転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第388話 辺境の剣客、暗黒大陸を渡る (2)

その者は朝日の昇る前、東の空が白みだす頃に起き上がり、寝室を後にする。

 

“スーーーーー”

庭先の開けた場所にやって来て行い始めた事は剣の稽古。

だがそれは手に持つ木刀を力強く振り上げるといったものではなく、ただゆっくり、舞の稽古でもするかの様に静かに淡々と行われていく。

背が高く、その研鑽の歴史が窺えるかの様な肉体を持つ青年の動きは、ある種の神秘性を持って人々の目を捉えて離さない。

どれくらいの時間が経ったのだろう、昇り始めた日の光が辺りを照らし、人々の生活の息遣いが聞こえる様になった頃、青年は木刀を降ろし、大きく息を吐いた。

 

“フゥーーー”

「お疲れ様です、ジミーお兄様。今朝も剣のお稽古ですか?」

「あぁ、ルビエラちゃん、おはよう。今朝は早いね、いつもはメイドさんに起こして貰ってるのに、どうしたの?」

掛けられた声に振り返ると、そこには可愛らしい少女。ジミーは少女に朝の挨拶をすると、何か用があるのか問い質す。

 

「う~、ルビエラだってちゃんと自分で起きれます。朝ごはんが出来たから呼びに来たんです、ジミーお兄様は集中してると人の声が聞こえないから」

「あぁごめんよ、もうそんな時間になったんだね。エルデン様には直ぐに向かいますと伝えてくれるかな?流石に汗を搔いた服のままと言うのは問題だろうから」

 

“バサッ”

言うや上着を脱ぎ肌を露にするジミー、その彫刻の様に鍛え上げられた肉体に、思わず顔を朱に染めるルビエラ。

 

「つ、伝えましたからね、直ぐに来てくださいね」

その言葉を残し急ぎ屋敷に戻って行くルビエラに、忙しいのにわざわざ声を掛けに来てくれたのかとどこか間の抜けた感想を覚えるジミー。

ジミーは脱いだ上着を基礎魔力で作った魔力ボールに放り込むと、生活魔法<ウォーター>(温水)を注ぎ入れ水属性魔力と風属性魔力を使ってぐるぐると撹拌し始める。

その間収納の腕輪から取り出した手拭で身体を(ぬぐ)い、汗を落とす。

ある程度の頃合いで生活魔法<ウォーター>の応用で脱水、生活魔法<ウインド>(熱風)でよく乾燥しふんわりと仕上げたら上着を取り出しで上体に着込む。

ドラム式洗濯術、何度も行っているうちに、それぞれの生活魔法を意識しなくとも洗濯を行える様になって来た。

 

森の中ではこんなにのんびりと洗濯をしている余裕はない為、何時でも外敵に対応出来るようにスライミーたちに綺麗にしてもらっているが、こうして綺麗に洗濯した服は、やはり着心地の良いものだと思う。

 

「たまにはこんな生活も悪くはないか」

ジミーは森でのラビアンヌとの出会いを思い出し、これまでの戦いを振り返る。

 

「ジミー、お父様が一緒に朝食をと呼んでいるんだけど。そんなところで何をしているの?」

「おはよう、ラビアンヌ。ちょっとこれまでの事を思い出していてね。ラビアンヌを捕らえようと襲い掛かって来た連中との戦いはなかなか楽しかったなと。

火を吐く魔物や氷を飛ばす魔術師、雷を操る魔術師なんてものは初めて見たよ、心躍る戦いだったなと思ってね」

そう言いニヤリと獰猛な笑みを浮かべるジミー。そんなジミーに「普通はどれもが強敵なんだけど。なんでジミーは初見で雷魔法を避ける事が出来るのよ・・・」と何やらぶつぶつ呟くラビアンヌ。

 

「ところでいつもそばにいるブラックウルフはどうしたの?姿が見えないみたいだけど」

「あぁ、何か用があるみたいで出掛けている。しばらくしたら帰って来るんじゃないのか?」

 

ジミーの返答に「えっ、あのブラックウルフって従魔よね?そんな自由でいいの?従魔が用があるからって主人の傍を離れるって一体?」と、自分の持つ常識との違いに首を捻るラビアンヌなのであった。

 

「ジミー殿、朝から稽古とは熱心であるな、感心感心。流石は武勇者と言ったところかな?」

「エルデン様、おはようございます。それとお待たせしてしまい申し訳ありませんでした」

そう言い深々と頭を下げるジミーに“武勇者にしては礼儀を心得た青年だ”と感心するエルデン。

 

「いやいや、ジミー殿には長女ラビアンヌを助けていただいたばかりか、ルビエラも親しくしていただいている様子。娘を持つ一人の父親として嬉しい限りだ。これからも娘たちの事をよろしく頼むよ」

そう言いニコリと微笑むエルデン。

 

「ところでエルデン様、その後のダリアン一味の動きはどうなっていますでしょうか?ラビアンヌ様のお話では魅了系の能力の使い手であるとか。

ラビアンヌ様に襲い掛かって来た多くの魔物も、ダリアンの力により使役状態に置かれた魔獣であったとか。下手に放置すれば敵方の力が増強される一方ではないかと思うのですが?」

 

「うむ、それは私も危惧しているところだ。ダリアンは既に周辺七部族の内、三部族を支配下に置いたとみていいだろう。我らパルム一族を除く三部族がいつダリアンの手に落ちてもおかしくないといったところが現状だ。

我がパルム一族は魔王様より直接周辺部族をまとめるよう仰せつかった一族、ここでダリアンの軍門に下るような姿を晒す訳にはいかないのだよ」

そう言いギリッと音のする勢いで拳を握るエルデン。そんなエルデンの姿に、しばし考える素振りを見せるジミー。

 

「ではやはり直接ダリアンを叩くのが最も手早いのではないでしょうか?下手な政治工作を弄しようも、相手は魅了持ち。一切の工作が水泡に帰すことは必定。更に言えば部族間の全面的な争いともなれば、どちらも力を失うは自明の理。

暗黒大陸で力なき者の末路は破滅と決まっています。

ここは一つ私に向かわせてはくれないでしょうか?

力には力、上を叩けば少なくとも今以上に魅了による洗脳が広がる事はありませんから」

 

そう言いにこりと微笑みを向けるジミー。

 

「だがそれではジミー殿が魅了の餌食に、そうなってしまえば我々には対抗手段がなくなってしまう」

焦る様に言葉を返すエルデンに、ジミーは尚も言葉を向ける。

 

「それこそ今更でしょう。今のままではじり貧であるという事は、どうしようもない事実。かと言って部族間抗争に持って行っては魔物やほかの部族にとってのいい餌になってしまう。

ダリアン一味の最大の警戒事項は、魔王様に知らせが届く事。さしものダリアン一味も魔王様には敵わないと見えて、魔都方面に対する警戒網は厚い。

今後誰が向かおうとも途中で始末されるのが落ちでしょう」

 

ジミーの言葉に口を噤むエルデン。

 

「七部族の領民の事を考えれば、取れる選択肢は二つ。ダリアン一味に下るか、少数の戦力でダリアンを直接叩くか。

エルデン様、ご決断を」

 

その声音は決して大きくない、だが力強い信念の籠ったもの。

 

「ジミー殿、武勇者の姿、確かに見定めさせていただきました。我らはジミー殿に従いましょう」

「ご決断、ありがとうございます。必ずやエルデン様に勝利を捧げさせていただきます」

そう言い一礼をするジミーに、獰猛な笑みを浮かべ大きく頷くエルデン。

 

「もう、お父さんもジミーお兄様も難しいお話ばっかり!

ルビエラお腹すいちゃった~!!」

 

「あぁ、ごめんよルビエラ、ごはん前にするような話じゃなかったね。お腹が空いちゃうよね、ジミー殿も済まなかった、直ぐに朝食にしよう」

「えぇ、そうですね。俺もお腹が空いてしまいました」

 

「「ハハハハハハ」」

「ブ~、笑っても誤魔化されないんですからね。二人ともお説教です!」

「「はい、すみませんでした」」

 

戦い前の一時、決戦の時は刻一刻と迫っているのだった。

 

―――――――

 

「ほう、ついにエルデンが立つか。しかし奴も甘い、部族同士のぶつかり合いであればまだ少しは勝利の目も見えたかもしれぬものを。互いの犠牲を少なくし七部族の存続を図ろうだなどと、奴は何時までこの地の主面をしておるのだ?」

 

「そうでございますね。少数の手勢でダリアン様のもとに届き得るだなどと、何を夢見ているのでしょうか?

既に現実が見えていない段階で為政者足り得ないというのに、何時までもその座にしがみつく害虫が」

 

ダリアンは側近たちと談笑しながら今後の動きについて考える。

自分たちの会話が筒抜けになっている事にも気が付かないエルデンに、勝利の目は既にない。

何がいつ行われるのか、その為に必要な備えは何か。

(いくさ)とは、それが始まる前に勝敗が決してしまうものなのだ。

 

“ドガンッ”

突然の轟音が屋敷中に響く。

 

「なんだこの音は!?一体何が起きた!」

 

“バタンッ”

「ご報告申し上げます、敵襲、数は一人、冒険者の様です」

「総員、敵襲である、対処に当たれ。尚陽動である可能性が高い、周辺の警戒を怠るな!」

「「「ハッ、ダリアン閣下の御心のままに」」」

 

走り出す兵士と配下たち。ダリアンは立ち上がり窓辺へ向かうと、襲撃先に向かっていく兵を見下ろし、苛立たし気に舌打ちをするのでした。

 

「貴様、何奴!ここがダリアン様のお屋敷と知っての狼藉か!

今すぐ武器を捨て、大人しく縛に付け!」

「断る!貴殿も武人であるのなら口ではなく剣で語れ!」

 

「構わん、切れ、そこの狼藉者を切り捨てろ!!」

「「「応!!」」」

 

それは戦いと呼べるようなものではなかった。敵は一人、屋敷の警護に当たる何十と言う兵士が一斉に切り掛かり、その身を崩そうと組み掛かるも、その全ては躱され、いなされ、一人一人木刀により打ち据えられて行く。

 

“ゴウンッ”

そんな戦いの場に、敵味方関係ないとばかりに撃ち込まれる豪炎の火球。

だがそれは咄嗟に躍り出た侵入者の木刀により絡み取られ、撃ち出した人物目掛け打ち返される。

 

“ドガ~ンッ”

激しい爆発音が屋敷中に響く中、侵入者は何食わぬ顔で屋敷に向かい木刀を構える。

 

「ボビー流剣術<覇魔混合>、十文字切り!」

“ババッ”

振るわれた木刀は神速の動きで十字を切る、刹那。

“ドゴーン”

轟音と共に吹き飛ぶ屋敷。その光景に、屋敷の者たちは唯々動きを止める。

 

“ジャリッ、ジャリッ、ジャリッ”

侵入者は一歩一歩踏みしめる様に、瓦礫に向かい歩を進める。

 

「グオッ、一体何だと言うのだ!」

苦痛に顔を歪めながらも、残骸の中から姿を見せるダリアン。侵入者はその姿を認めるや、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

「お前がダリアンだな。俺は武勇者、貴様の首を貰い受けに来た」

そう言いじりじりと近付いて行く侵入者。

 

「くそ、狂人が!バレン、ローザンヌ、こやつを始末しろ!」

“バッ”

飛び出したのは巨漢の戦士、その表情は読み取れないものの、全身から噴き出す覇気は巨漢の戦士が油断ならざる強者であることを物語る。

 

「こうでなくては。武勇者ジミー、推して参る」

“バッ、ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ”

目にも止まらぬ打ち合い、侵入者と巨漢の戦士の激しい攻防により周囲の瓦礫は吹き飛び、何もない空間が出来上がる。

剣術による戦いとは、互いの領域の削り合い。全ての技術は最後の一手を打つ為の布石。

それは互いの手の内の読み合いであり、敵を理解してこその一手。剣で打ち合う事を“会話”と称する事の所以。

 

「そうか、アンタはそこにはいないんだな。残念だよ、出来れば本来のアンタと切り結びたかった」

寂しそうに、物悲しげに呟く侵入者。

 

「もう終わりにしよう。<一閃>」

“ドゴーン”

まるで毬の様に吹き飛ぶ巨漢、周囲に動く者は一人もいない。

 

「バレン、何をやっているか!ローザンヌ、ローザンヌはどうした!!」

 

戦場にはダリアンの叫び声だけが響く。

 

「さて、もう終わりか?ならばその首を貰い受けるだけなんだが」

「くそ、こんなところでコイツを使う羽目になるとは。バルンバ、門を開け、トロールを開放する!!」

 

「し、しかし、トロールの調整はまだ終わっていませんが」

「そんな事を言っている場合か!直ぐにやれ!」

「は、はい」

 

“ガゴンッ”

“ガァァァァァァァーーー!!”

ダリアンの指示に、庭先の石像を動かすバルンバ。それは解放のスイッチ、地下室に閉じ込められていた魔物が、自由の雄叫(おたけ)びを上げる。

“バゴーン”

破壊音と共に弾け飛ぶ、庭の隠し扉。

 

「トロール!!あいつだ、あの侵入者を叩き潰“ドゴーン”アギャッ」

それは狂気、それは破壊。圧倒的暴力の塊が、侵入者目掛け解き放たれる。

 

「ククククッ、アッハッハッハッ、これだこれ、このひりつくような死の予感。俺はいま生きている、こんな楽しみ、他の奴らに譲ってやるものか。

ダリアン、貴様の用意した狂気と俺の狂喜、どちらが上か勝負だ!!<覇魔混合>」

“ブワッ”

侵入者から噴き出す強大な力、それは覇気とも魔力ともつかない、謎のエネルギー。

 

“フゥーーーー”

腰だめに木刀を構え、侵入者が飛び出さんとしたその時であった。

 

“バスッ、ツーーーードサッ”

突然の事態に、その場にいる全ての者の動きが止まる。

胴体が斜めに切断されずり落ちたトロールの上体、その背後に佇む巨大なナニカ。そのモノから放たれる圧倒的かつ神聖な気配。

 

「ばっ、馬鹿な。フェンリル、だと!?」

ダリアンの呟きが、静まり返ったその場に木霊する。

 

“スーーーーー”

そのナニカは侵入者に対しまるでお辞儀をするかのように頭を下げると、口元から地面に手紙の様な物を置き、再び顔を上げる。

 

“アウォォォォォォォォォォォォォォン”

ナニカが天高く咆哮を上げる。

すると地面に光の文様が現れ、何かは地面に吸い込まれるように姿を消すのでした。

 

暫しの静寂、侵入者は自身の構えを解くと、地面に置かれた手紙に手を伸ばしその封を開ける。

 

『ジミーへ

何か太郎が進化出来そうだったんでこっちに呼び出して進化させたらナイトフェンリルって言うよく分からない種族になっちゃいました。それに身体がデカくなったと言うかデカくなり過ぎたと言うか。

ですんで暫くこっちで縮小化の魔法を修行して、普通のブラックウルフくらいの大きさになれる様になったら再びそちらに送りたいと思います。

それまで申し訳ないですが、一人で頑張ってください。

お身体に気を付けて。

 

兄ケビンより』

 

「・・・・・」

侵入者は暫しその場に佇んだ後、手紙を懐に仕舞い込み、大きく深呼吸をしてから天に向かい叫び声を上げるのでした。

 

「太郎の馬鹿~~~~~!!今凄い良い所だったのに~~~!!

ケビンお兄ちゃんの馬鹿野郎~~~~~~~!!」

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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