転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第41話 村人転生者、スルベ村にビッグワーム農法を伝える

スルベ村村長宅前では冬の寒さにも負けず、二人の中年が口喧嘩を繰り広げている。

 

「大体お前の村は隣だろうが、なんで俺の村で偉そうに講釈垂れてるんだ、とっとと帰れどん詰まり村長!」

「貴様に言われなくても帰るわ、ドレイク村長をお迎えしたらな!こんな中途半端な場所で足止めを食らわせてはお可哀そうだ、すぐにお連れして我が村で歓待して差し上げねばな、寒村村長」

「なんだと貴様、言わせておけば」

「おう、やるって言うのか?まったく口で勝てないからってすぐ手を出そうなどと、これだから蛮族は始末に負えない」

「ムカ~!!」

 

娯楽の少ない冬場の寒村、暇を持て余した村人たちが何が起きたのかと集まりだす。中には二人の戦いを囃し立て余計に焚き付ける村人も。村長同士の争いはもはやお約束、またかと呆れつつも一つの見世物として成立するほどにはその言葉のレパートリーは豊富であった。所謂喧嘩漫才と言う奴である。

 

「あ~、村長夫人、ちょっと(かまど)をお借りしてもよろしいでしょうか?ドレイク村長代理、荷馬車から乾燥野菜と干し肉、それに鍋と薪を運ぶのを手伝ってもらえますか?」

少年ケビンは学習出来る男である。前回ヨーク村で即席の鍋とテーブル、椀にスプーンを周辺の土にウォーターを掛け捏ねて粘土を作り魔力の偽ボールを作る要領で形状変化させ生活魔法のブロックで固定化させるという荒業で作り上げたことを、帰りの馬車の上でドレイク村長代理に散々突っ込まれた経験を生かし事前に準備していたのである。無論すべてブロックの魔法で固定化したお手製、すっかり陶器作りの腕を上げたケビン少年なのであった。

 

外ではいまだ口喧嘩を続けるおじさんとそれを楽しむ村人、台所ではケビン少年の即席お料理教室が始まっていた。

「ドレイク村長代理、今回はこの二つのスープを食べ比べして貰おうと思います。お話の方はお任せしますんでこれを使って上手い事あの二人を丸め込んでください」

身も蓋もないケビン少年の言い回しに苦笑いをするドレイク村長代理、だが完成したスープに口を付けた瞬間その笑みは悪い大人のそれに代わる。

 

「それじゃまず野菜スープの方から行こうか。ケビン君はタイミングを見計らってもう一つの方もお願いするよ」

ドレイク村長代理のビッグワーム農法のプレゼンは、この暖かい野菜スープから始まるのであった。

 

 

“ガチャッ”

開かれた村長宅の玄関扉、中から現れたのは二つの椀とスプーンをお盆に乗せたドレイク村長代理。玄関前ではいまだヒートアップする二つの村の村長、だが周囲を囲む村人の視線はその何とも美味しそうな匂いを漂わせ温かそうな湯気を立てる二つの椀に集中する。

 

「マルス村長、セージ村長、お二人ともお待たせいたしました。こちらが(くだん)のビッグワーム農法で栽培した野菜を冬の寒風でよくよく乾燥させて作った、我が村自慢の乾燥野菜です。先ずはその出来の方をご確認いただきたく、岩塩のみの味付けで野菜スープに致しました、是非ご賞味ください」

 

ドレイク村長代理から差し出されたのは一杯の野菜スープであった。普段食べ慣れているはずのそれから漂うのは、胃袋を激しく刺激するえもいわれぬ甘い香り。

“ゴクリ”

自然と飲み込まれる生唾、先ほどまで口喧嘩を繰り広げていた二人の村長は互いの顔を見合わせ、どちらからともなく野菜スープの椀に手を伸ばす。

外の寒気に晒されすっかり冷え切った身体にゆっくりと染み込む温かなスープ、その優しい味わいが彼らの表情を笑顔に変える。デーコンがカブラがマッシュが、その全てが甘く柔らかく自身を幸せな気持ちにしてくれる。

 

「如何ですか?これが領都で評判のビッグワーム農法で作られたマルセル村の野菜たちです。その味わい、実感していただけましたか?お集りの皆さんの分もご用意させて頂きますので、どうぞ列になってお並び下さい」

 

散々鼻腔と胃袋を刺激された村人の動きは早かった。まるで訓練された兵士の様に誰に言われるでもなく綺麗に一列に並ぶ村人。彼らは知っているのだ、ここは争う場面ではないと言う事を、下手にドレイク村長代理の機嫌を損ねては美味しい野菜スープを食べ逃してしまうと言う事を。

ドレイク村長代理の指示の下次々と運ばれる野菜スープ。その量はお腹一杯になるには全然足りないモノではあるが、その味わい、その優しさ、全てが心と身体を満たしてくれるものであった。

 

「皆さん、我がマルセル村の野菜の味は如何でしたでしょうか?お間違え無いようにお知らせ致しますが、決して特別な品種のものを御出しした訳ではありません。種はその辺で普通に手に入れる事の出来る一般的なものです。違いはただ一つ、ビッグワーム農法による施肥を行ったかどうか。これは皆さんも簡単に行う事の出来る工夫なのです」

 

ドレイク村長代理の言葉はその暖かいスープと共に全ての村人の中に染み込んで行く。明日の講習会には必ず参加しよう、そしてこの美味しい野菜を作ろう。村人の心が今一つの目標に向かって動き出す。だがそこにドレイク村長代理から新たなる一石が投じられる。

 

「実はご用意したスープはこれだけではないんです」

その場にいた者の目が一斉にドレイク村長代理の下に注がれる、それは先ほどまでいがみ合い口喧嘩を繰り広げていたスルベ村村長マルス・ミルガルとマルガス村村長セージ・マルガスも例外ではなかった。

 

「皆さんにはまずこのビッグワーム農法がどうやって生まれて来たのかについてお聞きいただきたい。元々この農法は冬場の食糧不足をどう生き残るかについて研究していた者から生まれました。

彼が目を付けたのはかつて冒険者をしていた者から聞いた“成り立ての貧乏冒険者はビッグワームの干し肉で飢えをしのぐ”と言う言葉でした。ですが皆さんがご存じかは分かりませんが、ビッグワームの干し肉は癖があり過ぎる、正直臭い。彼はこのビッグワームの肉質をどうにか改善できないものかと日々研究を続け、遂にある答えに辿り着いた。それがこちらにあるビッグワームの干し肉です」

ドレイク村長代理は手に持つビッグワームの干し肉を高らかに掲げ、村人たちにアピールした。

 

「このビッグワーム干し肉の味は村に訪れる行商人にも認められ、今では村の重要な財源にまで成長しています。そしてそのビッグワーム養殖の副産物がビッグワーム農法の肝、ビッグワーム肥料なのです。ご用意したもう一つのスープと言うのはこのビッグワーム肉を使った肉入りスープになります。

ですがやはりビッグワーム肉、忌避感のある者に無理やり食べさせようとは思いません。このビッグワーム農法で野菜の品質が向上し収穫量が大きく上昇する事は、マルセル村ですでに証明されています。ですので忌避感のある方はその野菜を売った利益や育てたビッグワームの干し肉を売った利益でホーンラビットの干し肉を購入すればいい。それくらいの増収は軽く望めるのがこのビッグワーム農法なのですから。

 

では私がなぜこれほど素晴らしい農法をマルセル村で独占せず周辺四箇村に啓蒙して回っているのか、それは私がこの地域周辺五箇村の農業重要地区入りを目指しているからです。

ご存じではない方もおられると思いますがこの農業重要地区に選ばれた場合税金が安くなります、今の三分の二程でしょうか。そしてグロリア辺境伯より領兵が派遣され、監察官様が地区に常駐なさる様になります。街道が整備され新しい試みには辺境伯領より予算が降ります。この地域はグロリア辺境伯領内で最も注目される土地となり、辺境と馬鹿にする者もいなくなります。

私たちはもう最果ての民ではない、グロリア辺境伯領の誇りある先達者となるのです。

ですがその為には冬の餓死者を無くし、生き残らねばなりません。その為のビッグワーム肉、その為のビッグワーム農法なのですから」

 

ドレイク村長代理がそこまで語り終えた時、背後の扉が開き中から一人の少年が椀によそったスープを持って現れた。その椀から漂う香りが辺り一面に広がる、それはもはや暴力、優しい野菜スープによって身も心も温められた村人たちの身体は、すでにスタンバイが出来上がった状態、心の忌避感とは別とばかりに胃袋が訴えかける、“逝っちゃってください、ご主人様!!”と。

 

“ジャリッ”

「俺が頂こう」

村人の一人が一歩前へと歩み出る。

「何言ってんだい、それは私の役目だよ」

別の村人がニヒルな笑みを浮かべ一歩前へ。

「いや、俺が」「いえ、私が」

次々に手を上げる村人たち。

「え~い、何を言っている、ここは村の代表である俺の出番だろうが!ドレイク村長、スルベ村の代表者として私マルス・ミルガルが頂こう、皆も文句はないな」

「「「はい、マルス村長にお任せします!」」」

揃って返事をする村人に気を良くするマルス村長。

そんな中、椀を持って来た少年だけが“こ、これは、懐かしの伝統芸!?こんな辺境の地でお目に掛かれるとは!”と、一人感動に打ち震えるのであった。

 

“フワッ”

椀から立ち昇る香気、それは鼻腔を抜け脳髄に”このスープは極上です!”との情報を届ける。ゆっくりとスプーンを沈め、具の入ったスープを一口。

“!?”

口内で爆発する肉の旨味、それはスープ全体に出汁(だし)として溶け込み、この液体を至高の存在へと押し上げている。野菜の旨味、肉の旨味、その両者の橋渡しをする岩塩の塩味。これはもはや芸術、至高のコラボレーション。この喜びを表現するのに言葉はいらない、己の行動が全てを物語る。村長として、村人を率いるリーダーとして、この美味しさを伝えねば・・・無理!俺は食べるのに忙しいんだ!スルベ村村長マルス・ミルガルは食レポを放棄した、だが彼がスープを食べ始めて最初に発した言葉は、村人全員にこのスープが期待以上のものであることを教える事となった。

「おかわり!!」

 

この後殺到したスルベ村の村民によって、マルス村長のお替りの順番が最後にされたことは言うまでもない。

“食への欲求は権力構造をひっくり返す、大変勉強になりました”

少年ケビンは未だギャーギャー騒ぐマルス村長を見やりながら、この村でのビッグワーム農法の成功を確信するのであった。




本日一話目です。
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