転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第412話 勝利の塔の守り人 (2)

テレンザ侯爵家居城で行われたお食事会、控えめに言って最高でした。

無言の食堂、カチャカチャと室内に響く食器の音。

言葉を失ったマルセル村の村人たち。

旨い食事とは、人から言葉を奪うものである。

“ふわふわ卵の甘トロオムレツ”然り、“串コッコの照り焼き”然り、“コッコ肉の油揚げ”然り。

照り焼きのソースレシピを是非とも(わたくし)に、“コッコ肉の油揚げ”って、完全に唐揚げじゃん、油を使った揚げ物料理って初めて見たんですけど!?

植物油はテレンザ侯爵家の特産品の一つと、アブラナの実を絞ってから濾すんですか、戦争なんかどうでもいいんでアブラナの栽培場の見学を・・・いえ、すみません、ちゃんとします。

ですのでパトリシアお嬢様、脇腹を殴るのはおやめください、地味に痛いです。

 

クリネクス閣下はそんな俺たちの態度にも「我が領の料理を喜んで貰えている様でうれしいよ」と鷹揚に応えてくださいました。

食事とはコミュニケーション手段の一つであるとした貴族社会の上澄みであるにも関わらずこの度量、何と懐の広い。

テレンザ侯爵家とは末永くよい関係を続けて行きたい所存でございます。

 

それはさておき、この席順ってなんかおかしくない?

中央のお誕生日席にクリネクス閣下がお座りになるのはいいとして、向かって右手にパトリシアお嬢様、左手にロナウド様って。

立場的にはロナウド様の方が右手じゃね、侯爵家の御三男様なんだし。

まぁそれだけ北西部貴族連合の事を重要視しているって言うパフォーマンスなんだろうか。

でもまだそこはいい、何で俺がパトリシアお嬢様のお隣?俺ってばアルバート子爵家騎士団の下っ端よ?立場的には父ヘンリーかボビー師匠じゃないの?

 

俺がそんなことをさりげなくパトリシアお嬢様に伺ったところ、「ケビンは目を離すと何をしでかすのか分からないから」と言うありがたいお言葉がですね。

そうですか、俺は初めて高級レストランに来たお子様ですか、折角おめかしした服装をデミグラスソースで汚しちゃうアレですか、了解です。

 

そんな感じで楽しい食事会(料理は最高、でも美味し過ぎて無言)は粛々と行われたのでございます。

意外だったのがマルセル村の皆さんのテーブルマナーがそれなりに出来ていたという事。

私《わたくし》の場合、なんちゃってテーブルマナーが出来ていたのとデイマリア様に仕込まれた事できちんとしていたんですけどね。

なんかパトリシアお嬢様のお付きとして食事の機会があるかもしれないからって事だったんですけど、冷静に考えてそれっておかしいんですけどね?

普通お付きの人間って背後に控えてるだけだよね?何で一緒のテーブルに着けようとするの?

 

そう言えばジェイク君もエミリーちゃんと一緒にテーブルマナー教室に参加してたんだよな~。流石は次代の勇者様、ガッツリアルバート子爵家に取り込まれております。

 

で、他の方々のマナーが出来てた理由ですけどね、野営の時に十六夜たちが教えていたからでした。アイツら潜入任務なんかもあるって事で、貴族教育からマナー教育まで確り受けていたんだそうです。

人生何がどう役に立つのかなんて分かりませんね。

 

そんで現在食後のティータイムですね、皆さん食事の余韻に浸りつつ楽しいおしゃべりに興じているのでございます。

 

(視線で会話)

『ロナウド様に質問、なんかさっきからパトリシアお嬢様とクリネクス様がいい感じなんだけど、何か知らない?』

『あぁ、何でも王都の中央学園での先輩と後輩の関係みたいです。

共に生徒会活動を通じてかなり親しくしていたとか、パトリシア嬢が婚約破棄されたと聞いた時には相当に荒れていましたから。“俺は無力だ”と言って落ち込んでもいましたね』

 

『学園でパトリシア様を慕う方は大勢いらっしゃいましたから、クリネクス先輩も憎からず思われていたのではないでしょうか?

当時は婚約者の方がおられましたので、そうした素振りを見せる事はありませんでしたが、今はいらっしゃいませんので』

『アイリスさん、それ本当?でも侯爵家の跡取りだよね?何でまたそんな事に』

 

『それはうちがダイソン侯爵家と親しかったからですよ。俺が小さい頃、ローラにはよく遊んで貰ってましたから。

うちの母親とローラの母親が学園時代の親友で、侯爵家同士の交流を深める名目でよく遊びに来ていたんです。

専属メイドとして俺に付いた当初は気付きませんでしたけどね、お互い大分変ってましたしね。

 

それで婚約破棄ですがかなり一方的だったそうです。お相手はバルーセン公爵家に連なる伯爵家の令嬢だったのですが、婚約期間中も相当上からの物言いで我が儘を言われていたそうです。

中央における我が家の扱いは酷かった様で、格下の伯爵家にも馬鹿にされていたとか。

それはダイソン侯爵家も同様で、独立宣言をした時も父は然もあらんとしか思わなかったそうです。

 

そんな関係でしたのであっさりと、“騙された”とか、“時間を無駄にした”とか散々な言われ様だったそうですよ』

 

うわ~、貴族家ってやっぱりシビアだわ~。見ているのが相手の地位や立場、本人なんて関係ないってね。

噂話が真実にされちゃう情報化社会、悪評に対処出来ない様では貴族失格の烙印を押されちゃうってんだから度し難い。

うん、関わらないのが一番だね。

 

共有した思い出がある、共に支え合った過去がある。思い出される楽しかった時間、互いに立場は変われどあの時誓い合った友情は今も尚色褪せる事はない。

 

『・・・温かく見守るという方向で』

『『了解!』』

 

失われてしまった過去は決して取り戻す事は出来ない。だが新しい未来を築く事は出来る。

こちらから余計なチャチャは入れない、それは互いを意固地にしてしまうから。自ら考え行動した時、それは互いの心を溶かす切っ掛けになるかもしれない。

 

その場の人々は、この傷付きそれでも前に進もうと歩み寄った若者たちを、優しく見守ると誓うのでした。

 

―――――――――

 

「ロナウド、決して気負うな。本来ならお前に全てを託すような真似などせず、俺自らが赴かねばならない事なんだ。

どんな結果になろうとも、お前の帰って来る場所はこの家だという事を忘れるな。必ず生きて帰って来い」

 

「大丈夫ですよ、兄上。俺は別に戦いに行く訳じゃない、ちょっとした交渉です。

まぁそれでもバルカン帝国の蛆虫は排除しておきますけどね。ダイソン公国が正しくダイソン公国となったとき、オーランド王国南西部地域に再びの平和が訪れる。

これは我がテレンザ侯爵家を含む南西部貴族連合ばかりでなく、ダイソン公国を含めてと言う話です。

“この戦いは終わる、我々が終わらせる”

民衆に語ったこの誓い、必ずや現実のものとして見せましょう」

 

男は三日会わなければ驚くべき成長を遂げると言う。かつて勇者病と呼ばれていた弟は、自身の知らぬ間に立派な青年へと成長していた。

兄と弟は拳をコツンと突き合わせると、互いにニヤリと笑い合う。

 

「アイリス、難しい事は言わん、悔いの無いよう全力を尽くせ。

お前が進もうとしているのは戻る事の許されない茨の道、だがお前は自らそれを選択した。

アイリス、俺はお前の兄キャスパーではないが、幼馴染として言わせて欲しい。死ぬな、生きて帰って来い。

テレンザ侯爵家はいつでもお前を受け入れる準備がある。

この家はお前の第二の故郷、父も母も、お前の事は娘の様に思っている。

無論俺もな。

大願が果たされる事を祈っている」

 

「ありがとう、ございます。クリネクスお兄様」

涙をグッと堪え、声を詰まらせるアイリス。クリネクスはそんな彼女を優しく抱き寄せると、背中をポンポン叩き「大丈夫、アイリスなら必ずやり遂げる」と囁くのだった。

 

「パトリシア嬢。俺は・・・」

クリネクスが何かを言おうとした唇に、パトリシアは右手の人差し指をそっと当て、言葉を制する。

 

「クリネクス先輩、今度アルバート子爵家に遊びにいらしてくださいませんか?テレンザ侯爵閣下がお持ち下さった首の輪コッコと斑点コッコ、ケビンの実験農場で元気に育っていますのよ?

各種ビッグワーム干し肉に角無しホーンラビット、お野菜を含めたマルセル村の農産物はグルセリアでも大変評判がいいんですのよ?

この戦争は終わります、私達で終わらせます。

そうなったら是非昨晩のコッコ料理のお礼をさせてくださいね」

 

そう言い花の様な笑顔を向けるパトリシア。それは決して戦場に向かうといった悲壮感など微塵も感じさせない、人々の心を惹き付けて止まない、可愛らしくも美しい物であった。

 

「総員、騎乗!!」

“バッ”

旗竿に掲げられた三色の御旗、赤・青・白の目にも鮮やかな色合いが、テレンザ侯爵領の空にはためく。

 

「出立!!」

戦士たちは向かう、血煙舞う遥かなる戦場へ。

人々の思いを背に、この戦を終わらせる為に。

 

「ロナウド、アイリス、無事に帰って来てくれ。

そしてパトリシア、どうかご無事で」

 

テレンザ侯爵家居城の城門を抜けて行く戦士たち。

領主代行クリネクス・テレンザは、彼らの行軍をいつまでも見送り続けるのであった。

 

―――――――――

 

「リーダー、漸く着きましたね」

「あぁ、今度の仕事は大きなものだ。お前たちの働きも大きなものとなる。

現代に蘇った魔王討伐、敵は十数万と言う将兵を虐殺した悪魔どもだ、決して油断は出来ない。

俺たちの任務は敵の中枢、ダイソン公国大公の抹殺。公家の中枢を叩き、バルカン帝国の名目を潰すこと。

この戦はただの内紛、逆賊を始末して終了とすることだ。

 

これ以上多くの血を流させない為にも、俺たちは勝たなければならない。

白金級冒険者パーティー“大地の咆哮”の名に懸けて、敵を討つ!!」

「「「「「応!!」」」」」

 

嘗てその戦場では多くの血が流された。そんな戦いを終結に導くべく、また一つ、可能性の火が灯される。

 

人々の思惑は動く、それぞれがそれぞれの正義を掲げて。

ダイソン公国とバルカン帝国、オーランド王国、そして第三の勢力である北西部南西部貴族連合。

彼らの正義がぶつかり合った時何が起きるのか、それは誰にも分からないのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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