転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第422話 村人転生者、裏方に走る

「お母さんただいま~、ミッシェルちゃんただいま~、アナさんただいま~。アナさん、色々ありがとうね」

 

玄関を開き大きく声を掛ける。その声に家の中からバタバタといった足音が響き、家人が顔を見せる。

 

「お帰りなさい、ケビン。無事に用は済んだみたいね。それでお父さんはどうしたのかしら?」

「あぁ、お父さんはまだ王都に向かってる最中じゃないかな?最後の交渉が終わってないからね。

でもしばらくしたら帰って来ると思うよ?今回は前のランドール侯爵領戦役と違ってどこかに凱旋しないといけないって事も無いし、俺が迎えに行くつもりだから」

 

俺の言葉に少し寂しそうな表情を見せるも、直ぐに明るい顔に戻る母メアリー。父ヘンリーが危険な任務に就いている事を察しているのだろうが、その様な心配を子供に見せまいと気丈に振る舞っているのだろう。

 

「ケビ、かえり。みゃ~げは?」

トテトテとやって来て、足にしがみ付いてから上目使いで首を傾げるミッシェルちゃん。

あざとい、めっちゃあざとい。でもこの歳の幼子にそれをやられると、自然口元がにやけてしまう。たとえその言葉の意味が“ケビン、我への献上物はいずこであるのか?”であったとしても全て許せちゃうくらいの破壊力がですね~。

 

「ごめんねミッシェルちゃん、お仕事だったからお土産を買う余裕がなかったんだよ。

そうだ、代わりにミッシェルちゃんに遊び相手を紹介してあげるね。

エッガード、カモン!」

“ズイズイズイ”

 

俺の影が床に伸びる、そしてその中から大きな卵が姿を現す。

大人の腰丈ほどもある卵の出現に目を丸くする母メアリーとアナさん。

そしてただ一人目を爛々と輝かせるミッシェルちゃん。

 

「こいつの名前はエッガード、見ての通りの卵だね。

でもただの卵じゃないんだ、凄く丈夫な上に自分で動けるんだよ。

しかもプカプカ浮く事も出来る。

エッガード、横になって浮いてくれる?」

俺の言葉にふわりと浮かび上がり、体勢を横向きにする巨大な卵。

俺はミッシェルちゃんの両脇を掴むと、ひょいとエッガードに乗せてあげる。

 

「こんな感じに乗る事も出来るんだよ。

エッガードはちゃんと人の言葉も分かるから、お願いすればその方向に進んでくれたりするよ。

エッガード、ミッシェルちゃんのお友達になって貰ってもいいかな?」

俺の問い掛けにブルブルと身を震わせて答えるエッガード。

ミッシェルちゃんのテンションは爆上がり、エッガードの殻をバシバシ叩いて「まえ、まえ!!」と叫んでいます。

 

「ケビン君、大丈夫なの?ミッシェルちゃんが落ちたりしたら・・・」

その様子を心配そうな顔で見詰めるアナさん。アナさんって結構な心配症?まぁ当然な反応だとは思うけどね。

そんな大人たちが心配する矢先に、興奮しエッガードの上で立ち上がろうとしてコロンと床に落ちるミッシェルちゃん。

 

「「キャッ!」」

突然の事に声を上げる母メアリーとアナさん、でも大丈夫、エッガードには俺が魔力操作をバッチリ叩き込んでいるから。

床に激突すると思われたミッシェルちゃんは、何か見えない手にでも掬われたかのようにふわりと浮き上がり、ゆっくりと床に腰を下ろしたのでした。

 

その様子にお口あんぐりのお二方に対し、満足気に頷く俺氏。

子供の内からの体幹訓練って重要だって言いますし?普段はバランスの悪い卵でいざという時のフォローも出来るエッガードさんは知育玩具としては最適ではないかと。

 

「ケビ、だっこ、だっこ!」

ピョンピョン飛び跳ねて再度のエッガードチャレンジを要求するミッシェルちゃんを、「はいはい、ただいま」と言って横倒しの卵に乗せてあげる。うん、超楽しそう。

ミッシェルちゃん、前々から騎乗する生き物を欲してましたからね。

父ヘンリー、パッパン号はお役御免かもしれませんよ?

帰村したらショックで落ち込むかもしれない、その時は母メアリーに慰めて貰ってください。

 

「そうそう、二人にお願いがあったんだよ。

お~い、入って来てくれる?」

“カチャッ”

扉を開けて入って来たのはムスッとした目をしたケイト。家の外で待たされたことに御冠の様です。

 

「ごめんて、忘れてたわけじゃないから、本当にごめんなさい。

えっと、ケイトなんだけど、今ザルバさんってヘンリーお父さんたちと一緒に王都に向かってるだろう?

ザルバさんが帰って来るまで家で一人ってのも寂しいだろうから、うちで預かって貰えないかと思って。

あと俺って、この後まだ色々仕事があってさ、また出掛けないといけないんだよね、本当に申し訳ない。

多分帰って来るのはお父さんたちと一緒になるかな?今回は村の人たちを送って来ただけだからね。

お母さん、お願い出来る?」

 

「お義母様、不束者ですが、よろしくお願いします」

俺が話を終えるや速攻言葉を添えるケイト。ケイトさんや、いまお母様じゃなくてお義母様って言ってなかった?

この御方もぐいぐい来るな~。

 

「ケビン、あなたどうするのよ?そりゃお母さん、前にあなたをけしかけるようなことを言っちゃったけど・・・」

そう言いチラリと横を見る母メアリー。そこには互いに見詰め合うアナさんとケイト。

自己呪いの師弟として、共に迫害されし過去を持つ者として。

思う所は色々とあるのだろう。

 

「ケイト、以前のあなたはこのマルセル村しか知らなかった。だからまるで雛鳥が親鳥を追うかのようにケビンを追い掛けていた。

でも今のあなたは違う、領都学園という外の世界を知る事で世の中を知った、様々な人々との出会いがあった筈。

それでもこの辺境の地マルセル村に帰って来るというの?

あなたほどの力があれば未来は思うがままなのよ?」

 

優しく、そして諭すように語り掛けられたアナさんの言葉。

 

「フフッ、愚問ですよ、師匠。私の家は嘗て王都で貴族をしていたとか。

嫉妬や嘲笑、権力に対する執着がいかに醜く恐ろしいものであるのかなど、嫌というほど学んで来た。

この村にいる者の多くがそうした者、その事は師匠の方が良くご存じなのでは?

確かに私は外の世界、外の人々、社会の仕組みというものを知らなかった。だから学んだ、学習し観察し、積極的に溶け込んだ。

その上でマルセル村に、ケビンの下に帰る事を望んだんです。

元より私に他の望みなんてないんですけどね、広く世界を知って欲しいというのも彼の望みでしたから」

 

そう言い俺の方を向いてニコリと微笑むケイト。その聖女様の様な微笑み、超恐いです。

 

「そう、ケイトの覚悟、受け止めさせていただいたわ。これからもよろしくね」

そう言い柔和な笑みで手を差し出すアナさん。それは母なる海の様に懐の広い慈しみの笑顔。

 

「はい、よろしくお願いします、師匠。いえ、アナスタシア。

そうそう、知ってました?普人族でも魔力の多い者、大賢者や大魔導士と呼ばれた者は長寿であったとか。

更に言えば覇気の使い手の女性は何時までも若々しく美しい身体を保つ事が出来るんだそうです。

種族特性の優位性は、人の努力で容易に覆す事が出来る。本当に素晴らしい事ですよね。

ケビン、これからも私に修行を付けてくださいね、いつまでも共に在る為に」

 

アナさんと確りと握手を交わしながら、俺に微笑み掛けるケイト。そんなケイトに目を見開き先程までの聖母の如き余裕を失うアナスタシア。

コエ~、女のマウントの取り合い、超コエ~!!

アナさんもアナさんで“ケイトはいずれお婆ちゃんになっちゃうけど私はいつまでも若いのよ、だってハイエルフですもの、オホホホホホ”って考えてたって証左じゃん、余裕の源泉がそこだったって事じゃん!!

 

「メアリーお母さん、お貴族様って凄いんだね。

前にデイマリア様に聞いたんだけど、正妻と側室の争いだったり、第一夫人、第二夫人、第三夫人の後継者を巡る争いって本当にドロドロとした陰湿なものらしいよ。

“ケビン君もいずれ直面するだろうから覚悟しておいた方がいいわよ”って言われた時は笑って誤魔化しておいたけど、目の当たりにすると胃が。

 

その点ドレイク村長って凄いよね、ミランダ師匠とデイマリア様って凄く仲がいいの。

アレってドレイク村長の気配りの賜物だよね、俺まね出来る気がしないんだけど・・・」

 

「あ、うん。いずれにしろあの二人はぶつかり合っただろうし、ケビンの胃がやられたのは避けられなかったと思うわよ。

あの子達、それぞれとてもいい子だから大事にしてあげなさいね。

愚痴ならお父さんが聞いてくれると思うから」

「ハハハ、その時はお願いするわ」

 

俺は近い将来訪れるであろう父ヘンリーとのサシ飲みを思い浮かべ、ガックリと肩を落とすのでした。

 

――――――――――

 

喧騒漂う王都の歓楽街、国内の内乱により世の中に暗い影が落ちようともこの場所は異界、人々の欲望は決して消える事はなく、その欲望を糧とする街から明かりが消える事はない。

ここはそんな歓楽街でも他とは一線を画す場所、紳士の社交場“倶楽部雪の雫”。完全会員制であり会員の紹介無しには利用する事すら出来ず、その利用にも審査がいるといった超高級娼館である。

過去に己の権力で強引に入り込もうとした貴族がその家ごと取り潰しになり、本人はスラム街で生涯を閉じたといった逸話は王都では語り草になっているほど。

そんなある種聖域の様な場所の更に奥、関係者でもごく一部の者しか知らないその場所に、その者たちは集まっていた。

 

「ダイソン公国が北西部貴族連合・南西部貴族連合と不戦条約を結んだ。

奴らはこの条約締結をもって同盟関係を結んだとし、三勢力の総意として王家に対しダイソン公国の承認と両国間の不戦条約締結を迫るとの事だ。

現在その使者が王都に向かっている。

この知らせはアスターナに常駐している現場指揮官のロベルト・エラブリタイン伯爵から齎されたものだが、王家はこれを直ぐに各貴族家に通達、本日王城にてオーランド王国の意思決定を行うべく会議が開かれた。

 

無論会議は大混乱であったよ、各貴族家からは猛反発が起きた。

その筆頭は当主であるセオドア・フォン・バルーセンを(うしな)ったバルーセン公爵家、次期当主であり長男のオルセナ・バルーセン公爵代行。

オルセナは共に不戦条約締結に反対する貴族を率い王家に徹底抗戦を求めた。

だがそこに待ったを掛けた連中がいた。

(くだん)の北西部貴族連合を率いるタスマニア・フォン・グロリア辺境伯と南西部貴族連合を率いるスコッティー・テレンザ侯爵、それと南部貴族連合を率いるリットン侯爵家次期当主デリルブル・リットン侯爵代行。

これによりオーランド王国はほぼ真っ二つになったと言ってもいい状況になった。

 

これに対し国王ゾルバは結論を先延ばしにし、「此度の使者の来訪を謁見の間にて迎える。条約締結に反対の者はその場で意見を述べよ、反対する者が半数に達するようであればオーランド王国の長として徹底的に戦う」と宣言した。

これにより会議は終了となったが反対派貴族がこれで収まるはずもない、その様な者たちが王都に来る事自体許せない、その前に制裁を与えるべきであるとな。

 

そこで我々に依頼が来たという訳だ。

この話はこれ迄の依頼の比ではない大仕事、相手はアルバート子爵家騎士団だ。

例の“高位冒険者潰し”のアルバート子爵家だよ。

鬼神ヘンリー、剣鬼ボビー、ランドール侯爵家とグロリア辺境伯家のぶつかり合いで名を博した両騎士を倒して名を上げようとした冒険者共が軒並み返り討ちに遭ったアレだ。

その話には笑わせてもらったが、所詮は田舎騎士と高を括っていたのだがな。

グルセリア支部からの報告では“決して手を出してはいけない”との事であったか。

“料理長”らしい慎重さではあるが、如何せんあ奴は慎重に過ぎるところがあるからな」

 

そう言い周囲の者を見渡す男性、彼は自慢の髭を摩りながら意見を求める。

 

「私はこの件から手を引くわ。単純に分野違い、私の得意分野は内からの切り崩しや篭絡からの暗殺よ。

今回みたいな表立っての力技は苦手なの」

そう言い妖艶な笑みを浮かべる女性、その姿に周囲の者は“よく言う、この鬼蜘蛛が”と鼻白む。

 

「“伯爵”、俺にやらせろ。近頃全力で暴れる事が出来なくてウズウズしてたんだ。

いいんだよな?周りの被害とか気にしなくて」

「あぁ、その辺は依頼人たちがどうとでもしてくれるであろう。奴らは自分たちを笑い者にしたダイソン公国・北西部貴族連合・南西部貴族連合に一泡吹かせたいだけであるからな。

使者が来なければ国王も動かざるを得ない、そう踏んでいるのであろうよ」

 

「よっしゃ~、それじゃこの件はこの“暴虐”が貰った、文句のある奴はいないだろうな!」

一際体躯のよい者が立ち上がり、そう叫んだ時であった。

 

「あぁ、それ、ちょっと困るんだよね~。それをやられちゃうと折角のお祭りが台無しじゃない?

まぁ英雄譚の前座としては一波乱あっても面白いだろうけど、多分鬼神ヘンリーとか剣鬼ボビーとかが張り切っちゃうと思うんだよ。そうなると折角の三英雄の影が薄くなっちゃうって言うか、観客としてはいただけないかな?

 

今回は中々見どころ満載のいい舞台だったし、偶にはこういう英雄譚も楽しみたいじゃない?

だから君たちにも大人しくしていてもらいたいかな~って思うんだよね」

 

その声は部屋の片隅から聞こえて来た。

その場にいる者全員の視線が注がれる、そこには椅子に腰掛け優雅にティーカップを傾ける黒いフードを被った全身黒ずくめのナニカ。

瞬間全ての者が攻撃を仕掛けようとするも、自身の身体が全く動かない事に気が付く。その身は小刻みに震え、まるでドラゴンに睨まれたビッグラットの様に呼吸すらもまともに出来ない。

 

「やぁ、初めまして。僕の事はジェンガのギルマスかグルセリアのギルマスあたりから聞いてるんじゃないかな?

いや~、君たちの組織は素晴らしいね~。他国とも繋がっていて横の連携も完璧。お陰で今回の祭りをより深く楽しむ事が出来たよ」

そう言いパチパチと手を叩くナニカ。

だがその場の者はその言葉の意味を理解出来ない、思考と心が恐怖に染められ、全ての言葉がただの音としてしか入って来ない。

 

「う~ん、反応が悪いな~。ちゃんと話を聞いてくれないと、王都ごと滅ぼしちゃうよ?

でもな~、それだと舞台の最後が見れないし、どうしよう。

ねぇ、シャドームーン、どうしたらいいと思う?」

「ご主人様、少々気配が漏れ過ぎではないかと。いくらこの場に結界を張っているとはいえ、この者たち如きには少々荷が勝ち過ぎるのではないかと愚考いたします」

 

それはいつの間にかナニカの後ろに控えていたメイドの言葉。

今の今までその存在に誰一人気付く事が出来なかった者の助言。

 

「え~、だってこの人達オーランド王国の暗殺者ギルドを取り仕切る最高幹部だよ~、人間辞めちゃってるって言われてる人たちだよ~、今の僕なんてその辺のワイバーンと変わらないよ~?」

「申し訳ありませんご主人様、ご主人様が基準とされているワイバーンはフィヨルド山脈のワイバーンでございます。あれは一般的に厄災とされている部類のもの、世間一般のワイバーンの遥か上位種と呼ばれるものでございます。

この者たち相手であれば、大森林のトカゲ程度で十分かと」

 

「・・・うそ、えっ、嘘だよね?ねぇ、嘘って言って!」

そう言い“暴虐”に詰め寄るナニカ。暴虐はそのまま白目をむきその場に崩れ落ちる。

 

「うっそ~ん、化け物揃いって聞いたから色々考えて来たのに~!!」

“バタバタバタ”

ナニカの叫びに次々と倒れ伏す者たち。ナニカは一人頭を抱え、「僕の謎の強者ムーブのプランが~」と天井に向かい叫び声を上げるのでした。

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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