転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第379話 村人転生者、従業員人事を行う (3)

世界の誕生、それを目撃した人がいたのならどの様に表現したのだろう。

在りし日の記憶にある旧約聖書と呼ばれる書物の創世記にはこう記されていた。

<はじめに神は天と地を創造された。

地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。

神は「光あれ」と言われた。すると光があった。

神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた。

神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である。>

 

辺りを光の洪水が覆い尽くす。十メートルの高さで作った<防御城壁>も、その溢れ出る光の暴力を防ぎ切ることは出来なかった。

俺は慌てて従業員たちの周りに複合生活魔法<シェルター>を展開、シェルター内にはスキル<ポーション生成>と水属性生活魔法<ミスト>を組み合わせて噴射しておいた。

俺は大丈夫なのか?ダメに決まってるじゃないですか。網膜は完全にショート、視神経に残った白色の光の映像が、ずっと残った状態でございます。周囲の状況は魔力支配による魔力感知により補完、蝙蝠が暗闇の中でも羽ばたけるがごとく、脳内処理によって現状を理解しているって感じです。

 

“すみません御神木様、今の状況ってどうなってますかね?俺、目がやられちゃって何にも見えないんですよ。ポーションビッグワームを齧れば直ぐに治るんでいいんですけど、治った途端また失明じゃ目も当てられませんからね。

取り敢えず黒鴉の進化って終わったみたいですかね?”

 

“・・・・・”

 

マジかよ、御神木様からの返答がない。あの光って紬の進化の比じゃなかったみたいです。考えてみれば御神木様本体はあの強烈な発光兵器の影響をモロに受けてるもんな~。植物だって強烈な光を浴びせたらあまりいい事って無いだろうしな、さしもの御神木様も機能停止を起こされちゃったみたいです。

仕方がない、俺は腰のポーチからおやつ用のポーションビッグワームジャーキーを取り出しもぐもぐ。流石ポーションビッグワームジャーキー、徐々に視界が戻って行き、周囲の状況が分かって来る。

辺り一面真っ白といった神様空間みたいな状態は解消されているものの、<防御城壁>の向こう側では未だに強い発光現象が起きているみたい。これってあれだよね、御神木様が進化したときのキラキラと一緒って奴だよね。

 

「お~い、黒鴉~、お前目茶苦茶光ってるから、眩し過ぎだから。その発光抑えてくれない?

このままじゃ眩し過ぎて城壁を取り除けないから~!」

俺の声が聞こえたのか、徐々に周囲に漏れる光が治まって行く。

 

「ブー太郎たち、もう大丈夫だから。念の為にポーション配るから、皆飲んでおいて。<破砕>」

従業員たちを覆っていたシェルターを破砕で取り壊し、中で目を抑えて悶えていた魔物たち一体一体にポーションを飲ませて行く。

 

「御神木様、大丈夫ですか?今ポーションを掛けますんで」

御神木様本体全体を覆うように<結界>を発動、結界内をポーションミストで満たし御神木様を癒していく。

 

「うっ、うむ。ケビンよ、すまなかった。まさか進化という物があれほど強烈なものとは思わなかった。いや、これは黒鴉の進化が特別だっただけやもしれんが。何にしても驚いたぞ。

して、黒鴉はどうなったんだ?」

 

御神木様がショックから立ち直られたのか、人型の御神木様が動き出されます。無敵と思われた御神木様でしたが、本体の方が機能停止を起こすと人型分体も止まっちゃうんですね。

まるで常に通信を行って起動するスマホのAI機能みたい。あれって必要な計算とかってスマホじゃなくってクラウド上で行ってるんだったかな?昔の事だからあんまり詳しく憶えてないけど。

 

「一応進化は終わったみたいです。なんか進化後もキラキラ光ってたみたいなんで、眩しいから光を抑えるようにって言っておきました。

黒鴉~、それじゃ壁を壊すからね~。<破砕>」

“ザザ~ッ”

砂粒となって崩れ去る城壁。その影の向こうから姿を現した、巨大な何か。

 

“バサッ”

その巨大な何かは視界を覆い尽くさんばかりの大きな二枚の翼を広げ、天高く舞い「あぁ、黒鴉、砂埃が立つから飛行はなしで。それとここ御神木様の結界内だから、ここの天井って黒鴉が思っているよりも低いから。それに今の黒鴉が結界の外に飛んでったら大騒ぎになっちゃうから、気持ちは分かるけどちょっと我慢してね」・・・(´・ω・`)

 

俺の言葉に頭を下げてしょぼんとする黒鴉。ってやっぱり封印解けちゃったよ、こうなるとは思ってたよ。

しかも黒鴉、黒くないし。気品漂う白、内から溢れる神聖なる光がより全体の艶やかさを引き立ててるって感じだし。

・・・うん、これは事案だね。

 

「スキル<召喚術:あなた様>発動。“あっ、あなた様、お忙しいところすみません。いつもの奴です、今お時間良いですかね?

今ですか?現場です。直接ご覧になって貰った方が話が早いかと思いまして、はい、はい、では御呼びいたしますので”

<召喚:あなた様>」

 

“ブォッ”

突如地面に広がる巨大なサークル、それは内に六芒星の文様が描かれた魔法陣。その中心の地面が光輝き、ゆっくりと一柱の高位存在を顕現せしめる。

 

“バサッ”

広げられた翼、それは天上に住まう者たちの力の象徴。

その美しくも気高い姿に、地上を這うように生きる自身の矮小さを思い知る。

あぁ、あの御方様こそこの世の美の象徴、知性と理性の守護者にして全ての働く女性の鑑、天界のOL(総合職)、あなた様。

 

“ちょっとケビン、褒めるんだったら最後まで頑張りなさいよ。途中から急に現実感が強くなっちゃったじゃないの。最後の締めなんて天界のOL(総合職)って、確かにそうだけども。

いつもの勢いはどうしたのよ、いつもの勢いはって言うかアンタ疲れてる?目の下に隈出来てるわよ?”

 

「えっ、マジっすか?ちょっと気が付かなかったっすけど、心当たりは・・・ありまくりですね。

直近ではアレですかね」

そう言い俺はある方向に顔を向ける。そこに佇むのはコテっと首を傾げた白色の巨大鴉。

 

“・・・ねぇ、ケビン。あの巨大な鳥の魔物、足が三本あるんだけど”

「そうですね。大きな体を支えるのに二本より三本の方が安定するからじゃないんですかね」

 

“・・・ねぇ、ケビン。あの巨大な鳥の魔物、身体から神気を漂わせてるんだけど”

「そうなんですか?なんかキラキラ光ってて眩しいから抑えろって言って光らない様にしたんだけど、まだ漏れちゃってるんですかね?よく分かりませんけど」

 

“ねぇ、ケビン。あっちにフェンリルが二体もいるんだけど”

「そうなんですか?俺って鑑定のスキルを持ってないからその辺よく分からなくって。あれが物語に出て来るフェンリルなんですか、凄いや、本物は初めて見ました」

 

“ねぇ、ケビン。あそこの可愛らしい熊さんは何なの?ちょっと抱き着いてきていい?私癒されたいの”

「あぁ、それは後にしてくださいね。アイツら蜂蜜持って行けば喜んで抱っこさせてくれますよ?きっと」

 

“後はグラスウルフとホーンラビットってなんかあのホーンラビット、ちょっと大きくない?立ち姿勢が様になってるんですけど。

それとそこの男性は何かの呪いにでも(かか)ってるのかしら?

オークの呪い、人族って本当に質の悪いことするわよね”

「ハハハハ、本当に人族って無茶苦茶しますからね。

でも彼は違いますよ?彼、正真正銘のオークですから。進化したらでっぷりオークから偉丈夫体形になっちゃいまして、服がだぼだぼになっちゃったんで縄で縛ってるんですよ。

進化式ダイエット?新しいジャンルですよね」

 

“これって全部見ないと駄目って奴?帰っちゃ駄目?”

「別に帰ってもいいですけど、俺はちゃんと報告しましたからね?本部長様とかに後から聞かれたら、‟あなた様には報告しました”って言っておきますから。それじゃお疲れさまでした、<送“分かった分かった、分かりましたから。やりますから。どうせ後で報告書を提出しなきゃいけなくなるんだから、きっちり見させていただきます!”・・・よろしくお願いします」

 

俺は恨みがましい目でこちらを睨むあなた様を尻目に収納の腕輪からテーブルセットを取り出し、お茶の準備を始めるのでした。

 

―――――――――――

 

“カチャッ”

若葉の爽やかな香りが周囲に広がる。光属性魔力マシマシマシマシウォーター(熱湯)を注ぎ入れた急須からティーカップに注がれた目にも鮮やかな黄緑色の澄んだ液体は、その香りだけでも疲れ切った心を癒してくれる。

取っ手を掴み口に運ぶ。口腔に広がるほんのりとした甘さ、スッキリとした味わいと共に爽快感が身体を走り抜ける。混乱した心がスッと落ち着き、冷静な思考が戻って来る。

 

“相変わらずこの聖茶は凄いわね。職場でも愛飲させてもらってるわ。特に報告業務の締め切りが迫ってる時はどれ程助けられてるか、デスクワークの効率化が図れたって同僚から感謝の言葉を貰ってるくらいなの。

こっちのお金が下では使えないから現物支給しか出来ないけど、本当にお酒支払いだけでいいの?”

 

「はい、こちらとしても最強生物相手の貢ぎ物の目処が立つんで助かってるんですよ。それにそちらの物はやたらに地上世界には持って来れないでしょうし、持って来たら持って来たで問題が起きそうですしね。

お茶農家さんにはちゃんと現金を渡してますんでご安心ください。それに最近は第二世代のお茶の栽培も始まりましてね、こちらは最初に植えたものと違って普通に美味しいお茶ですんで、地上世界でも流通させられそうなんですよ。そっちの生産が軌道に乗ったら聖茶とマルセル茶とに分けて生産を行っていく予定なんです」

 

俺の言葉に“ならいいんだけど。**#@様も気にされてたからなんかあったら言ってね”と優しいお言葉を掛けて下さるあなた様。

蒼雲さん、どうやら天上の御方が目を掛けて下さるようですよ?もしかしたら“天上のお茶農家”とかの称号が付いてるのかもしれませんね。

 

“フ~ッ、それじゃ気持ちも落ち着いたところで仕事でもしますか。<管理者権限、鑑定、モニター表示>”

 

“ブワンッ”

立体映像の様に中空に現れる鑑定表示画面。そこには目の前の存在、巨大な白い鴉の鑑定結果が現れる。

 

<鑑定>

名前:黒鴉

種族:天魔神鳥

年齢:不明

スキル

魔力支配 重力支配 飛行 空間支配 天魔混合 暴食(魔力) 精霊化 武具化 憑依一体

魔法適性

全属性

称号

混沌より産まれし者 暴食(魔力)の魔王 封印されし者 理不尽に付き従いし者 進化せし者 神性なる者

 

「「・・・・・・」」

 

“ケビン、本部長様を呼んでくれる?私からの要請って言えばすぐ来てくれると思うから”

「了解しました、サー。(敬礼)

<召喚術:本部長様>“失礼します、本部長様、今お時間宜しいでしょうか?はい、あなた様よりの要請で本部長様をお呼びしろと。はい、了解いたしました。

<召喚:本部長様>」

 

“ブワンッ”

光の魔力が走る、再び地面に描かれる巨大な魔法陣。その中心に強大な力が収束し、大地より一柱の高位存在が顕現する。

 

“**#@様、お忙しい身でありながらお越し願いましたこと、誠に申し訳ございません”

「世辞は構いません。$$%&の事です、それが必要と判断したという事でしょう。

それで・・・聖転進化ですか。この短期間に二例目、原因は特異点ケビン君と言う事ですね。ここは神聖樹の聖域結界内、天界からは無暗に干渉する事が出来ない。

システムには観測されているでしょうが上位者の閲覧権限を必要とする案件です、まだ天界では観測されてはいないでしょう。

それでステータス詳細確認の方は行ったのですか?」

 

大きな翼を携えた天上人、本部長様の質問に、同じ天上人であるあなた様が返事をする。

 

“いえ、それはこれから。それと今回は他にもフェンリル二体をはじめとした複数の進化個体が観測されています”

あなた様の言葉に右手で目を覆う本部長様。

 

「分かりました。御神木様、居られますでしょうか?」

「うむ、本部長殿、久しいの」

突然名前を呼ばれ、何事かと構える御神木様。

 

「緊急の事とは言え突然聖域内に押し掛けまして申し訳ございませんでした。それと大変申し訳ないのですが、特異点ケビン君が今回行った魔物進化の観測記録を閲覧させていただいてもよろしいでしょうか?

聖域内の事象は、その管理者である御神木様の了解が得られれば閲覧する事が出来ますので」

「うむ、今回の事象が大変な事であろうことは私でも理解出来る、それに関しては好きにしてくれて構わない」

 

「ありがとうございます。$$%&、申し訳ないのですが私は急ぎ上に戻り今後の対応を話し合わなければなりません。

あなたは詳細を確認し次第、報告書として提出してください。

ケビン君、<送還>をお願いします」

「畏まりました。本部長様、お騒がせして大変申し訳ございませんでした。<送還:本部長様>」

 

光の粒子となりその場から消えて行く高位存在。

そんな上司の帰還を見送った地上に残されし一柱の高位存在“$$%&”は、“報告書を上げたら有休をもぎ取るぞ!!”と硬く心に誓うのでした。

 




本日一話目です。
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