転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第413話 勝利の塔の守り人 (3)

それはアルバート子爵家騎士団が北の辺境を旅立った頃、“聖者の行進”が始まった頃の事。

 

「国民よ、我が愛すべきダイソン公国の民たちよ!」

 

そこは城前に作られた高台、演説台に立つ壮年の男は音声拡張の魔道具を使い広場に立ち並ぶ兵士たちに向け声を上げる。

 

「今一度思い出して欲しい、我らが国父、デギン・ダイソン大公閣下が何故国を興したのかを。

虐げられ、排斥され続け、それでも祖国を思い国を守る為の防壁として散って行った多くの祖先たちの思いを。

我らは一体なんだ、我らダイソン公国の民は、軽んじられ、虐げられても良いとでも言うのか!

否、断じて否である!!

国を憂い、民を愛し、家族を愛した国父デギン・ダイソン大公閣下は先の戦において自ら最前線に立ち、そしてダイソン公国の礎となった。

この半年にも及ぶ平穏は、全てデギン・ダイソン大公閣下が齎した成果である。

 

我々はデギン・ダイソン大公閣下の遺志を継ぐ。

最早オーランド王家に頼る時代は終わったのだ!

我らは、ダイソン公国の旗の下、民を救う。それこそが国を守り、民を守り、愛する家族を守り続けて来た祖先たちの願い、デギン・ダイソン大公閣下の目指した道。

 

雌伏の時は終わった、我らは再び立ち上がる。

ミネリア・ダイソン新大公閣下の下、ダイソン公国の旗の下、我らの自由を勝ち取る為に!!」

““““ザッ””””

空高く掲げられたダイソン公国の旗が、風に力強くはためく。

兵士たちは、左胸に右の拳を当て、己が決意を強くする。

全ては国の為、愛する家族の為。

 

「「「「自由、ダイソン、自由、ダイソン。ダイソン公国に栄光あれ!!」」」」

 

「注目ー!!総員、これよりアスターナ草原に向かう。

我らが行うはこれまでの様な防衛戦ではない!

我らの意思をオーランド王家に刻み付け、抑圧されし民を救う聖戦である!

国の為、民の為、家族の為、その命尽きるまで戦い続けるのだ!

出立!!」

““““ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ””””

 

石火矢を携えた将兵が、爆薬樽を撃ち出す投擲機が、最新式の精霊砲が。

考えられる限りの最新兵器を携えたダイソン公国の精鋭たちが、遂にその牙をオーランド王国に突き立てる。

 

「クックックックッ、アッハッハッハッ、圧倒的ではないか、我が軍は。

オーランド王国の旧態依然とした戦力が何だというのだ。

騎士団、魔法部隊、その様なものが何の役に立つ、これからは物量と兵器の時代なのだよ。

バルカン帝国の傀儡?好きに言わせておけ。

その技術、その力、全て吸い上げ内側から食い破ってくれよう。

我がダイソン公国の野望、デギン・ダイソン大公閣下の御意思はこのギラン・ザビエールが必ずや果たしましょう。

エイジアン大陸をダイソンの色に染め上げるその日まで」

 

男が見上げる先、そこには澄み渡った青空に、大鷲の紋章が刻まれた深紅の旗がはためいているのであった。

 

―――――――――――

 

アスターナ男爵領の大草原地帯、かつてそう呼ばれていた場所は、今や草一つ生えぬ荒野と化していた。

ダイソン公国軍とオーランド王国貴族軍とのにらみ合いは続いており、時折単発的な戦闘が起こるといった、膠着状態に陥っていたのである。

 

そんな泥沼の戦場に、今一つの変化が起ころうとしていた。

 

「私が現場指揮官のロベルト・エラブリタインだ。貴殿らは白金級冒険者パーティー“大地の咆哮”の者であると聞いているが、要件を聞こう」

「なっ、お前、たかが現場指揮官が白金級冒険者であるダンガー様に対してなんだその態度は!

ダンガー様はバルーセン公爵閣下からの直接のお声掛けでこの地に赴いているんだぞ!!それを貴様は!」

 

「よさないかエリック、私のパーティーメンバーが失礼した。戦場を前に少々気が高ぶっている様子、ご容赦いただけるとありがたい」

「なに、構わん。ここはオーランド王国の最前線、バルカン帝国の兵器を前に自身の地位など塵ほどの価値もない事など身を以って理解している。

それとそこのエリックとやら、どうやらバルーセン公爵家の次期当主が決まったようだが、現在は戦時である故王城での叙爵式は行われてはいない筈、正確には次期当主であって公爵の地位は引き継いでいない筈だぞ?

で、私はこれでも現役の伯爵でな、王国法上地位は私の方が上となるんだがどうする?

繰り返しになるがここはオーランド王国の最前線、王国での地位など塵ほどの価値もない。身分や地位、これまで築き上げてきた名声、その全てが無価値と思え。

でなければ早々に死ぬぞ?」

 

荒野に設営された幾つかの天幕、その内の一つ、貴族軍司令本部にて会談を行う白金級冒険者パーティー“大地の咆哮”と司令本部の面々。

現場指揮官であるロベルト・エラブリタイン伯爵に見据えられ、ウッと声を詰まらせるエリック。

これまで多くの貴族との交渉の席について来たが、そのほとんどが白金級冒険者パーティー“大地の咆哮”の名声と、パーティーリーダーである白金級冒険者ダンガーの放つ覇気に当てられ下手に出ていた。

今度の依頼でもかのバルーセン公爵家当主自らが頭を下げた。

自分達はそれだけの者であり、優れている。エリックの中に過信と驕りが芽生えていたとしても何ら不思議はなかった。

 

だが目の前の現場指揮官はどうだ、王都の冒険者ギルドギルドマスターですら態度を改めるダンガーの威圧を受けても眉一つ動かさない。

これが戦場、これが最前線。

白金級冒険者パーティー“大地の咆哮”の面々は、“たかが貴族の殺し合い、強大な魔獣と比べどれ程のものだというのか”といった思いが誤りではないのかと考えを改める。

 

「我々が求めているのは現場での情報、敵の兵器、戦力、戦略。現在分かっている限りの情報をいただきたい。

我らの目的は敵の中枢、ダイソン公国の城を落とす事。

その為にはこのアスターナ草原を抜けなければならない。貴族軍の方々には是非とも協力を願いたい」

そう言いダンガーが差し出した物は、バルーセン公爵家からの書状。

内容は白金級冒険者パーティー“大地の咆哮”に協力し、ダイソン公国を攻め落とせとの命令書。

 

“クソが、あの家の次期当主は何様のつもりだ、この状況が全く理解出来ていないのか?

前バルーセン公爵閣下が何故亡くなられたのか、今必要なのは戦闘ではなく粘り強い交渉であるという事が何故分からない!”

ロベルト・エラブリタイン伯爵は憤る内心を押し殺しつつ、部下に命じこれまでの状況と分かっている限りの情報の開示を行うのであった。

 

――――――――――

 

「皆聞いて欲しい、状況はあまり良くはない。敵主力兵器である石火矢はそこまでの問題はないだろう。精々がオークキングの一撃程度、ミノタウロスの<金剛槌>には及ばないと言ったところだろう。ただ問題はその数、これが単発ならいい、何十という数がまるでホーンラビットの突撃の様に繰り返されるとなれば無視も出来ない。

よって陽動による兵力の分散を行う。

キャサリンとビアークは遠距離からの魔法攻撃で敵の目を引き付けてくれ、奴らの射程は長いがキャサリンの<ファイヤーランス>には遠く及ばない。であれば敵の攻撃はビアークの<アースウォール>で容易に防ぐ事が出来るだろう。

そうなると奴らはじわじわ後退しつつ俺たちを誘い込みに掛かるはずだ。

誘い込んだ先で埋設した爆弾による一斉爆破、これが奴らの狙い、俺たちはそこを突く。

連中がキャサリンたちに気を引かれている隙に先行し、爆弾を掌握する。

これはエリック、お前の<罠探知>と<罠解除>、<罠設置>のスキルが最も重要となる。

この作戦の肝はエリック、お前だ。やってくれるな?」

 

そう言いエリックの両肩を叩くダンガー。

エリックは先程の失態を叱責するどころか大役を与えてくれたリーダーの言葉に、熱い何かがこみ上げるのを感じる。

 

「了解です、ダンガー様。このエリック、命に代えましてもお役目を果たさせて頂きます!」

バッと頭を下げ泣き顔を隠すエリックに、パーティーメンバーから生暖かい視線が向けられる。

 

「聖戦の始まりだ。オーランド王国に伝説を残すぞ!!」

「「「「応!!」」」」

白金級冒険者パーティー“大地の咆哮”が動き出す。

戦いの幕が、ここに開かれようとしていた。

 

「<多重アースウォール>、キャサリン、いつでもいいぞ」

「ビアーク、いつもながら仕事が早いわね~。これで女の子には奥手だってんだから信じられない。モテるんだからチャチャッと“仕事”しちゃえばいいのにね~。<ファイヤーランス:五重連射>」

“バシュバシュバシュバシュバシュ”

 

それはこれから始まる長い戦闘の合図であった。撃ち込まれた炎の槍が、敵陣地に着弾するや爆音を上げる。

 

「どうよ、私のファイヤーランスの威力は。ただ貫くだけのファイヤーランスなんて古い古い。これからの時代は爆発よ、芸術は爆発ってね~♪

それじゃ貴族軍の皆さ~ん、適当に魔法を撃ち込んで敵の目をこちらに集めて下さ~い。

私達はあくまで陽動、派手に暴れて敵を消耗させるのが役目ですから。

決して<アースウォール>の外に出ないでくださいね~。

石火矢でしたっけ?当たったらただじゃ済まないらしいんで。

ま、私なら平気なんだけどね♪<ファイヤーボール:二十発連射>」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ”

 

キャサリンはひらりとアースウォールの上に飛び乗ると、狙えといわんばかりに身を晒す。そして撃ち出される怒涛の<ファイヤーボール>、その姿に唯々呆然とする貴族軍の魔法使いたち。

これが白金級冒険者、ワイバーンを討ち倒し、常に凶悪な魔獣と戦い続ける者たち。

 

「ヒュ~、キャサリンの奴、張り切ってるな~。ダンガー様、そろそろ俺たちも」

「そうだな。それではエラブリタイン指揮官、陽動の方、よろしくお願いします」

 

「あぁ、お引き受けした。貴殿らの武運を祈る」

現場指揮官と白金級冒険者、双方が視線を交わし、互いの職務を果たさんと動き出そうとした、その時であった。

 

「指揮官、物見台から報告、敵後方より増援多数。その数、数万。

敵軍の中に大型投擲機六機、中央に精霊砲と見られる機影が見られるとの事です」

「クソッ、遂に始まったか。至急王城に通達、ダイソン公国軍の侵攻が始まった、これより我が軍は敵の足止めに入る。王都防衛に入られたし。

繰り返す、ダイソン公国の侵攻が始まった、これより我が軍は敵の足止めに入る。王都防衛に入られたし。以上だ、急げ!!」

 

「ハッ!」

走り去る伝令、事態は動き出す。

 

「ダンガー殿、貴殿らの到着は少々遅かった様だ。

このアスターナの地はこれより我らが戦場となる。貴殿ら冒険者が命を懸ける事もないだろう、早々に手を引かれよ」

ロベルト・エラブリタインはそう告げるとダンガーに笑顔を向ける。

それは自らの死を受け入れた男の宣言。死兵となり、時間を稼ぐとした貴族の矜持。

 

“民間人である冒険者は下がれ、無駄死にをするのは私達の役目だ”

義に生き、義に死すると決めた者、ダンガーは貴族にも芯のある漢はいるのだと、胸に熱いものがこみ上げる。

 

「いや、我々もオーランド王国の民、国を守る戦いに否やはない。

エラブリタイン指揮官、この戦、我々白金級冒険者パーティー“大地の咆哮”も「指揮官、物見台から報告。テレンザ侯爵領方面より騎馬隊が接近、物凄い速さです。先頭の騎馬が旗竿に三色の長旗《ちょうき》を掲げています。その色赤・青・白、描かれた紋章は不明」」

 

「それは本当か!?で、その集団に例の人物は・・・」

「ハッ、巨馬に乗った巨漢、二本の角の付いたヘルム、報告にあった者に間違いないかと」

 

「全軍に通達、これより後方一千メート迄前線を下げる。

冒険者に協力している魔法部隊にも伝えろ、時間がない、急げ!!

王城に通達、状況が始まった、我が軍は予定行動に入る。

繰り返す、状況が始まった、我が軍は予定行動に入る。

急げ、彼らが来てからでは遅い、死ぬ気で動け!」

「ハッ、エラブリタイン指揮官!!」

 

騒然とする貴族軍司令部、全ての者が予め決められていたといわんばかりに真剣な表情で後退を始める。

 

「なっ、エラブリタイン指揮官殿、これは一体どういう事だ!

敵が迫っているんだぞ、オーランド王国の命運を掛けた一戦が始まろうとしているんだぞ!」

勢いのまま掴み掛かろうとするダンガーを、エラブリタインは手で制する。

 

「残念だが戦いは終わりだ。ダンガー殿、先程も言ったが貴殿らの到着は少々遅かった、時間切れだ、彼らが来てしまった。

この戦い、我らオーランド王国貴族軍はバルカン帝国の前に成す術もなく敗北した。十二万を超える将兵の死亡、これを敗北と言わずしてなんと言う。

我らオーランド王国貴族は長い平和の中で自らの役割を見失っていた、民があっての国であり貴族、領民を守ってこその貴族と言う事をな。

その点デギン・ダイソンは貴族たらんとしたのだろうさ、領地の為、領民の為に立ち上がったのだから。

 

戦争に悪はない。互いの正義、言い換えれば互いの主張のぶつけ合いだ。

それぞれが正義であり悪なのだ。

ではどうしたら戦争を終わらせる事が出来るのか。圧倒的な力、誰もが逆らう事を諦めてしまう程の力があれば、それが可能だとは思わないかな?」

 

“ブワッ”

瞬間、その場を何かが覆い尽くす。それは大河の奔流、人の力ではどうする事も出来ない程の絶対的な力の流れ。

 

「何だこれは、これ程に強大な覇気など、人の身に宿せるというのか」

「それは自分の目で確かめてみてはどうかな、ダンガー殿?」

 

“バサッ”

エラブリタインが天幕を覆う布を開く。

 

“バサバサバサバサ”

旗竿に掲げられた三色の長旗がはためく。

 

「我はアルバート子爵家騎士ケビン・ドラゴンロード。

これより北西部貴族連合の代表としてパトリシア・アルバート嬢が、南西部貴族連合の代表としてロナウド・テレンザ様が、旧ダイソン侯爵家の正統としてアイリス・ダイソン嬢が、我らアルバート子爵家騎士団を率い此度の戦を終結させるべくダイソン公国に交渉に向かう。

我らの通過を許可されたし!

我らがこの戦を終結させる!」

 

それは一年にも及ぶ戦いの終わりを告げる、戦士の宣言であった。

 




本日一話目です。
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