「お頭~、なんか馬が凄い速さでこっちに向かって来ます。
背中に旗竿みたいのを背負ってるって事は、早馬の伝令かなんかじゃないでしょうか?」
「チッ、面倒くせえ。てめーら、撤収だ!街道の丸太を脇の
厄介事は勘弁だからな、しばらく隠れて様子を見る、急げ!!」
内戦に荒れるオーランド王国南西部において、最早安全と呼べる場所は少なくなっていた。村人は近郊の街に身を寄せ、街は厳重に門を閉ざす。
街道を進む商人は多くの冒険者に守られながら、商売を度外視して物資を届ける。
皆が皆生き残るために必死になる中、悪意は村を襲い、命綱と言うべき物資を奪い取ろうと画策する。
物は減り、人々の心は荒廃する。
人々は祈る、一刻でも早く戦争が終わる事を願って。
「は、速い、お頭―!!騎馬です、騎馬が来ます!!」
「んだと?馬鹿野郎!!手前、街道の監視一つまともに出来ねえのか!!
ほら、手前らもちんたらしてんじゃねぇ!!騎士様とやらは俺が誤魔化しておくからとっとと丸太を持って隠れやがれ!!」
“パカラッパカラッパカラッパカラッ、ヒヒ~ン”
「貴様ら!!こんな往来に大勢揃って何をしているかー!!」
響く怒声、それはこの場の全ての者を一喝する。
「へへへっ、すいやせん旦那~。ちょっとごたごたがありやして、直ぐに退きやすんで、今少しお待ちを・・・」
お頭と呼ばれた者が揉み手をしながらケビンにすり寄ろうとした時であった。
「五・六・七、全部で十三人、結構な大所帯だな。まぁいい、眠れ」
“ドサドサドサッ”
突然人の倒れ伏す音が聞こえ、叢が揺れる。
「<周辺感知>、馬は・・・あれは幌馬車か?二台の幌馬車で奪った品を運ぶって感じか?まったくどこの世紀末だよ、今日で二件目だぞ。本当に月影を連れてきて良かったわ~。
<影収納:対象指定>」
“ズブズブズブ”
地面に黒い影が広がる。その場で倒れ伏す人々が、転がる丸太が、離れた林に隠された幌馬車が、それら全てが闇の中に沈んで行く。
「さて、先を急《いそ》ごう。直ぐに本隊が来るからな。
ロシナンテ、飛ばすぞ」
“ブルブルルル”
“ハッ、バカラッ、パカラッパカラッパカラッ”
騎士は走る、背中に括り付けた三色の御旗をはためかせて。
この荒んだ国に、一筋の光明を照らす為に。
救国の使者、三英雄の訪れを知らせる為に。
おい、誤魔化すな?えっと、何の事でしょうか?
ケイトとの事はどうなったのか?
いや、その、まぁ、お約束通りと言いますかなんと言いますか。
例の“お義父さん、娘さんを俺にください!!ふむ、娘の事、よろしく頼む”宣言の翌朝、温かなお布団様の中で微睡に包まれていたんですけどね?
胸の前に本当に暖かい物体がですね。
「おいケイト、こんなところで何をやっている。お前は隣の屋敷で休んでるはずじゃなかったのか?」
「ん、おはよう。でももう少しゆっくり寝よ?」
何か金色の髪の美少女が上目使いで語り掛けて来ましてですね。
・・・ケイトさんや、ここ男部屋。隣にザルバさんと父ヘンリーが寝てらっしゃるんですが?って言うかお二人とも起きてらっしゃりますよね。
ザルバさん、涙流しながら「アマンダ、ケイトリアルは立派な大人になったよ」とか言ってないで娘さんを止めて?
それと“大人になった”って表現は誤解を生むからやめてね、父ヘンリーが目を見開いて驚いてるから、「これが最近の若者って奴か、大胆だな」って違うから。
それと十六夜、「ご主人様のヘタレ、女心が分かってない。戦場に咲く男と女の愛、これぞラブロマンス!!」とか言ってんじゃない!!とっとと仕事に戻れ!!
“ブォッ”
俺が十六夜目掛け、ピンポイントで威圧を掛けると、「ヒッ、すみませんでしたー!!」と言ってダッシュで仕事に戻って行く十六夜。アイツのラブコメ&ラブロマンス好きは最早病気だな、不治の病って怖い。
「ケイトさんや、布団から出て話を聞きなさい」
俺の言葉にもそもそと布団から這い出るケイト。どこぞのラノベみたいに乱れた衣装やら彼シャツ一枚だったら事案発生だが、その辺はケイトが常識人で助かった。
「「・・・・・」」
なんかパパさんズが目を見開いて言葉を失っているんですが、何かあったんだろうか?
ケイトを見る、パパさんズを見る・・・?ケイトと目を合わせ、二人して首を捻る。
「イヤイヤイヤイヤ、ケビン、なんで不思議がってるんだ?って言うかその子誰だ!?」
何か朝からとっても失礼な事を言い始める父ヘンリー。誰だも何も、さっきから言ってるじゃんね~。
窓辺から差し込む朝の日差しに照らされて、美しい金糸が煌めきながらサラリと靡く。透明感のある白い肌、蒼い瞳が視線を惹き付けてやまない。
「えっと、どこをどう見てもケイトですが?ねぇ」
「えぇ、ヘンリーお義父様ったら冗談がお上手です事。
これから戦場に向かう私たちの事を気遣って、和ませようとなさってるんじゃないかしら?」
「あぁ、なるほど。流石歴戦の戦士、鬼神ヘンリーの名は伊達じゃない」
そう言いうんうん納得している俺たちと、眉間を揉む父ヘンリー。そしてその隣には、号泣しながら「アマンダ、ケイトリアルはこんなに立派に成長したよ。若い頃のお前にそっくりな、美しい娘に・・・」と呟くザルバさんがいるのでした。
まぁカオスだったな~。ケイトには周りが混乱するからと言って地味モードに戻ってもらい、天使の声音も封印。父ヘンリーはそこで初めてケイトだと認識するって言うね。
確かに学園に入ってからかなり大人びたからな~。変装してたことは知ってたとしても、昔の死に掛けケイトの印象が強いからか、今のケイトとは結び付かなかったってところなんでしょう。
そんでなんでケイトが俺の布団に潜り込んでいたかといえば、女衆と十六夜たちが女子会で盛り上がっちゃったのが原因と言いますか、「戦場と言えばラブロマンス」という十六夜の謎理論の元、ケイトが唆されたって訳でした。
そんな元気な十六夜と更には、影空間の中で“害獣聖人化計画”を頑張って貰ってるんですけどね。
要は道々で先行捕獲した盗賊どもを影空間に収納、光属性魔力マシマシマシ聖茶をガバガバ飲ませた後地域の平和の為に活動するようにご指導をですね。
放流するときは身ぎれいにして幾ばくかのお金も持たせてあるんで、パッと見元害獣だとは分からない様にしてございます。
後は冒険者なり自警団なりに参加して治安改善に努める様に指導してありますんで、頑張ってくれる事でしょう。
随分前に放流してエルセルの教会に送り込んだ女盗賊も今じゃすっかり更生してるみたいだし、人格まで変わっちゃう光属性魔力マシマシマシ聖茶を飲んだ害獣たちなら、この混乱した世の中を安定に導くために一役買ってくれる事でしょう。
ってな訳で日夜働く十六夜と更には感謝を。君達の献身がオーランド王国南西部地域の平和に繋がっているのだよ。
謝りますから勘弁してください?何を言ってるのかな?俺が怒ってる訳ないじゃないか、俺を怒らせる事が出来たら大したもんだ。
そんな君たちに嬉しいお知らせです、本日三件目、今度はさっきより少ない十名だね、頑張って行こう♪
俺は一度影空間に入って先程の害獣がどうなったのかを確認した後、再び移動の為に外に出る。
後に残された十六夜と更は、背後から「「「十六夜様、更様、俺たちも手伝います。盗賊に落ちてしまった迷い子たちを救う為、共に頑張りましょう」」」と言葉を掛ける元盗賊どもの声に、顔を引き攣らせがっくりと肩を落とすのでした。
―――――――――
「止まれ!!ここはテレンザ侯爵領領都ネピアである、貴殿の所属と目的を告げられたし!!」
都市を囲む巨大な街壁、テレンザ侯爵領の中心地にして心臓でもある領都ネピアは、終わる事のない戦乱に緊張と苛立ちに包まれていた。
人々は日々の生活の不安から猜疑心に苛まれ、街のあちこちで乱闘騒ぎが起こるなど日常茶飯事となっていたのである。
「伝令!我はアルバート子爵家騎士ケビン・ドラゴンロード、我は先触れである!
これより後、北西部貴族連合の代表としてパトリシア・アルバート嬢が、南西部貴族連合の代表としてロナウド・テレンザ様が、旧ダイソン侯爵家の正統としてアイリス・ダイソン嬢が、我らアルバート子爵家騎士団を率い此度の戦を終結させるべく南西部アスターナの戦場に赴く事となっている。
決戦の地アスターナ男爵領に向かう前に、領主代行であるクリネクス・テレンザ様にご挨拶申し上げるべく伺わせていただいた次第、至急お取次ぎ願いたい!!」
「なんと、ロナウド様が!?承知した、直ちに伝令を飛ばす。ご使者殿はこの場でお待ちいただきたい」
突然の使者の訪れに、北街門前は騒然とした空気に包まれる。
そして彼らは現れる。
“ドコドッ、ドコドッ、ドコドッ、ドコドッ”
胸に響く蹄の足音、複数の馬が整然と疾走する。
“ブォッ”
熱い何かが全身を襲う。これは覇気!?これ程離れた場所から覇気を感じるなど、一体どれ程の強者がやって来たと言うのか。
「総員、足を止めよ。これよりテレンザ侯爵領領都ネピアへと入る。並足にて進行せよ!」
巨馬に跨りし巨漢からの号令、その声音は心を揺さぶり、人々はぶるりと身を震わせる。
「街門の警護ご苦労。これより城に向かう、兄上へは連絡を向かわせたか?」
その声は馬上より掛けられた。
蒼きマントを靡かせた戦士、兜から覗く瞳は、この戦を終わらせるという強い意志を宿らせる。
「ロナウド様・・・、ハッ、既に伝令を向かわせております!」
ロナウド・テレンザ、嘗ては自身に目覚めた水属性魔法の才能に溺れ、勇者病と蔑まれし者。
領地の危機に男は変わった。限界を超える鍛錬、理不尽に立ち向かい理不尽を越えた先に辿り着いた男は、全てを終わらせる為に帰って来た。
「あれがロナウド様だと・・・」
「ロナウド様、何とご立派になられて・・・」
「ロナウド様が、この戦を終わらせるために帰ってこられたぞ!!
ロナウド様万歳、テレンザ侯爵家万歳、オーランド王国に栄光あれ!!」
三騎の騎馬が大通りを進む。
蒼きマントを靡かせたテレンザ侯爵家三男、ロナウド・テレンザ。
深紅のマントを翻した旧ダイソン侯爵家の直系、アイリス・ダイソン。
白きマントを纏いしグロリア辺境伯家の血を引きし者、パトリシア・アルバート。
それぞれのマントにはテレンザ侯爵家、ダイソン侯爵家、グロリア辺境伯家の紋章が刻まれる。
そして彼らが率いる濃紺の鎧兜を身に纏いし集団。
アルバート子爵家騎士団、その武勇を知らぬ者はこのオーランド王国にいはしない。そしてその話が誇張などではなく、むしろ過小評価であったことを、身を以て分からせられる。
「聞け!!我が愛すべきテレンザ侯爵領の民衆よ!
この戦は終わる、我々が終わらせる!!
冬の時代は過ぎ、新たな時代がやって来る!
テレンザ侯爵領は、勝利する!!」
「「「「ウォ~~~~~~~~~!!」」」」
ロナウド・テレンザの宣言に、民衆の鬱積した思いが爆発する。
“戦いは終わる、我々が終わらせる”
その力強いメッセージは、熱い波となって領都ネピアに広がって行く。
「オーランド王国、万歳~!!三英雄、万歳~!!」
「オーランド王国、万歳~!!我らが希望、万歳~!!」
“聖者の行進”、旗竿に掲げられた赤・青・白の三色の長旗が風に靡く。
北西部貴族連合、南西部貴族連合、そしてダイソン公国が手を取り合う。
この戦争を終わらせ、人々の自由を取り戻す。
地方貴族、中央貴族といったくだらない柵を越え、オーランド王国の貴族として、国の礎として。
人々は自然と
志を持ち立ち上がった若者たちに、共に戦う戦士たちに、我らの願いを背負って立つ、希望の聖者たちに。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora