転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第389話 村人転生者、畜産魔物の検証に励む

マルセル村の村外れにあるケビンの実験農場。その一角に新たに増設された二か所のコッコ飼育場では、首の輪コッコ種と斑点コッコ種の飼育実験が行われ、マルセル村の新しい農産品に加えるべく日々飼育と観察が行われていた。

 

“パンッ、パンッ、パンッ”

肌と肌がぶつかるような音、首の輪コッコの飼育場では今日もコッコたちの元気な掛け声と共に、激しいぶつかり合いの音が響く。

首の輪コッコはコッコ種の中で最も獰猛な品種であると言われている。その獰猛さは山岳部の生息地域で見られる生態行動からも窺える。

首の輪コッコは個々の自己主張が強く、互いの身体をぶつけあって序列を決める習性がある。序列上位者はより高い位置の岩場に身を置き、周辺の警戒に勤める。

そしていざ侵入者を発見するや次々に戦いを挑み、敵を殲滅する。彼らに逃げるといった行動形式はなく、群れの最後の一体になっても戦い続けると言われている。

 

“ドンッ、ドンッ、ドンッ”

高い塀に囲まれた飼育場の中には、太い樹木で作られた柱が何本も立てられている。首の輪コッコたちはその柱に向け突進し、自らの身体を打ち付ける。これは野生の首の輪コッコにも見られる突進行動であり、首の輪コッコの生息地ではコッコの突進により樹皮の禿げた樹木が多数見られると言われている。

 

その柱から少し離れた所にはやや高めの舞台状の場所が作られており、その上では首の輪コッコ同士の序列戦が行われている。

舞台は三か所に分かれており、より序列の高いものが奥の高台で挑戦者を待ち構える形が取られている。

これはコッコ生息域での首の輪コッコの行動を飼育環境で再現した結果であり、村人ケビンが在りし日の記憶にある某動物園の行動展示を参考にして作り出したものであった。

飼育環境下での魔物のストレス軽減は、畜産における最重要課題と言えるのである。

 

「おはよっす。お前たち元気か?餌を持ってきたぞ」

““““クワックワックワックワ””””

飼育場に餌を持って現れた飼育員、それは彼らにとっては侵入者に他ならない。だがその飼育員に対し、首の輪コッコたちは敵意を向けるどころか、姿勢を正し挨拶を行うようなしぐさを見せる。

 

“クワックワックワックワ!!”

その時舞台の最上段からその様子を見下ろしていた一体のコッコが、鳴き声を上げる。それはまるで飼育員に対し挑戦状を叩き付ける様な態度であった。

 

「おっ、横綱、今日もやるか?その意気やヨシ、貴様の挑戦、受けて立つ」

飼育員は悠然とした態度で横綱と呼ばれた首の輪コッコの待つ舞台へと上って行く。

 

「さぁ来い、稽古を付けてやろう」

“パンッ”

首の輪コッコ飼育において重要なのはコッコの生態行動環境に生産者が飛び込めるのか否か、生産者に求められるのは首の輪コッコとの激しいふれあいの中で、そのリーダーとして君臨し続ける力量であると言えるのではないだろうか。

 

 

““““クワクワクワクワクワクワクワクワッ””””

斑点コッコは群れで行動し、群れで移動する生態を持つコッコである。その行動様式はある意味でホーンラビットに通じるものがあるが、より密接に、個としてよりも全体として行動するのが斑点コッコであると言える。

それはあたかも群れという一つの生物であるかの様であり、周囲に敵対者となる生物が現れた際の攻撃行動は苛烈であるとさえ言えるだろう。

その為斑点コッコに対し生産者は敵対的行動をとるべきではなく、飼育環境は生息域の岩場の状態を参考に作られるべきである。

 

斑点コッコの生態行動は比較的穏やかである。食事の後は岩場に張り付くように群がり、日光浴を行う。日が暮れれば飼育小屋に戻り、藁の上で身体を休める。

コッコは鳥型とはいえ魔物である。その為卵の孵化の為に四六時中親個体が卵を温めるといった行動は行わない。日中は餌を求め巣を離れ、暗くなれば巣に戻り卵を温めつつ眠りにつくといった行動様式を取る。その為日中空になったコッコ小屋での卵の回収は、比較的容易であると言える。

斑点コッコ飼育において重要なのは、このコッコの行動様式をよく理解し、なるべくコッコとの接点を減らす事、コッコに警戒行動をとらせない事である。それさえ怠らなければ斑点コッコは比較的飼育しやすい畜産魔物であると言えるだろう。

 

「さて、こんなものでいいかな?」

俺はテーブルの上の報告書に目を通し、アルバート子爵様に対してのプレゼン構想に思いを馳せる。

報告書は「首の輪コッコと斑点コッコの飼育とその対策」と題したもの。これは先に提出した「鷹の目コッコの飼育とその対策」に続くコッコ飼育の提案書でもある。

コッコの卵の需要は高い。卵料理に関する要求はお菓子に始まり肉料理、野菜料理と、多岐に渡る。現在それらのレシピはレンドールのアルバート子爵家別邸の管理人であるグリル夫妻により研究され、日々資料として纏められている。

 

需要はある、ならば供給体制の構築は急務。新たな産業としてのコッコ飼育技術の確立と飼育環境の整備が、今後のコッコ産業発展の鍵と言えるだろう。

俺はコッコ飼育の確かな手応えに、口元を緩めるのであった。

 

―――――――――

 

「パトリシアお嬢様、おはようございます」

「「「おはようございます、パトリシアお嬢様」」」

 

マルセル村の新事業ホーンラビット牧場では、今日も難民達が角無しホーンラビットの世話に汗を流していた。

 

「おはようございます、皆さん精が出ますね。お身体の方もお元気になられた様子、お仕事頑張ってください」(ニコリ)

 

「「「「はい、ありがとうございます」」」」

マルセル村に保護された難民たちは、テレンザ侯爵家寄り子の貴族家タルンドール男爵家の者たちであった。タルンドール男爵は今回のアスターナ男爵領戦に従軍した家であり、現在は領地に戻り自領の治安維持に精力を傾けているとか。

難民たちはタルンドール男爵領軍が無事に戦地から戻った事に安堵すると共に、現在村が空き家状態になっている事、自分たちだけが安全な暮らしを享受している事に酷く心を痛める事となった。

 

「皆さんのお気持ちはよく分かりました。では私の方からタルンドール男爵家に皆さんの無事を知らせる手紙を出しましょう。

それと皆さんには我が村のビッグワーム農法、ホーンラビット牧場について学んでもらいます。

皆さんがいざ村に帰ったとして、また元の暮らしに戻れるかと言えばそう簡単な話ではない。盗賊により家は壊され、農地も荒らされている事でしょう。

そこで皆さんにはテレンザ侯爵領を含む南西部貴族連合におけるビッグワーム農法、角無しホーンラビット牧場の先駆者になっていただきたいのです。

 

南西部貴族連合に我がアルバート子爵家のビッグワーム農法と角無しホーンラビット牧場の技術提供を行う話は、領主間交渉の場において決定しています。

皆さんがこの話を受けてくださるのでしたら、村の復興資金をテレンザ侯爵家が援助してくださるばかりでなく、タルンドール男爵家にも大きな恩恵があるでしょう。

身内の安否確認はアルバート子爵家騎士団において行う事が出来ます。皆さんの中には以前の村を捨てマルセル村の住民になりたいと思われている方もおられると思います、これは皆さんの未来に関わる話、よくよく考えて結論を出してください」

 

アルバート子爵家令嬢パトリシア・アルバートの提案は、ただ一方的な通達を行うと言ったものではない、難民たちの気持ちに寄り添ったものであった。

確かにマルセル村は素晴らしい土地であり、この村での充実した生活はこれまでの人生で味わった事のない幸福を齎してくれるものであった。だが、だからと言って思い入れの深い故郷を捨てる事が出来るのかと言われればそれは難しい。

その地に暮らす事が困難であった盗賊に襲われていた当時ならいざ知らず、テレンザ侯爵家やタルンドール男爵家の後ろ盾を得られるばかりか村の復興支援も行ってもらえるという素晴らしい話のある中で、以前の村を捨てマルセル村に帰属するかと聞かれ「はい」と即答出来る者は少ないだろう。

農民とは土地に生まれ、土地に生きる人々である。生涯を村で暮らし外の世界を一切知らないといった者も珍しくはない。

 

「なぁ、儂らはどうしたらいいんじゃ。儂らは先も長くない、村の者たちが、子供たちが受け入れて貰えるのだったらこの命を捧げても構わんと思っておった。

そんな儂らをパトリシアお嬢様が救って下さった、その上不安に思う村の者の為に帰村の道も示してくだすった。

儂らは一体どうこの恩を返したらいいんじゃ」

 

村の女性たちには戦地に向かった夫がいる。子供たちの父親は今も家族の安否を知らず苦しい思いをしているに違いない。

自分たちの命の不安が無くなった途端押し寄せる後悔の念。

逃げる様に村を去ってしまった自分たちにその生存を知らせる術はない。

帰りたい、あの貧しくも楽しい日々を送っていた故郷に。

 

「皆聞いてくれ。皆はパトリシアお嬢様の話を聞いていただろう?パトリシアお嬢様は仰っていた、俺たちにテレンザ侯爵家をはじめとした南西部貴族連合の為にマルセル村のビッグワーム農法と角無しホーンラビット牧場の技術を伝えて欲しいと。

俺たちはただの村人だ、この村の若者みたいな力もなければ難しい事を考えられる知恵もねえ。

ただ畑を耕し野菜を育てる事なら自信をもってやれる、そうだろう?俺たちがパトリシアお嬢様の、アルバート子爵様の為に出来る恩返しと言ったら、パトリシアお嬢様の為にマルセル村の農業技術を広めるお手伝いをする事なんじゃねえのかな?」

 

言葉を発したのは隻腕の壮年の男性マリンバであった。彼は村の仲間たち一人一人に目をやり、己の思いを伝える。

 

「確かにこのままマルセル村にお世話になる事も出来るだろう、マルセル村の村人達はそれを温かく迎え入れてくれるかもしれない。でも肝心の俺たちはどうだ?俺たちにその覚悟はあるのか?

別れた家族は、あの村での生活は、その全てを捨ててマルセル村の人間になれるのか?

このマルセル村はある意味有名な場所だ、“オーランド王国の最果て”、聞いたことのある奴もいるかもしれない。

こないだ村の奴に聞いたら、元は王都で貴族をやってたと言ってたよ。家族や婚約者に裏切られて、殺されそうになって命からがら逃げだしたんだと。逃げた先でも暗殺者ギルドから命を狙われ、戦って隠れて最終的に辿り着いたのがマルセル村だったらしい。

この村には他にもそんな連中がごろごろいるって言って笑ってたよ。この村の人間にとって、マルセル村は最後に辿り着いた生きる場所、村の為なら命なんて惜しくないといった覚悟がとっくに決まっていやがった。

自分の命が惜しくて縋りついたような俺たちとは、土台が違うんだよ。俺は一度村に戻り村の復興の為に働こうと思う。そしてビッグワーム農法と角無しホーンラビット牧場の技術を多くの人たちに教えて行こうと思う。

それが力のない俺が出来るパトリシアお嬢様に対する恩返しに繋がると思うんだよ」

 

「そうは言ってもこの腕だけどな」と言って笑うマリンバに、笑みを浮かべる難民たち。

彼らの覚悟は決まった。パトリシアお嬢様の為に出来る事、自分たちに出来る事を精一杯に行うと。

 

男達はホーンラビット牧場に向かい、管理責任者であるグルゴ夫妻に頭を下げ教えを請うた。女達はマルセル村の女衆の所に向かい、ビッグワーム農法とビッグワーム干し肉についての研修を受けた。

それは難民たちが出来るパトリシアに対する精一杯の恩返し、農業技術の伝達の為に。

 

 

「「「「えい、えい、えい、えい」」」」

大人達が一生懸命に働いているとき、子供たちもまた自分たちに出来る事をしようと動いていた。

彼らは思った、自分たちが何故村を去り逃げ出さなければならなかったのかと。自分たちに力があれば、母親を、村の皆を守れる力があればと。

その思いは、マルセル村の外れ、ボビー師匠の訓練場での鍛錬へと昇華された。

 

「よし、止め!皆大分体力が付いて来たからか、振りが良くなって来ているよ。でも身体を壊しちゃったら元も子もないからね。

訓練には休憩も大切、お水を配るからみんなそれを飲んで休んでね」

「「「「は~い」」」」

 

訓練場では年上のお兄さんであるジェイクが子供たちの世話を引き受けていた。自身もケビンお兄ちゃんと言う村のお兄ちゃんに世話になった身である。年下の子供たちの面倒を見る事に然して抵抗感も湧かず、良き兄、良き指導者であろうと率先して世話を焼くのであった。

 

「ジェイクお兄ちゃん、この水美味しいね。井戸の水もおいしいけど、それよりもずっとおいしい。ねぇ、どうしてどうして」

「あぁ、それはこの水が魔力水だからだよ。みんなは生活魔法の<ウォーター>の魔法を知っているだろう?あの<ウォーター>の詠唱をするときに、自分の魔力を多く込めることを意識して行うと、この魔力水が作れるんだよ。

魔力を多く含む食べ物はおいしい、それは水にも言える事。

これはみんなも訓練すれば出来るようになるんだ。

みんなは一生懸命に働いているお母さんたちのお手伝いがしたい、自分たちに出来る事はないかと思ってこうやって訓練を頑張っているんでしょう?だったら生活魔法を訓練するといいよ。

知らない子たちはマルセル村の大人の人に聞いてごらん?この村の大人は皆生活魔法を訓練して強くなったんだ。生活魔法は皆が思っているよりずっと便利で応用の利く魔法なんだよ?」

 

そう言い生活魔法<ウォーター>の水を霧雨状にして虹を作り出すジェイク。

 

「「「「うわ~、ジェイクお兄ちゃん凄~い!!」」」」

その光景に子供たちはジェイクに抱き着き、歓声を上げる。

ジェイクはそんな彼女たちの頭を撫で、にこやかに微笑むのでした。

 

「ジェイク君?楽しそうに何をやってるのかな?私も混ぜて欲しいな~♪」

「「「「何でもないであります、マム!!休憩を終了するであります、マム!!」」」」

 

子供たちの思いは一つ、今日も子供たちは一生懸命訓練に励むのであった。




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