転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第409話 聖者の行進

“パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ”

寒空の草原に伸びる一本の街道。その街道を一騎の騎馬が疾走する。

 

「止まられよ!!ここはグロリア辺境伯領エルセルの街である。貴殿の所属と目的を告げられたし!」

「伝令!我はアルバート子爵家騎士ケビン・ドラゴンロード、我は先触れである!

これより後、北西部貴族連合の代表としてパトリシア・アルバート嬢が、南西部貴族連合の代表としてロナウド・テレンザ様が、旧ダイソン侯爵家の正統としてアイリス・ダイソン嬢が、我らアルバート子爵家騎士団を率い此度の戦を終結させるべく南西部アスターナの戦場に赴く。

我らの通過を許可されたし!

我らがこの戦を終結させる!道を開けられよ!」

 

寒風吹きすさぶ草原の街道から現れたアルバート子爵家の騎士の熱い宣言。全身から覇気を漂わせたその者の言葉は、街門を守る門兵のみならず、周辺の住民、街の大通りを歩く人々に至るまで、多くの人々の身体にゾクゾクとした熱い何かを走らせる。

 

「開門だ!伝令を走らせろ!

南街門を開放し、アルバート子爵家の方々をお通しするんだ!

大通りを開けよ、これは命令だ!

戦士たちの進行を邪魔してはならない!」

「「「ハッ、門兵長!!」」」

 

“ギギギギギギギギッ”

門兵たちが走り出す、草原の街道に面した街門が、音を立て全開に開かれる。

 

“ドコドッ、ドコドッ、ドコドッ、ドコドッ”

草原に複数の騎馬が走る蹄の音が響く。

 

“ドコドッ、ドコドッ、ドコドッ、ドコドッ”

それは次第に大きくなり、人々の鼓動を高鳴らせる。

 

“ブウォーッ”

途端周囲を包み込む圧倒的な強者の覇気、それは殺気を伴う恐怖ではなく、力強さを含んだ頼もしくも畏れ多い力。

 

「全体、速度を落とせ!これより街を通過する、住民に注意し並足にて進行せよ」

「「「「ハッ!」」」」

 

一際大きな巨馬に跨った、大きな二本の角の付いたヘルムを被りし巨漢が号令を発する。

鬼神ヘンリー、その身から溢れる覇気は、絶対強者の風格を否が応にも分からせる。

 

「門兵殿、騒がせてすまぬの。直ぐにでも通過する故許されよ」

剣鬼ボビー、“下町の剣聖”として多くの民衆から慕われる生きる伝説。その穏やかな物言いからは想像出来ない程の強さは、言うに及ばない。

 

そんな彼らを従える三人の若者。

“バサッ”

白きマントを靡かせる令嬢、グロリア辺境伯家の血筋にしてその紋章を背負いし者、パトリシア・アルバート。

 

“ボッ”

青きマントを翻す貴人、テレンザ侯爵家の三男であり南西部貴族連合の意思を託されし者、ロナウド・テレンザ。

 

“ババッ”

深紅のマントに刻まれしは大鷲、嘗てバルカン帝国の脅威から祖国を守ると誓った一族が代々受け継ぎし決意の象徴。

旧ダイソン侯爵家の正統にして、全てを終わらせし者、アイリス・ダイソン。

 

若者たちは進む、己の意思と使命を胸に。

混乱し暗雲立ち込めるオーランド王国に、日の光を取り戻す為に。

 

「オーランド王国、万歳~!!三英雄、万歳~!!」

「オーランド王国、万歳~!!我らが希望、万歳~!!」

誰とも言わず挙げられた叫び、その声は次第に大きなうねりとなって街を包み込む。

 

「「「「オーランド王国、万歳~!!三英雄、万歳~!!」」」」

「「「「オーランド王国、万歳~!!我らが希望、万歳~!!」」」」

人々は暗く沈んだ顔を上げ、彼らの行進を見守る。その頼もしくも凛々しい姿を目に焼き付ける様に。

 

「「「「オーランド王国、万歳~!!三英雄、万歳~!!」」」」

「「「「オーランド王国、万歳~!!我らが希望、万歳~!!」」」」

赤・青・白の御旗が風に靡く。三人の若者と彼らに率いられた濃紺の鎧兜を身にまとった騎兵の一団。

この戦は終わる、オーランド王国は救われる。

人々の心に希望の光が宿る。

 

“聖者の行進”、のちに吟遊詩人によって語られる三勢力の三英雄たちによる行軍は、北の大地、グロリア辺境伯領北西部地域から始まったのであった。

 

―――――――――――

 

“ドコドッ、ドコドッ、ドコドッ、ドコドッ”

冬の街道を進む騎馬の集団、彼らは目的地である戦場を目指し、力の限り駆け抜けていく。

冬の街道は人が少ない。それは単純に流通させるだけの食糧物資が滞っているという意味もあるが、寒さの中での移動が人々にとって大きな障害になっていると言うのが一番の理由であろう。

その事はこの行軍にとっては幸いとなっていた。

街道を行く人々を気にすることなく進む事が出来るという事は、その分進行速度を上げる事に繋がるのだから。

 

「お疲れ様です、本日の移動はここまでとなります。

この時期、日が落ちるのは早いですから、直ぐにでも暗くなってしまいます。

本日はこの林脇の草原での野営となります」

 

三色の長旗を掲げた旗竿を背中に括り付け、集団の先導を行っていたケビンが、本日の移動の終了を知らせる。

周囲はまだ明るいものの、先程ケビンが告げたように油断すれば直ぐにでも暗くなってしまうだろう。

テントの設営、薪拾い、夕食の準備、野営において暗くなる前にしなければならない事は多い。

冬の厳しさを誰よりもよく知るマルセル村の者たちにとって、ケビンの決定は当たり前の事であり、文句を言う者など一人としていないのであった。

 

「それじゃまず一番頑張ってくれたお馬さん方の設備から出しちゃいますね」

ケビンはそう言うや収納の腕輪から水飲み用に横長にくり抜かれた丸太の器を取り出した。

 

「はい、お水をドバドバ~っと。魔力マシマシにしてあるから美味しいと思うよ。やっぱり疲れた身体には全身に染みわたる魔力マシマシウォーターだよね。

飼葉は別に出しておくから適当に摘まんでおいて。厩舎も出しておくから適当に休んでおいて。<影収納:範囲指定>」

 

ケビンはそう言うと、草原の一部を影空間に収納し、そこに厩舎を出現させるのであった。

 

「そんでお次は皆さんの分ね。<影収納:範囲指定>」

再び草原に黒い影が広がる。すると影に覆われた範囲の枯れ草が消え、影の中から二棟の屋敷が姿を現した。

 

「皆さま、寒空の中の行軍、お疲れ様でございました。お食事の準備が整ってございます、パトリシアお嬢様、ロナウド様、アイリス様、アルバート子爵家騎士団の方々はこちらの屋敷に。

他の方々はメイドの指示に従いお隣の屋敷に移動をお願いします」

そこには整列し綺麗なお辞儀を見せるメイドと使用人の姿。

 

「村の方々はこちらで~す。何かありましたらこの十六夜に一言お申し付け下さ~い」

メイドの一人が声を上げ村人たちを誘導する。

 

「月影、残月、準備ご苦労。それじゃ皆さん行きましょうか?

部屋割りについては月影たちに聞いてください」

そう言い背中の旗竿を収納の腕輪に仕舞うと、意気揚々と屋敷に入って行くケビン。

 

““““野営って一体・・・””””

村人たちの心が一つになったのは、言うまでもないのであった。

 

 

“カチャッ”

差し出されたティーカップからは温かな湯気が立ち上る。

口に含んで味わったそれは、カモネールの風味。優しい味わいが混乱した心を鎮めるのに丁度いい。

一度各人の寝室に案内された彼らは、そこでいつの間にか用意されていた自身にぴったりの普段着に着替え、食堂へと集まっていた。

 

“まさか遠征初日の夜に鎧兜を脱ぐことになるとは・・・”

他領に進軍する際は常に危険が伴う。その為食事や就寝時に兜を脱ぐことはあっても、鎧を脱ぐ事などありえない。

それは自ら殺してくれと言っているも同義、いくら魔物の活動が少ない冬場であろうとも、野盗や敵の夜襲に備えないなど愚の骨頂と言わざるを得ない。

 

「え~、本日はお疲れさまでした。本当は全員で同じ屋敷に寝泊まりした方が士気も上がるし、結束力も高まるからいいんですけどね、寝室の問題がありまして。

流石にこの屋敷はレンドールの別荘地から購入したものですから、それほど大人数で逗留する事を前提とされていないんですよ。

アルバート子爵家仮本邸はその中でも広く大人数で住む事の出来る物を選んだんですが、あれほどの建物の売り出しは他になかったもので」

 

そう言い頬を掻くケビン。

““““そうじゃない、確かにみんなで寝泊まりできないのは残念だけど、問題はそこじゃない””””

相変わらず常識の斜め上を暴走するケビンに頭を抱える一同。

 

「それで今後の話となります。村の皆さんには後程俺から知らせておきますが、基本的な意思決定はこの場で決めておいた方がいいかと」

そう言いその場に集まる三英雄とアルバート子爵家騎士団の面々に目を向けるケビン。

 

「基本的な移動速度は今日くらいの速さでいいと思います。大体早馬より少し早いくらいですかね、馬車移動の二倍の速度と言ったところでしょうか。

馬たちはもっと早くても全然問題ないと言っていましたが、あまり早過ぎると私たちの印象が民衆に残りづらくなりますから。

街道沿いの村や街を抜ける際は並足で、三英雄の印象を確り残す様に殺気を抜いた覇気を垂れ流すように心掛けてください。

エルセルの住民たちもそうでしたが、畏怖の念を持って見詰められるくらいの印象を持たれなければなりません。

 

これが盗賊なんかであれば恐怖に染め上げてもいいんですけど、グロリア辺境伯領の混乱は大分落ち着いて来てるんですかね?

今のところそれらしき存在の気配は察知出来ていません。

 

ですがここから先、ダイソン公国に近付くに従い状況は悪化しているものと思われます。油断なく行動していきましょう。

それでは皆さんお疲れさまでした、この後食事となりますのでそのままお待ちください。

食後身体を拭きたい方は月影か残月にお声掛けください、直ぐにご用意いたしますので」

 

ケビンの言葉に美しい礼をするメイドと女性執事。

 

「なぁケビン、なんで彼女は執事服を着てるんだ?似合っているとは思うが、これまでそうした者を見た事が無いんでな。

・・・お前の趣味か?」

口を開いたのは鬼神と畏れられる偉丈夫。だがその声音は父親が息子に向けるちょっとした会話。

 

「ってお父様、違いますから、残月の格好は彼女の希望ですから。素早く行動するには足に絡まるスカートよりもズボンの方がいいと、主に仕える者として執事服は外せないとのことでしたよ?俺の性癖とかじゃないですから。

 

うちは基本自由ですから、男性がメイド服を着ていようが似あっていれば止めはしませんよ?

だからパトリシアお嬢様はそんな汚物を見るような目で俺の事を見ない。マジで違うから、って言うか気にするところがそこ?順応力が高いな、おい」

 

ケビンがケビンするのはいつもの事、普通なら口を開けぽかんとするような現象も、ケビンが原因なら仕方がない。

それよりも息子の性癖の事の方が心配になってしまうのは、父親としては致し方のない事なのだろう。

 

「あっ、折角だから聞いておいてもいいか?アナさんとケイトちゃんの事だ。

お前、結局どうするつもりなんだ?」

 

・・・現在軍事行動の最中である三英雄とアルバート子爵家騎士団の面々、この様な話題を話すこと自体場違いも甚だしい。だがその内容がケビンの女性問題となれば話は別である。

この場には当事者に近しいヘンリーとザルバがいるのだ、父親として気にならない訳がない。

 

「えっ、こんなところで聞くんすか?別に家に帰ってからでもよくないっすか?これってアレっすか、勇者物語に出て来た“俺、この戦いが終わったら村に帰って幼馴染と一緒になるんだ”って言葉を残して戦死しちゃう兵士のお話ですか?

俺この後死んじゃうんですか?」

今回のお祭りとは全く関係のない話の展開に慌てるケビン。だが普段恋バナに縁の薄いパトリシアお嬢様にアイリス嬢、赤ん坊の世話で忙しいグルゴやギース、煮え湯を飲まされ続けているボビー師匠が追及の手を緩める事などありえない。

 

「いや、そりゃまぁちゃんと考えてますよ?あれだけあからさまに思いを寄せてくれ、尚且つ俺の事を理解してくれる女性をないがしろにするほど非情じゃないですから。

昔からずっと言ってますが、俺は生涯一村人としてマルセル村でのんびり暮らせれば割と満足って人間ですから、大きな夢や野望なんてないんですよ。

ただ旨いお肉や美味しいご飯は食べたいですから、生活改善の為なら妥協はしませんけどね。

でも基本は村人なんです、のんびりゴロゴロ出来れば最高とか考えてる人間なんです。

だから愛とか恋とか言われても正直よく分かんないんですよね。

 

傍にいて落ち着く、楽しい気持ちになれる。

夫婦なんてその程度で十分だと思うんですよ。エミリーちゃんみたいに“好き好き大好き”みたいなのや、フィリーちゃんやディアさんみたいに“あなたの傍で共に生きましょう”といった熱い思いを否定はしませんけど、それこそ人それぞれかと。

 

アナさんは結構な事情で隠れ住んでいた人ですし、ケイトは其れこそ一度は心を失っていたような女の子です。

彼女たちが安寧を取り戻す切っ掛けに俺が関わっていた、ただそれだけなんですけどね、こんな俺のどこがいいんだか。

 

ただまぁ、所帯を持つんですから真剣に向き合いますよ?俺にはそのいいお手本であるヘンリーお父さんとメアリーお母さんがいますから。

ザルバさん、聞いての通り俺はこんな男です。

“心の底からケイトを愛し生涯を賭して幸せにし続けます”といった事は言えない。人の思いを推し量れるほど大人でもありませんから。

ただケイトは其れでもいいと言ってくれる。俺はそんな彼女の想いに応えたい。

ケイトとの仲をお許しいただけますか?」

 

ケビンの言葉に目頭を押さえるザルバ。

“アマンダ、私たちの娘は、ケイトリアルは誠実な男性と巡り合う事が出来たよ”

今は亡き妻に心の中で語り掛ける。

 

「あぁ、ケビン君、娘の事、よろしく頼む」

「ハハハ、面倒を見てもらうのはこっちの方ですよ。俺はどうも常識が抜けたところがあるらしいですから。

・・・いや、ケイトも相当常識が抜けてるぞ。お互い支え合っていきたいと思います」

そう言い背後に控える月影に目配せするケビン。

月影は“かしこまりました、委細お任せください”とばかりに礼をする。

 

一人の青年の決心。その人間らしくも気負わぬ姿勢は、その場の者たちにこういう形もあるのかと新たな価値観として受け止められるのであった。

 




本日一話目です。
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