転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第418話 勝利の塔の守り人 (8)

“ドゴーーーーーーン”

「「「キャーーーッ」」」

公都東街門方向から聞こえる衝撃音に、側仕えのメイドたちが悲鳴を上げる。

 

「あなた達も下がりなさい。間もなく王家の特殊部隊が公城に攻め入るでしょう。この場は既に戦場、あなた達まで私に付き合う事はありません。

早く公城を離れるのです」

「しかし、公母様を置いて私達が離れる訳には・・・」

 

逡巡《しゅんじゅん》するメイドたち、主である公母ライアを置いて自分たちだけが逃げ出す事など出来ようはずもない。

 

“ドガーーーン”

「「「キャーーーッ」」」

だが、状況は彼女達の思いとは裏腹に刻一刻と悪化して行く。

 

「これは城門が破られましたか。時間がありません、少なくともこの場所にいなければ直ぐに害される事もないでしょう。

戦時における女性の扱いなど聞くに堪えないものばかり、幸い数は三十騎と少数と聞いています、今は城内に身を隠し隙を見て逃げ出すのです。

これは公母としての命令です、行きなさい!!」

「「「は、はい。公母様の思し召しのままに」」」

 

頭を下げ急ぎその場を下がるメイドたち。

 

「あなた達は何をしているんです、私の言葉が聞こえなかったのですか?メイド長、それに執事長まで」

だがその場には、幾人かの使用人たちが残っていた。

 

「申し訳ございません、公母様。この歳になると足腰が弱いものですから」

「そうね、マクベスも歳だし、そろそろ隠居して後任に任せた方がいいかもしれないわね」

 

「何を言うかクララ、お主とて私と大差ないではないか。大体何故この場に残る、メイドどもを無事城外に逃がすのはメイド長であるお主の責務であろうが」

「フフフ、私は執事長と違い後任の教育も確り行っておりますから~。メイドたちは主任のララベルに任せておけば大丈夫ですのよ?

それよりもこれから三十名ものお客様がお越しになるのに、足腰の弱った執事長一人にお任せするのもね~。

後の事はこの私にお任せ下さり、部屋の隅でお座りになっていてはいかがですか?」

 

「なに~!!この若作り婆さんが、言わせておけばぬけぬけと。

ライア様のお世話は私の仕事だ、お主こそ引っ込んでおれ、実年齢五つ上の婆さん」

「ほう、これは宣戦布告と言う事でいいのですね?よろしい、久々に使用人というものがどういうものか、骨の髄まで教育して差し上げましょう」

 

「「「ブフッ」」」

刺々しかった空気が緩む。久々に見る古くからの使用人たちのやり取りに、自然と笑みを零すライア。

ライアはふと自身の人生を振り返る。心優しく民や家臣に愛された前夫のシオン・ダイソン。

そのシオン亡き後、ダイソン家を継いだ義弟のデギン・ダイソン。

残された子供たちの為、シオンが受け入れてくれた実家から来た家臣たちの為にデギンの妻となる事を選択した自分。

逃げ出したくとも弟の代になった実家は、中央貴族に逆らったばかりに潰されてしまっている。

必死だった、常に夫デギンの顔色を窺う日々であった。

だが守ると誓った息子を守る事が出来なかった、娘を逃がすのがやっとであった。家臣に至ってはこの戦争でその多くが命を落とした。

“私は一体何をして来たのか”、自身の不甲斐なさに天を見上げる。

 

「せめてあの子達だけでも」

口から洩れる呟き、それはデギン・ダイソンが残した忘れ形見、息子ミネリオと娘マルネリアの事。

 

“ブウォッ”

城内を強い力が覆い尽くす。それは絶望、ダイソン公国は今日を持って姿を消す。

“あの子達が大人になるのを見ることが出来ないのが、寂しくはありますね”

 

“ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ”

城の廊下を進む騎士たちの足音。鋼の鎧を着込んだ者達が、ダイソン公国の終わりを告げに迫って来る。

 

“バタンッ”

開かれた扉、姿を現したのはマントを靡かせた三人の騎士たち。

彼らが王国の使者なのだろう。ならばダイソン公国最後の公家の者として、せめて笑顔で迎えようではないか。

 

「ダイソン公国公城へようこそ。私は公母ライア・ダイソン。

皆様の来訪を歓迎いたしましょう」

あの子達が逃げ延びる時間を少しでも多く稼ぐ為に、それが無力な自分が出来る最後の抵抗なのだから。

 

「さて、ミネリオ大公閣下が居られない様ですが、それに公女マルネリア様のお姿も見当たりませんね」

赤いマントの者がそう呟く。声は女性のもの、女性騎士として一団の代表になるとは、余程優秀なのだろう。

ただ流れに身を任せていた自分とは違う生き方、自分にそれが出来ていればあの子たちも今頃・・・。

 

「えぇ、少々席を外しておりますの、今メイドに呼びに行かせましょう。

クララメイド長、ミネリオ大公閣下とマルネリアを呼んできなさい」

「はい、ライア公母様」

ライアとクララメイド長の小芝居、クララメイド長が一礼をして部屋を出て行こうとした、その時であった。

 

「いえ、それには及びません。ミネリオ大公閣下と公女マルネリア様は私達で御迎えに行く事といたしましょう。

停戦の交渉に代表者がいないのも問題でしょうから。

それに幾ら若く見えるクララでも、地下脱出路を走るミネリオたちの下に辿り着くのはいささか骨が折れる事でしょう。

本当に無理をしないでくださいね、クララはお母様よりも年上なんですから」

そう言い悪戯な笑みを浮かべる騎士に、ライアはどこか違和感を覚え、改めてその顔をジッと見詰める。

 

「えっ、あなた、アイリス?アイリスなの!?」

公母ライアの上げた声に、その場に残っていた兵士や使用人たちが驚きに目を見開く。

 

“シュイッ”

騎士の腰から引き抜かれたロングソードが美しい輝きを放つ。

 

「私は旧ダイソン侯爵家息女アイリス・ダイソン。

オーランド王国北西部貴族連合、南西部貴族連合とダイソン公国との不戦条約並びに同盟協定の締結交渉の為、両陣営の使者である先代グロリア辺境伯様の孫娘であるパトリシア・アルバート様、テレンザ侯爵家三男ロナウド・テレンザ様と共にまいった次第でございます。

公母ライア様におかれましては御機嫌麗しゅうございます。

お母様、この戦争は終わります、これ以上民の犠牲を出さない最良の方法で。

ダイソン侯爵家の代々の当主に伝わる家宝のロングソードが、私達を導いてくれます。

またいつかの様に、陽だまりの庭でお茶を楽しむ事が出来ますよ」

 

騎士はそう告げると剣を鞘に戻し踵を返す。

“バサッ”

翻った深紅のマントに刻まれたのは、ダイソン侯爵家に受け継がれる大鷲の紋章。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

去って行く騎士の足音が城内に響く。

残された者たちは、その後ろ姿をただ茫然と見送る事しか出来ないのであった。

 

――――――――

 

“タッタッタッタッタッタッ”

公家の者のみが知る秘密の通路を抜け地下室へと向かい、その先の倉庫に隠された脱出通路の解錠を行う。正式な手続きを踏む事で通路に仕掛けられた数々のトラップは沈黙し、避難者を安全に城外へと逃がしてくれる。

 

「ミネリオ大公閣下、お急ぎください。先程の衝撃音、敵は既に城門を突破したものと思われます」

ギランの掛ける声に、ミネリオは焦燥感を募らせる。自分たちを逃がす為に公城へと残った母ライア、母の無事を思うと胸が締め付けられる様に痛む。だが今更戻るなどという事は言えない、それでは妹マルネリアを危険に晒してしまう、それだけは何としても避けなければならない。

 

「お兄様、お母様が、ライアお母様が・・・」

「大丈夫だ、マルネリア。ライア母様は兄である私が必ずお助けする。

これまで私がマルネリアに嘘を言った事があったかい?」

そう言葉を掛けると首を横に振るマルネリア。

 

「その為には私達が安全に城を抜け出さなければならない。大丈夫だ、私達には多くの味方がいる、今は一時的に城を明け渡すが、直ぐに取り返す事が出来る。

そうすれば再びみんなで暮らす事も出来る。この兄が約束しよう」

「うん、お兄様との約束。マルネリア、お兄様の言い付けを守る」

 

マルネリアの頭を撫で、「いい子だ」と慰める。

「ミネリオ大公閣下、お早く」

ギランの叫びが聞こえる。私達は走る、必ずやこの城に帰って来る事を誓って。

 

「ハァッ、ハァッ、ミネリオ大公閣下、大丈夫ですか?もうしばらく進めば出口となります。その先を進めばバルカン帝国からの別動隊がミネリオ大公閣下を帝国まで無事に送り届けるべく待機しております。今しばらくの辛抱です」

ギランの言葉にホッと胸を撫で下ろした、そのときであった。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

地下通路の出口方向から聞こえる複数の足音。

 

「クソッ、既に気取られていたか。石火矢、放て。この距離なら外しようもないぞ!!」

“バッバッバッバッバッバン”

「キャッ」

地下通路に響く石火矢の発射音。あまりの音の大きさに、マルネリアが耳を抑え恐怖に身を縮める。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

「クッ、やはり効かんか、化け物どもめ。者ども、剣を抜け、ミネリオ大公閣下をお守りするのだ」

 

「安心なさい、ギラン。ミネリオ大公閣下にお怪我は負わせません。

戦争は終わりです、それとあなたの野望もね」

 

“カツンッ、カツンッ”

前方からやって来る騎士の容貌が、ライトの明かりにはっきりと映る。

 

「お前は、アイリス。公家の責任から逃げ出したばかりか、ダイソン公国に仇をなすか、この逆賊が!!」

予想外の人物、姉であるアイリスの登場に、怒りの声を上げるギラン。

 

「あら、随分な言い草ですこと。我が父シオン・ダイソンを謀殺せし実行犯、バルカン帝国と内通し、オーランド王国に反旗を示した反逆者。

アスターナ草原の戦場において、ダイソン公国国父デギン・ダイソンを殺害せし大罪人」

「クッ、何をでたらめな事を。国父デギン・ダイソン大公はオーランド王国の罠に嵌められるも、その身を危険に晒し我らを御救い下さったのだ。

英霊の働きを愚弄する事は私が許さんぞ!!」

 

ギランの叫びが地下通路に響く。だが姉アイリスは、そんなギランの態度に嘲笑を漏らす。

 

「えぇ、確かにあの時オーランド王国貴族バルーセン公爵は国父デギン・ダイソン大公閣下を罠に嵌めようとしました。

地下に隠していた複数の兵士、交渉の場に引き摺り出せれば直ぐに取り押さえられるとでも思ったのでしょう。

ですがそうはならなかった。デギン・ダイソン大公閣下は馬鹿ではない、ちゃんと次善策を用意なさっていた。

あれは結界術か何かでしょうか?周囲を結界で覆われたデギン大公閣下と周囲を取り囲むバルーセン公爵の将兵たち、事態はにらみ合いへと移行すると思われた時、それは放たれた。

 

精霊砲、その砲撃は大地を光の渦に飲み込み、全ての敵を一瞬にして焼き払ってしまった。あの攻撃の下に生き残れるものなどいない、そう思われる程の衝撃でした。

ですが違った、これも全てデギン大公閣下の戦略、結界に守られたデギン大公閣下は全くの無傷で生きていた。あの時点でダイソン公国の勝利は確定的であったのです」

 

そこで言葉を止めギランを見据える姉アイリス。

 

「次の二射目、あれは何だったのですか?すでに勝敗は決していた、デギン大公閣下の思惑通りに事は進んでいた、ただ一つギラン、あなたの裏切りを除いて」

「クッ、でたらめだ!!まるであの場で見て来た様な事を言って我らを惑わす気であろうが!

ミネリオ大公閣下、耳を貸してはいけませんぞ、この女は既にオーランド王国側のもの、全ては閣下を惑わす為の奸計なのです!」

 

動揺するかのようなギランの言葉、だが姉アイリスの話は続く。

 

「見て来た様ではなく、実際見ていましたよ?三射目を放とうとしていた精霊砲が、オーランド王国側の魔法攻撃で大破したところとか、その攻撃によりダイソン公国側が甚大な被害を受けた所とか。

ギランの計画では精霊砲の勢いを借り周辺地域に攻め入ろうとしていたのではないですか?その計画自体頓挫してしまい、此度の侵攻まで大人しくせざるを得なかった様ですが。

もしかしたらギランもケガを負ったのでしょうか?ポーションがあってよかったですね」

 

そう言いニコリと微笑むと、一歩ずつ歩を進める姉アイリス。

 

「クッ、来るな。お前の母親がどうなってもいいのか!我々はいつでもお前の母親を「城ごと爆破出来る、でしょうか?」、な、何故それを!?」

 

「フフッ、爆薬の処理に当たった者がぼやいていましたよ?数が多過ぎると。それと聞かれたのですが、何で爆薬の設置場所にワイン倉庫を選ぶのでしょう?ワインと爆薬を区別する暇がないので全部処分させていただいたと謝られてしまいました。

こちらとしても城を破壊されては堪りませんから、気にしない様にと言っておきましたが」

そう言い再び歩き始める姉アイリス。

 

「来るな~!!ミネリオがどうなっても「それと、国父殺しは大罪です。その罪を免れる事は出来ない。たとえその国父があなたと共に父シオン・ダイソンを殺め、ダイソン侯爵家を簒奪せしめた罪人(つみびと)であったとしても」な!?」

 

それはギランの耳元でささやかれた言葉、いつの間にかアイリスの腰から引き抜かれたロングソードが、ギランの心臓を刺し貫く。

 

“シュッ”

剣を引き抜かれ、その場に崩れ落ちるギラン。

何も見えなかった。時を切り落としたかのようなアイリスの動きに、言葉を失うギランの配下たち。

 

「さぁ、ミネリオ大公閣下、公女マルネリア様、ライア公母様がお待ちです、城に戻りますよ?

それとバルカン帝国の方々に申し上げます。

これよりダイソン公国はオーランド王国との不戦条約締結に向け動き出します。よって以降の増援はご遠慮いただきたい。

今後とも友好国としてより良い関係を続けて行きましょう。

それではごきげんよう」

 

アイリスは地下通路にいるバルカン帝国の兵士たちに一礼をすると、ミネリオ大公とマルネリア公女を伴いながら通路を城に向かい戻って行く。

兵士たちはその光景を、ただ茫然と見送る事しか出来ないのであった。




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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