転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

384 / 860
第384話 南西部地域の大貴族、マルセル村を訪れる

“ガタガタガタ”

その一団は、マケドニアル卿の帰国に更なる盛り上がりを見せる収穫祭の会場に現れた。

 

「ごめん、先触れの無き訪問の無礼、平にご容赦願いたい。

私はテレンザ侯爵家騎士団副団長マルソン・ロッシーニと申す者、アルバート子爵家御当主ドレイク・アルバート子爵様への御目通りを願いたい」

 

騎乗した馬から降り立った騎士の一人が、自らの身分を明かしここアルバート子爵領の領主、ドレイク・アルバート子爵との面会を求める。

 

「失礼いたします。私はアルバート子爵家執事長を務めておりますザルバ・フロンティアと申します。テレンザ侯爵家の副騎士団長様が一体どのようなご用件でこの辺境の地にお越しになられたのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

媚びるでもなく、萎縮するでもなく、突然現れた騎士に自然な声音で話し掛けるアルバート子爵家執事長ザルバ。それは子爵家執事という身分としては侯爵家騎士団副団長に遠く及ばぬものの、子爵家を支える者としての矜持を感じさせる凛とした佇まいであった。

 

「これは執事長殿、我らの無礼、戦時故平にご容赦願いたい。

此度この地を訪れたるは、先のアスターナ男爵領での戦闘において我らの窮地を御救い下さった大魔法使い殿に対し感謝の意を示さんとしたもの。

我らが主、スコッティー・テレンザ侯爵閣下が直接お言葉をお伝えしたいとお伺いした次第。

ドレイク・アルバート子爵様に置かれましてはその件も含み御面会の機会をいただきたく、お願い申し上げる」

 

そう言い慇懃に頭を下げるマルソン副団長。それに合わせるかのように他の下馬した騎士たちも頭を垂れる。

それは侯爵家の家臣としては異例中の異例、絶対的身分制度の確立した貴族社会において、上位者たる侯爵家の者が子爵家の執事に対し礼節を持って接するなど有り得ないこと。

だが彼らは知っている、あの戦場でダイソン公国軍から放たれた絶望的な光の洪水を、そんな窮地から命を救ってくれた奇跡の大魔法を。

今ここに自分たちが生きているのは、あの奇跡を起こしてくれた大魔法使いのお陰であるという事を。

 

「皆さん、頭をお上げください。皆さんは侯爵家の家人、そんな方々に頭を下げさせたとなれば周囲の者からなんと言われるか。

私がアルバート子爵家当主、ドレイク・アルバートです」

そんな両者の間に割って入った者、それは物腰の柔らかそうな壮年の男性。

 

“ガチャ”

馬車の扉が開き、中から歳若のメイドが降り立つ。彼女は周囲に目配せを行った後サッと扉の脇に控え、車内の者に下車を促す。

次に降り立ったのは精悍な顔付きをした青年、それに続き品の良い仕立服を身に付けた壮年の男性が馬車を降りる。

 

「突然の訪問の無礼、許されよ。私はテレンザ侯爵家当主スコッティー・テレンザという。ドレイク・アルバート子爵殿、お初にお目に掛る」

そこに降り立った者、それはオーランド王国南西部地域を束ねる大貴族、テレンザ侯爵家当主スコッティー・テレンザその人であった。

 

「何やら楽しげな様子であるが、邪魔をしてしまったであろうか?その事重ね重ね申し訳ない。

何分我が領は独立を宣言したダイソン公国と領境を接している故、今尚緊張状態が続いている。本来であれば当主である私が領地を抜ける事などあってはならない事ではあるが、此度の一件はそれを踏まえた上で直接出向かねばならぬと判断させていただいた。

話はこの三男ロナウドから聞いている、アルバート子爵殿の家人である大魔法使いケビン・ドラゴンロード殿には我ら一同の命を救っていただいたばかりか、ロナウドに素晴らしい修行を付けていただいたとか。

その事感謝の念に堪えない。

本日はその感謝を込めて、些細ではあるが礼の品を持参した次第。

どうかケビン殿に受け取っていただきたい」

 

そう言いテレンザ侯爵家の一同はアルバート子爵に頭を下げる。

 

「本当に頭をお上げください。ケビン君、ケビン君!!今すぐこちらに・・・」

「アルバート子爵閣下、ケビンでしたら先程マケドニアル閣下から頂いた報酬の甘木の苗を持って実験農場の方に・・・」

 

焦り顔で騎士ケビンの名を呼ぶアルバート子爵に、執事長ザルバの無情な言葉が続く。

 

「うわ~!なんて間の悪い。誰か、ケビン君を呼んで来てくれ、大至急だ!!

テレンザ侯爵様、それと皆様も、遠くよりお越しになりさぞやお疲れの事でしょう。

本日は秋の収穫祭を行っておりまして、この場は少々騒がしくしております。あちらの屋敷の方で疲れを癒していただきましたのなら幸いでございます。

ケビン・ドラゴンロードには人をやっておりますので、いま暫くお待ちいただきましたら顔を見せると思います」

 

そう言い一行を屋敷に案内するアルバート子爵。

 

「いえ、お気遣い感謝申し上げる。楽しい時間を邪魔してしまい申し訳ない」

「あっ、ロナウド君だ。ロナウドく~ん、こっちこっち」

 

その声はアルバート子爵家次女、エミリー・アルバートのもの。

 

「いや、その、誠に申し訳なく。ご子息様に対する無礼、娘エミリーには後程きつく申し渡しておきますゆえ・・・」

「いやいや、お気になさらず。エミリー嬢の事はロナウドより聞き及んでいます。レンドールでは共に汗を掻き修行した仲間であるとか。

我が子に友と呼べる相手が出来た事を一人の父親として大変うれしく思ったものです。

ロナウド、構わない、エミリー嬢の所に顔を出して来なさい。

ケビン殿がお見えになったらこちらに来るように」

 

「ハッ、父上、感謝いたします。

エミリー、ジェイク、フィリー、夏振りだな。ディアの姿がない様だがどうしたんだ?」

「これはこれはロナウド様、お久し振りでございます。ディアでしたら只今領都にて銀級冒険者になるべく冒険者活動を」

 

「「「ジェイク、似合ってない。目茶苦茶ぎこちない」」」

「だ~、頑張ってそれらしくしゃべってるのにその言い草ってなくない?俺の口調ってそんなにおかしかった?」

 

周囲からの一斉のツッコミに、呻り声を上げるジェイク。

 

“ポンッ”

「ジェイク、人には向き不向きって物があるんだぞ?」

「ジェイク君、うさん臭いことこの上なかったよ?」

 

肩から伝わる友のやさしさ。

“ケビンお兄ちゃん、俺、ケビンお兄ちゃんみたいにうまく出来なかったよ”

ジェイクはその場に膝を突き、ガックリと項垂れるのでした。

 

―――――――――――

 

「テレンザ侯爵閣下、お久し振りですな」

「これはグロリア辺境伯様、何故こちらに?いくら隣領とは言え領都を留守にされて宜しいのですか?」

 

その思わぬ邂逅に、スコッティー・テレンザ侯爵は思わず目を見開いた。アルバート子爵家を訪れたテレンザ侯爵が、アルバート子爵に案内され向かった子爵家屋敷の来賓の間、そこにいた先客が自身の良く知る人物であったからであった。

 

「ハハハ、テレンザ侯爵閣下に様付けされてしまうと恐縮してしまいますな。私は先だって当主の座を息子タスマニアに引き渡しましてな、今は隠居した身として娘デイマリアの嫁ぎ先であるドレイク殿の所に訪ねて来ていたのですよ。

それにしてもテレンザ侯爵閣下もですか。あの者は一体どこで何をやっていたのやら。

ドレイク殿はこの事は?」

 

「いやはや、詳しい所までは聞いていませんが概要は。普通に有り得ない内容の話ですので家でも一部の者しか知りませんが」

「その方が良いであろうな、こうしてテレンザ侯爵閣下が訪ねてくる時点で異例中の異例の事態、あまり公にするような事でもないであろうからな」

そう言い眉間の皺を揉むマケドニアル卿とこめかみを揉み解すアルバート子爵。そんな両者の反応に状況が理解出来ないと言った風になるテレンザ侯爵。

 

“コンコンコン”

「“失礼いたします。アルバート子爵閣下、騎士ケビン・ドラゴンロードがまいりました”」

「あぁ、入って貰ってくれないかい」

 

扉の向こうから聞こえる執事長ザルバの声にアルバート子爵が応える。

するとガチャリと扉が開き、件の人物がその姿を見せるのだった。

 

「騎士ケビン・ドラゴンロード、お呼びにより参りました。

テレンザ侯爵閣下に置かれましては拝謁の名誉を給わりましたこと、感謝申し上げます」

部屋に入ったケビンは、その場にいるテレンザ侯爵の姿を認めるや膝を突き頭を垂れる。侯爵という身分は、貴族社会においてそれ程までに格式の高いものであった。

 

「いや、ケビン殿、面を上げられよ。本日アルバート子爵殿を訪ねて参ったのはケビン殿に礼を言う為でもあるのだ、その相手にその様に謙られては私の立つ瀬がないではないか。

ここは私の顔を立てると思って面を上げてくれまいか?」

 

だが上位者にそこまで言われてしまっては下手に礼を尽くす事の方が無礼と言うもの、顔を上げその場に立ち上がると一礼をしてから口を開く。

 

「まずはお言葉をお掛けいただいた事、感謝申し上げます。その上で言葉使いの無礼、平にご容赦いただきたく存じます。

私は何分平民上がりの騎士故礼儀作法に精通しておりません。侯爵閣下の様ないと尊き御方に対しどの様に接したらよいのかなど、無学無才のこの身では皆目見当もつかず、今も震えが止まらぬ思いでごさいます」

 

そう言い顔を引き攣らせるケビンの様子に、“はっ?コイツ何言ってんの?って言うか今回は田舎騎士の設定なの?”と呆れた顔になるマケドニアル卿とアルバート子爵。

 

「ハハハ、いやはや聞くと見るとでは随分と印象と言うものは違うものですな。ロナウドの話ではどのような気難しい御方なのかと戦々恐々としておりました。

改めまして、私はテレンザ侯爵家当主スコッティー・テレンザと申します。此度はアスターナ男爵領の戦場においてテレンザ侯爵家を含む南西部諸侯の者たち、南部諸侯の者たちと多くの兵をお助けいただき、心より感謝申し上げる。

ケビン殿の行使された大魔法、あの王都の城壁もかくやと言わんばかりの巨大なアースウォール。ケビン殿の助けがなければ、我々もあのダイソン公国軍が撃ち放ったバルカン帝国の広域破壊兵器の餌食になっているところでありました。

さすればオーランド王国南西部並びに南部の兵力は壊滅、今頃どうなっていた事か。

此度の独立騒ぎの裏にはバルカン帝国の思惑があるとか、最悪バルカン帝国の侵攻に耐えられず国の半分が失われていたやもしれません。

ケビン殿の一手は我々の命を救ってくれたばかりか、オーランド王国をも救ってくださった。これに報いなければ私は恥知らずのそしりを受けましょう。

何卒ケビン殿には感謝の気持ちを受け取っていただきたく存じます」

 

そう言い深く頭を下げるスコッティー・テレンザ侯爵に、ケビンは慌てて頭を上げるように促す。

 

「感謝のお言葉、身に余る光栄でございます。なれど此度の事はご子息であるロナウド様よりの依頼、そしてその報酬は既にいただいております。これ以上の褒賞は過分に過ぎるというもの、どうかお気になさらぬよう」

「いえ、それでは私の気がすみませぬ。これほどの功績を上げた貴殿に対し僅かコッコ十数羽では。ですが此度お持ちした品も品種の違うコッコ、やはり別のものに「お待ちくださいテレンザ侯爵閣下、そこのところを詳しく!!」あっ、いや、此度ケビン殿の下をお伺いするに際し、ケビン殿の事を知るであろう三男ロナウドにケビン殿の喜ばれる様な品はないかと尋ねたところ、ケビン殿が我が領のコッコをいたく気に入っていると聞きまして。

前回お持ちいただいたのは飼育に適した鷹の目コッコ種ですが、此度は飼育は難しいものの肉質の良い首の輪コッコと、同じく飼育は難しいものの一回に産む卵の数が多い斑点コッコをお持ちし・・・」

 

“ガバッ”

テレンザ侯爵の言葉が終わるのも待たず、その場に片膝を突き頭を垂れるケビン。

 

「テレンザ侯爵閣下、閣下のお心遣い、このケビン胸に染みましてございます。お持ちいただいたお品は大事に飼育し、必ずやアルバート子爵領にコッコ飼育の芽を根付かせることを誓いましょう。

本日は大変貴重なお時間、ありがとうございました。

ロナウド様、早速ですがコッコたちの下に向かいましょう。

いや~、流石はロナウド様、贈り物選びのセンスが光っておられる。

このケビン、ロナウド様は何時かやる男だと常々「ケビンく~ん、駄目だよ~、まだお話終わってないからね~。ロナウド様を連れて勝手に実験農場に戻ろうとしないでね~」・・・(´・ω・`)」

 

さっさと挨拶を済ませこの場を退席しようとするケビンをアルバート子爵が引き止める。

ケビンが見せるそのあまりの自由奔放振りに、頭を抱えるアルバート子爵とマケドニアル卿。

そしてテレンザ侯爵は一人、“あぁ、これがケビン・ドラゴンロードと言う人物か。これは流石にロナウドに言われていなければ対応を誤っていたやもしれん。弱者の仮面を被り自身を凡庸に見せ掛けようとする強者、これ程扱いづらい者はそうそうおるまい。

ケビン殿との折衝はロナウドに一任した方がいいやもしれんな、この人物は私の手に余る”と、三男ロナウドの慧眼に改めて驚かされると共に、ケビンへの対応を任せる決心を固めるのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。