転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第401話 オークの勇者、旅立つ (2)

“パチンッ、パチンッ”

冬の森の木々の合間に爆ぜる薪の音が響く。

燃え盛る焚火の炎に照らされて、三つの人影が揺れる。

 

“ほいよ、焼き立てのポーションビッグワーム干し肉。身体が疲れてる時や怪我をした時はこれに限るってね。

ただ気を付けな、目茶苦茶旨いから。思わず意識が飛んじゃうくらいには衝撃的だからね”

その内の一人が、焚火に炙られていた串肉を他の二人へと手渡す。

周囲には干し肉の旨そうな匂いが広がり、さっきから涎を垂らしていた二人は、“待て”を解除されたペットの様に一目散に串肉に齧り付く。

 

「「#$%&’+*@#$%!!」」

衝撃、旨さとは言葉ではない、理屈も種族すらも関係ない。

ただ只管に喰らう喰らう喰らう。そこには理性などという不純物はいらない。本能のまま、身体が、心が命じるままに、全てを忘れ食らい付く。

 

“分かるわ~、俺も初めてポーションビッグワーム干し肉を食べた時はこんなだったよな~。でもね、捌いたばっかりの生ポーションビッグワームの炙り焼きはこんなもんじゃないんだよ?

ケビンさんの作る生ポーションビッグワームの炙り焼き、あの絶妙な塩加減、記憶が飛ぶからね。気が付くと目の前から消えるから、ただ旨かったって言う思いだけしか残らないって言うね、それって食べ物としてどうなのって思っちゃうくらい凄いから。

思い出したら涎が出て来ちゃった、俺も食べよう”

 

木の葉が落ち、寒さが身に染みる冬の森。そこには薪の爆ぜる音と、串肉を食べる咀嚼音だけが響くのでした。

 

“スッ”

“えっと、それで一体何がどうなってるのか教えて貰ってもいいかな?”

俺は収納の腕輪から生活魔法<ブロック>で作った大きめのカップを取り出し、光属性マシマシウォーター(熱湯)を注ぎ、キラービーの蜂蜜を溶かし込んでから二人に手渡す。

ポーションビッグワームの衝撃に暫し呆然としていた二人は、蜂蜜の甘い香りに意識を取り戻したのか、カップを口に付けるやまたしても目を見開いて動きを固める。

まぁ旨いからね~、これも。こう、なんだろう、身体の内側から癒されるって言うか、ポーションビッグワームとはまた違った驚きがあるよね。

 

「ズ、ズバダイ、アバディノオイディダディギガドオグダッデディダ」

「す、すみません。あの、こんなに美味しいもの初めてで、その、何と言っていいのか」

 

漸くこっちに帰って来てくれた二人の第一声は謝罪。そりゃそうだよね、なんか襲われているところを助けられたってのに、助けた者を放置してあっちの世界に行っちゃってたんだから。

でもそれ、みんなが一度は通る道だから、気にしない気にしない。

 

“いや、気にしてないから。それより何があったのか教えて欲しいんだけど?”

俺は焚火に薪を足しながら然も気にしていないと言った素振りで話しを促す。

だが二人はどう説明したらいいのかといった様子で、互いに顔を見合わせる。

 

「ダア、ダズゲデモダッデゴンダゴドヲギグノボアデダガ、オバエバオデダディノゴドガゴワグダディノガ?」

そう言い心配そうな顔を向ける狼顔の者、隣にいるごっつい顔の者も不安げな顔を俺に向ける。

 

“えっと、なにが?”

「イギャ、オデダディハドウビデボバボノ。オデダンガバゲボノダド?

オバベバドウディデゾウヘヒゼンドヂデダデドゥンダ?」

そう言い再びこちらに顔を向ける二人に、首を捻りながら暫し考える。

 

“えっと、お前たちは何か勘違いしてないか?お前たち、俺の事なんだと思ってるの?”

「ノドワデダヒドゾグ」

「獣人族とか言う方でしょうか?前に目玉がそんな種族の事を言っていた事が」

 

“あ~、なるほど。あなた様の言ってた事ってこういう事なのね。俺の姿って相当人族っぽくなってるって事ね。そう言えばさっきの目玉もそんな事言ってたよな~。〔真実の愛〕の呪いがどうとか。それって前にゴブリンズが掛けられてた呪いの基になったって奴だよね、結構有名なのかな?

ごめん、話がそれたね。結論から言えば俺は人族じゃないよ、オーク種だね、所謂魔物。進化したら痩せたって感じ?ケビンさんには進化式ダイエットとか言われたけど、俺の場合進化したら痩せちゃいました!”

 

そう言いドヤ顔をする俺に、“何言ってるのこいつ?”って顔をする二人。

 

“あ~、信じてないな~。魔物の進化って凄いんだからな~、俺の同僚なんか、見た目完全に人間になってるのもいるんだからな。他にも巨大化した奴とか、そんなに変わらなかったやつとか。上司なんか地這い龍になっちゃったのもいるんだぞ?魔物の進化舐めるな?”

 

俺の言葉に口をポカ~ンと空け呆然とする二人。「私達の存在意義って一体・・・」とか言って遠い目をし始めちゃうし、一体何なのよ。

 

“パチンッ、パチンッ”

焚火の薪が爆ぜる、炎がゆらゆらと揺らめく。

 

「聞いて貰えますか?」

ごつい顔の者が口を開き話し始めた言葉。俺はその内容にこめかみを揉み頭を抱える事になるのでした。

 

――――――――

 

“はい、はい、そうなります。ですんで出来れば増援を。既に俺の事は捕捉されてると思うんで、このまま御神木様の所に戻るとマルセル村の方にもご迷惑が。

そうですか、分かりました。

状況がはっきりしてないんで、出来る限りとなりますが、探りを入れたいと思います”

 

“フゥ~”

俺はケビンさんに<業務連絡>で状況報告を行うと、大きくため息を漏らす。俺の側ではごつい顔と狼顔が、心配そうにこちらを見詰める。

 

“ん?大丈夫大丈夫、上司に連絡入れたから。今直ぐは無理だけど、じきに増援が来るから。

しかしまぁとんでもない奴がいたもんだよね。強化魔物軍団による国盗り、ゆくゆくは世界征服も視野に入れての長期計画。ハイヒューマン計画だっけ?お二方はその基となる基礎実験の実験体だったと。

強化キメラってどこの秘密結社よ。悪の教団とかあったりするの?

邪神信仰?外なる神の降臨?ケビンさんが聞いたらめっちゃ喜びそう。

あの人倫理観とか道徳とかあまり気にしない人だし。

面倒くさいけど、ここで抑えておかないともっと面倒な事になるじゃん。あぁ嫌だ嫌だ”

 

俺は自身の引きの悪さを呪いつつ、ガックリと肩を落とすのでした。

 

“はぁ~、面倒だな。<いでよ、我が半身。聖剣召喚>、はぁ~”

次の瞬間大地に幾重にも展開される魔法陣、それは神秘的な光で周囲を照らす。

 

“・・・お~い、出番だぞ~。出て来~い、聖霊剣グランゾート~。

・・・来ない様なので代役を立てるって事で”

“行きますよ!何でそこで諦めちゃうんですか、そこはもう一言あってもいい場面じゃないですか~!!”

大地から響くような天上の叫び、魔法陣が大きく光り、その中心から一振りの大剣が姿を現す。

 

“鍛冶の神が打ち上げし神器、真の勇者であるブー太郎様の唯一無二の武器、聖霊剣グランゾート、ここに顕現せり”

“はいはい、そう言うのいいんで。お仕事だから、さっさと行くよ~。

あっ、お二方は申し訳ないけど道案内を頼める?どの道さっきの目玉には捕捉されてるんだろうし、逃げ場はないと思うよ?

こっちとしても迷惑行為は勘弁なんで、確りと叩き潰してあげるから。

一蓮托生って事で、諦めて?”

 

そう言いニコッと微笑むブー太郎。それはとてもこれから死地に向かおうという男のものではなかった、だが・・・。

 

“ブォッ”

“まったく面倒くせぇ。グランゾート、全力だ。全て細切れにする”

“了解しました、ブー太郎様。存分に暴れちゃってください!!”

 

““““ギョギョギョギョギョギョギョギョ””””

周囲を取り囲む幾千もの異形の気配、ブー太郎は強大な覇気を身に纏い、一人森へと走り出す。

 

“<明鏡止水、金剛無双、対魔境剣術 百花繚乱>”

時が止まる

剣士が駆け抜ける

枯れ木立ち並ぶ冬の森が

一斉に朱色の花を咲き乱らせる

<百花繚乱>

大地は細切れの肉塊で埋まり

世界は朱色に染め上げられる

 

“スパパパパパパパン”

“グシャッ”

 

“お待たせ~。それじゃ進もうか”

男は血濡れの愛刀を横に振り、“いくら細切れにしたからって血脂が残るとは、俺もまだまだだな~”と自嘲しながら鞘に仕舞う。

聖霊剣グランゾートは主の剣技に酔いしれカタカタと身を揺らし、異形の者たちは男の強さに言葉を失う。

“もしかしたら自分たちは救われるのかもしれない”

そう希望を持ってしまう程、男の背中は大きく逞しく見えるのだった。

 

―――――――

 

“それで、ここでいいんだよね?”

そこは大森林深層と呼ばれる場所であった。周囲は濃厚な魔力に溢れ、冬という季節にも関わらず草木が生い茂り、強力な魔物たちが跋扈する。

そんな危険な土地に、その城は存在した。

まるで警備兵の様に城の周りを巡回する異形の魔物。三つ首のオオトカゲの群れが、他者の侵入を許さない。

 

“よくあんなところから脱出出来たな”

「バイズディドガダドゥ。ゴッディダ」

狼顔が自分たちが脱出してきた秘密の通路に案内しようとするも、男はそれを手で制する。

 

“いや、いい。と言うか行きたくない。あまり知られてないかもしれないけど、オークって綺麗好きなのよ?ゴブリンとは違うのよ?

排水路って。そこってちゃんとスライムさん達が掃除してる?侵入者防止の為とか言って定期的に魔物の殲滅とかやってない?

俺、臭いの嫌いなの、オークは鼻がいいんだよ。

それに・・・”

男はそこで言葉を切ると自分たちが歩いて来た背後の森を見詰める。

 

“ケビンさん、いるんでしょう?一体何時から付いて来てたんですか”

ジッと男が見詰める森の先、ガサガサと音がして、一匹のホーンラビットが姿を現す。

 

「ざんね~ん、そっちは団子先生でした~。正解はブー太郎君の直ぐ隣だったんですね~。

いよ、オークの勇者様、格好いいぞ!!」

それは黒いコートに黒いズボン、黒いブーツに黒いリュックを背負い、黒い仮面を付けた人物。目の前にいるのにその存在を見失いそうになるような不気味なナニカ。

 

「因みに大福先生や緑先生、黄色先生もいらっしゃいます。みんなブー太郎が勇者様してるみたいって言ったら一緒に行くって言うもんだからさ~。そんで何時から見てたかって言うとブー太郎の<百花繚乱>が終わってグランゾートを鞘に納めた辺りから?

いい所を見逃した~って思ってたんだけど、向こうさんも分ってるよね。戦いが終わって疲れて油断するであろう所に連続戦を仕掛けるって。

ブー太郎先生の勇姿、みんなで確りと見学させて頂きました!!」

 

そう言いビシッと敬礼のポーズを取るナニカに、男は膝からガックリと崩れ落ちる。

 

“ほとんど最初からじゃないっすか、アレって<業務連絡>入れてから直ぐですよね?どんだけ早い到着なんですか、意味解んないですよ!!”

 

「“悪意に歪められし悲しき命よ、俺が解放してやる、先に逝ってな”だっけ?流石ブー太郎、カッケー!!」

“やめて~!!ちょっとテンションが上がってただけだから!!

そんな、俺、何やってたんだ俺~!!”

 

積み上げてしまった黒歴史に悶え苦しむ男、そんな彼をニヤニヤ笑いながら見詰める仲間たち。

 

「それじゃブー太郎先生の格好いい所も見れたという事で、お城の周りの キメラは早い者勝ちね。好きなだけ暴れて来い!!

お城は俺が貰った!<結界&影収納>」

“ズォォォォォォォォ”

 

瞬時に展開された城を覆い尽くす大結界、そして大地から立ち上がった闇が、城を漆黒に染め上げる。

暗黒に包まれたまま音を立て沈んで行く城、その光景はまるで大地に開いた地獄の門に引き摺り込まれて行くかの様であった。

 

“ポヨンポヨン、バシュッ”

高速で飛び込んだ大福によりミンチにされたトカゲ。

 

““クワックワックワ、ピシュンッ””

二匹の地這い龍が撃ち出すウォータージェットにより一瞬にして切り刻まれるトカゲたちの群れ。

 

“キュキュキュイ、ドガンッゴロゴロゴロ”

団子により呼び出された雷雲が大地に(いかづち)を落とし、

 

“キュッキュキュ~♪”

紬が作り出した無数の糸がトカゲどもを切り裂き、

 

「フンッ」

御神木様の分体から伸びた根が、残骸となった全ての肉片から栄養を吸い尽くした。

 

「みんなお疲れ~。それじゃ最後に主催者様にご挨拶に行こうか~。

えっとそちらのお二人も来るのかな?もう君たちを狙う連中はいないと思うけど。

まぁ外部の組織については何とも言えないけど、こういったものは切り捨てが基本だからね。跡形もなくなったって事で手を引くんじゃない?」

 

ナニカの言葉に暫し固まる二人の異形。

 

「オデダディモヅレデイッデグデ」

「私もお願いします。これは私のケジメですから」

互いに目を合わせた後、頭を下げる異形たちにナニカは頷きで返す。

 

「ブー太郎、二人の面倒は任せた。それじゃ終幕と行こうか」

ナニカの言葉に続く様にそれぞれの足下の影が広がり、その場の者全てを飲み込んで行く。

森に静けさが戻る、オオトカゲも城も、異形の全てが消え去った森。

大地に残された大穴だけが、そこで何かがあったという事を物語るのであった。

 




本日一話目です。
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