何でこうなったんじゃか。
「それではボビー師匠、冒険者ギルドに行ってまいります」
「うむ、ディアの事じゃから心配ないであろうが、他の冒険者に絡まれたからと言って無暗に叩き潰すでないぞ?
要らぬ諍いは面倒事を引き寄せるでな」
領都教会でのディアの“旅立ちの儀”と、冒険者ギルドでの冒険者登録は無事に終わった。
最高司祭を務めるメルビンの奴には「ついに一人寂しい老後に耐えられなくなったのか?」と散々揶揄われたが、ディアの鑑定結果を見るや目を見開いて驚いておったわい。
まぁ“授けの儀”と違い“旅立ちの儀”は学園に通えだのと言った話とは無縁。その情報は教会を通じてグロリア辺境伯家と王家には知れてしまうが、アルバート子爵家に仕える騎士の娘と言う立場がある為やたらな接触もあるまいて。
<鑑定書>
名前:ディア・ソード
年齢:十五歳
職業:聖騎士
スキル
剣術 盾術 剛腕重壁 魔力支配 気配察知 気配遮断 精神耐性
魔法適性
風 土
準貴族であると言うよりも、メルビンの奴が気を利かせて行いよった人物詳細鑑定。まぁディアの出自の件もあるで致し方なかったとはいえ、この称号はあまり人には見せれんな。メルビンの奴も眉間の皺を揉んでおったくらいじゃからな。
これとは別の通常の鑑定書も出して貰っておるで、冒険者登録自体は問題なく行う事は出来たがの。
冒険者登録は鉄級から始まり、銅級、銀級、金級と進んで行く。
鉄級から銅級に上がるには癒し草の納品依頼を五回、街の雑用依頼を三件熟す必要がある。
癒し草は一回三束、予め用意した十五束を納品して終了。雑用依頼はその日の内に二件、翌日に一件熟し無事に銅級冒険者となる事が出来た。
銅級から銀級に上がるには一年間の内の討伐実績と街の雑用依頼のポイントの加算が必要である。ゴブリン二十体、ホーンラビット二十体、グラスウルフ五体、これは討伐依頼を受けてもいいし素材として解体所に納品するだけでもいい。
討伐分の魔物は領都に向かう最中に既に狩っておいた物を納品、残すところは街の雑用依頼だけとなっていた。
「はい、なるべく魔力と気配を抑え、目立たぬ様に依頼を熟して行こうと思います。ただ女性冒険者はどうしても絡まれますのでその時は・・・」
「まぁそれは仕方がないわい。その代わり有無を言わさぬように一発で仕留めるんじゃぞ?圧倒的な力で仕留めれば周りも文句は言わん。ただし覇気は禁止じゃ、魔力纏いもじゃ。あくまで素の技術で仕留める様に努めよ、よいな?」
「はい、では行ってまいります」
そう言い宿屋の部屋を出て行くディア。心配のし過ぎではあるがどうしても口に出してしまう、これが親の気持ちと言うものなのであろう。
ディアが銀級冒険者になる為に一番手っ取り早いのがここ領都で依頼を受ける事。魔物の討伐は別にして、街の雑用依頼の件数は人口の多い領都が圧倒的に多い。地方都市であるエルセルでちまちま依頼を熟すよりも、余程早く銀級冒険者昇格試験の受験資格を得る事が出来る。
ディアの事であるから一月もすれば銀級冒険者に昇格しておるであろうし、その間の領都滞在許可はアルバート子爵様に願い出ておる。
畑はジェイクたちが引き受けてくれておるし、シルビア殿たちも手を貸してくれておる。儂は何の憂いも無く領都を楽しむつもりでおったのじゃが、まさか冒険者ギルドでケイトに掴まるとは思いもせんかったわいて。
犬も歩けば棒に当たる、ましてや“剣鬼ボビー”の名は領都中に知れ渡っており、ケイトに掴まっていなくとも何らかのトラブルに巻き込まれていた事は必定。
白金級冒険者となり世間の煩わしさから辺境の地マルセル村に引き籠っていた嘗ての剣聖は、すっかり世間から遠ざかりホッとしていたのもつかの間、再び表舞台に引き摺り出された。
だが辺境暮らしで自身の価値を放り投げてしまった老人は、未だ周囲の人々の注目に気が付く事がないのであった。
―――――――――――
「これはこれはボビー・ソード殿、当学園へようこそお出でくださいました。私は学園長を務めておりますマルセリオ・サルバドールと申す者、何卒よろしくお願いいたします」
そこは歴史を感じさせる建築物であった。石造りの重厚な正門、多くの将来有望な生徒が集うこの学び舎は、ここ領都の象徴ともいえる場所であった。
そんな学園の正門にずらりと並ぶ教職員たち、そのあまりの歓迎ぶりに腰の引けるボビー師匠。
「いや、皆さんの歓迎は大変ありがたく思うのじゃが、儂は一介の老人じゃで、そこまでの歓迎をしていただく程の者でもないわいて」
ボビー師匠は恐縮しながら言葉を返す。
「いえいえ、何を仰いますか。元白金級冒険者‟下町の剣聖”ボビー殿、その英雄譚は未だ色褪せる事なく私共の心に息づいておりますじゃ。
そのボビー殿が今再びアルバート子爵家の騎士として立たれた。
“剣鬼ボビー”、そのご活躍が私らの世代にどれ程の勇気を与えて下さったか。その様な御方にお越し願えるなどまさに夢の様でございます。
本日は何卒よろしくお願いいたします」
“ザッ”
学園長に従う様に一斉に頭を垂れる教職員たち。“剣鬼ボビー”、その名は“下町の剣聖”の英雄譚を聴いて育った世代にとってはヒーローそのものであり、同年代の者にとっては自分たちの世代の憧れであった。
そんな大スターが生徒たちの指導の為に訪れる、これに興奮しない者がいるのだろうか?
“ウグッ、儂は早まったのかもしれんの~。
まぁいいわい、今日はケイトたちの訓練を少し見て、二~三言葉を掛ければお仕舞じゃろうて。メルビンから飲みに連れて行けと言われてもこれを理由に断れるじゃろうし、のんびりさせてもらうとするかの”
この時のボビーは知らなかった、領都における自身の知名度と言うものを。ローランド王国内の治安が内戦で乱れる中、武勇を誇る自身がどれ程の評価を受けているのかという事を。
「「「「「ボビー師匠、本日はよろしくお願いします」」」」」
場所は変わって学園の武術訓練場、その場に待つ若者はケイト、アレン、ベティー、ローズ、ミッキー、その他大勢の生徒達。
「・・・のう、ケイトや。ちと人が多くはないかの?
儂はお主らのこの半年の成果を見るものだとばかり思っておったのじゃが」
「ん、ボビー師匠は大人気。本当はもっと大勢の生徒がボビー師匠の教えを受けたがっていた。
でもそれだとボビー師匠の迷惑になると学園長が仰ってウチのクラスの人間だけが訓練を受ける事になった」
そう言いドヤ顔をするケイト。
「ふむ、ではこの周囲を取り囲む生徒たちはなんであるのかの?」
それは武術訓練場を取り囲む多くの観衆。そこには訓練を受ける事が出来なかった多くの生徒たちが、一目ボビー師匠の姿を見ようと集まっているのであった。
「ん、今やボビー師匠の人気は天井知らず。お陰で干し肉の売れ行きは絶好調、今日はお客様の為にも頑張っていただきたい」
そう言いウンウン頷くケイトに、“こ奴益々ケビンに似て来てないかの?ケビンが二人に増えたら誰が
「おいケイト、いくら師弟関係だからって“剣鬼ボビー”様に対して馴れ馴れし過ぎるぞ。こちらは教えを受ける身なんだ、礼節を持って接するのが常識だろうが!
ボビー・ソード様、本日は我々が我が儘を言いご迷惑をお掛けしたこと大変申し訳ございません。
ですがこのような機会が今後あるとも思えず、多少強引ではありますがこの場をお願いしたものでございます。
どうかその広い御心を持って私達にも一手ご指導をお願いいたしたく存じます」
「「「「どうかよろしくお願いいたします」」」」
そう言い深々と頭を下げる生徒たちを前に、ボビーも嫌とは言えず了承の意を示す。
「ん、流石“ツッコミのハリー”、すかさず割って入るその手腕、いい仕事をする。是非マルセル村に仕官していただきたい」
「だ~か~ら~、その“ツッコミのハリー”ってのをやめろ、“ツッコミのハリー”ってのを。大体俺はバーナード様の付き人なの、ヘルマン子爵家にお仕えする身なの!
と言うかバーナード様に見捨てられちゃったら仕官先が無くなって大変なの、三男坊の俺に行く当てなんてないの、必死なの!
だからお願い、その“ツッコミ”って止めて?こっちは死活問題なのよ?このお話が無くなっちゃったら家族からどんな目で見られるのか分からないのよ?
ケイトもどうしても俺に来て欲しいとかって訳じゃないんだろう?」
そう言い懇願するハリーに首を横に振るケイト。
「“ツッコミ”は未だ自身の価値を理解していない。“ツッコミ”のツッコミは名人レベル、“ツッコミ”を欲しがらない“ボケ”は存在しない。
でもこれは恋愛感情とは別、私には既に心に決めた相手がいる。この絆の腕輪がその証拠。
だからハリーの想いには応えられない、本当にごめんなさい」
「そうか、ケイトは前からそう言ってたもんな、幸せになってくれよって違うから!!
なんで俺がフラれた事になってるの!って言うかこの流れ前にもあったよね!?去年の長期休み前にもこんなことしたよね?
あの後散々揶揄われたんですけど?俺告白した事ないんですけど?というかいまだに彼女が出来ないんですけど?
これってケイトが俺の事揶揄うのが原因じゃないの?」
「あっ、それは申し訳ない。お詫びに誰かいい人を・・・本当に申し訳ない」
「って諦めるのかよ、そこは頑張ろうよ、ケイトってそれなりに顔広いじゃん、友達だって多いじゃん、一人くらい紹介できる相手がいてもおかしくないじゃん!」
「ん、友達はいる。・・・申し訳ない」
「んだよ、何でそこで俺の顔を見てから謝るんだよ、顔かよ、やっぱ顔が原因なのかよ。
ってか周りの奴らはなんで憐みの視線を向ける?
声を掛けた途端視線を一斉に逸らすの止めて?それ結構きついのよ?」
何やら言葉の掛け合いを始めたケイトと男子生徒の様子に、呆気にとられるボビー師匠。
「ケイトや、そ奴は一体何者じゃ。ケビンに匹敵する話術の持ち主なんぞ初めて見たぞい」
「ん、“ツッコミのハリー”、ヘルマン子爵家の至宝、バーナード様が羨ましい」
「ほんにの、あれほどの対応力、アルバート子爵様が見たら即お声を掛けられるじゃろうて。
ハリーとやら、その才能、大事にするんじゃぞ?」
そう言い感心するボビー師匠に、同意の頷きを示すケイト。
そして“剣鬼ボビー”に直接お声掛けをいただいた事で、“ツッコミのハリー”の二つ名は学園において不動のものとなる。
ハリーはその後教職員からも“ツッコミ”の愛称で呼ばれる事になり、人材スカウトの場でも笑顔で迎えられる様な学園一の人気者となるのだが、今のハリーはその事を知る由もないのであった。
「さてそれではどうしようかの、今の状態も分からんし先ずは軽く打ち合いでもしてみようかの」
ボビー師匠はそう言うと、おもむろに愛用の木刀を構える。
「ケイト、アレン、ベティー、ローズ、ミッキー、好きに攻めて来るんじゃ。暫く経ったら儂からも攻めるで受け流してみせい」
“バッ、バコバコバコバコ、スパンスパンスパンスパン、ダダダダダダダダダッ”
若者たちによるなんの躊躇も無い連撃、交わり、切り返し、受け流す。高速で行われるその攻防に、その場にいた者達は唯々己が目を疑う。
自分達は選ばれた者である、有用な職業を授かり、日々の研鑽すら怠らずに行って来た。そうして培われて来た自信と誇りが、砂の城の様に崩れ去って行く。
今自分たちが見せられているモノはなんだ!?
剣鬼ボビーが高速の打ち込みを見せる、瞬間の体捌きを見せる、それはいい、それならばまだ納得出来る。だが今それを行っているのは自分たちと同じ学園の生徒、そして剣鬼ボビーはそんな有り得ない程の攻撃をスライムに腕押しとばかりに軽く捌き切る。
彼我の実力差は明らか、そしてそんな彼らと自分たちの差もまた隔絶したもの。
「ではこちらからも行くとするかの」
“タンッ、ドドドドドッ”
瞬間、打撃音と共に吹き飛ぶ四人の若者。その中ただ一人受け切ったケイトだけが、ボビー師匠に向け長杖を構える。
「うむ、今の打ち込みを受け切るとは。ケイト、中々に腕を上げたのではないかの?」
「ん、ボビー師匠も凄い。魔力の起こりを一切見せなかった。
私はその領域にはまだ達していない」
そう言い長杖を下げ一礼をするケイト。
「イヤイヤイヤ、お主十分おかしいからの?ジミーやジェイク、エミリーたちと違って殆ど武術の経験のなかった者が僅か二年でその領域に達している事自体異常じゃから。
お主の実力は既に現役金級冒険者と遜色ないからの?
更に言えばお主は闇属性魔導師じゃからの、体術で金級冒険者に比肩する魔導師なんて聞いた事ないからの?」
呆気にとられ静まり返る武術訓練場、そんな中よく分からないと言ったキョトンとした表情を向けるケイトに、“ケビン、お主一体ケイトに何を仕込んだ~!!”と叫びたくなる気持ちをグッと堪えるボビー師匠なのでありました。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora