ダイソン公国公城は次々と上がる不測の報告に、混乱の極みに陥っていた。
数日前に行われた城前での出発式、ダイソン公国の精鋭がバルカン帝国より取り寄せた数々の兵器と共にオーランド王国王都を目指し進軍を開始した。
ダイソン公国の悲願、ギラン・ザビエールの野望が動き出した、その矢先の侵攻部隊の行動停止に、作戦本部が動揺するのは当然の事と言えるだろう。
「クソ、一体何がどうなっているというのだ!
アスターナは何と言って来ている!」
「ハッ、ご報告します。“勝敗は決した。我らはオーランド王国北西部貴族連合、南西部貴族連合、ダイソン公国との交渉の結果に従う”
以上であります!」
“ダンッ”
「クッ、一体なんだというのだ。これよりオーランド王国にダイソン公国の武威を示すという矢先で」
作戦本部総司令ギラン・ザビエールは、部下からの報告に苛立たし気にテーブルを叩く。だが事態はそんなギランの思惑をよそに、刻々と変化して行く。
“バタンッ”
息を切らし飛び込んできた兵士が、報告の用紙を握りしめ顔を青ざめさせる。
「通信より伝達、キシリアが・・・落ちました」
「なに!?あの地には武器弾薬、それに数百と言う兵が詰めていたはずだぞ!!」
つい先程入って来たばかりのアスターナの異変、それから今の報告までにどれ程の時間が経ったというのか。
敵の数は騎兵がわずか三十騎あまり、早馬のように全力で街道を駆け抜けたにしてもキシリアに至るまでに四つの街がある。その全てを落とし、キシリアまでも落としたとでも言うのか。
「それで被害は、キシリアの抵抗を考えれば街にも相当な被害が出たのではないのか?」
「ハッ、東街門、西街門の消失・・・」
「クッ、王国め、やってくれる。我がダイソン公国の臣民を」
「以上であります。人的被害皆無、将兵を含め現場指揮に立っていたマチル・ダジャン司令官も命に別状はないとの報告が入っています」
「「「はぁ!?あの猛将のマチル・ダジャン司令官が、命に別状なく見逃されただと!?」」」
“バンッ”
作戦会議用に広げられたダイソン公国の地図、その各地点に駒を置くギラン。
「現在敵は街道を真っ直ぐ公都へ向かっているものと思われる。その移動速度は驚くほどに速く、早馬の倍はあろうかと考えられる。
だが幾ら速足であろうとも騎馬隊である以上馬の消耗を考えれば野営を狭まずに公都に辿り着くのは不可能、おそらくはこの一帯のどこかで足を止めるはず。
だが敵の数があまりに少な過ぎる上に我が軍の石火矢、爆薬類が効かぬときている。下手に夜襲を掛けるべく兵を差し向けるは愚策、ここは公都前の最終防衛線で勝敗を決しようと思うがどうか?」
ギランの提案に頷きで応える一同。
「よし、では部隊の配置だが、件の敵は旗竿を立て街道を真っ直ぐ進行して来ている。この事から奴らは自分たちの存在を広く知らしめる事を目的としていると考えられる。
つまり公都に入る際には必ず正面から現れるという事、どの様な仕掛けがあるのかは分からないが、尋常ではない防御力があるとみていいだろう。
我々はそこを突く、アスターナからの報告では馬鹿正直に全ての攻撃を受けていたとか、ならば受けて貰おうではないか、我が軍の全ての攻撃を。
公都周辺の草原地帯の爆薬を街道上に集約する、土属性魔法の使い手を動員し、今夜中に全ての作業を終了させる。
驕り高ぶった侵略者どもを、その身体ごと天空高く吹き飛ばしてくれようぞ。
皆協力し、作業に取り掛かるのだ!」
「「「「了解しました、ギラン総司令」」」」
ギランの指示に動き出す面々。
「ギラン総司令、これは非常に不味いですな。私共も、まさか我が国の兵器に耐えうる武装を王国側が開発しているとは思いませんでした。
しかも僅か三十騎で各都市を落とす実力者たち、王国の秘密部隊と言ったところでしょうか」
「あぁ、北西部貴族連合南西部貴族連合の代表とは名乗っているが、その実態は諜報機関“影”の擁する秘密部隊で間違いないだろう。
まさかこれ程の者たちを隠していたとは。
我々は少々王家を侮っていたやもしれん」
苦々しげな表情を浮かべるギランに対し、言葉を掛けた士官は思案顔を浮かべる。
「これは一度ビスコッティー閣下の下に身を寄せる必要があるのかもしれませんな。事の次第によってはミネリオ大公閣下の身柄をビスコッティー閣下にゆだねる形になるとは思いますが、悪い様には致しません。
何せ我が国とダイソン公国は友好国ですから。
ダイソン公国の蜂起に合わせ、既に我が国の増援部隊も動き出しています。仮に城を落とされたとしてもすぐに取り返す事が出来ますよ、ビスコッティー閣下の軍は精強ですから」
そう言い微笑み掛ける士官に、「ビスコッティー閣下には世話になります。何卒良しなに」と笑顔で答えるギラン。内心では苦々しく思うも、そうした心情はおくびにも出さない。
祭りのクライマックスが近付く。男達の準備は、終演に向け着々と進んで行くのであった。
―――――――――――――
夜の帳が下り、空が星々の煌めきに代わる。
普段であれば昼間の喧騒は鳴りを潜め、静寂があたりを支配するも、この夜の公都はその様相を異にした。
光属性初級魔法<ライト>の光球が草原を照らし、多くの兵士たちが夜通しの作業を行う。
公国を守るのは自分達である。最終防衛線を担う男達は、使命感を胸に作業に没頭する。
そんな彼らの姿を遠目に眺め、「やっぱ宮仕えって大変だわ。兵士の皆さん、本当にご苦労様です」と呟く黒衣の男。
どうも、ケビン・ドラゴンロードです。
お前はそんなところで何やってるのか?騎士団を抜けて来ちゃっていいのか?
まぁ偵察ですね。それと騎士団の皆様は本日は影空間でお休みになられております。やっぱ敵陣の中だし?夜襲が怖いじゃないですか。
一晩中見張りを立てるのもね~、正直面倒。
だったら影空間でいいじゃん、どうせ夜は寝るだけだし。
って事で進めるところまで進んで、大きな影の壁を出してお馬さん方と一緒に入っていただいたって訳です。
村人の皆さんは影空間が初めてだったので相当驚かれていましたけど、そこには宿泊施設であるうちの屋敷と使用人部隊が居りますし?
特に問題なくすんなりと受け入れられたようでございます。
そう言えば使用人の方々、ご自分方に特殊使用人部隊“月光”とかいう何とも香ばしいお名前を付けられておりました。
誰が考えたのかと聞いたら案の定月影さん、もうね、趣味に走りまくりですわ、この御方。
村人たちの防具作製の終わった職人さん方に全員分の特殊装備作成の依頼を出してるわ、ベネットお婆さんにバトルメイド服とバトル執事服の注文を出すわ、一体何を目指してるんだか。
因みに月影のメイド服は紬の特殊繊維製、防刃防弾に優れた一点もの。魔法防御も付与してあるほかポケットがマジックバッグになってるって言うね。
ベネットお婆さんとマルコお爺さんの渾身の作でございます。
実はマルコお爺さん、マジックバッグも作れちゃう凄腕職人でした。
でもそうしたところが周りからは疎ましかったみたいで、マルセル村送りになっちゃったんですけどね。
本当、人の嫉妬ややっかみって怖いわ~。
まぁその辺は置いといて偵察に向かうとしますか。ダイソン侯爵家の秘密の抜け道はアイリス嬢から聞いてますしね、侵入も余裕です。
そんで本日のお手伝いさんはこちら、最近従魔舎の中でゴロゴロしてるかケイトと散歩に行くくらいしかやる事がなかった暇狼のブラッキー君と、最強生物の修行から速攻逃げ出したいばかりにめきめきと実力を上げ縮小魔法をマスターしたデカ狼の太郎君であります。
太郎は小さくなれたんなら暗黒大陸に帰ったんじゃないのか?帰りましたよ、暗黒大陸。
それから臭いと気配を頼りに十日掛けてジミーと合流、再び一緒に旅をしてたんですけどね。ジミーさん、暗黒大陸の竜人族の集落で修行を始めちゃいまして。
竜人族ですよ、ドラゴニュートですよ、ザ・ファンタジーですよ。
そんでもってこの竜人族ってのが目茶苦茶強いらしくってですね、素手でレッサードラゴンを仕留めちゃうらしいんですよね。
ペットでワイバーンを飼ってるってんだから半端ないっす。
マジでジミー君、君は一体どこを目指してるんだい。お兄ちゃんは超心配です。
まぁそんなんで暇していたみたいなんで来ていただいちゃいました。
小型化した太郎は村に来たばっかりの頃のサイズですね、凄い懐かしい。
これくらいのサイズなら大して負担も無いんだそうです。
暗黒大陸では進化する前くらいの大きさで過ごしてるとか、進化前サイズは全く負担が無いらしく、基本サイズにすると言ってました。
「はい、それでは今回潜入するのはこちらのお城、ダイソン公国公城ですね。まぁここもバルカン帝国絡みですし?あっちこっちに爆薬が仕掛けられてると思いますんで、全部回収しちゃいましょう。
今夜の城内は多くの人が忙しなく動いてますんで、<気配遮断>と<魔力隠し>は特に気を付けて行ってください。
それではよろしくお願いします」
““ガウガウガウ♪””
潜入任務と聞いてテンションの上がるお二方。
やっぱり燃えるよね、潜入ミッション、“こちらスネーク、段ボール箱を被って移動中”ってのは基本でしょう。
まぁこの世界で段ボールは目立つから木箱か樽?
・・・冷静にめっちゃ目立つやん、却下だな、却下。
そんで侵入口は森の奥の分かりにくい横穴。自然に出来た横穴風に見せ掛けて魔物避けがされてるじゃん。
これ、猟師さん辺りにはバレバレじゃね?まぁ敢えて黙っててくれているんでしょう、優しい領民です事。
“ウォンッ”
「あっ、トラップですね。面倒なんでパスしましょう。
<結界:洞窟全体>、はい終了。先を急ぎましょう」
““・・・ウォン””
心なしかお二方がガッカリなさっておられますが、お二人の本番は城内ですから、期待してますよ?
はい、城内です。正確には地下室ですね。
展開が雑?いいんですよ、結界張って移動して来ただけですから。城に繋がる門も爆破系の罠が仕掛けられてたんで影を伸ばしてするっと侵入させて頂きました。
無論爆薬は回収させて頂きましたが。
「それじゃお二方、探索の方よろしくお願いします。見つけ次第<業務連絡>を送ってください、気配を探知して向かいますんで」
““ウォンッ””
音もなく消えて行く二体の狼。倉庫の中にただひとり残された俺は、恒例の“使わないものは有効利用、お宝探索タイム”を始めるのでした。
飴色に艶めく肘掛け、重厚でありながら使い勝手の良い作りと座り心地の良さ、職人の技が生きる逸品。
うん、これはいただきです。
いや~、この倉庫、いいですわ~。アイリスさんのお話では、デギン大公は兄のシオン・ダイソン侯爵が大っ嫌いだった様でシオン閣下の使っていたものをすべて処分なさったとか。
この倉庫の品も恐らくそうした品なんでしょう。
シオン閣下、かなりいい趣味してます、センスが光りまくりです。
ん?これは太郎からですね。大量の爆薬が見つかったと、ワインの保存庫ですか~。なんかこれってランドール侯爵家と同じパターンじゃね?
城を支える重要な柱がある場所ってワイン倉庫にする決まりでもあるの?
まぁいいや、取り敢えず全部回収で。
俺はお宝探索の終了にやや後ろ髪を引かれつつも、自身にお仕事と言い聞かせ、ワイン保存庫に向かうのでした。
本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora