転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第402話 オークの勇者、罪科の城に乗り込む

そこは黒に塗りつぶされた空間であった。

広がる地面も、左右の空間も。遥かに高い天空に小さな明かりが点々と広がる、そんな不可解な場所であった。

 

「何がどうなっている!!実験体どもはどうした!!トライデントドラゴンどもは正常に動いていたのだろう?」

「分かりません!キャッスルグローリーは巨大な結界により覆われたままです!

フライングアイの解析でも特殊結界と言う結果は出ておりません。ただ魔力出力が異常です、結界の解除作業は進めていますが、難航しています」

 

統一された紺のローブを羽織った者たちが慌ただしく動く。

彼らは大森林深層部に巨大な城を築き、多くの魔物を素材にし、より強力な個体を作り続けて来た。

この世界において隔絶した技術と優れた頭脳を持つ自分たちこそが世を統一し君臨すべきであると本気で信じる者たちは、それにふさわしい人類、ハイヒューマンを作り出すべく日夜研究を重ねていた。

その計画は彼らの執念によりある形を作り出そうとしていた。

 

「者共、落ち着け。人類の頂点である我らがこの程度の事態で動揺してどうするか。

まずは状況の確認だ、城内部に侵入者がいないのか、敵対勢力の確認を最優先とする。

これは人類の頂点たる我らに対する明確な攻撃である、決して許す訳にはいかない。発見次第処分しろ!!」

「「「ハッ、総統閣下の御心のままに」」」

 

悪意は動き出す、自らが絶対であり何よりも優れていると信じるが故に。

世界の全てを支配する為に。

 

―――――――

 

その者たちは黒の大地に佇み、眼前の城を見上げていた。

 

「ブー太郎、そんな嫌そうな顔をするなよ。地下排水路からの侵入は秘密基地攻略の基本よ、基本。隠された秘密部屋を探索しつつじわじわ支配領域を広げていく、まさに魔王城攻略の醍醐味だよね♪」

“だからなんで地下排水路からなんですか、正面玄関からでいいじゃないですか。俺臭いところ嫌いなんですよ、オークは鼻がいいんですよ、ウルフ種と一緒なんですよ!!”

 

世間一般のオークのイメージを全否定するブー太郎に、“そう言えば野生の猪も泥浴びしてダニとかを落としてるって言われてたよな”と在りし日の記憶を思い出すケビン。

ボビー師匠の昔話でもオークの集落が臭かったといった話は聞いたことが無いし、その辺はゴブリンとの大きな違いなんだろう。

 

「分かった分かった、ちゃんとスキル<清掃>で綺麗にするから。そんじゃチャッチャといきますかね。<出張:残月>」

黒い地面に現れる光輝く魔法陣、その中心に光の扉が立ち上がり、中から男装の麗人が姿を現す。

 

「御呼びでしょうか、マスター」

その者はケビンの前に立つと、頭を垂れ言葉を述べる。

 

「うん、今からあの城の主に挨拶に行こうと思ってね。

ただ制圧するだけだったら魔力枯渇を起こさせるだけの簡単なお仕事なんだけど、それじゃ相手様に失礼じゃない?

だからじわじわと地下から攻め上がろうとね。

残月には城のシステムを掌握してもらおうと思って」

そう言い背後の城を見上げるケビン。残月は主人の動きに合わせる様に城を見上げると、早速城の解析と調査を始める。

 

「展開される魔術式警戒システムを多数検知、連動式魔術トラップの存在を確認、隔壁型遮断結界の作動を確認。広範囲崩壊術式の存在を確認。

全システムの掌握に成功、全ての部屋の出入りが可能となりました。

広範囲崩壊術式は内部エネルギー炉と連動していますが、こちらは停止させますか?その場合城内の魔術装置が停止してしまいますが」

 

「いや、それだと面白研究の成果を見る事が出来なくなっちゃうから無しで。おそらくだけどエネルギー炉を暴走させるような機械的な罠も設置されてるだろうから、それを作動させない様にしておいてくれる?」

 

「畏まりました、マスター。先行し、エネルギー炉の対処に当たります」

そう言い残しその場から姿を消す残月。

 

「<清掃:排水路全体>、ほら、臭いも無くなったぞ~。勇者ブー太郎様、先頭は任せた!!」

“ブヒッ”(涙)

 

心底嫌そうな顔をしながら歩を進めようとするブー太郎。

 

“おい、ごつい顔と狼顔、道案内をしてくれないか?この排水路から脱出して来たんだろう?”

ブー太郎はこの騒動の発端となった異形の者たちに声を掛ける。

 

「ズ、ズバダイ。ジョウギョウノベンガディヅイデイゲダクダッテイダ。」

「すみません、その、訳が分からなくって。ここが一体どこでなんで目の前にあの城が地下空間ごとくり抜かれた状態で存在してるのかとか、今現れた人が何だったのかとか・・・」

 

“あぁ、うん、難しく考えない方がいい。これは元冒険者のボビー師匠って人族が言ってたんだが、物事に混乱したら一番大事な事、自分が何をすべきなのかを考えるといいらしいぞ?

今お前たちにとって大切なことは何だ?全てを終わらせて前に進む事じゃないのか?その為に逃げ出したんだろう?”

 

ブー太郎の言葉にハッと我に返る異形たち。周りがどうであろうと関係ない、目的は一つ、生き延びる事。その為にはこの城の者たちが邪魔になる。

 

「ゴッジダ」

狼顔が横穴の様になった排水路に歩を進める。その後ろをごつい顔とブー太郎が続く。

そんな三体の様子を眺めていたケビンは、“いよいよ勇者ブー太郎が魔王城に突撃ですな!?ブー太郎先生が暴れても城が壊れない様に、壁や天井にも厳重に結界を張り巡らせねば!”と一人斜め上の事を考えながら、仲魔たちと共にその後に続くのでした。

 

―――――――――

 

そこは地下空間とは思えないほどの広い場所であった。土の地面と高い天井、まるで地下闘技場といったようなそこには複数のキメラが蠢き、侵入者がやって来るのを待ち構えているのであった。

 

「グッ、マジブゼザデデイダガ。アノオグノヅウドガウエノガイディヅヅイデイドゥバズダ。

オデダディハ、ゴドウエニイッダゴドバダディ。ヤグニダダドゥニズバダイ」

 

“いや、十分十分。それに大きなガラス筒に入った魔獣や魔物なんかも見れたしね。あれってキメラの製造を行ってた研究施設なんだろう?あれだけでもケビンさん大喜びだったしね。

何体か人族も液体に漬けられてたけど、あれってお前たちの元の身体だったりするの?”

 

ブー太郎の問い掛けに首を横に振る異形たち。

 

「分かりません。私たちは人の様な思考はありますが、その記憶は全く。ただ何かから逃げていたような断片的な思いと、大切なものを失ったような気が。

目玉の言葉ではこの身体には人の頭の一部が使われている様なので、その影響だと思うのですが。

自分が人であったのか、あるいはそう思わされているだけの化け物なのかも分からないんです」

 

ごつい顔はそう答えると、闘技場に蠢くキメラに目を向ける。

自分たちはあのキメラと何が違うのかと。

 

“まぁ難しい事は後で考えればいいんじゃない?今はこの騒ぎの元凶の所に向かわないと。それには目の前の障害を・・・”

“ポヨンポヨンッ、ズバンッ”

““アギャギャギャ、スパスパスパスパスパスパ””

 

「ごめん、なんかお三方が暴れたくなっちゃったみたいで。本当にごめん」

 

聖霊剣グランゾートの柄に手を掛けたまま固まるブー太郎に心底申し訳なさそうに声を掛けるケビン。

ロマン溢れる秘密結社の地下施設に大満足の勇者病仮性重症患者と違い、武闘派のお三方は若干飽き始めていたのであった。

 

ブー太郎とケビンとの間になんとも言えない微妙な空気が流れ始めた時であった。

“ズンッ、ズンッ、ズンッ”

大地を揺らす足音、闘技場の壁の一部が音も無く開かれ、暗闇の中から何かがこちらへとやって来る。

 

“ズウォッ”

途端流れ込む瘴気、鼻を突く刺激臭に、ブー太郎の表情が歪む。

 

「あれは、ドラゴンゾンビ、だと・・・」

“GiGAAAAAAAAAAAA”

大気を揺らす咆哮、異形のもの二人はまるで状態異常にでも掛かったかのように口を開いたまま動きを止める。

いや、実際<スタン>と呼ばれる状態異常に掛かっていた。ドラゴンゾンビの咆哮には、その叫びを聞いた者を麻痺させる状態異常付与効果があるのであった。

 

「ほら、勇者様、ドラゴンですよ、ドラゴン。これで君もドラゴンスレイヤーだ」

“イヤイヤイヤ、スレイヤーも何もすでに死んでるじゃないですか。それに俺、臭いがきついのはちょっと・・・”

 

そう言い鼻を抑えるブー太郎に、「この勇者様は我が儘だな~」と呆れ顔を向ける理不尽。

 

「大福先生、緑先生、黄色先生、お聞きの通り勇者様があちらのドラゴンゾンビの臭いがダメなんだそうです。

申し訳ないんですけど、腐ったお肉をみんな食べちゃってもらえます?」

“““!?”””

ケビンから掛けられた声に、キメラをミンチにして遊んでいたマルセル村の守護獣たちが一斉に顔を上げる。

ドラゴンゾンビの腐肉の踊り食い、それってなんてサプライズ?

最強生物の塒でドラゴンの脱皮皮の旨さに目覚めた三匹にとって、それは豪華A5ランク赤身和牛食べ放題と変わらない最高のお誘いであった。

 

“GiGAAA“ポヨンポヨンポヨン♪バグンッ”・・・!?”

瞬時に接近したスライムの大福が飛び上がるや、その身体を巨大化させドラゴンゾンビの頭部を包み込む。

 

““クワックワッキュア~~~!!””

二体の地這い龍が左右の足に喰らい付き、満面の笑みで“食事”を始める。

最下層魔物であるスライムとビッグワームにとって腐肉とは熟成肉と同意義。濃厚な闇属性魔力がたっぷりと染み込んだビンテージ物の高級食材ドラゴンゾンビは、まさに時間が作り出した芸術。

 

“ポヨンポヨンポヨンポヨン♪”

““クワックワックワ~~~~~♪””

“バタバタバタバタ!?”

 

三体の喜びの叫びが闘技場内に轟く中、ドラゴンゾンビの尻尾が戸惑いと恐怖でバタバタと暴れまわる。

 

―三十分後―

 

“ポヨンポヨンポヨンポヨン♪”

““クワックワックワ~~~~~♪””

白く美しい姿、臭いの落ちた身体、その巨大な骨格が嘗ての栄光を物語るように艶やかに輝く。

 

“シクシクシクシク”

「ほら、勇者ブー太郎、これなら臭くないぞ?」

“イヤイヤイヤ、俺にアレを討てと?完全に事後じゃないですか、身を縮めて泣いてるじゃないですか。

無理無理無理無理、俺の心が耐えられませんての”

 

何やら闘技場の地面にのの字を書いていじける骨格標本に、同情の気持ちを向ける勇者ブー太郎。

 

「じゃあアレどうするの、このまま放置?それも酷くね?これってブー太郎先生の為にやったんよ?」

そう言いジト目を向けるかのような仕草を見せるケビンに、“ウッ”と身を引くブー太郎。

 

“わ、分かりましたよ。俺が面倒を見ればいいんでしょう、俺が”

「お~、流石ブー太郎、男前~。そんな君にはこの従魔の指輪を進呈しよう。ブー太郎は以前入った事があるから分かると思うけど、三体まで入れる事が出来るからね♪」

そう言い楽し気に指輪を渡すケビンに、“この理不尽め、透かさず逃げ道を潰しに来る!”と顔をしかめるブー太郎。

 

“えっと、ドラゴンゾンビ、今は骨だけだからスケルトンドラゴンかな?

良かったら俺のところに来るか?俺の所なら骨のお前でものんびり生活出来ると思うぞ?”

 

ブー太郎の呼び掛けに、“本当?こんな私でもいいの?”といった顔を向ける骨格標本。

 

“あぁ、本当だとも。でもあれか、グラスウルフ部隊がお前の事を齧っちゃうかも”

“パタパタパタ”

“それくらい平気~♪”とばかりに嬉し気に尻尾を振る骨格標本。その度に地面に砂埃が立ち(のぼ)る。

 

“よし、じゃあ暫く従魔の指輪の中に入っていてくれ。<ホーム>”

ブー太郎の左手人差し指に嵌められた武骨な指輪から光が放たれる。その光に当てられたスケルトンドラゴンは、光の粒子となって指輪の中に吸い込まれていくのでした。

 

「さて、それじゃいよいよ魔王城の地上部分に侵入です。勇者ブー太郎と魔王四天王との戦い、ク~ッ、燃える!!」

“イヤイヤイヤ、ケビンさん、ここって魔王城じゃないですから、確かに妖しい城ですけど、秘密組織の研究所ですから”

陽気なおしゃべりに興じながら上層への階段を上って行く強者とナニカ。

 

共にあった異形の者たちはこの闘技場で戯れにキメラと戦わされて儚く消えて行った。ある者は腕を切り裂かれ、ある者は足をかみ砕かれ。生きながらにして内臓を引き抜かれ、頭部を踏み抜かれた者もいた。

地獄とはこうしたものかと思われるような日常、自分たちが生き残ったのは運が良かったのか悪かったのか。

だがそんな現実も、目の前のナニカたちにとっては、些事に過ぎないのだと思い知らされた。

自分たちはこれからどうなってしまうのか。言いようの知れない恐怖が異形たちの心を強く締め付けるのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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