転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第407話 辺境の騎士団、立ち上がる

「ケイト、行くぞ?」

「ん。来るといい」

雲が流れる、草木が揺れる、風がケイトの髪を靡かせる。

冬の草原に佇む二つの人影。彼らは互いに頷くと、息を大きく吐きながら戦いの構えを取る。

 

「ラビット格闘術奥伝、ケビン・ドラゴンロード、お相手致す」

“バッ”

大地が爆ぜる、瞬間的に姿を消したケビンは瞬きの間に肉薄するや、低空からの足薙ぎを仕掛ける。

 

“ガキンッ”

だがその動きは読んでいたとばかりに、ケイトの持つ長杖がケビンの蹴りをブロックする。

 

「フンッ」

そしてそのまま足を払う様にして吹き飛ばすケイト。ケビンは空中で一回転しながら地面に着地し、流れるような動きで後ろ回し蹴りを飛ばす。

 

“ガキンッ、ダンダンダンダンダンダンダンダン”

激しい蹴りと長杖との打ち合い、呼吸をする暇なく続くそれは次第に周囲の地面を抉り、大気を揺さぶって行く。

 

“ブオンッ”

ケイトにより振り下ろされた一撃、全身に覇気と魔力を纏った彼女から繰り出されるそれは、大地を砕く神の鉄槌!

 

「ハァ~ッ、<地龍天昇脚>!!」

だがしかし、ケビンはそんなケイトの懐に敢えて飛び込み、ゼロ距離からの渾身の蹴り上げを彼女の顎目掛け撃ち放った。

 

“ドゴーーーーン”

肉体と肉体とがぶつかり合ったとは思えないほどの高質量同士の衝突音が冬の草原に響く。ケビンの蹴り上げにより十メート以上も吹き飛ばされたケイトは“ドサッ”という音と共に草原に叩き付けられるのであった。

 

「空って、こんなに青かったんだ」

ケイトは虚ろな瞳をしながらボツリと呟く。

天に向かいゆっくりと伸ばされた手、それは何かを求めるかのようにフラフラと宙を彷徨う。

 

“パシッ”

「お~い、ケイト~、大丈夫か~。と言うかさっさと起きろ」

ケビンは掴んだ手に力を籠め、大地に仰向けに寝転ぶケイトを引き起こす。

 

「・・・ここは優しい言葉を掛けながら抱き起す場面。“お前、結構やるじゃないか。気に入ったよ”でも可」

「なんじゃそりゃ。って言うかどこの王子様だそれは」

 

「ベティーに借りた小説。そして二人の恋心は燃え上がって行く」

立ち上がり際に早速のボケを挟んで来るケイトさん、本日も絶好調の様です。

で、こんな寒空の草原で何をしているかと申しますと、“エミリーちゃんの拳から生き残れ、バルカン帝国の兵器なんか鼻くそだ”訓練の最終試験でございます。簡単に言えばエミリーちゃんにぶん殴られて「いい拳ね、がんばりなさい」って言えれば合格。

マルコお爺さんが「俺、衣装担当でよかった」って呟いちゃうくらいヤバい試験でした。

トーマスおじさん五回くらい吹っ飛ばされてたよな~、合格した時涙流して喜んでたもんな~、マリアおばさんに「よく頑張ったわね」って慰められてたもんな~。

 

そんでもってケイトさんは訓練参加が遅くなったんで、俺が付きっきりで特訓をですね。とは言ってもあっという間に<覇魔混合>も<魔力循環>も身に付けちゃったんですけどね。

この子マジ優秀、って言うか天才。教えたことドンドン吸収しちゃうんだもん、鬼神ヘンリーと組み手が出来るって頭おかしいレベルだからね?

あとお父様、さり気に「うん、これならいい嫁になれる。息子をよろしく」とか言うのやめて?ケイトのテンションが爆上がりして被害がこっちに来るから。

 

「ケビン、お父様のお許しが出た。子供は何人作る?」ってケイト落ち着け、旅立ちの儀まで待て!アナさんもどさくさに紛れて参加しない!!

 

まぁそんなこんなで祭りの準備は着実に進んで行ったのでございます。

 

――――――――――――

 

アルバート子爵家仮本邸、その前に広がる村の健康広場ではマルセル村の村人たちが集まり、壇上に上がる者の言葉に耳を傾けていた。

 

「え~、お集まりの皆様、マルセル村村人強化訓練(エミリーちゃんの拳から以下略)に御参加いただきありがとうございます。

皆さんは各地で辛い現実に全てを奪われ、命からがらマルセル村に辿り着いた人々です。人の悪意、欲の恐ろしさを心底理解させられて来た者たちです。

だからこそ、俺は皆さんにこれまでの技術を教えて来た。皆さんならこの便利で身を守ってくれる力を正しく使ってくれると確信しているからです。

 

人は易きに流されます。強大な力を手に入れた者はその力に振り回され多くの人を傷付け、自らも破滅の道へと進みがちです。

台所仕事で使う包丁も簡単に人殺しの道具となり得る、どれだけ素晴らしい力であってもそれを用いる者によって善にも悪にもなり得る。

 

簡単な実例を示しましょう。皆さんは光属性の初級魔法<クリーン>と言うものをご存じでしょうか?

以前村祭りで賢者イザベル様が、妊婦の皆さんの無事な出産を祈ってお掛けくださったのを覚えていらっしゃる方も多いと思います。

あの時の光景を思い出してください、皆さんの知っている<クリーン>と賢者イザベルの<クリーン>、まるで別ものの様だったと思いませんか?

賢者イザベルは理解度と熟練度の差と仰っていましたが、初級魔法の<クリーン>一つとってもその使用者次第で全く違った効果を示す事が出来る。

 

<クリーン>の魔法は使用者が不要物である、汚れやごみであると強く認識したものを分解処理する魔法。であれば不要と認識さえすれば魔物でさえも消し去ることが出来るのでは?

実際は膨大な魔力を必要とするのであまり現実的ではないんですが、理論上は可能という事になるんです。

では対象が人だったら?

全ての力は使い様であるという事がご理解いただけたと思います」

 

草原に集まった村人たちは、皆して自身の手を見詰め、その身に宿した力の恐ろしさと責任について自身に問い掛ける。

力とは無暗に振るうものではない、持ち得る者により悪気なく振るわれたそれが、人の人生を狂わせ多くの者を苦しめる。その恐ろしさをなによりも自身の体験が教えてくれるが故に。

 

「ですが勘違いしないでください、力はあくまで力、足が速い、背が大きいといった事と何も変わらない。足が速いからと言って手紙の配達員にならなければいけないなどと言う事はないし、背が高いからと言って冒険者にならなければならないという訳ではないんです。

権力者は言います、「その力は人々の為、多くの者を守る為に振るわなければならない」と。

ふざけるんじゃないって話です。力を手に入れた者がそうした志のある者ならいい、そうでないのなら強要するなって話です。

 

彼らは狡猾です、言葉巧みに人を使う、責任や義務、使命や矜持と言った言葉が大好きです。このマルセル村を作ってしまった時点でそんなものは薄っぺらな戯言だという事に気付きもしない。

 

今度の祭りが終わった時、マルセル村は今まで以上に多くの者から注目されるでしょう。多くの者がその力を求め、すがり、泣きつき、恫喝し、酷い奴だ、自分勝手だ、人でなしだと罵るでしょう。

ですが気にしてはいけません。その全てはただの戯言、自分のことは自分でやれって話です。

(あまね)く女神様が見守るこの世界で、一人の人間や一つの集団が背負わなければならない使命など存在しないのですから」

 

村人たちの前に立つ青年ケビンはそこまで語ると、村人一人一人の顔に目を向ける。そこには自身の体験を思い出し、今の話を咀嚼しようとする村人たちの姿。ただ言われた言葉を鵜吞みにするのではなく、考え、理解し、その上で自分なりの答えを導きだそうとする“自らの人生を生きる”人々の姿。

 

“あぁ、マルセル村の人達は本当に素晴らしい。この人達なら決して誤った道に進む事など無いだろう”

マイベストプレイス、マルセル村。

ケビンはマルセル村の村人として生まれた事、この心優しき村人たちの一員になれた事を、心の底から誇りに思うのでした。

 

「それではこれより今回の祭りの衣装をお配りします。予めそれぞれの寸法は測らせていただいてるので問題はないと思いますが、実際に着ていただいて動きを確かめた上で調整を行います。

アルバート子爵様の御屋敷の方に準備させていただいておりますので、メイド様方の指示に従って衣装合わせをお願いします」

 

ケビンがそう言い顔を向けた先には複数のメイドと使用人。

 

「男性の皆様はこちらにお願いしま~す。アルバート子爵家騎士団の方々は後程となりますのでこの場でお待ちくださ~い」

「女性の皆様はこちらで~す。順次対応いたしますので順番にお並び下さ~い」

村人たちはいよいよ始まる祭りの予感に身震いを覚えつつ、それぞれの“衣装”に着替えて行くのだった。

 

 

「おぉ~、皆さんよくお似合いですよ。領都や王都の騎士団と比べても決して見劣りしない素晴らしい姿です」

 

健康広場に整列した騎士姿の村人二十一名、そしてその前に並ぶ六名のアルバート子爵家騎士団の騎士たち。

統一された紺色の鎧兜に身を包む姿は、子爵家騎士団として十分誇れる戦士たちの姿であった。

 

“ガチャガチャガチャ”

戦士たちは一斉に片膝を突き、目の前の主に頭を垂れる。

 

「我らアルバート子爵家騎士団一同、出撃準備が完了いたしました。

いつでも出発の御命令を」

 

鬼神ヘンリーが、剣鬼ボビーが、執事ザルバが、グルゴが、ギースが、理不尽ケビンが、二十一名の騎兵たちが、主であるドレイク・アルバート子爵の号令を待つ。

 

「うん、皆も分かっていると思うけど今度の戦はこの国の命運をかけた戦いです。決して気負う事はありませんが、十分気を付けて。

そして全員が必ず無事に帰村する様に、これはドレイク・アルバート子爵として命令します!」

 

「「「「ハッ、アルバート子爵閣下の御心のままに」」」」

 

「出立!!」

““““ザッ””””

「だ~、だから勝手に出立しようとしちゃ駄目だから、大体皆さん帯剣もしてないじゃないですか!!

それでも勝ってしまいそうなところが更に質が悪いんですが。

それに今回の主役は皆さんじゃなくってロナウド様をはじめとした御三方ですからね?地獄の修行を共にした仲間を忘れてませんか?」

「「「「ハハハハ、嫌だな~、忘れる訳ないじゃないですか~」」」」

 

そう言い顔を逸らす村人一同。

アルバート子爵は思う、“この人達気分が高揚して絶対に三人のこと忘れていたよね!?”と。

 

「え~、出発は英雄候補生の皆さんの衣装が出来上がってからとなります。とは言っても明日取りに行く予定なので明後日には出発なんですが。

それまで皆さんはその衣装を着込んだ状態での乗馬訓練を行っておいてください。

本番まで時間がありません、頑張って行きましょう」

「「「「オォ~~~~!!」」」」

ケビンの掛け声に腕を上げ応えるノリのいい村人たち。

 

「そうだ、皆さんにその衣装の性能について説明していませんでしたね。

トーマスおじさん、エミリーちゃん、ちょっとこっちに来てくれますか?」

ケビンの言葉に“何の用だ?”といった様子で前に出るトーマスとエミリー。

 

「それじゃトーマスおじさんはこちらに、エミリーちゃんはこちらに立ってください。

で、エミリーちゃん、トーマスさんはエミリーちゃんにとってどんな人ですか?その思いを拳に込めて、お義父さんに伝えてあげてください。<影縛り>」

「ちょっ、ケビン、ちょっとまて!!がっ、うっ、動けないだと!!

エ、エミリーちゃん、落ち着いておじさんの話を聞こうか!!」

 

慌てて逃げ出そうとするも、何故か身動きが出来なくなり慌てるトーマス。

 

「トーマスさんは私にとって・・・。トーマスさんはジェイク君のお父様、つまりは私にとってのお義父様。

この想いを拳に込めて・・・。

お義父様、これからもエミリーとジェイク君とのこと、よろしくお願いしまーす!!」

“ドゴーーーーン”

 

「うわ~~~~~~~!!」

激しい衝撃音と共にまるでギャグマンガの様に吹き飛ぶトーマス、そして。

“グシャッ”

そのまま上空から地面に叩き付けられるのでした。

 

「「「「・・・・」」」」

唖然とする村人たち、何故かやり切った感に浸るエミリー。

 

そんな何とも言えない空気の中。

“ガバッ”

「手前、ケビンふざけんなよ、死ぬかと思ったじゃねーか、この理不尽が~!!」

“ドカーーン”

飛び上がる様に立ち上がり、全速力で近付いた勢いそのままケビンの顔面目掛け拳を振り抜いたトーマス。その拳を咄嗟に回避するかのように兜の側面で受け止めトーマス同様に吹き飛ぶケビン。

 

“ヒュ~クルンッ、スタン”

だがケビンは自身の身を(ひるがえ)し、優雅に着地を決める。

 

「はい、ご覧いただいた通り、トーマスさんはエミリーちゃんにぶん殴られてもピンピンしている上にこんなに元気、これがこの衣装の効果ですね。鎧もそうですが、兜にも耐衝撃の魔方陣が組み込まれています。

トーマスさん、今どこか痛かったりしますか?」

 

ケビンからの問い掛けに、初めて自身の身体のどこにも違和感がない事に気が付くトーマス。

 

「はい、これでもう安心ですね。ですが戦場では何が起こるのか分かりません、皆さん十分気を付けて祭りを楽しみましょう~♪」

 

““““こんな高性能の防具があるんなら、あの地獄の様な訓練はいらなかったんじゃないの?

だったらあの訓練は一体何だったのよ~~~、この理不尽が~~~~~!!””””

 

常に常識の斜め上を暴走する村人ケビン、彼の過剰なまでのやさしさに、力ない村人たちはただただ翻弄されるだけなのでありました。

 




本日一話目です。
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