魔道具、それは火力や水力、電力と言った動力源を使わず、魔力と言うこの世界ならではの不思議エネルギーによって稼働するファンタジーの結晶。
魔道具、それは夢やロマンが詰まった光り輝く宝物。
魔道具、それは辺境のこの地では決して目にする事が出来ないと諦めていた永遠の憧れ。
「これが魔道具」
少年ケビンの目の前では、そんな夢の塊がカタカタと音を立てて稼働していた。
「あぁ、これは魔力を与える事で“回転する”と言う動作をひたすら続けるだけの魔道具だな。あとこれは着火の魔道具。火を点けたかったら生活魔法のプチファイアーを唱えればいいんだが、商人や貴族の中にはそれを面倒と感じる者も多くてな、特に煙を愛飲する様な連中によく売れる。冒険者の中にも利用者は多い、魔物に悟られずに気配を消したまま煙玉に火を付けるのに重宝するらしい」
この辺境の村には様々な経歴を持った人物がいる。今目の前で魔道具について教えてくれているマルコ爺さんもその一人。
マルコ爺さんは元々この村の出身であったが、若い頃村の生活が嫌で都会に出て行った人物。所謂Uターン組である。
そりゃね、このマルセル村には何も無いしね、若かりし日のマルコ爺さんにしてみれば夢も希望も無かったんだと思うよ。で、そんなマルコ爺さんに転機が訪れたのはお約束のアレ、十二歳の“授けの儀”。なんと、“魔道具職人”の職業を授かっちゃったんですね~。親の伝を使い、とっとと王都の工房に弟子入りしちゃったそうです。
でも不思議じゃないですか?こんな辺境の田舎の少年が“魔道具職人”なんて職業を授かった上に“親の伝”で王都の工房に修業に入るだなんて。答えは簡単、マルコ爺さんのお爺さんが元々魔道具職人で、一家してマルセル村の開拓民としてこの地にやって来ていた
開拓村の初代二代目辺りの村人なんて、基本食い詰め者か訳アリですから。三代目だった前々村長はそんな“よそ者”が大嫌いだった様ですが。マルコ爺さんみたいに“村に世話になったくせに”出ていく若者を多く見ていたり、新しく入って来て村に迷惑を掛ける連中を見ていて歪んだのかも知れません。
なんと言っても“お貴族様のご令嬢追放事件”をつぶさに見て来た世代ですからね。二代目村長、生きた心地がしなかったんだろうな~。
まぁそんなこんなで都会に行ったものの例の如く色々あって出戻ったマルコ爺さん、当時の村長からの風当たりは最悪だったみたいですが、元々この村の人間ですからそれなりに受け入れられて(その当時は老齢のご両親がご健在だった事も大きい)、村の道具職人兼農民として生計を立てて来たとの事でした。
道具職人といってもやってる事は農具や馬車の修繕なんですがね、マルコ爺さんそれなりに重宝がられていた様です。
「魔道具と言うものは大まかに分けて三種類ある。使う人間の魔力を動力源とするものと周囲の魔力を動力源とするもの、そして魔石と言うものを力の源とするものだ」
「何、魔石ですと!?何ですかその勇者病<仮性>の心を擽るパワーワードは!そこの所を詳しく!?」
「待て待てケビン、物事には順序がだな。ちゃんと話すから落ち着け、胸ぐらを掴むな!」
「はっ、これは大変申し訳ございませんでした。つい我を忘れてしまいました」
俺は急ぎ姿勢を正し、お話を拝聴するのでした。“やはり村一番の<仮性>”とか言われていますが気にしてはいけません。
「では改めて話すが、まずは使用者の魔力を動力源とする魔道具、これはケビンが作った“ヨシ棒”や“ライト棒”がそれにあたる。あれは魔道具の中では最も原始的な構造と言えるだろう。
普通は“魔力纏い”なんて出来ないし、物に魔力を送るなんて真似は出来ないからな?だから使用者の魔力を使う魔道具にはその者の魔力を吸い上げる機構が備わっている。やり方は職人によってまちまちだが、魔方陣方式が一般的だな」
またまた出ましたパワーワード、魔方陣!!俺、今夜眠れないかもしれない!
「何か目が爛々としていて怖いぞ、少し落ち着け。次に周りの魔力を自然吸収するタイプ、これは村長代理の所有する大容量マジックバッグがそれにあたる。これも職人によっては使用者魔力や魔石を併用するものを作ったりする事もある。ただマジックバッグの様にその効果を継続させる為にはどうしても魔力を自然吸収させる必要がある。でないとあんな大きさの物に大量に物をしまうなんて不可能だからな」
確かに、これは目から鱗。勝手に異空間にでも収納してるのかと思っていたけど、その異空間の維持やら接続地点の維持にエネルギーが要らないわけがないもんね。これが“魔法の効果の継続”的な物だったとしてもその維持や出し入れには魔力なりなんなりが必要そう。マジックバッグも方式は様々な様です。
「最後に魔石方式だな。ケビンは魔石と言うものを・・・知らないんだったな、分かったからこっちににじり寄って来るな。魔石はある意味鉱山資源の様なものと言われている不思議物質だ。ケビンはダンジョンと言う言葉を・・・知らないよな、分かったから落ち着け、先ずは座る、ハイ吸って~、吐いて~。よし、そこから動くなよ。
ダンジョンと言うのは魔物の溢れる洞窟みたいな場所だ。そこの魔物は不思議な事に倒されると魔石と言う物を残して消えてしまう。また時には身体の一部だったり、明らかに関係無さそうな物を残したりする。これを魔物の落とし物と言う意味で“ドロップ品”と呼んだりする。これについては元冒険者のヘンリーさんの方が詳しいから家に帰ってから聞いてくれ。
それでこの魔石だが魔道具の動力源としてはとても優秀でな、様々な魔道具がこの魔石方式を採用している。
冒険者が使う魔道具と言えばまず間違いなく魔石方式の物だろう。
それでケビンはこの魔道具を作りたいと言う事だったが、ミランダさんの所で調薬の勉強をしたなら分かると思うが魔道具にもスキルが必要な工程が多い。その為工房では各人の熟練度に合わせて分業制で作製を行ったりする。
例えばマジックバッグだったら縫製や装飾迄を外注に出して魔方陣作成や魔法付与を魔道具職人が行ったりとかだな。個人工房の場合全てを一人で行う拘りの職人と言う人物もいたな。
全てを一人で行う利点は全体の魔力バランスが良くなり、効果の高い魔道具になり易い点だろう。ただ一点ものとなる為作製に時間が掛かる上に個数が用意出来ないと言う欠点もあるがな」
マルコ爺さんはここまで話をすると“休憩させろ”と奥さんを呼んで、偽癒し草のお茶を飲むのでした。
「で、ケビンは基本的な魔道具の構造と魔方陣が知りたいって事でいいんだよな?最初に言っておくが魔方陣の焼き付けには魔道具作製のスキルが必要だ。魔方陣を描く事が出来ても着定出来なければ魔道具は発動しないからな?
次に素材だ、これがなければ同じ物は作れない。これも魔道具職人の熟練度が上がるに従ってどんなものが必要かなんとなく分かる様になるし、扱える素材の幅も広がってくる。作製の成功率も熟練度によると言えるだろうな。
その辺は分野が違えど調薬と変わらないんじゃないのか?」
グッ、魔道具作製は行き成りスキルありきなのね。焼き付けって乾かしただけじゃ駄目なんだろうか。これも要実験。
インクは各工房でまちまちと。魔力を通し易い素材を使ったインクを各工房で秘匿していると。職人見習いの頃に練習用に使われるインクは魔力水に墨とスライム溶液を溶かしたものが主流ですか、なる程です。
マルコ爺さんは木板に用意した練習用のインクでサラサラと簡単な魔方陣を描くと、両手で挟み“大いなる神よ、その御技を我が手に、魔道具作製”と唱えました。
“ホワッ”
淡く発光したかと思うと、其処には確りとインクが焼き付いた木板が残されるのでした。
「これが基本の魔道具、効果はプチライトとほぼ変わらん。この魔方陣部分が淡く光る。それでこの手元の小さな魔方陣が魔力を吸収する魔方陣だな」
差し出された木板。俺がその小さな魔方陣に触れると木板の大きな魔方陣が発光、離すと消える、また触ると発光・・・。何か楽しい。
「それは単純な構造だからそうでもないが複雑なモノは魔方陣部分が消耗し易くスライムインクだと直ぐに駄目に成ってしまう。その為工房では色んなタイプのインク溶液の開発研究を行っており、その販売も行っている。試しにその魔方陣に強めに魔力を流してみろ」
俺が言われた通りに魔力を送ると。
“ボッ”
木板の一部に火の手が上がり、その場所が焦げ付いて明かりは消えてしまいました。
「な、それがスライムインクの限界なのさ。つまりインクのレシピは工房の生命線、常により魔力の通りが良く耐久性に優れたインクを目指し、日夜研究を行っているのさ」
なる程、深い、深いぞ魔道具作製。正に工房、職人の世界。すごい俺好み。でも残念、俺にスキルなんて無いんですわ~。これだけ色々聞けたってだけでも一財産ではあるんですけどね。
俺は鞄からキャタピラー繊維、収縮糸と攻撃糸を取り出し五メートル程でカット。マルコ爺さんが木皿に流し込んだインクの中に浸け込んでみました。
収縮糸よりも攻撃糸の方が染み込みはいい様子、確りと染み込んだ所でマルコ爺さんに着定をお願いしてみました。
マルコ爺さんは訝しげな顔をしながらも“<仮性>のやる事だし”と言ってスキルを発動、木皿に残ったのは黒く染め上げられた二本のキャタピラー繊維の糸。
俺は再び鞄を漁り布袋を取り出すと、先ほどマルコ爺さんが木板に描いた魔方陣を思い出しながら布袋に簡単な刺繍を行うのでした。
これでよし。そこそこ時間は掛かりましたがまずは実験。魔力吸収の魔方陣に指を置いてっと。
おぉ~、点いた点いた。淡く光ってますね~。でもこれ、複雑な魔方陣だと無理だよな。
いや、マジックバッグにも使われているって事は刺繍でも行ける?刺繍した後に着定して貰えれば回路としては問題ないのか?
その辺も要実験、幾つか作ってみて検証って感じかな。ポーションの時と同じ、トライアンドエラーの繰り返しですね。
俺が一人ぶつくさやっていると、やけに静かだったマルコ爺さんが動き出しました。
「はっ?ケビン、お主一体何をした?えっ?何で光ってるって、えっ?意味が分からないんだが?」
絶賛大混乱な様です。
「えっと、単に魔方陣用のインクを着定した糸で魔方陣を描けば魔法は発動するんじゃないかと思ってやってみただけですけど?
これで糸が重なり合った場合はどうなるのかとか、刺繍みたいに折り重ねで魔方陣を描くとどうなるのかとか、魔方陣用のインクで染めた糸で刺繍をしてから着定をしたらどうなるのかとか。これから試さなければならない事は多いですが、一筆書きで描ける図形ならば発動するってのが分かっただけでも前進ですね。上手く行けば女性の内職が増えるかも知れませんよ?」
素晴らしい刺繍であれば裁縫師の職業が必要であろうが、簡単な魔方陣の刺繍くらいならそんなものは要らない。結果次第では新しい産業が生まれるかも。
村一番の<仮性>の少年ケビン。村に剣術と言う娯楽をもたらし、食用ビッグワームを作り上げた英雄。この子は一体どこまで行くと言うのか。
魔道具作製に新たな可能性を示した少年ケビンに、戦慄を覚えるマルコ老人なのでした。
本日一話目です。