転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第382話 村人転生者、収穫祭を楽しむ(2)

「ワッハッハッハッ、アルバート子爵様、いかがですかな、このエールの味わいは。我らエール作製班渾身の作、のど越しの爽やかさが自慢の逸品ですぞ」

 

秋の収穫祭、それはその年の作物の収穫を祝い女神様に感謝するお祭り。村人たちは一様に笑顔になり、互いの労を労っては共に酒を酌み交わす。

そこには新たにマルセル村に加わった難民たちの姿も。

 

彼らは思う、自分たちの村との違いを。テーブルを埋め尽くす料理の数々、カップに注がれるエールとワイン。マルセル村はなんと豊かな村なのかと。

 

「あぁ、マルコさん。これは中々の味わいですね、領都で飲んだものとはまた違った力強さを感じる。この味わいならマルセル村の特産品となりえます。

マルコさんがここに来たという事は、エール作製用の小麦量を増やして欲しいという事ですか?」

 

古来より酒宴の席とは親交を深める場であると共に、交渉の場。

互いの距離を詰め、要求のすり合わせを行う場。

 

「いや~、アルバート子爵様には全てお見通しでしたかな?

うちの家内なんかはマルセル村の小麦は高く売れるんだから、それを売って他所から小麦を買って来て作ればいいなんって言ってますがな、そうではないんですよ。

マルセル村の小麦で作るマルセル村のエール、そこがいい。

それに恐らくですが、この味わいはマルセル村の小麦ならではのものでしょうな。

ワインが同じ品種のブドウを使っても土地によって味わいが変わる様に、エールもその土地土地による小麦の違いが如実に表れる、そう言う事ではないかと思うのですよ。

アルバート子爵様、是非、小麦の使用量増加をお認め頂きたい!!」

 

マルコ老人は姿勢を正すと腰を直角に曲げ頭を下げる。

その美しいまでの懇願の姿勢は、為政者たるアルバート子爵の心を動かすに十分なものであった。

 

「マルコさん、あなたの熱い思いは十分に伝わりました。このドレイク・アルバート、アルバート子爵家の代表として、出来る限りの協力を「旦那様、少々よろしいでしょうか?」・・・ヒッ」

アルバート子爵閣下がエールの注がれたコップを掲げ、その増産計画にGOサインを出そうとした矢先に掛けられた言葉。その声のする方向にはニコニコと笑顔を向けるミランダ第一夫人とデイマリア第二夫人。そしてその後ろに控えるマルセル村婦人会のお歴々、もとい、お姉様方。

 

「マルセル村の小麦が素晴らしいものである、その意見には私どもも賛成です。そしてその小麦は素晴らしい可能性を秘めている」

そう語るデイマリア第二夫人の手には、小皿に盛られたクッキー。

 

「そして今ケビン君の実験農場では新たな可能性、コッコの卵が産声を上げた。マケドニアル様が御戻りになった暁には甘木の苗の植樹も行われます。

この小皿のクッキーはその新たなる可能性、マルセル村の名産品となりうる素晴らしい逸品。その研究の為にはマルセル村の小麦は不可欠。

アルバート子爵閣下にはその研究と作製の為に小麦の供給をお願いしたいのです」(ニッコリ)

 

甘味、それは女性の命。男性の身体が酒により突き動かされている様に、女性の心は甘味により形作られる。

マルセル村の小麦を巡る新たな勢力の登場は、エール作製班の前に強大な壁として立ちはだかった。

頑張れマルコおじいさん、負けるなドレイク・アルバート子爵、マルセル村の未来(酒)はお二人の双肩に掛かっているのだ~!!

 

などと脳内で楽しいナレーションを付けつつ収穫祭の模様を眺めていたい今日この頃ではございますが、現実と言うものは無常でございます。

どうも、秋の収穫祭という良き日に賢者師弟に捕まり、ステータスの洗いざらいを吐かされている男、辺境の田舎者ケビンです。

そんでテーブルの上には先程書き上げた自身のステータスとその詳細。俺はその用紙を賢者師弟にスッと差し出します。

 

スキル詳細

<自然人>

空がある。雲が流れ風が吹く。

海がある。母なる大海は命を育みすべてを受け入れる。

大地がある。山があり森があり草原があり。

朝が来て、夜が来て、また朝が来る。

 

<魔力融合>

魔力の融合、魔力とは異なる力との融合が可能

 

<魔力食い>

魔力を食らう

 

<根性>

頑張れ

 

<ナイフ召喚>

ナイフを呼び出す

 

<大声>

元気がいいのはいいことだ

 

<引率>

皆を率いる

 

<夜間自己再生>

夜間限定で自己再生を行う事が出来る

 

<畑作>

土起こし、畝作り、種まきを行う

 

<蜂蜜取り名人>

蜂の巣を見つけ易くなる

 

<仙術>

仙術を扱うことが出来る

 

<霊体化>

実体を霊体と化す事が出来る

 

新しく加わったスキルだけ上げてみたけど、もうね。

<自然人>って・・・ポエムじゃん。スキル詳細を見て余計訳が分からなくなるって一体・・・。

 

魔力支配に統合された<魔力融合>は、<覇魔混合>を<覇魔融合>に出来ちゃうって奴ですね。

新たな力の創造ですね。

 

<魔力食い>は魔力吸収の上位互換?吸引力が違うとか?

 

<根性>・・・“頑張れ”って。俺のスキルって解説が時々おかしくない?頑張るけどもさ。

 

<ナイフ召喚>はいい、<統率>もまだ分かる、<夜間自己再生>は命綱になるかもしれない。<大声>って、“元気がいいのはいいことだ”って。

そうですねとしか言えん。

 

<畑作>ってあれだね、一見使えないスキルに見せ掛けて主人公様が碌でもない使い方をして無双するラノベの定番。どう見ても農作業のお助けスキルなのに、何で種まきで敵を倒そうと思うかな。熟練度が上がると種がニョキニョキ伸びたりなんだり?

怖いわ~、主人公様めっさ怖いわ~。

 

<蜂蜜取り名人>・・・和む。

これよこれ、ザ・村人。

どんなスキルがあるんですか?って聞かれたら“<蜂蜜取り名人>です!”って答えよう。

 

<仙術>と<霊体化>は、まぁそんなスキルもあるってことで。どっちも使ってみなけりゃよく分からないってタイプのスキルなんだよな~。

<仙術>は団子の<森羅万象>の下位互換だろうし、<霊体化>は黒鴉の<精霊化>の下位互換?

もしかしたら<憑依一体>の一部も混じったとか?

 

いずれにしても、<魔物の雇用主>って激ヤバスキルだよね。こんなのどこのインフレ少年漫画って状態じゃん、そりゃあちらの世界のお方様方に警戒されるっての。

マジどうしてこうなった!?

 

「ねぇケビン、何かあり得ないほどスキルが増えてない?これって自分で把握し切れてる?」

鋭い、流石賢者様、痛いところをピンポイントで突いてくる。

 

「ハハハハ、正直さっぱりですね。でもまぁいいんじゃないんですか、あって困るようなものでもないでしょうし、それこそスキルを死蔵しちゃうような人だって沢山いますしね。

基本魔力系のスキルは“魔力支配”に、身体能力系のスキルは“身体支配”に統合されちゃうんですけど、今じゃ何が統合されてどうなってるのかなんてさっぱりですし。

それに今回の<大声>みたいになぜか統合しきれないスキルもありますしね。これなんで<身体支配>に入らなかったんだろう?」

 

そう言い参った参ったと頭を掻く俺に、尚もジト目を向けるシルビアさん。

 

「ねぇケビン、何か隠してない?ケビンって色々やってるじゃない?それなのに称号が<辺境の勇者病仮性患者>ってだけっておかしくない?

前に森の花園で自己診断をしてた時も、スキルについては教えてくれたけど称号については一切触れなかったじゃない?

あの時は妙に落ち込んでたからこっちも気を使って聞かなかったんだけど。

お姉さん、ちょ~っとそこのところが知りたいな~」

そう言いニコニコと詰め寄って来るシルビアさん。逆側にはイザベルさんががっちりガードって逃がす気ないじゃないですか!

 

「えっと、あらかじめ言いますけど、見ない方がいいですよ?絶対後悔しますから。

どれくらいかと言いますと、前に“魔王”が天界から選出された闇属性魔力回収装置だったってのを知った時くらいの衝撃があると思いますよ?」

 

世の中には知らなくてもいい事、知らない方がいい事など山の様にある。イザベルさんは過去のトラウマが刺激されたのか一瞬たじろぎを見せるものの、それでも好奇心が先に立つのか引く気はない様子。

好奇心猫を殺す、されど人は真理を探究する。賢者とはそうした人の探求心が具現化した姿なのかもしれない。

 

“はぁ~っ、サッ”

ため息と共に差し出した一枚の用紙。それを目にしたとたん動きを止め、頭を抱え始める賢者師弟。

 

「ケビン、あなた、えっ、あなた、その・・・」

何か言おうとするも、次の言葉が続かない。

だから言ったのに。こんなの他所に見せれないよな~。

システム変更してもらう前はもっと酷かったんですよ?これでもスッキリした方なんです。その分激やば称号が増えちゃったって言うね、最後の<女神の注目>なんて俺どうしたらいいのって感じです。

正直<賢者>と<勇者>と<魔王>と<英雄>と<聖者>の称号を持ってる人間なんてまずいないんじゃないかな~。一人勇者物語っすよ、吟遊詩人が馬鹿にするなって怒っちゃうレベルですっての。

それでもぶつぶつ呟きながら称号の書かれた用紙を食い入るように見詰め続ける賢者師弟に、ある意味勇者病<極み>よりも質が悪いかもと戦慄を覚えるケビンなのでありました。

 

 

“ポテポテポテポテ、ツンツンツン”

“キュキュッ”

 

宴もたけなわ、何時までも人のステータス表を眺めながら唸りを上げる賢者師弟はスルーし、テーブルの角無しホーンラビット肉の包み焼きに舌鼓を打つ俺の袖をクイクイと引っ張る団子。

進化したと言っても大きくなった以外にこれといった変化のない団子は、相変わらずマルセル村の愛玩魔物として君臨し続けている。

 

「あぁ、もう来たんだ。それじゃ俺はアルバート子爵様に報告しに行って来るよ。それともう一つの集団はどうなってるかな?流石に俺は団子ほど感知範囲が広くないからさ」

 

“キュキュッ、キュイッキュ”

「そう、それじゃそっちも併せて報告しておかないとかな。後から聞いてなかったとか言われても困るしね」

 

俺はそう言うと「ご苦労様」と団子の頭を撫で労った後、席を立ち未だ小麦の使用量の交渉を行っているアルバート子爵様方のテーブルへと向かうのでした。

 

―――――――

 

“カタカタカタカタ”

よく整備された草原の街道を、二台の馬車が走り抜ける。先頭はいかにも高貴なご身分の御方が乗車していそうな高級馬車、続く幌馬車には幾つかの荷物が詰められ、多くの樹木の苗木が大切そうに梱包されている。

 

「閣下、そろそろマルセル村に到着いたします」

執事の声にすっかり眠っていたマケドニアルが目を覚ます。

 

「あぁ、そうであるか。しかしヨークシャー森林国から二十日、我らの馬車ですらそこまで掛かる行程を一日と掛からず移動したとなると、ケビンの持つスキルは破格としか言いようがないの。

ケビンが自身の事を弱者とし身を隠そうとしたことも分からんでもない。

我ですらその有用性にどう使おうか思いを馳せてしまったのだ、これがタスマニアに知れたら是が非でも己が懐に入れようとしたはず。その結果どの様な事態が起こるかは、ヨークシャー森林国でまざまざと見せ付けられたからの」

 

そう言いどこか遠い目で車窓に映り行く景色を眺めるマケドニアル。ヨークシャー森林国で聞いた精霊使いビーン・メイプルの献身、聖霊樹とそれに匹敵する高位存在を呼び出しての大儀式魔法、滅亡寸前にまで追い込まれた王都を救った大結界、ヨークシャー森林国に蔓延していた呪病を含む穢れの一切を祓った奇跡の儀式と、その穢れの全てを受け止めた精霊使いビーン・メイプル。

その物語を語る国王の姿は、嘗てランドール侯爵領スターリンでグロリア辺境伯軍を救った青年ラクーン氏の献身の物語を語る自身の姿にどこか重なるものであった。

 

「ヨークシャー森林国国王ビスコン・デ・ビンギス陛下にはことのほか感謝されてしまったな。あの様な高潔なる者を派遣してくれたことを心の底から感謝するとか。

その高潔なる者からは早く報酬を寄こせとせっつかれているのではあるが」

「ハハハ、そうでございますな。決して言えない秘密、ヨークシャー森林国の為にもグロリア辺境伯家の為にも、この秘密は墓場まで運んでいくものといたしましょう」

 

執事ハロルドはそう言い楽し気に微笑む。

 

「何がおかしいのだハロルド、我は今後の対応を考えるとアルバート子爵殿が譲ってくれた胃薬が足りるのかと気が気ではないのだが?」

「ハハハ、いや、申し訳ございません。つい精霊使いビーン・メイプルの英雄譚を話すビスコン国王陛下の表情が、ラクーン青年の物語を話す閣下のお姿と重なりまして。

国王陛下が事の真相を知ったらどのようなお顔をなされるのかと思ったら、ついおかしくなったものですから」

 

「であるな、まさか国中の穢れを一身に受けて戦い続けていると思った者が、とっくに結界を抜け出して屋台の食事に舌鼓を打っていただなんて想像だにもせんであろうからな。

ハロルド、この話は他の者に漏らすでないぞ?どこから陛下の耳に届くかなど分からんからな?」

そう言い肩を竦めるマケドニアルに、慇懃に礼をする執事ハロルド。

だがハロルドは知っている、マケドニアルが語ったラクーン青年の献身の物語も実はケビン青年の壮大な舞台であったという事を。

 

“このお話は閣下にはお伝え出来ませんね。このハロルド、墓場まで持って行きたいと思います”

ハロルドは敬愛する主人に目を向け、朗らかに微笑むのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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