんですが。

 

求められるがまま知恵を出し、力を貸し、自らの思う最善を目指す。その結果要求は肥大化し、一介の村人には決して収まり切らない様な難題の解決を求められる様になる。

昨年春にグロリア辺境伯様のところのハロルド執事長様がご相談に来た件然り、グロリア辺境伯様ご本人がヨークシャー森林国の件で相談に来た件然り。

冷静に考えてあり得ない話なんですよ、辺境伯領の存亡に関わる事態の相談事に授けの儀が終わったばかりの子供を同席させたり旅立ちの儀前の辺境の田舎騎士に一国を揺るがす疫病の解決策を相談しに来たり。

俺は何処の大賢者様なんだって話です。

 

結果だけで言えば俺にはそのどちらもどうにか出来る力があった、そしてこの事は変に隠し立てするよりも周囲に味方を増やしておいた方が後々役に立つ。

強い力には必ずそれを利用しようとする者が現れる、その者が善なる者であろうが悪に偏る者であろうが利用される者からしたら関係ないんですが。

そしてそれはじわじわとこちらの首を絞め付ける様に俺の事を様々な誓約でがんじがらめにしようとする、いやなら逃げ出すしかない。

大森林中層部には秘密の花園という結界で守られた常春の花畑がある。そこは嘗て大賢者シルビア・マリーゴールドが隠れ住んだ屋敷が立っていた場所、今はその面影も無くシルビアさんの冥福を祈る石碑が佇んでいます。

嘗て英雄ともてはやされるも姿を消した剣の勇者様然り、様々な種族から慕われたオークの魔王様然り。

力ある者は利用され畏れられそして潰される。

 

ならばその力を隠しひっそりと暮らせばよいのか、マルセル村の者たちが飢えや寒さに苦しむ中、この小屋で一人自己満足に浸っていればそれで幸せか。

それは何をもって幸せとするのかにもよるでしょう。

 

俺の思いは変わらない、このマルセル村こそ我が故郷であり生涯に渡り住み暮らす場所。その障害を取り除く為だったらなんだってやる。

ドレイク村長はその為の同志、であるのなら出来る限りの手は貸すし、協力も惜しまない」

 

“コトッ、ズズズズズズッ”

 

「あ、お茶のお代わり貰えますか?ありがとうございます。

でもいつかこの村も変わってしまうんでしょうね。

嘗ての辺境の寒村の姿は今や見る影もない。日々旨いお肉様を追い求め研究に研究を重ねていたあの頃が懐かしい。

人が増え、建物が増え、多くの商人もやって来るようになった。しばらくすれば村にも商店が出来、教会も作られる様になるでしょう。

でもその為にはこの戦争は終結して貰わないといけない。

それもただ終わらせるんじゃない、オーランド王国に力を温存して貰った状態でです。

 

シリアル湖の湖畔、レンドールの別荘地でロナウド様とアイリス様にお会い出来たことは幸運でした。お二人はこの戦争終結の重要な駒です。

戦場見学の際あんな状況になっているとは思いもしませんでしたが、結果から見ればテレンザ侯爵家の信用を得られたことになります。

本当にこんな事一介の田舎騎士の考える事じゃないんですけどね、必要な人脈と必要な戦力が揃えられちゃうってのも事実なんですよね。

 

アナさんは言いましたね、無理してませんかって。

無理してますよ、本当目茶苦茶無理してますとも、暫く御神木様の所に引き籠りたくなるくらいには。

でもドレイク村長にしてもパトリシアお嬢様にしても、この難局を乗り越えて飛躍していただかなければならない。特にパトリシアお嬢様は本来こんな辺境の地で引き籠ってていい様な御方じゃありませんから。

その上でやっぱりホーンラビットの世話をしていたいって言うんなら別にいいんですけどね、婚約破棄の汚名はばっさり切り捨ててもらわないと。

失った誇りを取り戻してこその次の一歩でしょうからね」

 

“ズズズズズズッ”

俺は言い終えるや新しく注がれたお茶に口を付ける。偽癒し草の独特の風味が口腔に広がり気分をスッキリさせてくれる。

 

「ケビン君は本当に昔から変わらないんですね。あの隠れ里で私たちに声を掛けてくれたときから何も変わらない。

ただ優しいだけじゃない、自ら考え自ら歩む道を提示してくれる。

損な性分ですね」

そう言い優しい笑みを向けるアナスタシア。

俺はスッと目を逸らし、“ズズズッ”と煮出し茶を啜るのでした。

 




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