転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第394話 村人転生者、領都学園を訪ねる

「いや~、ディアさんが元気そうで良かったよ。一月(ひとつき)くらいで帰って来るって聞いてたのに中々戻って来ないから、どうしたものかと思ってたんだよね」

 

領都の街中でばったり出くわしたディアさん。ボビー師匠の話ではディアさんの実力なら銀級冒険者昇格試験なんか楽勝だから、一月もあればマルセル村に帰れるだろうとの事であったのが、彼らは二月(ふたつき)経っても戻っては来なかった。

なんやかんやあって遅くなって入れ違いにでもなってるのかとも思ったんだけど、それならそれでケイト経由でブラッキーから業務連絡が届くだろう。あのボビー師匠がケイトに言葉を掛ける事無く帰村するとも考えにくいしね。

 

そんな俺の言葉にそっぽを向いて気まずそうに頬を掻くディアさん。

 

「落ちちゃったんです」

「へっ?」

 

「だから落ちちゃったんです!銀級冒険者昇格試験に!

次の受験は一月後って言われちゃったんでまだ帰れないんですよ。ボビー師匠は私の事を心配して残ってくれてるんです」

 

あら、これは地雷を踏み抜いてしまったかも。合格確実と言われて挑んだ試験に落ちてしまった、これちょっと自分からは言いづらいよね。

 

「でもまたどうして。ディアさんの実力が冒険者の間でどの程度のものかは知らないけど、少なくとも月影や我が家のオーガはディアさんを高く評価してたし、斥候としても盾役としても十分通用すると思うんだけど」

 

俺が思った疑問、ディアさんは月影から斥候の技術として気配を消した状態での周辺探索や足跡からの魔物の追跡、気配察知や魔力察知の訓練を受けていたし、父ヘンリーからは盾役としての盾の取り回しや受け流しの技術を教わっていた。

父ヘンリー曰く聖騎士の職業持ちとも互角以上に渡り合える様に仕込んでいるとの事、流石は鬼神、意識レベルが高い事。

そんな二人がお墨付きを与えて送り出したディアさんが不合格になるって理由が、どうしても想像出来ない。

 

「ハハハハ、本当に面目ありません。ケビンさんが知っているのかは分かりませんが、銀級冒険者昇格試験には商人の護衛任務と言うものがありまして、同じく昇格試験を受ける冒険者と一緒にパーティーを組んで任務に当たるんですが・・・」

そう言い遠くの空を見詰め始めるディアさん。

聞けばまぁ碌でもないと言うか運が悪かったと言うか。

 

ディアさんが組んだ冒険者って言うのが男性冒険者の四人組だったらしく、形としては男性冒険者パーティーにディアさんが臨時加入するといった状態になったんだそうです。

彼らも銀級冒険者昇格試験を受けるだけの実力者、それなりに自尊心の拡大していた彼らは、ソロのしかも女性冒険者であるディアさんを酷く見下し馬鹿にしていたとか。“寄生”だの“おこぼれ”だのといった侮蔑は当然の事、小間使いの様に雑用を押し付けて来たんだそうです。

まぁそれでも所詮は昇格試験を受けている最中の臨時パーティー、問題を起こして失格を食らうよりは黙って言う事を聞いていた方がましと、素直に従っていたとか。

男性冒険者はそれで更に調子に乗ってしまったのでしょう、ディアさんを何をしても言い返さない雑魚冒険者と思い込んだのか、事もあろうに野営の最中に襲い掛かって来たとか。

当然のように半殺しの目にあわされた男性冒険者たち、ただそこは昇格試験の護衛依頼の最中での出来事。阿呆冒険者たちとディアさんの件は冒険者同士のトラブルとして処理されたものの、依頼人に対し多大な不利益を与えた事には変わらず、ディアさんに対するペナルティーは発生しなかった代わりに試験は不合格となってしまったんだそうです。

 

「冒険者ギルドから派遣された試験官を務めて下さったベテラン冒険者の方曰く、“冒険者は舐めて掛かるととことん増長する者が多い、ある程度威圧なり実力を示すなりをしておけば今回のような事態は防ぐ事が出来た。今回は勉強だと思って次回の試験に挑んで欲しい”との事でした。

ボビー師匠からはなるべく問題を起こさない様に言われていたので大人しくするようにしていたんですが、暴れても駄目、大人しくしても駄目となるとどうしていいのか。

ボビー師匠は“その辺の感覚は経験の中で身に付けるしかない”と苦笑いされていましたが、これが中々難しくて」

 

ディアさんはそう言うと乾いた笑いを浮かべながら頭を掻くのでした。

 

 

「それで何でボビー師匠が学園で武術指導教官をやるって話に繋がるの?」

ディアさんにボビー師匠の所に案内して欲しいと頼んで連れて来られたのは、領都学園の正門。何でもボビー師匠、ディアさんが冒険者活動をしている最中は学園で生徒相手に武術指導をしていたらしい。

 

「私が“旅立ちの儀”を終えて冒険者ギルドに冒険者登録に行った際に、偶々ケイトちゃん達に会いまして、時間があるのなら訓練を見て欲しいと頼まれたんです。

何でも学園の指導官じゃケイトちゃん達の相手にならないそうで、ボビー師匠も暇つぶしがてら引き受けたんです。

ケイトちゃん達が学園側にその許可を貰いに行ったところ、学園長をはじめとした教師陣が“是非我が校の生徒にも指導を”と言い始めまして、結局今の形に。

それでも最初はケイトちゃんの所属するクラスだけだったんですが、今では指導官みたいな形になってしまいまして。これもあくまで私が次の銀級冒険者昇格試験を受けるまでという約束ではあるんですが」

 

うわ~、ボビー師匠も災難です事。これってマルセル村じゃ分かりにくいんだけど、ボビー師匠にしろ父ヘンリーにしろ、他所じゃ凄い有名人なんだよな~。特にここグルセリアじゃ発生した大規模スタンピードをたった五騎で制圧せしめた英雄って事で、アルバート子爵家騎士団の知名度って目茶苦茶高いし、ボビー師匠に至っては元々“下町の剣聖”と呼ばれた元白金級冒険者ですし?

当時の人気が再燃しちゃって凄い事になってるんですね、これが。

学園の教師陣なんて言ったらもろその世代だし、完全にヒーローじゃん。そりゃこの機会を逃す訳無いっての。

 

「ハハハハ、まぁそういう事じゃ仕方ないか。

そうそう、ディアさんにはこれを渡しておくね」

俺はそう言うと収納の腕輪から茶筒を取り出します。

 

「次の試験がどうなるのかは分からないけど、対策を打っておくに越した事はないからね。試験日の初日、野営の時にでもこの聖茶でお茶を淹れてあげるといいよ。ディアさんも光属性魔力水は作れるでしょう?

料理の係りやお茶の世話は自分から積極的に申し出て、使う水を光属性魔力水にすれば、料理もお茶も美味しくなるから喜ばれるよ?

その上皆冷静に理性的に行動してくれる様になる。魔獣に襲われても慌てる事なく対処してくれるし、馬鹿な行動もとらなくなる。これ程いい事はないよね?

女性冒険者にとって聖茶程身を守ってくれるものは無いと思うよ?最初から襲われない事が一番だしね」

 

そう言いニヤッと笑う俺に、満面の笑みで礼を言うディアさん。だから後ろの三人、ごちゃごちゃ言わない。

特にパトリシアお嬢様、“これが人体実験の成果ですか”とか物騒な事言わない様に、人聞きが悪いから。

俺たちはなんやかんや騒ぎながら、領都学園の門を潜るのでした。

 

――――――――

 

周囲を壁で覆われた広場、そこでは多くの若者が手に武器を構えある一点を見詰めていた。

それは広場の中央に一人佇む老人。老人の周りには不自然に空間が広がり、若者たちは誰も老人に近付こうとはしない。

何故なら老人からは、その年齢から想像も出来ない程の強い威圧と殺気が飛ばされているからであった。

相手は一人、周囲を囲む者達は学園に在籍する二学年の生徒全員。

状況は誰が見ても老人が追い詰められているにも拘らず、実際に追い詰められているのは自分達であると、若者たちは冷たい汗が止まらない。

 

「お主らは幸いじゃ、実戦の場ではすでにお主らは切り捨てられておるわいて。儂の放つ威圧など戦場では当たり前の事、新兵辺りは皆この殺気と威圧に当てられ、身動きすら出来ず死んで行くという。

お主らはどうじゃ、この戦場、生き残れるかの?」

 

荒い息、激しく鳴り響く鼓動、これが実戦、これが戦場。自分たちは何も知らない、今王国兵士とダイソン公国との間で行われている戦闘も、遥か遠くの安全地帯で語り合っているに過ぎない。

王国討伐軍がふがいない?自分達であればすぐに蹴散らして見せる?

そんな言葉、この殺気を前にして語れるものなら語ってみろ!

老人から放たれる刺す様な殺気は、言外に浮かれる自分たちに戦争の厳しさを突き付ける。

人同士の争いに英雄など存在しない、あるのは剥き出しの殺意と殺し合いだけなのだと。

 

“フワッ”

老人から放たれていた殺気と重圧が一瞬にして霧散する。老人の顔から鋭さが消え、好々爺と言った笑顔で周囲の若者たちに話し掛ける。

 

「お主らも分かったであろう、これが戦場における威圧と殺気。魔物との戦闘とは違った明確な殺意。こればかりは経験してみない事には分からんもんじゃて。

将来が嘱望されるお主らはいずれ人同士の争いも経験する事になるじゃろう。そのとき相手の気迫に押され、実力差を覆されて殺されるなんて事もままある事じゃ。明確な害意と殺気というものはそれ程に恐ろしく、精神を酷く削って来るからの。

こればかりは慣れと経験でしか対処のしようの無いものじゃでどうのとは言わんが、普段の模擬戦やダンジョン探索の中でこうした点を意識して取り組む事で、実戦で過不足なく体を動かす事が出来る様になるもんじゃ。

皆もその点を忘れずにの」

「「「「「はい、ボビー教官、ありがとうございました」」」」」

 

若者たちは手に持つ剣を鞘に仕舞うと、老人に向かい深く礼をするのでした。

 

・・・ボビー師匠が何か偉そうな事を言っている。立場が人を変えるとは言うけれど、あの戦闘狂のボケ老人がこんな真っ当な発言を。

俺は腰のポシェットからハンカチを取り出し涙を拭う。

お爺ちゃん、立派になって。

 

「ケビンや、何をしておるのじゃ。というか今酷く失礼な事を考えておらんかの?」

「イヤイヤ、そんな事ある訳ないじゃないですか。ボビー師匠の素晴らしい指導に感動していただけですから。

流石は“下町の剣聖”、マルセル村で多くの子供たちを導いてきた実績は伊達じゃない。ジミーやジェイク君、エミリーちゃんやフィリーちゃんやディアさん。マルセル村の若き英雄たちの今があるのは、全てボビー師匠の導きのお陰。

マルセル村万歳、ボビー師匠万歳。

若者たちの未来に栄光あれ!!」

 

俺は素晴らしい指導者は素晴らしい弟子を育てるという当たり前の事実を目の当たりにするとともに、マルセル村の若者たちの輝ける未来に思いを馳せるのでした。

 

「イヤイヤイヤ、違うからな、お主そうやってすべての実績を儂に押し付けようとしておるじゃろう?

マルセル村を魔境にしておるのはケビン、お主じゃからな?」

「またまたご謙遜を、俺の存在なんてボビー師匠に比べたら微々たるもの、ボビー師匠がドラゴンとするのなら俺なんてスライムですよ。よくてビッグワームですって」

 

「・・・儂、そのスライムとビッグワームに負け続けておるんだが?

マルセル村の最強はスライムとビッグワーム、そしてお主じゃろうが!!」

 

やいのやいの言い争いを始めるボビー教官と見知らぬ青年の姿に、‟アレって誰?”と噂し合う学園生徒たち。

 

「ねぇパトリシア、ケビンさんとボビー師匠、一体何やってるの?」

「あぁ、あれ?功績の擦り付け合い。ジェイク君やエミリーちゃん達が将来活躍した時の為の予防線ね。

ボビー師匠が多くの生徒たちの指導をしてるのを見てケビンが早速仕掛けたのよ。マルセル村の人達って自分の評価を人に押し付けたがる人ばっかりだから。ドレイクお義父様が一番被害に遭ってるんじゃないかしら。

世間の評価がとんでもない事になってるって頭を抱えていらしたし。

でもあの傑物たちを制御出来るのってドレイクお義父様くらいなのよね、そういう意味では正当な評価なんだけど、お義父様もマケドニアルお爺様に功績を押し付けようとしてるのよ。

アイリスも覚悟しておいてね。今度の戦争終結騒ぎ、多分一番の功労者に仕立て上げられちゃうから」

 

そう言いどこか遠い目で未だ言い争いを続ける二人を眺めるパトリシアに、“私、一体どうなっちゃうんだろう”と戦慄を覚えるアイリスなのでありました。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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