転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第385話 村人転生者、偉い人たちとお話しする

「ケビンく~ん、駄目だよ~、まだお話終わってないからね~。ロナウド様を連れて勝手に実験農場に戻ろうとしないでね~」

アルバート子爵閣下の言葉は、無情にも俺をこの場へと引き留める事となった。

隣にはテレンザ侯爵家三男ロナウド・テレンザ様、屋敷外の幌馬車の中にはロナウド様厳選の“首の輪コッコ”(肉質特化)と“斑点コッコ”(多産型)のまだ見ぬコッコたち。

俺の心にはコッコ飼育場でのんびりとお暮しあそばすコッコたちの姿が・・・

 

「ケビンく~ん、駄目だよ~。気持ちがコッコの事で一杯になってるよ~。わざわざ遠方からコッコをお持ち下さったテレンザ侯爵様を置き去りにしてそれは良くないと思うよ~」

アルバート子爵閣下のお言葉にハッと我に返る。そうだ、俺は何をやっているんだ。この辺境の地にこの様な素晴らしい贈り物を届けて下さった御方をないがしろにする事など、人として許されるはずもない。

 

「アルバート子爵閣下、マケドニアル閣下、見苦しい姿をお見せいたしまして申し訳ございませんでした。テレンザ侯爵閣下に置かれましてはとんだご無礼をいたしました、平にご容赦願いたくお願い申し上げます」

俺はその場に片膝を突き頭を垂れる。

そして“退室してよい”という言葉を待った。

 

「いや、うむ。そこまで喜んでいただけたのならコッコを用意した甲斐があったというもの、どうぞお気になさいませんよう」

そう言い再び頭を上げ姿勢を崩すように促すテレンザ侯爵閣下。懐が広い、なんて大きな御方なのか。アルバート子爵閣下には是非テレンザ侯爵閣下の様な為政者を目指していただきたい。

 

「ハハッ、うむ、ケビンとはこのような男でな、テレンザ侯爵閣下もそういうものだと認識いただきたい。

して、テレンザ侯爵閣下自らがアルバート子爵殿を尋ねられたのはケビンに褒賞を与える為だけでもあるまい?先ほど侯爵閣下が仰っておられた通り今は戦時、その最前線とも呼べるテレンザ侯爵家であれば代理人を立てたとてそれを咎める者などあろうはずもない」

 

マケドニアル閣下が何やら不穏な事を仰いはじめます。これってもしかして話が長引いちゃったりします?俺、早く農場に戻ってコッコ飼育場を拡充したいんですけど。

品種が違うし始めは別々で飼育した方がいいよね、それぞれ相性もあるだろうし、対立種族だったりしたら目も当てられないしね。

その辺はロナウド様によくよく話を聞いて対処しないと。出来れば一度コッコ生息地域の見学をさせて貰って、環境にあった飼育方法の確立を・・・。

 

「いや、“オーランド王国の懐刀”と呼ばれたマケドニアル卿には隠しだては出来ませんな。ご相談というか、ご意見を伺いたかったのですよ。

先程も申した通りテレンザ侯爵領はダイソン公国と領境を接しております。幸いその立地は山岳地であり、攻めるに易いアスターナ男爵領が主戦場となってはいますが、いつその矛先が我が領に向かうとも限らない。

そしてこれは何もダイソン公国からの脅威といった話ばかりではない、すぐ後ろに控えるバルカン帝国軍の脅威といった話でもあります。

先にバルカン帝国が行ったヨークシャー森林国への侵攻は、トリニア砦の激しい抵抗と横合いから襲って来たスタンピードにより瓦解したとか。この情報はヨークシャー森林国側の密使により我が領にも伝えられております。

つまり帝国の矛先は現在進行形のオーランド王国侵攻作戦に絞られる事となる。

我がテレンザ侯爵家の役目は明白、バルカン帝国の侵攻からオーランド王国を守る事。その為には多くの戦力が必要なのです。

 

アルバート子爵領では領民の多くが身体を鍛え、一騎当千の実力を有しているとか。その力を貸してくれとは言いません、我が領の者をバルカン帝国の脅威に対抗出来るように鍛えていただきたい。

私はテレンザ侯爵領の領民を愛しています、彼らを守る為なら頭など幾らでも下げましょう。どうか、ご指導のほどお願いいたします」

 

そう言いアルバート子爵様に頭を下げるテレンザ侯爵閣下。

・・・こういう為政者もいるんだな~。勇者に縋りその力だけを欲した過去の為政者たちとは違う、自ら立つ為の力を(ほっ)する本物の指導者。食料は要らない、その食料を育てる技術が欲しいと言い切る者。

先を見据えるのなら一人の英雄よりも多くの優秀な兵士がいた方がいいに決まっている。だが目先の事を考え自らの保身に走る者にその決断を下せるものは少ない。

多くの者が力を付ける事、それは自らの権力基盤を揺るがす事。テレンザ侯爵家にとって代わろうとする者がいつ現れるとも知れない状況を作る事と、何ら変わらないのだから。

 

だが幾ら頭を下げられたからと言って、おいそれとマルセル村の秘密を外部に漏らす訳にも行かないんだよな~。だってそれは修羅の国の始まりだから。

人は急に力を付ければ増長し慢心する、授けの儀において有用な職業を授かった者がそうであるように。

時間を掛けゆっくり育んだ力であればまだ自制が効くかもしれないが、そうでないもの、その力を扱う覚悟の無い者に力を与えていい事など一つもない。

それは幼児に拳銃を与える様なもの、どんな悲劇が起こるのかなど想像するのも恐ろしい。

だが銃ならばまだいい、それを取り上げれば済む。マルセル村の秘密、<魔力纏い>や<覇気>の習得はそうはいかない。

これ迄世間で<魔纏い>や<覇気>が大きな問題となっていなかったのは、その習得の難しさがあったから、身に付けている者が一流と呼ばれる戦士に限られていたから。

これが一般の兵士に至るまでが身に付けたとなっては、その影はどれ程濃く人々の暮らしを苦しめてしまうのか。

 

アルバート子爵閣下、その“ケビン君、これどうしようか?”といった顔をこっちに向けるの止めません?釣られる様にマケドニアル卿とテレンザ侯爵閣下もこちらをじっとご覧になっちゃったじゃないですか。

俺は“ハァ~”と大きなため息を吐いた後、ゆっくりと口を開くのでした。

 

―――――――――

 

“カタッ、トクトクトクトク”

透明度の高いグラスに注がれる蒸留酒、これは以前モルガン商会のギースに頼んで探してきてもらった逸品。

私は琥珀色をしたそれをグラスの半分ほど注ぎ入れると、テーブルを囲む客人たちの前に差し出す。

 

「ほう、これは中々酒精の強そうな酒だ。丁度こう言うものが飲みたかったところであった。ドレイク殿、遠慮なく頂かせてもらう」

グラスを手に取ったマケドニアル閣下は、言うやグラスを傾け一気に口に注ぎ入れる。

 

「クァ~、効くの~。腹の中に火掻き棒を差し込んだ気分だわ。

テレンザ侯爵閣下も御一ついかがですかな?」

「そうですな、では私も頂戴する事としましょう。

カァ~、これは中々。アルバート子爵殿は良い酒をお持ちだ」

 

そう言いグラスを空にするお二方に、私は苦笑いを浮かべつつボトルを傾ける。

 

「しかし、あれがケビン殿なんですか。何と言ったらいいのか、他の者の発言であれば一笑に伏す事も、それを実現するだけの力を提示されてしまえば何も言えなくなってしまう」

「であるな。我も以前彼の者に頼り、己の常識とはかくも脆いものであったのかと思い知らされたことがある。

今もこのオーランド王国がオーランド王国足り得るのは、ケビンに支配欲というものが微塵も無いからに過ぎぬという事をまざまざと分からされた思いであったよ」

 

そう言い再びグラスを開ける両者。そんな彼らに“このお酒はとっておきだったのに”と悲しい気持ちになりながらも、ボトルを傾けるアルバート子爵。

そして彼らは先程までこの場にいた“マルセル村の理不尽”の事を思い出すのであった。

 

 

「テレンザ侯爵閣下、アルバート子爵閣下、マケドニアル閣下に申し上げます。これから私ケビンが語るのはあくまで私の知り得た情報からの考察と、それから考えられる一つの提案とお考えいただきたく存じます」

アルバート子爵家仮本邸の来賓の間、その場に集う高位貴族を前に、騎士ケビンは自身の考えを語り始めるのだった。

 

「まず前提としてこの戦争がどうして起こってしまったのか、それはダイソン侯爵家の前当主シオン・ダイソン侯爵様が亡くなられた事に遡ります。通例であれば当主亡き後はその嫡子が跡目を継ぎます。ですがそうではなかった、嫡子キャスパー・ダイソンが八歳とまだ幼い事を理由にその家督は叔父であるデギン・ダイソンに渡り、王家はそれを承認した。

このシオン・ダイソンが亡くなった事自体デギン・ダイソンの謀略であった事などどうでもよいとばかりにです。

 

家督を継いだデギンはこれ迄のシオンの政策を否定し、密かに行っていたバルカン帝国との折衝やスロバニア王国との交渉を(おおやけ)のものとして行う様になった。

デギン・ダイソンの野心は強く激しいものであった、自身は一地方の領主で終わる様な者ではない、いずれは国を手に入れ世に覇を唱える。

極々近しい側近には、そう漏らしていたそうです。

そんな彼が変わったのは息子ミネリオが生まれてから。自らの夢、建国の志は変わらずとも、その目的意識が変わって行った。

彼は思った、このままではいずれオーランド王国はバルカン帝国に飲み込まれると。それ程までにバルカン帝国の技術力はすさまじい勢いで発展を遂げていた。

 

皆さんは知っていますか?バルカン帝国には魔導機関車というものがあるそうです。敷設された鉄道網を走り大量の物資を運ぶ移動手段。多くの物資が国中から集められ、兵器や様々な商品に加工される。ただでさえマジックバッグなんて代物があるんです、これに距離の概念を縮める移動手段が加わればどれ程の産業革命が実現するか。

国中から集まった天才たちがその技術の進展を加速させる、帝都にある帝立技術院先端技術研究所という所では日々様々な技術が生み出されそれらは各商会に公開され新しい産業を生み出しているとか。オーランド王国では考えられない事ですが。

 

そうして生み出されたのがこれまでのものとは比較にならない様な破壊力を持つ爆薬、それを応用して作られた石火矢、全く新しい魔導理論に基づいて作られた精霊砲です。

 

デギン・ダイソンはこう考えたのかもしれません。“いずれこの地は血で血を洗う戦場となる、ならばその戦況を自らが主導し、三国に影響力を与える者となろう”と。

バルカン帝国、スロバニア王国、オーランド王国それぞれと対等な関係を築く事で、起こりうる戦乱を防ごうと。

ただ流される様にすり潰される事など、彼の高い誇りが許さなかったのやもしれません。

 

結果的にデギン・ダイソンはオーランド王国に多大な被害を与える事となった、だがそれはそこまでしなければ誰も彼の言葉を聞こうともしなかった証左。

王国の中央貴族の地方貴族に対する蔑みはすさまじいものがありますから。

肥沃な穀倉地帯や酪農が盛んな南東部貴族の代表バルーセン公爵家、リフテリア魔法王国との関係が深いシュティンガー侯爵家、南部貴族筆頭リットン侯爵家。そして彼らと関係の深い多くの貴族諸侯。

金を生み出す者はいい、そうでなければただの田舎者。マケドニアル閣下やテレンザ侯爵閣下はよくご存じの筈、誇り高いデギン・ダイソンはそんな状況にも我慢ならなかった。

 

全てはボタンの掛け違え、シオン・ダイソン侯爵様が亡くなられた時、家督を正統な後継者であるキャスパー・ダイソンに引き継がせていれば起こらなかったかもしれない事態。

今更ではありますが、王家の失態と言わざるを得ないでしょう。

ここまでの話、よろしいでしょうか?」

 

ケビンはそこで一旦言葉を切るとその場にいる者たちを見回した。誰もがケビンの言葉に声を失い、そしてどこか納得といった感情に支配される。

それは彼らが辺境の為政者として独自に情報を集めていた証左であり、それらの点と点が一本の線で繋がったからに他ならなかった。

 

「話を続けます。では具体的にどうしたらいいのか。

このまま現状を放置し様子を見る。これは一見良さげに見えてただの問題の先送り、悪手と言わざるを得ないでしょう。

理由は一つ、テレンザ侯爵閣下が仰られた通りヨークシャー森林国侵攻が大失敗に終わったからにほかなりません。失われた兵力、失われた名声、軍部はその回復の為の生贄を必要としている。

情報によれば今回のヨークシャー森林国侵攻は若き天才軍師と謳われるホーネット卿が主導していたとか、そのホーネット卿が失墜した今彼にとって代わろうとする者にとっては、オーランド王国は美味しそうな餌でしかない。オーランド王国を手土産に高位貴族に上り詰める事も夢ではないのですから。

 

ダイソン公国と停戦交渉を行い戦争自体を終わらせて、バルカン帝国への備えを行う。

これが最も有効な手段だったのですが、残念ながらその機会は失われてしまいました。これは恐らくになりますが、ダイソン公国デギン・ダイソン大公は既に亡くなられています。これはあの時の戦場を上空から見ていたパトリシアお嬢様の話となりますが、一度目の精霊砲発射の前にダイソン公国の交渉団の周辺に結界らしきものが張られたとの事でした。

その後戦場は光の波に飲まれた。

何もかも失われた戦場、しかしそうではなかった。結界に守られた人々はあの攻撃から生き延びていたんです。

恐らくそこまでがデギン・ダイソンの計画、自軍の力を見せ付け王家を交渉の場に引き摺り出そうとした。さしもの王家も精霊砲の力を見せ付けられてはイヤとも言えないでしょうから。

ですが事態は終わらなかった。精霊砲は再び放たれた。

デギン・ダイソンの野望を包み込む様に。

 

デギン・ダイソンがバルカン帝国から切られたのか、はたまた部下からの造反か。いずれにしても交渉というカードを持つ者は失われてしまったんです」

 

静まり返った来賓の間。そこには先の見えない未来に絶望感に包まれる為政者たちが、言葉なく佇む姿があるのであった。

 




本日一話目です。
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