転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第377話 村人転生者、従業員人事を行う

マルセル村の一角、ケビンの実験農場と呼ばれるそこは、ここマルセル村の中でも特別変わった場所である。

綺麗に耕作され雑草の取り除かれた美しい畝の畑、その脇に立つ一軒の小屋。小屋の側には井戸が作られ、水仕事が行えるように洗い場が(もう)けられている。

小屋の脇に作られた木板の日除けの下にはフォレストビーの巣箱が置かれており、季節に合わせて脇板を取り付けられる様に工夫がなされている。

ここまで見ると一見普通の田舎の風景の様に見える。

 

“ピョコンッ、ピョコンッ、キュキュキュイ?”

““““キュイ、キュキュキュイ!””””

 

そこには多くのホーンラビットが集い、己の仕草や毛並みを入念にチェックし、日々可愛さを求め研鑽に励む。

 

“クワックワックワッ!シュタンシュタンシュタンッ”

 

覆われた塀の向こうでは、十数羽と言うコッコがアスレチックと言う名の修練場で己が技量を高め合っている。

 

「おはようございます。日々の生活を恙無く執り行う事もまた、使用人としての仕事であり訓練です。今日も一日頑張りましょう」

「「「「はい、月影メイド長」」」」

 

そんな農村風景には似つかわしくない程こじゃれた洋館では、使用人たちが朝の挨拶を行っている。

 

““スルスルスルスル””

““キュキュクワッ、クワックワ””

秋の収穫を終えた小型の地龍の様な魔物と人型の龍の様な魔物が、冬場の畑の利用方法について話し合う。

 

何も知らない者が見れば思わず頭を抱えてしまいそうな混沌とした場所、それがケビンの実験農場なのである。

 

そんな不思議な場所の主であるケビンは、庭先に置いてある切り株を加工して作った丸太椅子に座り、お茶を飲みながらボーっと空を眺めていた。

 

「ケビン君、どうしたんです?珍しくボーっとして」

畑の小屋に住み暮らす女性、エルフ族のアナスタシアは「お隣、失礼しますね」と声を掛け、木製テーブルに小皿に盛り付けた摘みを置く。

 

「小麦粉とフォレストビーの蜂蜜を練り合わせて作ったお団子を、平たくしてから蒸してみました。蒸すという調理方法は初めてでしたので上手く行ったかどうか不安だったのですが、それなりの出来だと思いますよ?」

 

蒸し料理、それは扶桑国や大陸の東の地域で行われる調理技法であるとか。アナスタシアが“何か変わった調理方法はないか”と鬼人族の蒼雲に伺った際に教えてもらったものらしい。

本場扶桑国では竹製のせいろを使ったせいろ蒸しと言うものが主流らしいが、この辺には竹が無い為木製の四角い角せいろと呼ばれる物を作り、専用の蒸し鍋を作って様々な調理に挑戦する事となった。

 

「モチモチする食感、甘味が広がって美味しいと思います。

ただ、これをたとえば生地を何重にも折り畳んでみたりすれば食感が変わって楽しいかも、間に隙間が出来る事でふわふわしたものになるかもしれません。

それと一度練り込んだ生地をしばらく置いて馴染ませる、寝かせるとでも言いましょうか。そうする事でより美味しいものになるかと。これはパン作りの時の技法ですね、領都のパン屋さんで教わりました」

 

ケビンはそんな感想を答えながら、モチモチとした小麦団子を味わう。少し涼しさの増した空気が、緩やかな風となって頬を撫でる。

 

“ズズズズズズッ”

独特の風味が広がる偽癒し草の煮出し茶が、穏やかな秋の陽気に良く似合う。

 

「ところでさっきからボーっとしてどうしたんです?何か悩み事があれば聞きますよ?

解決できるとは言いませんが、人に話す事で解決の糸口が掴める事もあると言いますし」

アナスタシアは自身の湯呑に口を付け、静かにお茶を楽しむ。

 

「いえ、悩みという程の事も無いんですけどね、うちも大分魔物や人が増えたなと思いまして。

前に王都から来た貴族が緑と黄色、それと大福を寄越せって騒いでひと騒動起きた事があったじゃないですか?

あれじゃないですが、マルセル村が魔物の里とか呼ばれて異端審問とか掛けられないかなって少し心配で。

 

人って面白いですよね、利用出来るもの、脅威度の低いものは恐れない。例えばスライムです、領都や王都の様な人口の多い街には下水道と言う施設があって、そこでは排水に含まれる汚泥目当てにスライムが大繁殖する事があるそうです。

普通魔物の大繁殖と聞けば恐慌に陥りそうなものですが、領都や王都の住民は誰もそれを怖がらない、迷惑だなと言ったしかめ面はするらしいですが。

かと思えばビッグワーム。

無害の代表の様なビッグワーム、ビッグワームプールにいる様な蛇くらいの大きさの物だったら誰も恐れはしない、でもこれが緑や黄色ほどの大きさになったら恐怖の対象です。その食性に全く変化がなくとも大きいというだけで怖い。

 

もっと面白いのがホーンラビット牧場やコッコ飼育場、森の悪魔と謳われるホーンラビットを安全に飼育出来る環境を整えただけで可愛いと言い始める人たちがいる。

コッコだってまだ見慣れてないからそうでもないですが、その内可愛いと言い始める人が出るんじゃないんですか?フィリーちゃんとディアさんは飼い始めちゃいましたし。

 

馬だって普通の馬と馬系魔物を掛け合わせた魔馬と呼ばれる品種が存在する。これはテイムした馬系魔物、例えばケルピーやユニコーンなんかと普通の馬とを交配させて作ったりしたんですよね?

今は魔馬同士を交配させたり魔馬と普通の馬を交配させて数を増やしているみたいですが。

南東部地域では酪農と言うものが行われていて、そこでは犬も飼われているとか。実際にその現場を見た事がないんで何とも言えませんが、そこでは魔物由来の大型家畜が飼育されてると思うんですよ」

 

ケビンはそこで一旦言葉を切る。

そして暫く真剣な顔をした後で「そうだよ、南東部で酪農やってるって話があったじゃん。あの時は犬が飼いたくて調べてたけど、よくよく考えれば南東部に行けば牛乳か羊乳、チーズやバターが手に入るかもしれないじゃん!」と呟き出す。

 

「あっ、すみませんでした。ちょっと気になる事があったもので、話を戻します。

 

そう考えると人と魔物との関係は酷く近しいものだと思うんです。

でも怖い、分かっていても魔物が怖いと思うのが人の常。飼育し利用できる、食べる事が出来るものは怖くない。それ以外は怖くて仕方がない。

都会の下水道にいるビッグラットが恐れられているのがその証拠でしょうね、ゴブリン並みに嫌われてますし。

 

そんな中魔物と暮らす村がある、家畜ではなく労働力として。

シルバーたちは魔馬ですから問題ない、団子たちもギリギリ大丈夫かな?近頃は愛玩動物の訓練も進んでますんで。

コッコは家畜、飼育場から出ない限りは大丈夫かと、角無しホーンラビット達もそうですね。

 

最近良狼たちグラスウルフ隊が大きくなっちゃいましたからね~。観光客や冒険者が最初驚くんですよね~。ブー太郎や熊親子、緑や黄色、ヒドラモードの大福なんかは論外ですね。

こないだの冬場もそれでよく冒険者をぶっ飛ばしたんですよ、街道整備の邪魔でしたから」

 

可愛い魔物とのふれあい、旨い魔物肉の食べれる辺境の地マルセル村。

魔物蔓延る魔境、大森林に最も近い村、マルセル村。

どちらも事実であり人の見方次第。

食生活の充実の為、お肉様の為に只管頑張って来た。

その結果、お肉様をはじめとした飢える事のない程の食料を手に入れる事が出来る様になった。

だがそれを世間はどう思うのだろうか。

マルセル村の常識は非常識、これはアレン君の言葉だったか。あの寛容なハーレム勇者様がそう仰るのだから相当だったのだろう。

 

“ズズズズズズッ”

湯呑に口を付け、摘みをいただく。澄んだ空には、ビッグクローが悠然と羽を広げる。

 

「あまり深く考えなくてもいいと思いますよ?」

ケビンの隣で静かにお茶を楽しんでいたアナスタシアが、ポツリと呟く。

 

「以前も話しましたが、私はエイジアン大陸の遥か東、エルフの住む地域の出身です。太い木々に囲まれた森の中の集落、“森の風の里”というのが私達の住まう地域の呼び名でした。

でもその地は失われた、普人族の人狩り、男達は戦い女と子供は各地に逃げて行った。

エルフ族の中ではまだ歳若とされた私は逃げた、彼らの目当てが自身であると知っていたから。

ワザと気付かれる様に、少しでも多くの普人族の目を引き付ける様に。

いつか癒して貰った太ももの呪われた矢傷はそうして出来たものです。連中の足止め手段ですね。

 

それからは只管逃亡の日々だった。身を隠し、姿を変え、流れ流れて人狩りの手の届かない土地を求めて辿り着いたのが、西の果てスルベ村とマルガス村の境、スラム地区。

 

食べる物も無く、飢えや喉の渇きに苦しむ事もあった、眠れない日々など当たり前だった。

そんな私にとって、あのスラム地区は唯一安住できる土地だった。

私は同じ様に様々な理由で逃げ延びた者を集め、集落を築いた。人は力、少しでも生き残れる様にする為には必要な事だった。

そんなスラム地区の生活が十数年、突然やって来て私達を救ってくれたのがケビン君だった。

 

ケビン君が人を救うとか正義とか言った思想とは無縁の人だという事は知っています。

ただ出来る事なら平和でありたい、救えるものなら救ってもいいかな?くらいの優しさを持ち合わせている事、そして一度内に入れたのなら無私の愛を注いでくれる事も。

マルセル村の多くの者がケビン君の愛に触れ救われて来た者達、彼らは誰も責めたりしないと思いますよ?

ケビン君はケビン君らしく自由にすればいい。嫌になったら森に引っ込んじゃえばいいんです、それが許されるくらいの事は既にして来たんですから」

 

“コトッ”

アナスタシアはテーブルに湯呑を置くと、話は終わりとばかりに席を立つ。「お昼はホーンラビット干し肉のスープでも作りますね」という言葉を残して。

 

―――――――――

 

うん、完全に外堀どころか内堀も埋められちゃったね。

いや~、アナさん良い女だわ~。なんかこう、懐が大きいというか、落ち着くというか?

在りし日の記憶には‟男は大なり小なりマザコンだ”という格言があったけど、アナさんを見てるとそれも分かるよね、男が家庭に求めるものってやっぱ安らぎなんだろうね。

 

ケイトはケイトで常に同じ道を進もうとしてくれるし、本当何でこんないい女性が俺なんかのことを好いてくれるのかね~?

多少・・・結構危ないくらいに暴走するところもあるけど、最近は二人ともそう言ったところも無いし、これ完全に逃げられないじゃん。

まぁ逃げる気も無いんだけどさ。

 

マイベストプレイス、マルセル村。生涯を過ごす為の準備は行って来た。でもその準備が仇となろうとしている。

だったらどうするか。

考えるまでもない、答えは既に決まっていたんだから。

 

「ありがとう、アナさん」

俺は誰に聞かせるでもなく礼の言葉を呟くと、湯呑を収納の腕輪に仕舞い席を立つ。

 

今後必要になるだろう備えを行う為に。

 

 

「はい、という訳でやって来ました御神木様の結界領域。

御神木様、暫く騒がしくなりますがお許しください」

「うむ、何が“という訳で”なのかは分からないが、これから何かをするという事か?」

 

俺がやって来たのは御神木様のところですね、やたらな所で行えば騒ぎになるのは目に見えていますから。

 

「まぁそうですね、実は従業員たちの中に進化待機状態の者が結構いまして。この際皆まとめて進化させちゃおうと思いまして」

「あぁ、そういう事か。確かにあれは他所で行えば騒ぎになるだろうからな。

私も見ていていいのだろう?魔物の進化は興味深いからな」

 

御神木様の許可はいただけた様ですので、早速進化対象者を呼び出してみますか。

 

「<出張:団子・太郎>」

地面に描かれた魔法陣、巻き起こる風と共に中空より現れたホーンラビット?の団子。

魔法陣から黒い炎が燃え上がる。地面から伸び出る様に現れたブラックウルフの太郎。

団子は周りをキョロキョロ見回し“ここはどこだろう?”と言った顔をし、太郎は暫く辺りを見回した後、俺の姿を見つけるやお座りの姿勢をする。

 

「・・・って言うかデカイな太郎、目茶苦茶成長してない?暗黒大陸ってそんなにご飯が旨いの?」

 

偶に連絡を取り合っていたとはいえ、ここまでの変容振りは想像だにしてなかった。これって大丈夫なの?ジミーが父ヘンリー並みの大男になって帰って来たら流石にビビるんだけど?

以前マルセル村を訪れたゼノビアさんが俺や白の事を子ども扱いした理由が分かった気がする。

多分暗黒大陸の人って皆デカいんだわ。

 

人の成長は食べる物によって決まる。

大きく成長した太郎の姿に、“俺も暗黒大陸に行けばもっと大きくなれるかも”と淡い期待を夢見る、ケビンなのでありました。

 




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