転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第396話 村人転生者、自身のスキルと向き合う

“コツン、コツン、コツン”

 

スキル、それは女神様が人類に齎した慈悲。魔力が溢れ、魔物蔓延るこの世界で、人類が生き残る事の出来るようにと差し伸べられた救い。

 

“コツン、コツン、コツン”

 

その恩恵の力は凄まじく、自身よりも大きな魔物を相手に剣を振るい、魔法を放ち、傷付き倒れた仲間を瞬時に回復させる。

スキルの力を手に入れた人類は徒党を組み、集団を形成し、生物として遥かに格上の魔物の脅威に立ち向かえるようになった。

 

“コツン、コツン、コツン”

 

だがその与えられた力は、何もせずとも十全に使い熟せるといった単純なものでは決してない。便利な道具、素晴らしい書籍がそうであるように、何度も触れ、理解し、己が身体に染み込ませてこそ初めてその真価を発揮する事が出来る。

それまで外れスキル、不遇スキルと揶揄されていた能力が、実は人類がその真なる能力を理解せず表面上のものしか見ていなかっただけといった事はままある事である。

歴史上のそうした事例など、挙げて行けば切りが無い。

 

スキルは女神様のお与えになった慈悲。それがどの様なスキルであろうとも人類にとっては奇跡の力であり、その恩恵に感謝しスキルの真の姿を探究する事は、人類の最低限の義務と言えるのではないだろうか。

 

“コツン、コツン、コツン”

薄暗い廊下を、明かりも持たずに歩を進める青年。彼はまるでその建物の構造を全て理解しているかのような明確な歩みで、目的の場所にやって来る。

 

“ガチャ、ギーーーーッ”

開かれた扉、部屋の棚には数々の不気味な雰囲気を纏った道具が並べられ、それらが誰の目から見ても普通のものではないという事を物語る。

青年はそれらの品には目もくれず、部屋の最奥に置かれた大人の身の丈ほどの長方形の箱の前にやって来る。

 

「準備は整った、実験の時間だ」

青年は楽し気な笑みを浮かべると、そのまるで棺の様な箱をやさしく撫でるのであった。

 

――――――――

 

「やはり主体はこの大きな魔力結晶でした。全体を覆う砲台のような外装は、いかに効率よく魔力波動を前方に飛ばすかといった事を念頭に設計されているのでしょう。張りぼてとまでは言いませんが、これら増幅装置の中枢はこの魔力結晶であり、魔力結晶が全ての制御を司っていたであろうことは間違いありません。

 

ただ奇妙なのは魔力結晶体に刻まれた制御魔術式です。恐ろしいほど精密に結晶体内部まで刻まれたそれは、これまでに無い全く新しい方式のものであった為解析に時間が掛かりましたが、大体の事は解明する事が出来ました。

ですがおかしいんです。魔力増幅に関する術式の全体に占める割合があまりにも少ない。

その殆んどが基礎となる制御機能、全体を司る本体とでも言いましょうか、そうしたものに割り振られ、精霊砲としての機能は外部による付属。

つまりこの魔力結晶はこれから先考えられる様々な兵器から生活用魔道具全般に至るまで、あらゆる物の制御装置となる事を前提として設計されているものかと。

この魔力結晶だけで独立した何か、そうですね、例えるのなら人工精霊でも作り出したかったんじゃないんでしょうか?

精霊砲はその副産物?もしくは研究者が周りが理解していない事を良い事に、国家予算を使って自身の研究の実験を行っていたといったところではないでしょうか」

 

ヨークシャー森林国で起きたバルカン帝国の侵攻、その戦いは暗黒大陸方面で発生した大規模スタンピードによって強制的に終戦を迎えた。

その際戦場となったトリニア砦前の荒野には大量の魔物とバルカン帝国の将兵の亡骸が転がり、台地には数多くの兵器が無造作に転がる事となる・・・筈であった。

一日にして崩壊した戦場、命からがら逃げだした僅かな将兵達。

崩壊したトリニア砦に立て籠もったヨークシャー森林国の兵士達が見たモノは、血煙の舞う地獄の大地ではなく、まるで先程までの戦い自体が夢幻であったかのような爽やかな風が吹き抜ける荒野であった。

“トリニア砦の怪奇”、後にそう呼ばれるこの出来事は、ヨークシャー森林国を滅亡から救った“精霊姫様の奇跡”と共に、ヨークシャー森林国で長く語り伝えられる伝説の一つとなるのだった。

 

そんな戦場で暗躍し、魔物と人の亡骸を処分し、鮮血の大地を浄化したナニカは、その代償とばかりにあらゆるモノを回収した。

そこには精霊砲と呼ばれるバルカン帝国の最新兵器も含まれており、魔物により破壊されたその残骸を伝説の大賢者シルビア・マリーゴールドとその弟子賢者イザベルに解析して貰っていたのである。

 

まぁそのナニカってのは観測者ムーブをかました俺なんですけどね。どうも、基本村人の勇者病仮性重症患者、ケビン・ドラゴンロードです。

でも精霊砲がその名の通り人工精霊を作り出そうとした際の副産物とは。これ開発した技術者ってロマンに人生掛けるタイプだわ~、周りの人間が大変なんだろうな~。

純粋な兵器開発を行う人間だったら、もっと低予算で大量生産できそうな兵器を作るだろうしね。例えば爆発的に威力の強くなった爆薬とか?それを応用して作られた高威力の石火矢とか?

あの石火矢も凄かったよな、実際に使ってみたけどそこそこの太さの丸太を吹き飛ばしてたし。大した訓練も積んでない様な一般人が騎士に対抗どころか騎士団を崩壊させるって、オーランド王国の常識からしたらとんでもない事だもんな~。

ダイソン公国が万を超える王国戦力を跳ね返してる要因は、バルカン帝国の兵器の力以外の何物でもないんだよね。

 

でも精霊砲は違う、兵器としてとんでもないのはそうなんだけど、それが拡張機能って。魔力結晶の使用目的が制御機能の方、つまりOS。兵器としての精霊砲を再現しようと思えばもっと簡単に作れるらしい。

まぁお陰様と言うかなんと言うか、精霊砲一機を作るコストが馬鹿高くなってる上に作製にありえないくらいの技術力が必要なせいで、そこまで量産する事は出来ないだろうとのお言葉でありました。

 

俺は賢者イザベルに礼を言い、手元の拳大の魔力結晶に目を向ける。おそらく火属性魔力の魔力結晶であろうそれは、赤く透き通ったクリスタルグラスの様な内面に多層構造の魔法陣や魔方陣の組み合わさった様な複雑な術式が書き込まれており、到底俺などの理解が及ぶものではないと否が応でも分からさせられるもの。

 

「天才って奴はどんな世界にもいるもんなんだな」

「ここまで来ると天才というより異常者よね。良いにつけ悪いにつけ常人には理解が及ばないと思うわよ?

私も現役時代は大概苦労したけど、これを作った人間の苦労はそんなものじゃすまないかもしれないわね。

“数世代先を行く技術はそれが理解されないまま時代の波に消えて行く、先進技術という物は半歩先くらいがちょうどいい”

生前の師匠がよく口にしていた言葉よ。あの頃は一切理解出来なかったけど、死んで三百年経ってから漸くその言葉の意味が理解出来るなんて、私ってば本当に出来の悪い弟子だったのね」

 

そう言い肩を竦める大賢者シルビア。その先を行き過ぎる見識から煙たがられ、排斥され、大森林中層に引き籠ったかつての英雄。

バルカン帝国の天才は正当な評価を受ける事が出来ているのだろうか?いや、それが出来ている様ならこんな悪戯はしないだろう。

 

「どこの世もやっぱり世知辛いですね」

何気なく漏れた俺の呟きに、「そうね」とどこか遠くを見詰め黄昏る賢者師弟なのでありました。

 

――――――――――

 

スキル<魔物の雇用主>。

長期雇用契約を結んだ魔物の持つスキルを使用する事の出来る破格のスキル。だが使用出来る魔物のスキルは本来のものの一割程度の能力に制限された劣化版。

普通であれば大して役に立たない、所謂外れスキルとなるところであった。

だがここにそんな想定を大きく覆す人物がいた。

 

魔物と人とが雇用契約を結ぶには、対価として契約者が魔力を支払わねばならない。人の魔力とはそれほど大きなものではなく、支払い可能魔力の関係上雇用魔物数にはおのずと制限が掛かる。

そして魔物に支払う魔力量は、その存在値が高い程多くなる。存在値とはすなわち強さ、強力な魔物であればあるほど支払う魔力量も多くなる。

人の魔力は有限であり、その上限は強大な力を持つ魔物には遠く及ばない。人の身では決してドラゴンの魔力量には届かぬように、ドラゴンを雇用する程の魔力を持ち合わせる人間など想定されてはいなかった。

 

その者は幼少の頃より只管に自身の魔力を枯渇させ続けた。魔法使いと呼ばれる者が魔力枯渇を起こすほどに訓練に励み、自身の魔力量を拡大させるように、魔力枯渇を起こし回復させることで人は自身の魔力保有可能量を増やす事が出来る。魔力枯渇と魔力回復を繰り返し行う事で、短期間で膨大な魔力量を保持する事が出来るようになるのだ。

ただそれは地獄すら生ぬるい修行であると言われている。魔力保有可能量の拡張は魂を広げる行為に等しい。それは肉体の痛みとは違いどの様なスキルや鍛錬でも逃れることは出来ない。

それは例えるのなら鼻の穴から食事を詰め込む行為か、あるいは限界まで膨らんだ腹にこてこての豚骨ラーメンを流し込む行為か。

常人であれば直ぐに諦めそうなそれをただ只管にやり続ける、その地獄の先にしか保有魔力量の拡張は得られない。

そんな地獄をまるで息をするかのようにやり続けた者がいた。

 

だがそれでも人には限界という物がある。生物的限界、魂の限界。保有しきれない魔力は肉体から溢れ出し、周囲一帯をその者の魔力で覆い尽くす様になる。

リッチキングと呼ばれる魔物がそうであるように、常に周囲に魔力を振りまく存在、そうなる筈であった。

 

だがその者はそうはならなかった。収納の腕輪、呪われた魔剣、魔力の腕輪という魔力吸収アイテムにより、その者の魔力は常に吸収され、回復するという事を繰り返す。

結果その者は人ではありえない程の魔力を保有し、尚且つ操る事が出来るようになるに至る。

 

そしてそれは本来人では契約出来るはずのない高位存在との雇用契約を実現させるに至る。そうした高位存在の保有するスキル、それらの多くは人の身では所持する事の出来ないユニークスキルと呼ばれる様な代物。

自身の保有する膨大な魔力量により数多くの強力な魔物や高位存在との長期雇用契約を果たし、それらの持つユニークスキルの一割の性能のスキルを多数保持する事となったその者は、既に存在自体が特殊と言わざるを得ないであろう。

 

スキル<友達生成>、“友人とは強制的になるものではない。真の友となるのかはあなた次第。”という難解極まりないスキル説明。

その説明文から類推されるスキルの内容は、“生成される存在は眷属の様に支配下にはない”というもの。

つまりどの様な存在が生み出されるのか全く想像がつかないというもの。

だが、ある程度予測をする方法はある。それはこのスキルの元となった親スキルとも呼ぶべき長期雇用契約者のスキルからの分析。精霊女王である紬のスキル<眷属生成>により作られた腕輪型の精霊は、精霊としての知能や判断力を備えた一つの存在として生み出された。

神聖樹である御神木様の眷属である神代様は、意思疎通が可能であり、創造主である御神木様と連絡を取り合っている。

<友達生成>が<眷属生成>の一割の能力であるとするのなら、学習されていない素体、学習用プログラムだけが組まれたまっさらな状態の何かが生み出されると想像出来る。

それはスライムやビッグワーム、スケルトンといった魔物の初期状態のような存在ではないだろうか。

 

「シルビアさん、イザベルさん、お待たせいたしました。

これよりお約束の通り、<友達生成>のスキル実験を行いたいと思います」

 

ここは俺の影空間、これから行うスキル<友達生成>の結果どの様な存在が生み出されようとも、この影空間であればある程度の対応は可能との判断です。

そして今回の<友達生成>に使用する素材がこちら、エッガードさんに吸い尽くされ成仏なさった“干物騎士が残した全身鎧”、紬さんが作った“反物一反”、精霊砲の中枢である“魔力結晶”、以前魔力結晶を作ろうとして結局上手く行かなかった“各種魔力液”、基礎素材として顔無しの呪物コレクションより“呪い人形”を選択いたしました。

要は妖しい包帯でぐるぐる巻きにされたご遺体に紬の攻撃糸で出来た反物を巻き付けて、その上から干物騎士の全身鎧を装着させた状態で棺に安置。副葬品として魔力液の入った容器を入れて魔力結晶を持たせた状態ですね。

 

俺の予想では多少知能の高いデスナイトが出来るんじゃないかと。行き成り攻撃されるのもいやなんで武器は入れない方向性で。

 

「それじゃ始めますんで、先ほどお渡しした対閃光用ゴーグルを装着してください。ダンジョンコアさんの話では、開闢の閃光にも対応可能の優れものだそうです。装着者を保護する機能もあるので、閃光に焼かれる事もないとか。これで魔力三年分ですからね、超お買い得でしたよ」

俺たちは頭部にゴーグルをセット、スキル<昇進>の際に発生する様な強烈な光に備えます。

 

「行きます、<友達生成>!!」

“ビカーーー”

 

うん、備えって大事。やっぱり発生しましたよ、強烈な閃光。

本家の紬が行った<眷属生成>の時はここまでの光は発生しなかったってのに、何故か俺の場合はスキルが殺しに来るって言うね。マジで意味分からん。

そしてダンジョンショップ最高、光のドームみたいのが出現して、中で何かの変化が起きてるっていうのが手に取るように分かるっていうね。賢者様方も前に消滅しかけてるし、これなら安心といったところじゃないのかな?

でも開闢の光すら対応可能って、ターンアンデットを唱えられても余裕で耐えられちゃったり?光属性魔法攻撃に対する究極装備?

・・・バレなきゃいいのよ、バレなきゃ。

あっ、何か動き出した。

 

周囲に溢れていた光が徐々に治まる。

棺の端に掛けられた白い手、ゆっくりと起こされた上体。

暗闇の中で眩く煌めく銀色の髪、整った端正な顔立ち。

その者はこちらの存在に気が付くや立ち上がり一礼をする。

その姿は燕尾の執事服を着こんだ女性といったもの。その胸の膨らみが、自らの性別を主張する。

 

「生活支援機構、N401。生体ユニット、並びに各種外装の同調を確認。魔力エネルギー体との融合により生体機能の活動開始を確認。魔力波動によるマスターの存在を確認。

マスター、何なりとご命令を」

 

その者はスッと身を正すと、胸に右手を当てた姿勢のまま、ゆっくりと頭を垂れるのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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