転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第420話 勝利の塔の守り人 (10)

悪夢の夜が明ける。

 

「石火矢隊から報告、石火矢による攻撃の一切が効きません、敵の侵攻を止める事叶わず!」

 

それは戦場で起きた一夜の夢。

 

「爆薬投擲部隊から報告、敵、爆薬による影響は一切見られず。

爆炎の中を平然と進んできます!!」

 

決して認めたくない、そんな事実。

 

「魔導機構師団より報告、<ファイヤーボール>、<ウォーターボール>、<ウインドボール>、<マッドボール>による攻撃に効果なし。

<ライトボール>による攻撃で若干怯むそぶりが見られ、<ダークボール>にいたっては逆に進行の勢いが増す様にみられるとの事であります」

 

我がバルカン帝国の兵器が効かない?そんな事、認める事など出来るものか。

 

「精霊砲の射手に通達、光属性魔法だ、光属性魔法の魔力を込めろ。

その場にいなければ医療班から引っ張って来い、急げ!!」

 

数少ない情報を精査し、その中から最適解を導き出す。実力主義のバルカン帝国において、頂点に上り詰めようとする者がその程度の事が出来ずしてどうするというのか。

 

「敵の弱点は光属性魔法だ、精霊砲、発射用意、放てー!!」

“ブゥワーーーーーーーー!!”

 

闇夜が一瞬にして昼間に代わる。地上に落ちた天の日が、大地の全てを焼き尽くす。

“ズドーーーーーン”

激しい爆発音と爆風が天幕を揺らし、土煙を天高く舞い上げる。だが・・・。

 

「だ、駄目です、一時的な足止めにはなりましたが、再び進行を開始しました!!」

「ええい、撃って撃って撃ちまくらんか~!!」

東部方面作戦参謀長イワン・ビスコッティーの激しい怒声、兵士は動き、今再び精霊砲の洗礼が起きようとしていた、その時であった。

 

“あっ、ごめん。それ、なんか土埃が酷いから無しで。エッガード、吸っちゃって?”

何処からともなく聞こえた声、いや、頭に直接届いたこれを声と呼んでもいいのか?

“ブゥワーーーーーーーー!!”

 

放たれた精霊砲の光、だがその光の全てがある一点に集約し消えて行く。その地点にあるのは宙に浮かぶ卵型のナニカ。

 

「駄目です、接敵します!」

「ええい、総員、剣により応戦、敵の全てを叩き切れ!!」

 

『重装騎士団、前へ。道を拓け!!』

『『『『ウォーーーー!!』』』』

 

剣と剣、武と武、意地と意地とのぶつかり合い。

そこは血が飛び、肉が裂かれる地獄の戦場、だが倒したはずの敵が、しばらくすれば再び起き上がり襲い掛かって来る。

そんな敵に対し対抗手段を持たないバルカン帝国侵攻軍は、どんどんとその数を減らし、闇夜の悪夢に飲み込まれて行く。

 

「何なんだ、一体何が起こっているというのだ。私の軍勢が、バルカン帝国の精鋭が・・・」

 

『知りたいかね?ならば答えてやろう。貴殿にはこれまで何かと世話になったからな』

天幕内に突如響く第三者の声、その場にいた者が一斉にそちらに顔を向ける。

 

「き、貴様はデギン・ダイソン、アスターナの戦場で死んだのではなかったのか!?」

そこに現れた者は、夏の戦役で精霊砲により飲み込まれた筈のダイソン公国前大公デギン・ダイソン。

 

『あぁ、あれは見事な策であったよ。我の油断、ギランは決して我を裏切らないという過信。貴殿の部下と何度も接する機会のあるギランを、本人も気付かぬままその思考を誘導する。

本当に帝国の戦術は恐ろしい、そして見事の一言に尽きる。

我は貴殿の策に、帝国の底力に負けた、そういう事であろうな』

 

自嘲気味に笑う、デギン・ダイソン。であるのならば、なぜ死んだはずのデギンがこの場にいるのか。

 

「・・・死者を操る、死霊術、先程の声はその術者のもの?

いや、しかしこれほどの規模で、光属性魔法による精霊砲も効かなかったんだぞ!?」

 

『あぁ、いい分析であるな、流石は東部方面作戦参謀長イワン・ビスコッティーといったところか。

確かに我らは死霊には違いないであろう、だが何者かに操られてはおらんよ。我らがこの地におるのは全て我らの意思、国を守り、家族を守りたいが為の執念。

イワン殿、其方とは酒を酌み交わした仲である故忠告しよう。

我らを押し留められると思わぬ事だ。我らはこの仮初の生が尽きるまで、只管に突き進む。それこそが愛する者に残す事が出来る、唯一の生きた証であるからな。

さらばだ、イワン・ビスコッティー。いつの日か女神様の御下に至るその日まで、壮健であれ』

 

そう言い残し、姿を消していくデギン・ダイソン。

 

「クソッ、あと一歩、あと一歩というところで。

全部隊に告げる、撤退だ、急ぎイースタニアに向かうのだ。

既に被害は甚大、敵が死霊の類であれば夜明けと共にその力は弱まる。

それまでなんとしても逃げ続けるのだ。

急ぎ行動を開始せよ!!」

「「「「ハッ、イワン作戦参謀長閣下!!」」」」

 

決して死ぬ事の無い不死の軍団、それは既に命尽きた者たちの最後の思い。死に行く者が残す最後の愛。

 

悪夢の夜が明ける。

対オーランド王国侵攻軍のおよそ七割を失うという甚大な被害の下、バルカン帝国の侵攻作戦は瓦解する事となる。それはくしくも敵略奪部隊が奪っていった物資の割合と同じものであったという。

 

――――――――

 

奇跡の夜が明ける。失ってしまった、二度と言葉を交わす事の叶わぬと思っていた者との邂逅。

あの出来事はもしや自身の願望が見せた幻だったのではないか?

多くの者たちがそう思うも、自身と同様の体験をした者が次々に声を上げ、教会に殺到し涙を流し祈りを捧げる姿に、それが事実である事を再認識する。

ではあの出来事は何だったのか、去り際に残したあの言葉、最後の戦いとは一体。

多くの人々の心に残る疑問、それと同時に思う、愛する人は儚くなっても尚、自分たちの事を想い続けているのだと。

“幸せになって欲しい、生きてその生を謳歌して欲しい”

残された者たちに届けられた死者の願い、国の為、愛する者達の為に散っていった彼らの為にも、自分たちは今のままではいけない。

 

人々は祈る、死んで行った者たちの魂の安寧を。彼らが安らかな眠りに就けるように、彼らを不安にさせない為に。

オーランド王国に起きた“奇跡の夜”、その日を境に荒れに荒れていたオーランド王国国内の治安は、みるみる内に回復していく事になるのであった。

 

――――――――――

 

ダイソン公国公城、その城前に集まる三十騎の騎兵たち。

そんな彼らに執事長マクベスは慇懃に礼をしてから言葉を掛ける。

 

「この度は我らダイソン公国の為に、寛大な御心配りをいただき誠にありがとうございました。

しかし我が城にあれ程多くの間者が潜まされていたとは、使用人を束ねる者として、汗顔の至りでございます」

 

「それは私もでございます。まさか最も信頼を置いていた主任ララベルまでもが帝国の者であったとは。

自身の人を見る目の無さに、言葉もありません」

メイド長のクララは自身の失態に力なく俯く。

 

調印式の後、公城内の全ての使用人、衛兵が一つの部屋に集められ、アルバート子爵家の使用人たちにより面接と称したある試験が行われた。

そこで行われたものはいたって単純な事、一人一人を別室に呼びお茶を一杯飲ませた後、いくつかの質問をするだけといったもの。

その場に居合わせた執事長マクベスとメイド長クララもそのお茶を飲んだが、味も良く、気持ちがすっきり落ち着くといったほかに特別何かがあるといったものではなかった。

だがその面接により次々と発覚する間者の存在、その人数は集められた者の三分の一にのぼり、如何にダイソン公国がバルカン帝国の支配下にあったのかという事を示す事となったのである。

 

「両人共よさぬか、これからオーランド王国王都へと向かわれるアイリス様にご負担となってしまうであろうが。

公国の中枢を担っておったギラン殿が帝国の者を引き入れていたのだから致し方あるまい。

そのギラン殿も帝国の手で散った、自業自得であるとは言え、この光景を見れなんだ事は無念であろうな」

グラン司令官は今は亡きギラン作戦参謀司令官の事を想い目を瞑る。

 

「そうですね、彼はダイソン公国の事を一番に考えていた功労者、常にミネリオ大公閣下の事を考え行動していたと聞きました。

本当に惜しい方を亡くしてしまいました」

旧ダイソン侯爵家息女アイリス・ダイソンは、ダイソン公国の忠臣の死を悼み、同様に黙祷を捧げた。

 

作戦本部総司令ギラン・ザビエールの死は、帝国の間者による凶刃からミネリオ大公閣下を身を挺し守ったという形で処理された。

ダイソン公国の中枢の人物が国父を殺し摂政の座に就いていたなどといった醜聞が知れる事は、ダイソン公国の求心力の低下に繋がるとの判断の下、英霊として取り扱うものとしたのである。

 

「では姉上、オーランド王国王家との折衝、その判断の一切をお任せいたします。どうかご無事で」

「ハッ、必ずやミネリオ大公閣下の望む形へと交渉を進めてまいります。

ダイソン公国の民の為、残された家族の為、そして散っていった英霊の為、旧ダイソン侯爵家息女アイリス・ダイソンとして死力を尽くします」

 

互いに見詰め合う姉と弟、アイリスは跪き深く礼をすると、さっと立ち上がりそのまま馬上の人となる。

 

「出立!!」

“バサッ”

旗竿に掲げられた三色の長旗が風に踊る。赤・青・白、それぞれの旗が澄み渡る青空に力強く靡く。

 

「「「「自由、ダイソン、自由、ダイソン、自由、ダイソン」」」」

公城から公都東街門へと向かう大通りには数多くの民衆が詰め掛け、大きな歓声と共に騎士たちを見送る。

 

「行かれてしまわれましたな」

彼らが去って行った壊れた城門を見詰め続けるミネリオ大公に、言葉を掛ける執事長マクベス。

 

「そうだな。本当に厳しい戦いはこれから行われる王都バルセンでの交渉、あの場には我が国を恨む多くの貴族がいる。欲にまみれた者たちの策謀が渦巻く場所、それが王都であり王城、我に出来る事は姉上の無事を祈り待つ事のみ。

ならば我々がなすべき事はこの戦により傷付いた民の為により良い治世を齎す事。

マクベス、各官僚並びに軍属を集めよ。国内の問題点を洗い出す。

姉上が戦っているのだ、我々が安穏とその帰りを待つ訳にはいかんからな」

「ハッ、ミネリオ大公閣下の思し召しのままに」

 

一つの戦いが終わりを迎えた。時代は動く、残された者たちも動き出す。

逝ってしまった者たちの思いを無駄にしない為に、よりよい未来を掴み取る為に。

執事長マクベスは城内へと戻るミネリオ大公を見送った後ふと視線を上げる。そこには城の尖塔の先端に掲げられた深紅の旗が澄み渡る青空の下力強くはためいている。

それはこれから進むダイソン公国の未来を象徴しているかのようであった。

 

――――――――

 

アスターナ男爵領草原地帯、多くの将兵が散り、大きく地形の変わってしまったそこは、アスターナの戦場と呼ばれる様になっていた。

 

そんなアスターナの戦場に三十騎の騎兵団が現れた二日後、事態は大きく変化する事となった。アスターナに集まっていた万を超えるダイソン公国軍が次々と撤退を始めたのである。

最終的にその場に残されたのは防衛部隊と目される少数の兵士たちのみ。

オーランド王国貴族軍現場指揮官であるロベルト・エラブリタイン伯爵は、その動きに彼らが終戦交渉を成し遂げたのだと直感した。

 

それから二日後、三十騎の騎兵団は再びアスターナの地に現れた。

 

「現場指揮官であるロベルト・エラブリタイン伯爵閣下はおられるだろうか。

私はアルバート子爵家騎士団所属、ケビン・ドラゴンロード。エラブリタイン伯爵閣下に此度の交渉の結果をご報告申し上げたいのであるが」

 

司令部の天幕に現れたのは、背中に旗竿を携えた騎士であった。

その者は旗竿を抜き別の騎士に手渡すと、馬を降り、騎士の礼を行ってから報告を始めた。

 

「田舎者故無作法がありましたらご容赦願いたい。私はケビン・ドラゴンロード、閣下とは以前マルセル村にてお会いした事があったかと。

あの時はまだ授けの儀が終わったばかりのもの知らずであった為、大変ご無礼をいたしました。改めてお詫びいたします」

そういい頭を下げた騎士の姿に嘗ての記憶が蘇る。それは身の丈を遥かに超える多頭ヒドラの姿、そして二体の地這い龍。

恐怖の心が蘇り、ブルブルと身を震わせる。

 

「あぁ、嫌な事を思い出させてしまいましたか、大変申し訳ない。でしたらこちらを、キラービーの蜂蜜と我が村で育てました豆から作りました蜂蜜きな粉飴でございます。

上品な甘さが気持ちを穏やかにしてくれますよ」

そう言い差し出してきたのは小瓶に入ったきな粉飴。エラブリタイン伯爵はその蜂蜜色の飴を一口口に含む。

口腔に広がる力強い甘さが、ざわついた気持ちを落ち着けてくれる。

これは良い物をいただいたと、目の前の騎士に礼を言うエラブリタイン伯爵。

 

「いえ、それは自家製のものですのでどうぞお気になさらずに。

それで此度の交渉の結果について申し上げます。

オーランド王国北西部貴族連合・南西部貴族連合とダイソン公国の間に、無事不戦条約が締結されました。

またこの三勢力は条約締結をもって同盟を結び、オーランド王国王家にダイソン公国との不戦条約の締結とダイソン公国の承認を求めるものといたします。

これは北西部貴族連合・南西部貴族連合・ダイソン公国の総意であり、我々はその使者として王都バルセンに向かうものであります」

 

騎士ケビン・ドラゴンロードの宣言、それはアスターナの戦場で万の兵力を相手にたった三十騎で勝利した騎士団の進行。

ロベルト・エラブリタイン伯爵は先程とはまた違った恐怖に、背中に冷たい汗が流れる。

 

「あっ、安心してください。今度向かうのは王都ですから、こんなに大勢では押し掛けませんので。

我らの代表である三英雄とアルバート子爵家騎士団の五名ですね。

他の騎兵の者はこのままアルバート子爵領への帰路に就きます。

この戦争は王家との条約締結をもって終戦となります。エラブリタイン伯爵閣下が無事任務を終えられます様に我々も全力を尽くしますので、王都からの吉報をお待ちください」

 

騎士ケビン・ドラゴンロードはそう告げると再び馬上の人となった。

一年に渡る戦争が終わりを迎える。ロベルト・エラブリタイン伯爵は確信にも似た思いで、その場を離れていく騎士たちを見送るのであった。

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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