転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第383話 村人転生者、元辺境伯から報酬を受け取る

“ガタガタガタ”

マルセル村の土の道を、二台の馬車がやって来る。二頭立ての高級馬車とそれに付き従う幌馬車。

馬車は秋の収穫祭で村人たちが飲み騒ぐ村の中央広場にやって来ると、その足を止める。

 

“ガチャ”

開かれた扉から降り立ったのは執事服に身を包んだ一人の老紳士、彼は周囲の様子を見渡すと、扉の脇に控え主の下車を促す。

 

“スッ”

姿を現した者、それはマルセル村の者であれば誰もが知る人物。

アルバート子爵領の隣領にして大貴族であるグロリア辺境伯領の先代当主、現在は隠居し当主の座を息子であるタスマニア・フォン・グロリアに譲り、自身はホーンラビット牧場の普及に力を注ぐと宣言したマケドニアル・グロリア卿その人であった。

 

「マケドニアル閣下、ヨークシャー森林国からの無事な御帰国、心よりお慶び申し上げます」

馬車の前に並ぶアルバート子爵家家族一同、その代表者であるドレイク・アルバート子爵が、嘗ての寄り親でありデイマリア第二夫人の父親でもあるマケドニアル卿に出迎えの挨拶を行う。

 

「うむ、温かい出迎え、感謝申し上げる。して、本日は何かの催しでも行っていたのであろうか?随分と楽しげな雰囲気であるが」

「はい、本日は目出度くも一年の収穫を女神様に感謝申し上げる秋の収穫祭を行っておりました。この良き日にマケドニアル様の御帰国がありましたのも女神様の思し召しと言うもの、マケドニアル様におかれましては共に収穫の祝いの席をお楽しみいただきたく存じます」

 

そう言い酒宴の席にマケドニアル卿を誘うアルバート子爵。

その嬉しい誘いに、マケドニアル卿は旅の疲れも忘れ相好を崩す。

 

「これはこれはほんに良き日に帰り着く事が出来たものであるな。

ドレイク殿のお心遣い感謝申し上げる。

ではあるがその前に幾つか済ませておきたい事があるのだがよろしいかな?

アルバート子爵家騎士、ケビン・ドラゴンロードはおるか?」

 

「ハッ、ケビン・ドラゴンロード、控えさせていただいております。

マケドニアル閣下に置かれましては無事なご帰国、お慶び申し上げます」

 

マケドニアル卿の声に群衆の合間からサッと姿を現した騎士ケビンは、片膝を突き頭を垂れ、出迎えの挨拶を述べる。

 

「うむ、ケビンよ、我は此度ヨークシャー森林国に出向きそちの働きをよくよく聞き及んで参った。

ヨークシャー森林国の置かれていた窮状、それを解決に導く為に行った数々の偉業、そして自らの名声を捨て彼の国の安寧を願ったそちの献身。

事が事である故、正式な形でそちを遇する事が出来ぬ我を許されよ」

「いえ、その様なお言葉は不要にございます。此度の事はもとより承知の上で行いしもの、その結果に委細不平不満はございません。

ヨークシャー森林国の平穏なる統治こそオーランド王国の、延いてはグロリア辺境伯領の平和へと繋がりましょう。

グロリア辺境伯家寄子、アルバート子爵家騎士としての当然の働きであり、お褒めの言葉を給われるのでしたら我らが主ドレイク・アルバート閣下へとお声掛け頂けます様お願い申し上げます」

 

騎士ケビンは頭を垂れたまま感謝の意を示すと共に、自身の功績はアルバート子爵家の、自身の主ドレイク・アルバート子爵へと向けて欲しいと願い出る。

 

「その忠義、大変見事である。ドレイク殿は良き家臣を持たれたのであるな。

それはさておきその方には此度の働きに際する報酬を約束して居ったな。

その支払いが遅くなった事を詫びると共に、これより騎士ケビン・ドラゴンロードに約束の品を渡すものとしよう。

ハロルド、例の品をこれに」

「ハッ、マケドニアル閣下、こちらにご用意いたしましてございます」

 

執事ハロルドは主人の言葉に先んじ、騎士ケビンとの約束の品を用意していた。それは甘木汁の入った大樽六つと、甘木の苗木十株。

 

「これらの品を用立てるのに際し、ドルイド・プラウド侯爵閣下よりケビンによろしく伝えて欲しいとのお言葉を給わっておる。

ケビンらの働き以降、ヨークシャー森林国内での呪病の報告例はないとの事であったよ。

ヨークシャー森林国は完全に救われたと大変感謝なさっておられた。

それとパトリシア、ラナーニャよりの伝言で、いつでも遊びに来て欲しいとの事であった」

 

マケドニアルの言葉に再び礼を深くする騎士ケビン。アルバート子爵家長女パトリシア・アルバート嬢は、カーテシーでその言葉に応える。

 

「では改めて述べよう、パトリシア・アルバート、ケビン・ドラゴンロード、其の方らの働きはヨークシャー森林国ばかりでなくオーランド王国、グロリア辺境伯家に多大な貢献を示した。

いずれその功績には報いるが、今は感謝の言葉を述べよう」

 

「ありがたき幸せに存じます」

 

マケドニアル卿の言葉に感謝の意を示す騎士ケビン。これにより一連の褒賞は、一旦の幕を閉じる事となったのである。

 

――――――――

 

よっしゃ~!漸くヨークシャー森林国騒動の報酬が手に入りましたよ。

いや~、長かった。でもまぁこの世界的にはこれでも早い方なんですけどね。

なんせ報酬が限定的な現物、金銭や地位と違って直ぐに用意出来る様なものじゃないですから。でもそれこそが甘木汁や甘木の苗木が報酬足り得る条件だったりするんですが。

 

俺っち金や地位で動くような人間じゃないし?アルバート子爵様からの諸々の仕事だってアルバート子爵領の発展、マルセル村の発展に繋がるからこそお引き受けしているってだけですから。

全ては自身の生活向上の為に、金が欲しいだけならモルガン商会に蜂蜜を卸せばいいだけだしね。

スキル<蜂蜜取り名人>を取得した俺氏、堂々と野生の蜂蜜(ジャイアントフォレストビー産)を卸せるというものです。

 

お貴族様からの横槍は大丈夫なのか?

フフフッ、それこそアルバート子爵様の出番でしょう。大量の証文がある以上、一生懸命働いて下さると思いますよ。

マイベストプレイス、マルセル村。多方面への備えは完璧ですな。

 

貴族恐い⇒アルバート子爵様ガード、大商人怖い⇒モルガン商会・バストール商会ガード、教会怖い⇒メルビン最高司祭様ガード、冒険者怖い⇒準貴族ガード。

うん、ずいぶん遠くまで来たもんだ。

 

お肉がある、お野菜がある、小麦がある、甘味がある、卵がある。

森の引き籠りと違って欲しい物はモルガン商会やバストール商会経由で手に入るし、何なら直接買いに行けばいい。

もうね、完璧、言う事なし。

贅沢を言えば乳牛や山羊、羊がいないって事だけど、その辺は完全に趣味の世界だからな~。確かオーランド王国南東部では酪農が盛んって話だし、国内情勢が落ち着いたら探しに行くのもあり?

 

盗賊や魔物は怖くないのか?

フフフフッ、この私が何の為に最強装備の開発を行ったとお思いかな?

私《わたくし》、ワイバーンの雛の隣で餌付けの観察をする事に成功いたしました。

この存在感の無さ、もはや無敵ですな。だって敵認定どころか存在すら察知されないんだもん。

 

目下ケビン君最大の敵はマケドニアル様から頂いた大樽の甘木汁を狙う魔獣共。村の女衆の無言の圧力がですね。

母メアリー、超笑顔。ミッシェル様、“よき働きだ、ケビンよ”って甘木汁を味わう気満々だし。

「ケビ、アマアマ、おっちーね♪」(ニパッ)

って超かわいいの、言葉の意味が分かってなかったら俺でもメロメロよ?

父ヘンリーなんかめっちゃだらしない顔をしてるし。

ここで俺が「あげないけど?」なんて言った日には鬼神ヘンリーが大剣担いで乗り込んできちゃうレベルよ?

 

「少しづつ小分けにして差し上げます。こないだの中樽もそのまま渡したらすぐに使い切っちゃったじゃないですか、素晴らしい甘味は計画的に消費してください。

今回マルセル村には複数本の苗木が送られたと聞いています。その苗木が成長しマルセル村産の甘木汁が生産出来るまでに何年掛かるか、この甘木汁だって王都に持ち込めば金貨数百枚が動く代物だって事をよくよくご理解くださいね?」

 

「「「「ウッ!?」」」」

俺の言葉に冷静さを取り戻し魔獣から村人に戻る女衆。

 

「それとパトリシアお嬢様、後程甘木汁の清算をお願いします。中樽一樽ですからね、お願いしますよ?」

甘味は女性の理性を溶かし憂さを忘れさせる。だがその甘味が消えた時、そこに待ってるのは非常な現実。

 

「うわ~ん、このところ一生懸命仕事してたのに、待ちに待ったお楽しみだったのに~。鬼、悪魔、ケビン!ケビンのけちんぼ!!」

幼児退行してエミリーちゃんに泣きつくパトリシアお嬢様。お嬢様、これも試練です、頑張って乗り越えてください。

俺は心ならずもハロルド執事様に目配せをし、パトリシアお嬢様分の甘木汁から中樽一樽分を回収させていただくのでした。

 

ごめん、嘘ついた。超楽しいわ、これ。

 

―――――――――

 

“カタカタカタ”

マルセル村へと続くよく整備された草原の街道を、数騎の護衛騎士に守られた二台の馬車が走って行く。

前を行く馬車はいかにも高級といった庶民では決して手の届かない様な物。その後ろに続く幌馬車には、檻に入れられた何体もの鳥系魔物。

 

高級な馬車の中では品の良い仕立の衣装を身に付けた壮年の男性が、その息子であろう若者に声を掛ける。

 

「なぁロナウド、本当にこの様な品でよかったのか?首の輪コッコや斑点コッコは他領ではあまり見ることの少ない魔物ではあるが、我が領では普通に生息している魔物であるし、鷹の目コッコに比べ飼育も難しい。

我が領でもコッコ飼育普及の研究は十分に行い、その上で鷹の目コッコが最も飼育に相応しいとして採用した経緯があったであろう。

それを今更不採用としたコッコ種を感謝の気持ちとしてお渡しするのは無礼とならんか?

今からでも遅くない、謝礼は別の形で改めてお渡しするようにした方が・・・」

 

それは自分たちテレンザ侯爵家を含むオーランド王国南西部、南部の貴族軍の窮地を巨大なアースウォールで救ってくれた偉大なる魔法使いに対する感謝の贈り物。

テレンザ侯爵家当主スコッティー・テレンザは、その魔法使いを説得し戦場に降り立った三男ロナウドの助言により用意した品ではある物の、余りに失礼ではないかと言った思いが拭えずにいた。

 

「いえ、父上、ケビン殿は決して金銭や地位で動く様な方ではありません。ケビン殿の思考はいたって簡素です。

“欲しいものが欲しい”、そこに他者の価値観や有用性といったものは考慮されないのです。

尤も分かり易いものが食に関する事柄、それは高級であるとか希少であるとかといったものではなく、“美味しい”といった事が基準となります。

自分達の所に無い美味しい食材、それを手に入れる為であれば労をいとわない。

ケビン殿とはそうした御方なのです。

逆にケビン殿に対し自らの地位や権力を笠に“召し抱えよう”などといった発言をしてはいけません。ケビン殿に対し無理強いや要求はもってのほか、ケビン殿との関係は良き隣人程度にとどめ、アルバート子爵家との関係を深めることが、結果的に我が領の利益に繋がると愚考いたします」

 

それはこれ迄勇者病<仮性>と呼ばれ、家の中でもどこか浮いた存在であった者の言葉とは思えない、地に足の着いた意見であった。

対象を観察し、分析し、導き出された答え。テレンザ侯爵は、これまで三男ロナウドにこれ程の才があった事に気が付かなかった自身の不明を恥じる。

 

「ロナウドよ、お前はこの一年で急激な成長を見せた。私はお前のその才に気が付く事も出来ず、お前が勇者病<仮性>と蔑まれる事も、ただ手をこまねく事しか出来なかった。

無力な父を許せとは言わん、ただすまなかった」

そう言い頭を下げる父親に、「お止め下さい」と言葉を返すロナウド。

 

「父上、私がこれ迄勇者病<仮性>と呼ばれていた事は、自身の行動によるところ。決して父上や家臣の者たちの責任ではありません。

私は自らに開花した水属性魔法の才能に酔いしれた、ただ人より少しばかり早く目覚めただけというのに、それを天から与えられた才能によるものだと勘違いしていた。

その事を思い知らしめてくれたのがアルバート子爵家令嬢であるエミリー嬢と、その想い人であるジェイクであった。

 

私は才ある者でもなんでもない。昨年の夏、エミリー嬢に自身の弱さを気付かされ、その後必死に努力を重ねた。足りないものがあれば例え相手が使用人であろうとも頭を下げ教えを乞うた。

だがそれでも届かなかった、エミリー嬢をはじめとしたアルバート子爵家の面々は、私の遥か先で更なる高みを目指していた。

 

私が変わったとすれば、それは自身の弱さに気が付いたからでしょう。

父上には数々のご心配とご迷惑をお掛けし、本当に申し訳ございませんでした」

 

謝罪の言葉を述べた自身に、逆に申し訳なかったとこれまでの有様を反省し頭を下げるロナウド。子供の成長は早い、少し目を離した隙に我が儘であった我が子は、思慮深い青年へと変わっていた。

 

「そうか、分かった。これ以上の謝罪は逆に失礼に当たるな、この話は仕舞いにしよう。

ロナウド、これより向かうアルバート子爵家との関係構築、ケビン殿との友好関係を築けるか否かは、テレンザ侯爵家の、延いては南西部地域貴族全体の未来に関わる大事と心得よ」

「ハッ、このロナウド、肝に命じます」

 

馬車は進む、カタカタと音を鳴らして。

草原に真っ直ぐに伸びる石畳の街道を、辺境の地マルセル村を目指して。

この出会いが、よりよい未来に繋がる一手となる事を信じて。




本日一話目です。
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