転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第378話 村人転生者、従業員人事を行う (2)

マルセル村のすぐ隣に広がる魔物の領域“魔の森”、その中にある人々の目から隠される様に広がる広大な結界領域。そんな聖域の中心、御神木様と呼ばれる巨大な樹木の下には多くの魔物が集まり、彼らの雇用主である村人ケビンの言葉を聞いていた。

 

「え~、本日皆さんにお集まりいただきましたのは他でもありません、皆さんの中に昇進可能な方々、進化可能な方々がおられるからであります。

と言うか団子、お前はいい加減進化しろ!お前スキル<魔物の雇用主>に昇進可能の通知が来てから一年近く経ってるじゃねえか。

“今のままでも困らないし~、ごろごろしたいし~、出世したら忙しくなりそうだし~”じゃないわ!!お前は出世したがらない若者か!“責任者はイヤでござる”とか言ってるんじゃない!

 

それと太郎、お前本当にデカくなったのね。暗黒大陸スゲーとしか言いようが無いわ。

一応<業務連絡>で確認はしたけど、ジミーの方は今大丈夫なの?どこぞの一族と抗争中?対人戦を楽しんでるから暫く出番がないと。

・・・ジミー大丈夫?えっ、めっちゃバトルジャンキーになってない?戻って来たジミーが極道の人とか狂戦士とかになってたら嫌なんだけど?

でも鬼神ヘンリーの息子ならそれも致し方がないのかな?

う~ん、悩ましい。

 

それとブー太郎と良狼とクマ子とクマ吉、お前らダンジョン潜り過ぎ。ダンマスに提案して新階層を作りまくってるんじゃないよ。全五十階層ってどんだけ大きいダンジョン作ってるのよ、最終階層にはワイバーンが群れで出るって、馬鹿なの?どこのラストダンジョンなの?しかもクリアしちゃったってどんだけバトルジャンキーなの?

森のお店屋さんを御神木様に任せて遊びまくってるんじゃないよ、昇進の通知が来た時はびっくりしたわ。

 

まぁダンマスとコアさんが楽しんでたみたいなんでいいんだけどさ。でもあのフィールド階層って意味が分かんないよね、どう考えてもあんな巨大空間ここの地面の下に作れる訳無いし、それが何階層も続くって有り得ないでしょう。

絶対空間拡張とか別空間との接続とかやってると思うんだよね。ある意味紬が作った“精霊の庭”と同じ?やっぱダンジョンってスゲーわ」

 

今回の昇進対象者は全部で六体、これって魔物の進化的には目茶苦茶ハイペースなんだろうな~、これまでテイマーの人が魔物を進化させてるって話は聞いた事ないし。

でも太郎みたいに人と一緒に狩りに出まくってたら進化条件を満たしちゃったって魔物もいるくらいだし、いない事もないのかな?

世間ではテイマー自体が不遇扱いを受けてるって言う話だし、そうした情報って出回りにくいんだろうな~。

 

「それじゃまとめて昇進させちゃうからここに集まって。体格が変わる場合もあるからそれぞれ間隔を開けてね。

ブー太郎たちは知ってると思うけど、物凄い光が出るから周りを壁で覆わせてもらうよ。<防御城壁>」

“ズズズズズズッ”

 

御神木様の大樹の前の広場に集まった昇進対象魔物たちがそれぞれ間隔を開け並んだのを見届けた俺は、周囲を覆う様に高さ十メートルほどの城壁を作り出す。

 

「それじゃ行くよ~、<昇進:対象:団子・太郎・ブー太郎・良狼・クマ子・クマ吉>」

“ビカーーーーー!!”

 

城壁の向こう側から天高く立ち昇る光の柱、分厚い壁に覆われて尚、上から漏れ出る光ですら周囲を眩しく照らし出す。

いや~、あんなん一種の兵器だわ。戦場で魔物数体を進化させたらそれだけで戦闘が止まるって、失明者多数で戦いどころじゃなくなるっての。この場に集まっていたグラスウルフ部隊の皆さんはしゃがみ込んで前足で顔を覆い、木影からこちらの様子を窺っていたホーンラビットやボアたちは、急いで森の奥へと逃げ帰る。

 

永遠とも思える時間が終わり、光の爆発がゆっくりと終息して行く。俺は作り出した城壁に対し、「<破砕>」と唱える。

“ザ~ッ”

砂粒となって崩れ去る城壁はまるで波打ち際に建つ砂の城の様。

そしてそれは、壁の向こう側に佇む者たちの姿を露にする。

 

““アォ~~~~~~~ン””

遠吠えを上げる二体の獣、片や美しく艶めいた黒い体毛に覆われたもの、片や白く煌めく体毛に覆われたもの。

 

うん、デカイ、しかもこの姿、スゲー見覚えがある。

これってあれだよね、イザベルさんが幻影魔法で作り出すフェンリルの姿そのものだよね。

太郎の方がより神々しい感じがするけど、良狼も十分ヤバいよね。

 

それは金色の毛に覆われた者たち。その瞳は優し気であり理性的、身体を覆う体毛はこれまでの様な鎧の代わりを果たす堅牢な剛毛ではなく、柔らかく滑らかなもの。

““ガウガウガ~~””

二体の獣は大きな身体にも関わらず、お腹を摩り空腹を訴える。

 

・・・おい、お前らその姿はなんだ!お腹を摩りながら“蜂蜜食べたいな~”とか言うな!赤いジャケットを用意したくなるじゃないか!

巨大可愛い系熊さん、思わず抱き付きたくなる愛らしさってヤバいだろう、ベアハッグされたらこっちが死ぬわ!

熊親子の予想だにしなかった方向性の進化に、思わず頭を抱えたくなる俺氏。

 

その者はただ佇む。空を流れる雲を見詰め、風の流れを、季節の移ろいを、世界の真理を感じ取る。

 

“キュキュキュイ”

我思う、故に我あり。

その者は遊ぶ。自然に溶け込み、自然と一体になる事で、己を更なる次元へと引き上げる。

 

うん、団子さん、遂に悟りを開かれちゃった様です。

動きも完全に二足歩行だし、あの掌って物を握れる様になってるよね、今にも杖を握って“フォッフォッフォッ”とか言いそうだし。

身体付きは更に大きくなった?白玉と同じくらい?

 

彼は美しい金色の髪を靡かせその場に佇む。耳はやや尖った大きなもの、顔付こそオーク由来のそれではあるが、知性を感じさせる優しげな瞳はその内面を映し出す。

身体付きは偉丈夫の男性といったものであり、彼の姿を見てオークと断言できる者はいないだろう。

“げっ、服がユルユルじゃん。まいったわ~。

ケビンさんにお願いしてベネットお婆さんに作って貰わないと。

そう言えば紬が作れるようになったって言ってたよな、御神木様に葉っぱを貰って紬に何枚か作って貰いに行くかな。

前にケビンさんに貰った目立たなくなるローブを着て行けば、裸でも問題なく「って駄目だからな、今のブー太郎が裸でうろついたら完全に変質者だから、事案だから。

と言うかなんでブー太郎が念話で話ししてるのさ、さっきから思考が駄々洩れだから。お前ちょっと御神木様に念話の仕方を教えて貰ってこい!」・・・(´・ω・`)”

 

ブー太郎、お前は何処に向かってしまったんだ。

ぶかぶかになった服を掴み、ズルズルと引き摺りながら御神木様の所へと向かうブー太郎の背中を見詰め、“魔物の進化って一体何だろう”と黄昏るケビンなのでありました。

 

“ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ”

「取り敢えず飯だ飯、進化後の空腹は相当らしいからな。

太郎と良狼、クマ子とクマ吉は大森林深層のトカゲの内臓な。

熊親子、蜂蜜は後で出してやるから悲しそうな顔をしない。その顔で見詰められるとめっちゃ罪悪感が湧くから止めて。

団子は御神木様の葉っぱ山盛りで、付け合わせにドラゴンの塒産ヒカリゴケのお浸しを出しといたからゆっくり食べてて。

ブー太郎は深層トカゲ肉のステーキとヒカリゴケのお浸し、光属性魔力マシマシマシマシ蜂蜜ウォーターでも飲んどけば大丈夫でしょう。

後お前、念話出来るって事は口でもしゃべれ“フゴブヒ?”

・・・練習しろ、練習。聞いた話だとオークキングには片言で会話をする個体もいるらしいからな、お前なら出来る。

まぁ今は飯だ、確り食べろよ~」

“フゴブヒ!”

“キュイッ!”

““““ガウガウ!””””

 

収納の腕輪から取り出した餌に頭から突っ込む従業員たち。幾ら進化しようとも、“腹が減ったら飯を食う”という魔物の本質は変わらない。

俺は新たに進化を果たした六体の従業員たちのモグモグタイムを見守りながら、後回しになっていた懸案事項に手を付ける事とした。

 

“ニュ~ッ”

俺の足元の影が横に伸び、そこから大きな卵型の物体が姿を現す。

 

「ケビンよ、それは一体何なんだ?」

御神木様が興味津々と言った顔でその卵に手を向ける。

 

「あぁ、コイツはエッガード、ドラゴンの卵ですね。どうも生まれ付き成長に問題があった個体らしくて、誕生から二千年経っても孵化しなかったらしいんですよ。

でも生きてますんでね、卵型の魔物って事でいいんじゃないんですかね。

あっ、気を付けてください、コイツ周辺から魔力を吸い取りますんで、直接触ると問答無用で吸い付いて来ますから。

それでも最近は俺が魔力を与えてるからか、所かまわずって事はなくなったんですが」

 

俺の言葉に近付けた手を引っ込める御神木様。御神木様の場合人型はただの外部端末だから魔力を吸われたところで痛くも痒くもないだろうけど、やっぱり強制的に魔力を吸い取られる事は抵抗があるのだろう。

 

「お~い、エッガード。今日はエッガードと雇用契約を結ぼうと思います。雇用契約を結ぶと定期的に俺から魔力が送られます。これは普段エッガードに与えてる魔力とは別だから、貰いが増えるくらいに考えてくれればいいかな。

それと<業務連絡>ってスキルが使える様になります。これは俺は勿論、俺が雇用契約を結んでいる魔物同士で連絡を取り合う事が出来る様になります。

どうよ、雇用契約を結ぶかい?」

“ゴトゴトゴト”

 

どうやらエッガードさんはこちらの話が通じた様で、ゴトゴトと了承の意を示してくれました。

 

「了解、それじゃ契約するね。<長期雇用契約>」

俺はエッガードに右手を翳すと、<魔物の雇用主>のスキル<長期雇用契約>を発動。互いの間に何かの絆が結ばれるのを感じるのでした。

 

「さてと、エッガードはこれでいいとして、問題は次ですわ」

“ブワンッ”

 

俺は収納の腕輪から一振りの直刀を取り出す。

“魔剣黒鴉”、遥か東方の島国、扶桑国を恐怖のどん底に叩き落した大怪異‟黒鴉”が封印されし伝説の妖刀。その守護者たる御刀之守(みかたなのもり)の一族の手を離れ、巡り巡って大陸の西、オーランド王国の最果てに辿り着きし封じの御刀(みかたな)

 

「黒鴉、聞こえてるんだろう?ちょっと試したい事があるんだけどいいかな?

お前も知ってると思うけど、俺には<魔物の雇用主>ってスキルがあって、多くの魔物と雇用契約を結んでるんだよ。

それで黒鴉、お前ともその雇用契約が結べたらと思ってるんだけどどうだろう。

幾ら意志があるとはいえ普通は一種の魔道具である魔剣と雇用契約を結ぶなんて事は出来ないかもしれないんだけど、黒鴉って封印されし魔物だろう?

何か出来そうな気がするんだよね。

それで契約すると何が出来るかって言うと、他の契約魔物と<業務連絡>ってスキルを通じて意思の疎通が取れたりします。

聞いた話だとある程度の感覚共有も出来るみたい。

それで黒鴉にはこの<業務連絡>を使ってエッガードに飛び方を教えてやって欲しいんだよね。

エッガードってのはコイツ、ドラゴンの卵。

これは他のドラゴンから聞いたんだけど、ドラゴンやワイバーンってのは魔力を使って飛んでるらしいんだよね。そりゃそうだよね、アイツらデカいし、あんな翼を羽ばたかせただけじゃ飛べないっての。

だからエッガードも黒鴉に飛び方を教われば飛べるんじゃないかと思って」

 

“カタカタカタ、フワッ、クルクルクル”

俺の言葉に宙に浮き、くるくると回転運動を見せる“魔剣黒鴉”。

どうやら了承は得られたようです。

 

「それじゃ行くね、<長期雇用契約>」

“カタカタカタ”

黒鴉との間に結ばれた確かな絆、“我が主殿、感謝申し上げる”という業務連絡が、黒鴉の喜びの気持ちを伝えてくれる。

 

“キンコン♪

<昇進>の条件を達成した魔物が一体確認されました。昇進を行いますか?”

 

突如脳裏に響くスキル<魔物の雇用主>からのアナウンス。

 

「・・・えっと黒鴉、お前も<昇進>出来るみたいなんだけど、進化しておく?」

“!?カチャカチャカチャカチャッ”

 

激しく鍔元を鳴らしてアピールする黒鴉。“魔剣黒鴉”の進化って、直刀から太刀にでも変わるんだろうか?大太刀になったら流石に使い勝手が悪いんだけど?悔しいけど俺ってそこまで大柄じゃないのよ?

 

「はい皆さん注目~。え~、先程こちらの“魔剣黒鴉”と<長期雇用契約>を結んだところ、進化可能な事が発覚いたしました。

ですので今一度<昇進>を行いますので、強い光にご注意ください」

俺はそう言うと広場の中央に魔剣黒鴉を置き、離れてから広い範囲で<防御城壁>を設置した。

確か黒鴉って巨大な鴉の魔物だからね、何が起こるか分からない以上警戒するに越した事はありませんし。

 

「城壁準備良し、それじゃ始めるよ、皆強い光に気を付けて。<昇進>」

 

世の中には過剰なくらいの準備をしていても、それを軽く凌駕する事象が起きる事がある。

そんな事象に見舞われた時、人は己の無力と小ささを思い知るだろう。

暗闇の大海で嵐に見舞われた小舟のごとく、ただ流され、神に祈る事しか出来ないのだから。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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