転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第372話 村人転生者、甘露を手に入れる

そこは木々に囲まれた森の中、突然ぽっかりと開けた場所に突如現れる巨木。巨樹の近くには一軒のログハウスと小屋、そして四角い石造りの建物。よく見れば畑が広がり作物が秋の収穫時期を迎えていることが分かる。

その畑では白いシャツにオーバーオールを着こんだ一体のオークが、“フゴフゴ”言いながらせっせと収穫作業を行っている。

近くには大きなワイルドベアが二体、オークを狙うでもなく共に収穫作業に(いそ)しんでいる。

 

時々どこからともなく飛んで来るキラービーとジャイアントフォレストビー。彼らは何故か黒い布製の袋を下げている。

そしてその中にはたっぷりの蜂蜜が詰まった蓋付きの壺が一つ。

飛んで行く先は大樹の側の小屋、そこには大柄な偉丈夫が佇んでおり、蜂たちから蜂蜜壺を受け取ると、キラービーには空の壷とビッグワーム干し肉を、ジャイアントフォレストビーには光属性魔力マシマシ芋汁の入った壺をそれぞれの布袋に入れて手渡すのであった。

 

風がそよぐ、草木が揺れる。ホーンラビットが木々の合間をピョコピョコ移動し、草を食む。

森では世間の騒がしさなど知った事ではないとばかりに穏やかな時間が過ぎて行く。

秋の深まり、動物も魔物もやがて来る冬に備え、忙しなくもゆったりとした生活を送るのであった。

 

「うん、これだよね。ザ・田舎暮らし、辺境のスローライフ。

凶悪な魔物に襲われる事もない、日々の暮らしに困る事もない、まさにファンタジー。

ブー太郎の奴俺よりもよっぽどいい暮らししてやがるし、まさにファンタジー系スローライフ物語の主役じゃん!

『転生したらオークでした。森に引き籠ってのんびり畑でも耕します』って奴じゃん。

お肉はビッグワーム干し肉があるしホーンラビットもいるし、野菜は土地柄とビッグワーム肥料の相乗効果で人里なんか目じゃないくらいに育っちゃってるし、収納は魔力依存型の収納の腕輪があるし。

パーフェクトじゃん。

ちょっとブー太郎、その位置代われ!!」

 

“フゴフゴブヒ~!”

突然理不尽な言いがかりを付けられ追い掛け回されるブー太郎。

“そんなこと言われても~”と言って逃げ回るブー太郎の言い分は正しい、正しいんだけどね、なんかムカつく。

あっ、どうも、村では“理不尽”って二つ名で呼ばれてます、田舎者のケビンです。

今日は久々に御神木様のところの結界にお邪魔したんですけどね、なんかのんびりスローライフを送ってるブー太郎にムカつきまして。

アイツズルくね?

確かにブー太郎の望みが畑仕事をしながらのんびり暮らしたいだったよ?その望みは全力で叶えたよ?森のお店屋さんって役割もあったしね。

でもさ~、何でブー太郎が俺の望む田舎暮らしを満喫してるのさ~。

 

森の中にひっそりと佇む大樹の下、雰囲気のあるログハウスに広い畑、台所に調理器具完備。ベッドに暖かお布団(中綿はホーンラビットの毛)、夏場は藁の布団にキャタピラーの攻撃糸製の掛布。

細々と欲しいものが出たら近所のダンジョンショップで購入。

このダンジョンショップ、魔石でお買い物が出来ます。

魔石を手に入れる方法は二つ、一つは野菜やホーンラビットといった物を買い取りして貰う方法。もう一つはダンジョンで魔物を倒して手に入れる方法です。

ダンジョンには物理特化エリアと魔法特化エリアがあり、物理エリアでは物理攻撃でしか魔物が倒せず、魔法エリアでは魔法か魔力を使った攻撃でしか敵が倒せない仕様になっています。

魔石は探索が終わった際に受付で受け取れる仕組み、誰が何体倒したといった情報はダンジョン側で管理する親切設計です。

このダンジョンシステム、ブー太郎や良狼が“魔石が小さくて拾えない”といったクレームを出した事から行われた変更らしいです。

 

そんな感じで様々なグッズが手に入る様になったブー太郎氏、台所には魔道コンロがあったりします。

・・・負けた、文明レベルで負けた。

く、悔しくなんかないんだからな~!!

森の皆さんとダンマスたちが仲良くやってる様で何よりです。

 

 

「御神木様、お久し振りです。漸くゆっくりと時間が取れる様になったんでお伺いしました」

「うむ、ケビン、久しいな。最近マルセル村の方も何かと騒がしくなっているようだが、人が増えたのか?

村が栄える事はいい事ではあるが」

 

「はい、現在領主の屋敷の建設のため多くの石工が滞在しているのと、戦争の煽りで逃げてきた難民を受け入れたのでそのせいかと。

その内落ち着くとは思うんですが。

それと今日はメイプリー様から頂いた眷属の種を植えようかと。モノがモノなのでやたらな場所に植える訳にも行きませんし、御神木様の結界領域内が一番いいのかと思いまして」

 

「あぁ、それは構わんが、メイプリー殿の眷属であれば根が絡まぬように少し離れた場所が良いだろう。

であればジャイアントフォレストビーの巣がある辺りが良いだろう、あの辺は大森林の浅層、土地の魔力も濃い故な」

 

御神木様の言葉になる程と納得する俺氏。

御神木様に良く礼を言うと、早速ジャイアントフォレストビーの女王様にご挨拶に向かう為、B子さんに業務連絡を入れるのでした。

 

「B子さん、この辺でどう?邪魔にならない?」

“ブブブブブブッ”

 

女王様にご挨拶をし、手土産の大甕に入った光属性魔力マシマシ芋汁を進呈、甘木の植林を打診するとすぐに良いお返事をいただく事が出来ました。

まぁジャイアントフォレストビー側としても直ぐ側に甘木汁の供給先が出来るのはウエルカムでしょうからね。お互いに利益のあるお話と言ったところだったのでしょう。

 

俺は早速周囲の樹木を伐採、小学校の校庭くらいの広さの開けた土地を作り触腕を使い根っこを除去、範囲指定を行い土属性魔力を地下十メートルほどまで染み込ませ<破砕>を行いました。

これでこの指定範囲に岩が埋まっていようとも粉々に砕けて砂利程度になっている筈です。

次に夏にシリアル湖で作って収納の腕輪さんに仕舞い込んでおいた光属性魔力マシマシウォーターをドバドバと。

最後に不良在庫の危険物、ポーションビッグワーム肥料を万遍なく振り掛けて準備完了。

 

「それじゃ種を植えるけど、一気に成長すると思うからB子さんはどこかに掴まっててね」

“ブブブブッ”

俺の言葉にパイルダーオンなさったB子さん、隊長さんと言いB子さんと言い、頭の上が好きだよな?掴まり易いんだろうか。

 

広場のど真ん中に穴を開け、メロンくらいの大きさのドングリを置いたらササッと土を被せ、急ぎ離脱。

フキの葉っぱを持って周囲で踊らないのか?そんな余裕はございません。何故なら・・・。

 

“ポコンッ”

そんな擬音と共に地面から顔を出したドングリの若葉、次の瞬間。

‟ニョキニョキニョキニョキニョキニョキニョキ”

地面から這い出しウネウネと伸びる幾重もの根っこ、太く大きく天に向かい伸び進む幹、グングンと太い横枝を何本も伸ばし、その先からは若葉が芽吹き、大きく葉を広げる。

俺は急ぎ光属性魔力マシマシウォーターを散水し、若木の成長を助けます。

 

「やぁ、初めまして。ようこそこの聖なる大地へ。

俺の名はケビン、ケビン・ドラゴンロード。

俺の事はメイプリー様から伺っていたりするのかな?」

‟ワサワサワサワサ”

 

俺の問い掛けに枝葉を揺らし応える甘木の大樹。流石眷属、事情を分かってくれている事は本当に助かります。

 

「ここは御神木様の結界領域内になるから、その内御神木様もお見えになると思います。その時はよく話を聞いて下さい。

それと君の呼び名だよね、甘太郎(かんたろう)でどう?

親しみを込めてみたんだけど」

‟ワサワサワサワサ”

 

「いいんだ、そうなんだ、なら良かった。それじゃ甘太郎、これからよろしくね。

甘太郎が落ち着いたら甘木汁を貰いに来るから。

後こちらジャイアントフォレストビーのB子さん、直ぐ側にジャイアントフォレストビーの巣があるから仲良くしてね」

‟ワサワサワサワサ”

 

どうやら甘太郎も落ち着いた様子、俺はホッと胸を撫で下ろすと共に、これから始まる甘味ライフに顔をニヤケさせるのでした。

 

―――――――――

 

暗い闇に覆われた影空間。周囲の岩に生えたヒカリゴケに淡く照らされた一軒の洋館。

 

‟コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

廊下に響く靴音、手に持つ照明の魔道具に照らされた薄暗いその場所を、一人の青年が歩を進める。

 

‟コツンッ、コツンッ。カチャッ”

目的の場所に着いた彼は、目の前の扉のドアノブに手を掛ける。

開かれた扉、その部屋の中央の台座の上に置かれたモノ、それは大きな卵型をした何か。

 

「お待たせエッガード、今日も訓練に励もうか」

‟ゴトゴトゴト”

 

声を掛けられた卵型の何かはまるで青年の言葉に応えるかのように、台座の上でゴトゴトと身を揺らすのでした。

 

降り注ぐ光、見渡す限り何もない広い草原。

そんな場所に一人佇む青年。そう、青年。枕詞に‟小柄な”が付かなくなった青年ケビン君であります。

まぁね、村の男衆に比べたら小さくはあるんだけれども、一応青年と言ってもいいんではないんだろうかってくらいの背丈にはなりましたし?

もう少しで母メアリーやエミリーちゃんにも追い付きますし?

って言うかエミリーちゃん伸び盛り?ミランダさんより少し小さいくらいって、母メアリーと変わらないくらいって。

この国的にはそれでも少女なんだろうな~。少女と女性の違いは身体付き?背丈ではないのは明らかでしょう。

その辺の区別って難しいよね、どこに地雷が埋まってるのかなんて分からんし。

まぁそんな訳でってどんな訳だか分りませんが、それなりに背が伸びたって訳です。

周りからなんと言われようと、自分からは‟小柄”って言わないからな!!

青年ケビン十四歳、来年‟旅立ちの儀”が終わったら成人ですからね!

 

それは置いといて、何をやっているかと言いますと、エッガードを使った訓練ですね。

最強の生物防壁エッガード、どれくらい凄いかと言いますと、ドラゴンが踏もうが尻尾で叩き潰そうが割れません。(最強生物情報)

試しにかなり本気でぶん殴ってみたんですが、びくともしませんでした。調子に乗って大福との模擬戦で触腕で掴んで盾代わりに使ってみたんですが、どんな衝撃だろうが無問題、それどころかその衝撃を吸収しちゃうって有能振り。

更に更に魔法攻撃に関しては黒鴉さん並みの吸引性能を発揮して全て吸い取っちゃうんですね~、これが。それじゃなんで触腕で掴めるのかって矛盾もあるんですけど、どうもエッガードさん、薄っすらと自我が芽生えて来た様でして。

 

あれは遡る事二月前、ゴミ屋敷の掃除から戻りエッガードと干物騎士をどうしようかなと思っていた時の事です。

エッガードと干物騎士、一応生きている扱いなんで収納の腕輪には仕舞えず、かと言っていつまでも影空間の豆腐ハウスに置いておくのもな~と思っていたある日。

 

「お~い、エッガード~、元気して・・・」

そこには巨大卵のエッガードに抱き付く様にして倒れ崩れている干物騎士の姿が。何が起きたのかと近寄るもピクリとも動かない干物騎士。

この干物騎士、多重の呪いにより死ぬことも出来ず、さりとて思考する事すら出来ず、呪いの解呪即死亡というとんでもない状態になっていた御方なんですが、これって所謂呪い人形と呼ばれる状態なんだそうです。月影曰くここまで手の施しようのない完璧な呪い人形は初めて見たとの事、取り敢えず目を覚ますまではこのままにしておこうという事になってエッガードと一緒に影空間の豆腐ハウスに寝かせておいたものだったんですが。

 

状況としては干物騎士が目を覚ましていつもの如くドラゴンに挑みに行こうとした所、すぐ側にドラゴンの気配漂う大きな卵。思わず掴み掛ったところで何かがあったって所でしょうか。

俺は急ぎ月影を呼び、干物騎士の状態を見てもらいました。

 

「ご主人様、残念ですがこちらの騎士様は完全にお亡くなりになっておられます。魔力反応、生命反応が見られず、呪いの気配もございません。

解術されたと言うより呪いそのものが消えてしまったものかと」

 

月影の言葉に、最強生物の言葉を思い出す。

“ふむ、見た感じ特に問題はなさそうではあるのだがな。周辺魔力もしっかり吸っておるし、死んでいる訳でもなさそうではあるのだが”

そう、この卵は周辺の魔力を吸っている、そして今でも吸い続けている。

俺はおもむろに左の掌を卵に添えて闇属性魔力をマシマシマシマシ状態で注ぎ込む。

‟スーーーーッ”

何の抵抗も無くキレイに吸い込まれて行く魔力。

光属性、火属性、風属性、土属性、全ての属性が全く問題なく、と言うより吸い込まれるかの様に卵の中に消えて行く。

 

「どうやら干物騎士の呪いは全てエッガードに吸い尽くされちゃったみたい。これってある意味最強の強制呪い解術アイテムになるのかも」

呪いとは闇属性魔力の一形態に過ぎない、であるのならその闇属性魔力が無くなれば呪い自体維持する事が出来ない。

呪いにより生かされ続けてきた騎士は、呪いの消失と共に天に召されてしまったのでした。

 

「よーし、大福、ガンガン行くぞ~」

‟ポヨンポヨンポヨン♪”

 

ここは最強装備のリュックの中、精霊の庭。どれだけ暴れようとも周囲に一切迷惑を掛けない最高のトレーニング施設。

 

「行くぞ、エッガード。防御は任せた!」

‟ゴトゴト”

 

最強の盾(疑似的に浮かせてます)を手に入れた俺は、仮性心を擽る戦闘スタイルを確立すべく、今日も最強スライムに戦いを挑むのでありました。

ファンネル(無線遠隔操作兵器)はロマン!!




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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