転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第392話 偉い人達、思惑を巡らせる

グロリア辺境伯領領都グルセリア。グロリア辺境伯領における政治経済の中心地であり、グロリア辺境伯領の物流拠点。

そのグルセリアの心臓部であり頭脳、グロリア辺境伯家居城では、現当主タスマニア・フォン・グロリア辺境伯、ランドール侯爵家当主ガレリア・ランドール侯爵、ジョルジュ伯爵家当主バウゼン・ジョルジュ伯爵、セザール伯爵家当主ハインリッヒ・セザール伯爵他、北西部貴族連合に所属する各貴族家当主達が顔を揃えていた。

 

「ランドール侯爵閣下、フローレンスはきちんとローランド様の妻としてやっていけてますかな?私はあの子を甘やかしていた所がありましたので、その辺が心配で」

「ハハハ、ジョルジュ伯爵殿、閣下は止めましょう。我らは親戚ではありませんか。

フローレンス嬢は頑張られておりますぞ?自らの至らなさを自覚し、ローランドの妻として共にランドール侯爵家を支えようと頑張ってくれている。

ジョルジュ伯爵殿の娘だけあり、責任感が強いのでしょうな。

ローランドも素晴らしい伴侶と出会えたことに感謝しておりますよ」

 

貴族家当主同士が顔を合わせる場では互いの家の関係性を深めようと動くは当主の役目、ましてや婚姻関係を結んだ間柄であれば当然のこと。

 

「おぉ、これはランドール侯爵閣下にジョルジュ伯爵様、お顔を合わせるのは孫のフローレンスとローランド様の婚姻の儀以来ですかな。

お元気そうで何よりでございますな」

「セザール伯爵殿、貴殿も御壮健の様子、何よりですな。どうですかな、今度共に狩りにでも。たまには身体を動かすのも良い物ですぞ?」

 

ましてや地方貴族ともなれば周辺貴族家同士の婚姻外交は当然であり、地域全体が親戚といった事は当たり前というのが貴族社会である。

 

「ハハハ、何やら楽しそうですな。何にせよ北西部貴族連合の仲間同士が固く結ばれるのは良い事、我々も色々とありましたが、今後より以上の関係性を築きたいものですな」

「これはグロリア辺境伯様、此度の招集、驚きましたぞ。まさかグロリア辺境伯様がこの様な大胆な奇策に打って出ようとは。流石は北西部貴族連合の盟主と言ったところですかな?」

 

「イヤイヤ、私などまだまだ。皆様に支えていただいて何とか盟主をやらせてもらっているに過ぎませんよ。

それに此度の件は前当主である父マケドニアルの発案、そのお膳立ても既に済ませてあるとあっては、自身の力不足と父の偉大さを思い知らされた思いです。

こんな私ですが、これからもよろしくお願いいたします」

 

そう言い軽く礼をするタスマニア・フォン・グロリア辺境伯。先代当主の働きに焦る事なく鷹揚に応えるその姿に、北西部貴族連合の盟主たる貫録を感じる一同。

 

「では皆さん、これより北西部貴族連合の全体会議を行います。大会議場へとお越しください」

 

タスマニア・フォン・グロリア辺境伯の言葉に大会議場へと移動を始める各家の当主たち。これより始まる会議は北西部貴族連合の、延いてはオーランド王国の在り様を変える大事。

タスマニア・フォン・グロリア辺境伯は満足そうな笑みを浮かべると、自身もその戦場に向かい歩を進めるのであった。

 

「閣下、よろしかったのでしょうか?」

会議が終わり数日、執務室にて書類に目を通すタスマニアに側近の者が声を掛ける。

 

「ん?なんだオードリー、お前は此度の件に不満でもあるのか?」

筆を止め顔を上げたタスマニアは、執事にお茶を用意するようにと指示を出すと、側近を誘いテーブル席に着いた。

 

“カチャッ”

差し出されたティーカップからは心落ち着ける甘い香り。これはカモネールに甘木汁を加えたものか。

疲れた頭に甘い飲み物はありがたい。

ティーカップに口を付け口腔に広がる優しい甘さとカモネールの香りを楽しんだタスマニアは、長年付き従っている側近に言葉を向ける。

 

「オードリー、お前の言いたい事は分からんでもない。前当主である父マケドニアルは私の目標であり壁であった。“王国の懐刀”とまで呼ばれた父の偉大さは今更語るまでもない。

私がそんな父に近付きたい、乗り越えたいと必死にあがいて来た事も事実。その事を恥じた事はないし、隠す気もない。

その父が何の前触れも無く当主交代を申し出た事は意外ではあったが、グロリア辺境伯領の自治領宣言の後、領地運営に関してその大半は私に任されていたし、内戦の影響が広がる昨今においてグロリア辺境伯家の地盤をより強固にするという意味合いでは英断であったと思う。

そうした引き際においても父は偉大であったのだろう。

それが隣国ヨークシャー森林国の疫病対策の布石であったとは気が付かなかったがな」

 

“カチャッ”

言葉を切りのどを潤すタスマニア。そして側近に目を遣り、“お前は飲まないのか?旨いぞ”とアイコンタクトを送る。

 

「当主と言う柵が取れ身軽になった父の起こした行動、まさかアルバート子爵家に賢者と呼ばれる者が隠遁していたとは思わなかったが、デイマリアとアルバート子爵との婚姻というカードをこういった形で使って来るとは。

ヨークシャー森林国への賢者の派遣、精霊使いビーン・メイプルなる者が賢者と懇意にしており、その繋がりで力を貸してくれた事が彼の国を救う事に繋がった。

結果的に見れば、デイマリアの婚姻はランドール侯爵家にパトリシアを嫁がせる何十倍もの成果を上げたと言える。我がグロリア辺境伯家とヨークシャー森林国の関係はこれ迄以上により密接なものとなり、有事の際の軍事協定も結ぶ事が出来た。

我が家の後ろ盾として一国が付いているという事は王家に対するこれ以上ない牽制になるだろう。

 

そして此度の件、父がどういった経緯でテレンザ侯爵家に繋ぎを取ったのかは分からないが、テレンザ侯爵家が南西部貴族連合を立ち上げ我ら北西部貴族連合と手を組む、更にダイソン公国を実質的に落とし三勢力連名で王家に終戦を迫る。

これ程愉快な事があるか?

その上で父は、マケドニアル・グロリアはダイソン公国の宰相職に就くと言う。

 

大きな功績を残した父が引退した身とは言えグロリア辺境伯領内に留まる事は、いらぬ諍いの種となる。未だグロリア辺境伯領内での父の影響力は絶大だからな。何かと父を担ぎ出そうとする勢力も現れる事だろう。

だが他国の宰相となってしまえばそうはいかない。しかも三勢力同盟においてグロリア辺境伯家の発言力はより高まるというもの。

マケドニアル・グロリアはグロリア辺境伯家と後任である私に大きな置き土産を残し去ろうとしているのだよ」

 

タスマニアは言葉を切り大きくため息を吐くと、降参とばかりに軽く両手を上げる。

 

「もはや悔しいと言った気持ちすら起こらん、完全に脱帽だ。

私は思い知ったのだよ、父と自分とを見比べる事の愚かさをな。父には父の、私には私の道がある。

確かに私は自他ともに認める野心家ではある、だがそれはデギン・ダイソンの様に独立し国を興すといったものではない。

いや、これは正しくないな、嘗てはそのように夢想した事もあった。

だが今はこのグロリア辺境伯領を、北西部貴族連合をこれ迄以上に発展した地域にしたいと思っている。

その為の道筋は既に父が示してくれた。ビッグワーム農法やホーンラビット牧場、その芽は確実に芽吹き、この地に根差そうとしている。

南東部の中央貴族共が豊かな穀倉地帯を背景に大きな顔をする時代は終わりを迎える、これからは我ら北西部貴族連合の時代だ。

オードリー、これから忙しくなるぞ。父マケドニアル・グロリアの提唱する三勢力連合がなされた時、グロリア辺境伯家は間違いなくオーランド王国の中心となる。それはただ発言力がある家と言うばかりではない、武力経済力を伴った家としてだ。

これからも力を貸してくれるな」

 

「ハッ、オードリー・スペンサー、生涯の忠誠を閣下に捧げます」

席を立ち片膝を突く側近ににこやかな笑みを送るタスマニア。

グロリア辺境伯家は新たな指導者の下、強い絆で結ばれようとしているのであった。

 

―――――――――――

 

「父上、グロリア辺境伯家より書状が届いております」

テレンザ侯爵家居城、その最奥当主執務室では、当主スコッティー・テレンザ侯爵が新たに組織した南西部貴族連合の各貴族家当主に向け書状をしたためていた。

組織運営は盟主がいかに求心力を保つかに懸かっている。盟主自らが自分たちに関心を持っているという事を示す事は、立ち上げたばかりの組織にとっては非常に重要な事となるのだ。

 

“パラッ”

書状に一通り目を通したテレンザ侯爵は、それを執務机に置くや大きく息を吐く。

 

「父上、グロリア辺境伯家は何と?」

「あぁ、北西部貴族連合の盟主として連合全体の合意を取り付けた旨を伝えて来たよ。これで三勢力連合成立が一気に現実味を帯びて来た。

後はアルバート子爵家騎士団が本当にダイソン公国を落とせるかどうかだが、ロナウドの話によればただ攻め落とすだけならケビン殿であれば一晩掛からないとの事だったよ」

 

そう言い乾いた笑いを浮かべるテレンザ侯爵に、信じられないと言った顔になる嫡子クリネクス。

 

「いや、しかしいくらケビン殿があの巨大なアースウォールを築く様な大魔法使いであったとしても、流石に一晩で公国を落とすなど・・・」

「潰してしまえばいい」

 

「はぁ?」

「潰してしまえばいいそうだよ。クリネクス、お前はアスターナ男爵領の戦場にロナウドがどうやってやって来たのか聞いていただろう?」

 

「はい、にわかには信じられませんでしたが、ケビン殿が空を飛んで連れて来たとか」

「ロナウドとローラはレンドールの別邸で空を走る訓練をしていたらしい。それは足場となる結界を中空に作り出しその上を駆けるというものだったそうだが、ケビン殿は足場を作るどころか魔剣の力により空も飛べるとの事であったよ。それと影魔法、勇者物語に登場する影魔法使いジルバと同じ事が出来るだったか、ロナウドたちを影空間に入れて空を飛び移動していたとか。

そんな者が自らの魔法で作り出した巨大な城壁を影空間に仕舞い込み、遥か上空から降らせたらどうなるか。ダイソン公国の城どころか、王都バルセンの城ですら一晩の内に落とされてしまうだろうことは想像に難くない。

ロナウドの言った“攻め落とすだけなら一晩掛からない”とはそういう意味だ」

 

ハハハと乾いた笑いを浮かべるテレンザ侯爵に対し、顔を青ざめさせるクリネクス。ケビン・ドラゴンロードの存在は、バルカン帝国の精霊砲とはまた違った形で国を揺るがす程の脅威と言っても過言ではない。

 

「クリネクス、その様な顔はしなくていい。ケビン殿はその様な事をする御仁ではないしする気も無い。今はこの戦乱を終息させ早くコッコ飼育に専念したいと仰るような御方だ。ダイソン公国の動乱など、あの方にとってはコッコの卵以下の些事らしい」

 

“バサッ”

「父上、これは・・・」

テレンザ侯爵が執務机の引き出しから取り出したもの。それは「鷹の目コッコの飼育とその対策」と、「首の輪コッコと斑点コッコの飼育とその対策」と題された報告書。

 

「これはケビン殿が我がテレンザ侯爵領から鷹の目コッコを持ち帰ってからと、私が首の輪コッコと斑点コッコをお届けしてからというわずかな期間にケビン殿が検証実験を行った成果だそうだよ。アルバート子爵殿の許可を受けロナウドが送って寄越したものだ。

私はね、長年コッコの飼育を研究して来たがここまでのものを生み出す事が出来なかった。鷹の目コッコの産卵期間の短縮にも驚いたが、斑点コッコに飼育の道を開くとは。

聞けばアルバート子爵家発祥のビッグワーム農法やホーンラビット牧場も、全てケビン殿の研究発案からのものだとか。ケビン殿が授けの儀を迎える前の事だったらしい。

今日のアルバート子爵領があるのは全てケビン殿のお陰と、アルバート子爵殿が笑って教えてくれたよ。

 

ケビン殿は仰っていたよ、“旨いご飯が食べれてのんびり出来ればそれで十分”とね。ケビン殿の本質は本人が言う通り“ただの村人”なんだろう。

ビッグワーム農法にしろホーンラビット牧場にしろ、ただ旨い肉が食べたいという一心で開発したとの事だったからな。

そしてそれは大きな力を手に入れた今でも変わる事はない、その証拠がそのコッコ飼育の報告書だ。これほどコッコに真剣に向き合う様な者が余計な事にかまける訳がない。

そしてその成果を惜しみなく差し出し、検証し更なる技術の発展に繋げて欲しいと言って来てくれる。同じくコッコ飼育を研究する者として、これほどうれしい事はない」

 

テレンザ侯爵はそこで言葉を切るとスッと立ち上がりクリネクスに目を向ける。

 

「クリネクス、この戦争を終わらせるぞ。その為にはお前に今以上に動いて貰う必要がある。テレンザ侯爵家の未来、クリネクスに託しても良いか?」

その真剣な瞳は後継者に向けてのエール。

 

「ハッ、このクリネクス、全力で事に当たらさせていただきます」

右の拳を左胸に当て、力強く答えるクリネクス。それは次代を背負う男の決意。

 

“ポンッ”

「そうか、では後の事は任せたぞ」

そんなクリネクスの肩に手をやり、微笑みを残し執務室を後にするテレンザ侯爵。クリネクスは託された思いに身を震わせ、偉大なる父の去って行った扉に深い礼を向けるのでした。

 

「しまった、旦那様が逃げたぞ!!探せ、旦那様が脱走した!

コッコ飼育小屋かエリエール奥様のお部屋、実験飼育場やもしれん、絶対に逃がすな!!」

「「「はい、執事長!!」」」

 

走り出す家人、テレンザ侯爵家は今日も聡明な配下によって支えられているのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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