転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第395話 村人転生者、辺境の剣聖とお話しする

「して、お主がなんで領都にいるんじゃ。それに後ろの三人、パトリシアお嬢様はおいそれと領都に出向いてもいいお立場ではないであろうに」

 

領都学園の武術訓練場で学園生徒相手に武術指導を行っていたボビー師匠を訪ねた俺氏。なんかね、ボビー師匠が一端の教師みたいなんだもん、これを揶揄わずしてどうするって思っちゃいましたっての。

折角なんでマルセル村の若者軍団が打ち立てるであろう偉業は全てボビー師匠の教導の賜物って事にしようと、周囲の生徒相手に印象操作に励んだんですが、ボビー師匠が抵抗するする。

こんなに尊敬されて教えを求められてるんだから、諦めて素直に賞賛されちゃえばいいのにね~。

マルセル村の更なる発展の為、村の剣術指南役ボビー・ソードここにありって感じで堂々としてくださいよ~。(揉み手揉み手)

 

「だからケビンよ、その老獪な商人みたいな顔は止めよ。お主の事じゃから放置して置いたら伝説の英雄にでも仕立てられかねんわい。

儂がなぜマルセル村に引き籠っておるのかはお主も知っておろう。世間の煩わしさに心底嫌気がさしたからじゃ。

ジミーたちを育てたのが儂などと言った話が広まれば、是非私にもその教えをといった阿呆が次々と押し寄せて来るではないか。

そんなものに煩わされる生活など、儂はごめんじゃからな。

そう言う事は年若のお主の仕事じゃろうが!」

 

「はぁ?何を馬鹿な事を。ボビー様におかれましては少々お疲れのご様子。私の様な若輩者がマルセル村の英雄たちの師匠?

その様な話を誰が信じましょう。

師は弟子を、弟子は師を育てると申します。ボビー師匠と若者軍団の出会いは必然、その様な奇跡に立ち会えたこと、このケビン、感激で胸が一杯でございます。

この素晴らしきお話は吟遊詩人に歌にしていただいて、全国の皆様に・・・」

 

「だからそれを止めろと言っておるじゃろうが~!!」

 

ボビー師匠は大変元気な様でございました、良かった良かった。

 

「やぁ、アレン君にジミー親衛隊の皆さん、お元気そうで何より」

 

ボビー師匠の授業も終わり、生徒たちの間では俺たちについて様々な憶測が飛んだようですが、そのうちの何人かがパトリシアお嬢様の存在に気が付き、グロリア辺境伯様絡みのお知り合いなのだろうという事で騒ぎは収まったようでございます。

まぁパトリシアお嬢様はお忍びで城下をうろうろしていたような御方ですからね、それなりに顔を知られていたようでございます。

 

「ん。ケビン、私は?私に挨拶が無いんだけど?」

俺がアレン君たちに言葉を掛けていると背後から濃厚な闇属性魔力の気配が。って言うかケイトさん、俺がここに来たら気配を消して授業を抜け出しちゃったじゃないですか、ずっと俺の背後にいたじゃないですか。

 

「ハハハ、ケイトのことを忘れる訳ないじゃないか。と言うか皆にも話があったんだよね。

ただちょっと大きな声じゃ言えない内容なんで結界を張らせてもらうね」

 

“スッ”

俺が軽く右手を振ると、その場の空気が変わる。

今まで俺たちの事を探る様に見詰めていた生徒たちが、急に興味を失ったかの様にぞろぞろと武術訓練場を離れて行く。

 

「ケビン君、これは一体・・・」

「あぁ、結界。とはいっても魔法攻撃を防いだりといったものとは違うけどね。アレン君も知ってるんじゃないかな、消音の結界とか音声遮断の結界とか呼ばれるものがあるって事は。

商人たちが秘密の商談を行う時には必須だしね、お貴族様の間でも割とよく使われるって聞いたことがあるかな?

で、この結界は“結界内の人物の気配を薄くする”って奴だね。

姿は確り見えてるのに気配が薄い、そうなると人って興味や好奇心を持続しづらくなるんだよ。

そう言う事もあったなって感じというか、過去のものとして次の興味に向けて行動し出す。マルセル村で魔力隠しの訓練をしたでしょう?あれの応用。

結界で覆ってしまえば音声遮断も出来るしね」

 

そう言いどや顔をする俺に、顔を引き攣らせる一同。

ん?何かおかしなことでも言っただろうか?解せん。

 

「まぁ良いわい、ケビンが相変わらずケビンしただけの事じゃからの。

してこのような結界を張ってまで何を話そうとしたのじゃ?」

何やら呆れ顔をしたボビー師匠が話の先を促します。

何か納得は行きませんが、まぁいいでしょう。

 

「えっとアレン君たちは今年の冬もマルセル村に訓練に来ようと思っていたかもしれないんだけど、残念ながら今年は受け入れが出来なくなりました。ちょっとアルバート子爵家としてやらないといけない事が出来ちゃいまして、今回俺がこちらの御三方を連れて領都に来たのもその用事があったからかな。

そう言う訳で武術教官生活を楽しまれているボビー師匠には申し訳ないんですが、ディアさんの銀級冒険者昇格試験が終わり次第村に戻ってもらいたいと思いまして」

 

俺の言葉に残念そうな顔をするアレン君と悲嘆にくれるジミー親衛隊の皆さん、そして眉間の皺を深くするボビー師匠。

流石ボビー師匠、これだけの言葉で警戒心を高くする辺りは、潜り抜けて来た修羅場の数が違うという事なのでしょう。

 

「え~、残念そうになさっているジミー親衛隊の皆さんにお知らせです。現在ジミーは武者修行の旅に立ってしまっているのでマルセル村にはいません。帰って来るのは来年の冬くらいになる予定かな?授けの儀までには戻るようなことは言ってたんだけど、その辺はちょっと未定です。

お三方には“お互い頑張ろう”とのお言葉を預かっております」

 

「えっ、ジミー君マルセル村にいないの?武者修行って一人旅なの?なんでそんな危ない事を、そんなの(性的に)襲ってくれって言ってる様なものじゃない!!

私がジミー君を守らないと」

「何を言ってるベティー、ここは盾職の私の方が最適だろう」

「ケガをしたら回復職です。ジミー君が私を呼んでいます」

 

何やら急に盛り上がり始めるジミー親衛隊の皆様。

 

「えっと、ジミーの事を心配してくれるのは嬉しいんだけど、多分皆じゃジミーのいるところに辿り着く前に死んじゃうから止めた方がいいよ?それに一年もすれば帰って来るって言ってるんだし、自己鍛錬をしながらジミーが帰って来るのを待ってた方が堅実と言うか・・・」

「「「何を言ってるんですか、私たちがジミー君を支えるんです。ジミー君はどこに行ったんですか?スロバニア王国ですか?バルカン帝国ですか?ミゲール王国ですか?」」」

 

クッ、恋する女子は盲目と言うけど、凄い圧力。って言うか外国じゃ出国許可を貰うのに時間が掛かるとか思わないんだろうか。

 

「暗黒大陸」

「「「はぁ?」」」

 

「だから暗黒大陸。大森林経由で暗黒大陸に渡っちゃいました。

ジミーってば旅立ちの儀どころか授けの儀もまだだしね、そうそう簡単に外国なんて渡れないじゃん。

暗黒大陸は獰猛な魔物蔓延る未開の大地、修行にはもってこいだってウキウキしながら出掛けて行っちゃった。

流石鬼神ヘンリーの息子、意味分かんないよね~ってお~い、大丈夫か~、傷は浅いぞ~」

 

俺の言葉に口を開けたまま呆然とする親衛隊の皆様。この三人もまさか武者修行で暗黒大陸に向かうだなんて思いもしなかったのだろう。しかも大森林経由での出国、自分たちの想像を遥かに超えるジミーの行動力に、理解が追い付かないといった様子。

アレン君、ケイト、そういう訳なんで後のフォローをお願いします。

アレン君とケイトは俺からの目配せにコクリと頷くと、未だ呆然とする三人を連れて武術訓練場を後にするのでした。

 

「してケビンや、肝心の話がまだじゃが?」

「あっ、そうでしたね。簡単に言えば戦争です。ダイソン公国とオーランド王国の戦争を終結させます。

この三人はそれぞれオーランド王国北西部貴族連合、南西部貴族連合、ダイソン公国の旗頭になってもらう予定の英雄候補生です。

この話は既にグロリア辺境伯家をはじめとした北西部貴族連合、テレンザ侯爵家を中心にした南西部貴族連合の承認を受けています。

後は時機を見てダイソン公国に攻め入って完全制圧した上で終戦条約を締結させ、その足で王家に三勢力連名という形で終戦を迫るって流れです。

 

この話は王家の諜報組織“影”伝えで王家には知らせてあります。今頃王家の偉い人たちは大騒ぎなんじゃないんですか?

テレンザ侯爵家辺りには今回の件の取りやめを迫ってるのかもしれませんが、今のままでは南西部貴族が貴族社会で迫害を受けるのは明白。この流れを止めることは出来ませんよ」

 

そう言いニヤリと笑う俺に、ドン引きといった顔のボビー師匠。

 

「じゃがダイソン公国がそう簡単にこの提案を飲むかの?

あ奴らは既にバルカン帝国の傀儡なんじゃろう?」

「えぇ、ですから一度制圧する必要があるんです。こちらのアイリス嬢は先代のダイソン侯爵のご息女、アイリス・ダイソン嬢になります。血筋的にはダイソン公国の正統と言い張る事が出来るんです。

まずはこの戦争を終わらせる、難しい話はその後。

そうでもしないと本格的にバルカン帝国が侵攻してきちゃいますからね、何年にも渡る国同士の戦争に巻き込まれるなんて俺ごめんですから」

 

そう言い肩を竦める俺に、事態の深刻さを理解したボビー師匠。

 

「ふむ、話は分かったわい。老い先短い命じゃ、ここで散ったところで悔いはないわい」

そう言い獰猛な笑みを浮かべるボビー師匠。一瞬にして覚悟完了ですか、これだから修羅の国の住人は・・・。

 

「あの、ボビー師匠にディアさん、盛り上がってるところ悪いんですが、俺たちは戦争を止めるだけで、戦争はしませんからね?」

「「はぁ~!?」」

今の話の流れから急に肩透かしを食らわされ、口を開けたまま固まる二人。

 

「えっと、簡単に言えばランドール侯爵領戦役の再演ですね。

バルカン帝国の最新兵器が何の役にも立たない個人の武を見せ付けつつ、オーランド王国貴族軍もダイソン公国軍も圧倒します。

だってこんな戦争で死ぬなんて馬鹿馬鹿しいじゃないですか、俺はこの騒ぎをさっさと終わらせてコッコ飼育技術の確立を目指したいんです。

知ってますか?コッコには無限の可能性が詰まってるんですよ?」

 

そう言いテレンザ侯爵家からいただいた鷹の目コッコと首の輪コッコ、斑点コッコの飼育について熱く語る俺に、何故か呆れた顔を向ける一同。

イヤイヤイヤ、非生産的な戦争よりもコッコでしょう?

俺はこの思いが理解してもらえない事が理解出来ず、困惑に陥るのでした。

 

―――――――――

 

「相変わらずケビンはケビンであったの」

宿屋の一室で腰を下ろし、義娘のディアに言葉を掛ける。

 

「ハハハ、そうでしたね。ケビンさんの無茶苦茶ぶりは、それを分かっていても理解に苦しむところがありますから」

そう言い収納の腕輪から湯沸かしの魔道具を取り出し、お茶の準備を始めるディア。あの腕輪はマルセル村の家に住み込みしている賢者シルビアに頂いたものだとか。

何でも三百年前に活躍した大賢者シルビア・マリーゴールド本人で、既に亡くなっているのだとか。幻影の魔法を解いて霊体になった姿を見せられた時には、顎が抜けるかと思ったわい。

別にこの世に恨みや未練があって成仏しないのではなく、気が付いたら今の状態になっていたと言うのだから世の中なにが起こるか分からんものよ。

 

見た目は若いが中身は成熟した女性じゃで、話をしておっても落ち着くと言うか、今の様な生活も悪くないと思える。

もし儂に伴侶がいたとしたらこの様な老後を過ごせたのやもしれぬが、儂には女性の心の機微という物が分からんかったからの。

弟子のジミーやジェイクになんの助言も出来んのが情けない限りじゃわい。

女性関係で困ったらメルビンの奴を紹介しようかの、あ奴はこの手の事には詳しそうじゃからの。

 

“コトッ”

差し出されたティーカップ、このような小洒落た物は儂の家にはないのじゃが、どうもディアが冒険者活動の報酬で購入したらしい。こうした事は武骨な儂にはない感性じゃと、義娘の存在に頬が緩む。

ティーカップから漂う爽やかな若葉の香り、これは蒼雲殿が栽培されている緑茶というものか。口腔に広がる仄かな甘さが、自然と心を落ち着けてくれる。

 

「してケビンの奴は、今晩は領都に宿泊して行くのかの?パトリシアお嬢様もおったし、グロリア辺境伯家の居城にでも向かったのやもしれんが」

「いえ、用も済んだので帰ると仰っておられました。明日からは本格的に参加者を鍛えるとかなんとか」

 

「ん?儂の聞き違いかの?今明日から鍛えると言っておらなんだかの?」

「はい、ケビンさんは空を飛べますので、パトリシアお嬢様方を影空間に入れて飛び去って行ったものかと。

マルセル村に帰る際は、前の日にケイトちゃんに連絡をしてくれれば朝に迎えに来ると仰っていました」

 

“ズズズズズズッ”

あぁ、お茶が旨い。

 

「そうか、ケイトは何らかの方法でケビンと連絡が付くと言う訳じゃな。して翌朝には儂らを宿まで迎えに来てくれると、なるほど、ケビンには世話になるの。

これはディアも気を引き締めねばならんかの」

「はい、ありがとうございます。

ですが次の試験は大丈夫かと。今ボビー師匠のお言葉を聞いて、合格を確信いたしました」

そう言い力強く微笑みを返す義娘に、頼もしさを感じるボビーなのでありました。

 




本日一話目です。
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