転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第399話 村人転生者、お祭りの準備を始める<二回目>

“ダッダカッ、ダッダカッ、ダッダカッ、ダッダカッ”

枯草の草原を走り抜ける騎馬の一団。馬上には老若男女様々な服装の者たちが、皆真剣な顔で乗馬に取り組んでいる。

 

「姿勢を真っ直ぐ、馬の動きに合わせて膝を使ってください。目線は遥か前方です、近くばかりに目をやると体勢が崩れて落馬の危険があります。

馬と一体になる事、馬を信頼し全てを任せる気持ちで手綱を握って下さい」

 

そんな彼らに並走し注意を飛ばす人物。彼は自身の跨るやる気のなさそうな顔の馬を巧みに操り、手本とばかりに走り抜ける。

どうも、やる気のなさそうな馬に跨る男、ケビン・ドラゴンロードです。

と言うかロシナンテ、もうちょっと頑張ろう。さっきからぶつくさ文句多過ぎ、後でドラゴンの塒産茹でヒカリゴケを食べさせてやるから。

俺がそんな事を語り掛けながら首筋をポンポン叩くと途端やる気を見せるロシナンテ、めっちゃ現金。大変分かり易くていいと思います。

 

え~、俺が何をやってるのかと言いますと、村人たちの乗馬訓練ですね。

まぁ普通の村人は乗馬なんかした事ありませんからね、乗れなくてあたり前、覇気耐性訓練以前の問題でございました。

この時代、移動手段としては馬車が主流、辺境であるマルセル村でも昔から馬は飼われておりました。と言っても村長の家にいる農耕馬だけでしたが。

 

荷馬車に揺られてゴトゴトとってのが一般的な農村風景、そんな生活をしている村人が行き成り馬に乗って下さいと言われて乗れる訳がない。

在りし日の記憶で言う軽トラとバイクの関係ですかね、行き成りバイクは無理ですっての。

それでも訳あり揃いのマルセル村ですから、それなりに乗馬経験豊富な方々が多かったのは嬉しい誤算でしたが。

 

今回のお祭りではミランダ夫人、デイマリア夫人をはじめとした計五名の女性が妊婦である事が発覚したため不参加。諜報部員のガーネットさん、リンダさんは当然不可、鬼人族の蒼雲白雲親子は何かと騒ぎになりそうなので遠慮して貰いました。他にも元助産師のセシルお婆さんとデイマリア様付きのメイド様方、まだ子供が小さいキャロルさんとガブリエラさん、エリザさんと母メアリーも不参加です。

マルコお爺さんとベネットお婆さんは防具作製が忙しく訓練に参加出来ない為、別途報酬支払いで話を付けました。

ベネットお婆さん、甘い物よりうまい肉ですか。でしたら大森林深層のトカゲ肉なんていかがでしょう?飛び上がるほど旨いですよ?

“ガシッ”

堅く交わされた握手、やはりお肉様は正義なのです。

 

・・・アナさん、あなたは駄目ですからね?隠れ住む迫害されし種族、ハイエルフの姫君って自覚を持ってくださいよ?

皆が何か楽しそう?訓練参加は止めませんけど、当日はお留守番ですから、その辺は分かって下さいね?

家を守るのも妻の務め?まぁそういう事でお願いします。

 

そんなこんなで参加者人数はマルセル村の四割程になってしまった訳でございます。

ケイトもな~、絶対参加するって言ってたしな~。ザルバさんは「ケイトは私が守る」とか言って張り切ってるし。

何にしてもお祭りの準備は順調に進んでいると言ったところでございます。

 

「ヘンリーお父さん、お願い出来る?」

「あぁ、それじゃ始めるぞ?」

 

“ブウォッ”

突如騎馬の一団の最後部で立ち上がる強大な覇気、騎乗した者達は一瞬ビクッと身を震わせるも、何事もないかのように馬を走らせる。

 

“ズウォ~~~”

その強大な力は次第に強い殺気を帯び始める。理屈ではなく魂に直接響くそれは、自然と彼らの身を縮こまらせ、手綱を握る手に力が入る。

 

「ほら、力が入ってるよ~、そんなんじゃお馬さんが安心出来ないよ~。

馬上の者はどっしり構えて馬に全幅の信頼を寄せる、それでこそ馬は主人の期待に応える。

互いの信頼関係なくして戦場で生き残ることは出来ないんだからね~」

ケビンの掛け声に、馬上の者たちは“この理不尽が~、めっちゃ怖いんだからな~!!”と思いながらも、深呼吸をして自身を奮い立たせる。

 

ある者は身重の妻の笑顔の為に、ある者は共に参加する妻の命令で。

全ては報酬の為、小樽の甘木汁と小壺のジャイアントフォレストビー蜂蜜の為に!!

マルセル村の冬は厳しい、そんな冬の訪れを感じながら、彼らは今日も理不尽のしごきに耐え続けるのであった。

 

―――――――――

 

“カンッカンッカンッカンッ”

マルセル村の一角、礼拝堂の隣に作られた大きな倉庫から響く金属を叩く音。

 

「マルコお爺さん、進み具合はどう?」

「おう、ケビンか。ぼつぼつと言ったところかな。前のランドール侯爵家とのゴタゴタの時と違って今回は殆ど新調だからな、それなりに時間は掛かっとる。

しかも数が多い、俺一人ではどうにもならんところだった。ケビンがフレムさんをはじめとしたミルガルの職人たちを連れて来てくれたのは、本当に助かったぞ。

後はベネットの所の生地の仕上がり次第にはなるが、年明け過ぎには出来上がるんじゃないか?」

 

倉庫の中では複数の職人がカンカンと金槌を振るい、防具の作製に取り組んでいる。その顔は一様に明るく、仕事があるという事に喜びを感じている様に見える。

 

え~、ここがどういった場所かと言いますと、例の難民が集団生活をしていた体育館ですね。それまでマルコお爺さんが自宅でコツコツ作製していた村人の防具を、この場所を工房にする事で効率よく作製していただいてるってところでございます。

お手伝いの職人さんはミルガルのゾイル工房のゾイル夫妻とそのお仲間たち。ミルガルの街もこの戦時不況のあおりを受け、お仕事が減っていたとか。俺の突然の依頼にも快く応えて下さり、お仲間共々住み込みで働いていただいてるって訳でございます。

加工に必要な魔力炉は以前エルセルのフレム工房で使っていたものを収納のカバンから取り出して使用、動力球はミルガルのフレム工房の物をお借りして来ました。

 

体育館を工房にしちゃって寝泊りはどうしてるのか?

体育館の隣に新しく家を建てても良かったんですけどね、どうせ一時的なものなんでそれもどうかと思いまして。

以前紬が最強装備のリュックの中に作っちゃった“精霊の庭”用にレンドール不動産で購入した別荘が全く使われていなかった事を思い出したんで、それを移築させて頂きました。

 

職人さん方のお世話は更と満月にお願いしてあります。うちの使用人たちって基本月影から使用人訓練を受けてるだけだったからな~。まぁ暇人なんですよね。

月影からも「どこに出しても恥ずかしくない様に仕込んでございます」とのお墨付きをいただいてるので、丁度いいでしょう。

 

「それでこれ、追加の魔鉄インゴットになります。加工の難易度は通常の物とさほど変わらないと思いますが、色付けの為に緑と黄色の鱗の粉末を混ぜてあるんで、何か問題があったら言ってください」

「いや、問題があると言えばソレが問題なんだよ。

俺もこれは濃紺色をした綺麗なインゴットだと思うよ?でもなんで緑と黄色の鱗を混ぜちゃったかな~。緑と黄色と言ったらどう見ても地這い龍だろう?

このインゴット、伝説の金属とかになってないか?なんか品質鑑定でみたら魔鉄じゃなくて魔物鉄(疑龍)とか出たんだが?魔力伝導率が目茶苦茶いいんだが?多分これ、総ミスリル製の武具よりもいい物になるんじゃないのか?」

 

マルコお爺さんの畳みかける様な問い掛けに言葉の詰まる俺氏。

う~ん、金属加工時に魔物素材を混ぜるのはファンタジーの定番だと思ったんだけどな~。前に礼拝堂の光る魔法陣を作る時に魔ガラスの色付けに御神木様の葉をすり潰した汁を使ったら上手く行ったんで、その応用で濃紺色の緑と黄色の鱗粉末を魔鉄インゴット作製時に混ぜ込めば着色するかな~と思って作ったのがこれって事なんですけどね。

やっぱ見た目地這い龍の鱗粉末、いい仕事をしてくれますわ~。

見事な濃紺の魔鉄が出来上がったって訳でございます。

その魔力伝導率の良さはマリンバさんの義手で証明済み、新しい腕の様に自在に操ってましたからね。

でも伝説の金属か~。黙ってれば分からないよねって事で。王家から問い合わせがあっても、ニコッと笑っとけばとやかく言わないでしょう。

 

「まぁ性能が悪いよりはいいんじゃない?防具だし、<魔力纏い>を使えば防御力も増すんじゃないのかな?

何か問題が起きたらすぐに言ってください、出来る限り対処しますんで。

それじゃ後の事よろしくお願いします」

俺はマルコお爺さんに深く礼をすると、工房を後にしてベネットお婆さんの所に向かうのでした。

 

――――――――

 

「ベネットお婆さん、今大丈夫?」

「ん?ケビンかい、いい所に来たね。染付用の魔道具作製用インクが足りなくてね、丁度人をやろうと思ってたところだったんだよ」

 

ベネットお婆さんの工房兼自宅に顔を出した俺氏、早速注文をいただいてしまいました。そっか~、あれでもまだインクが足りなかったか~。

俺はやることリストの一番上に魔道具作製用インク作製の項目を記入する。

 

「糸巻たちどうしてます?結構頑張って貰っちゃってると思って御神木様の葉っぱを貰って来たんですけど」

「あぁ、あの子達ならキャタピラー部屋でゴロゴロしてるよ。糸作りで疲れたんじゃないのかい?」

 

「それじゃちょっと顔出して来ますね」

俺はベネットお婆さんに礼をしてからキャタピラー部屋へと向かうのでした。

 

「お~い、お前ら大丈夫か?御神木様の所から葉っぱを貰って来たぞ~」

部屋の扉を開けると、そこには三段棚が設置されていて五匹のキャタピラーが棚の上でゴロゴロとしているのでした。

俺は床の大皿に御神木様の葉を山盛りにすると、やる気なさそうなキャタピラーたちを抱き上げ大皿の脇へと並べます。

 

“““““!?ムシャムシャムシャムシャ♪”””””

御神木様の葉っぱに気が付いた五匹は先程までのけだるさはどこへやら、夢中になって大皿に顔を突っ込むのでした。

 

何でこいつらがこんなにバテているかと言えば、今度の村人たちの衣装用に糸を作り続けたからですね。まぁ普通のキャタピラーの攻撃糸でも十分丈夫ではあるんですが、村人たちが向かうのは弾丸飛び交う戦場、出来る備えはしておいた方がいいじゃないですか。

でも精霊女王である紬さんの作り出す糸となると後々問題が。ですんでその眷属であるこの五体にお願いして糸を作って貰ったという訳です。

 

こいつらは元々ベネットお婆さんの所で糸を作ってたキャタピラーですね、紬の指導により攻撃糸の糸玉を作り出せるようになったエリートさんだったんですが、ベネットお婆さんの所に修行に入っていたジェラルドさんの奥さんのキャロルさんと、ギースさんの奥さんのエリザさんが産休に入っちゃいまして。

人手不足という事で、その解消の為紬さんに眷属にされちゃったって訳です。精霊女王である紬さんの眷属ですから当然の様に精霊、しかも最上級精霊って奴になっておられます。

で、人の姿も取れるっていうね、所謂女工さんって奴です。富岡製糸場です。でもこんなにバテバテになる程働かせるとは、俺も大概ブラックな雇い主だな~。

 

「糸巻、機織、経糸、緯糸、シャトル。お前たちも長期雇用契約を結んどくか?そうしたら今回みたいにバテバテになる事もないぞ?

俺のバカみたいな魔力を補充出来るしな」

“““““!?キュイキュイキュイ♪”””””

 

俺の提案に顔を上げ喜びの声を上げる五匹。紬には業務連絡で許可を取ってます。

 

「それじゃ、<長期雇用契約:糸巻・機織・経糸・緯糸・シャトル>」

“ポワンッ”

 

俺たちの間で繋がる何か。大喜びしながらも食事の手を止めない五匹。

でもこいつら分かってるのかね~。常に魔力供給可能って事は更なるブラック化が望めるって事を。

分かってないんだろうな~、まぁこんなに忙しい事も滅多にないんだけどね。

俺は食事を続ける五匹に言葉を掛けると、ベネットお婆さんの頼まれごとを片付ける為にその場を後にするのでした。

 

――――――――

 

「緑~、黄色~、悪いけどまた鱗を頂戴」

““ズズズズズズッ””

 

俺の言葉に応える様に姿を現した二体の地這い龍、もといファームドラゴンワームの緑と黄色。こいつらこんな成りでもワーム、つまりミミズなんですね~。

俺はベネットお婆さんの所で糸巻たちと別れてから、その足で実験農場の二体の下へ。何故かと言えば糸巻たちの作る糸を染めるのに、普通の染め物用インクが使えないからですね。そこで魔鉄の色付けに使ったのと同様、緑と黄色の鱗粉末を素材にした魔道具作製インクを使用したって訳です。

素材は大福のスライム液と土属性魔力マシマシ魔力水と鱗粉末。染物に鉱物が使われてたりすると聞いて試してみたんだけど、上手い事魔道具作製用インクになってくれて良かった良かった。

 

““ギャウギャウ、クワックワッ””

「分かってるって、ちゃんと用意してあるから」

 

“コトンッ、コトンッ”

俺は二体の要求に従い、収納の腕輪から水桶に入ったとある物を取り出します。それを見た二体は“キュルルルル~♪”と喜びの声を上げ踊り出すのでした。

 

俺が取り出したもの、それは以前作った最強生物の膠ですね。緑と黄色に食べられちゃった例のアレです。

あの事件以降もこいつら時々こうやって強請(ねだ)って来るんですよね。これ作るのめっちゃ時間が掛かるんですよ。だもんで暇を見付けては影空間の屋敷で仕込みをしておいて、出来上がったものを収納しておいてるって訳です。

 

「それじゃ早速で悪いんだけど、鱗頂戴?」

““!?ピカッ、ボロボロボロ””

 

俺の言葉に顔を上げた緑と黄色の身体が一瞬膨れ上がったかと思うと、体表から大量の鱗が零れ落ちる。

これ、二体のスキル<龍鱗>の効果だったりします。スキルの効果で身体を龍の鱗で覆って直ぐに分離したって訳です。

当然龍の鱗だから超固い。でもそこは本物じゃないんでなんとか加工可能なんですが。

この後これを粉末にしないといけないんだよな~。普通のヤスリじゃ傷一つ付かないこの鱗、黒鴉先生にヤスリになっていただいて何とか削れるって代物です。

その作業が結構な重労働で。俺は先の作業にげんなりしつつ、畑の小屋の作業部屋に引き籠るのでした。

 




本日一話目です。
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