「はい、皆さん注目。
え~、本日三英雄を含むアルバート子爵家騎士団の方々が、ここ王都バルセンに到着いたします。
この三日間、皆さんがダイソン公国の戦争が終結した事、その終結に北西部貴族連合・南西部貴族連合が深く関わっている事、その代表である三英雄が王城へと最後の条約締結の為に向かっている事、その条約締結によりオーランド王国に再びの平和が訪れるといった噂を流して下さったお陰で、王都はかなり三英雄に対し好意的な雰囲気に包まれています。
王都市民にとって戦争で誰が勝とうが基本どうでもいいのです、自分たちの生活が保たれ、日常の憂さが晴らせさえすれば。
市井の者は噂話で簡単に身の置き所を変える、これはオーランド王国の歴史と貴族政治が証明していますから。
但しこれは市井の者の話、実際に身内を喪った者の中には深い憎しみに囚われている者もいるでしょう。そうした者の暴走を事前に抑えるのが、我々裏方の仕事です。
皆さん、休暇はお仕舞です。と言うか十六夜は恋愛小説を買い込み過ぎです。満月と新月はどんだけお酒を買ったんですか、お給料全部使っちゃってませんか?
確かにマルセル村では使い道なんてありませんけど、お金は大事ですからね、計画的に使ってくださいね。
更はもう少し遊んでもいいからね、今度アルバート子爵家のメイドさんたちの交流会に顔を出して、メイドさん方の休日の過ごし方を教わってみてね」
王都の入り組んだ路地裏、その一角に集まる謎の集団。その場には似つかわしくないメイド服や執事服といった姿の者たちは、自らの主人である黒衣の者の言葉に真剣に耳を傾ける。
“シュタンッ”
突如その場に現れた大型犬サイズのブラックウルフ、黒衣の者はそのブラックウルフの頭を優しく撫でると、「太郎、ご苦労様。それじゃブラッキーと残月を出してくれる?」と声を掛ける。
“ニュイッ”
ブラックウルフの影が横に伸び、その中から体躯の大きな黒いフォレストウルフと執事服を纏った女性が姿を現す。
「ご主人様、三英雄並びにアルバート子爵家騎士団の皆様方の護衛任務、無事終了いたしました。
皆様方は間もなく王都南街門に到着するものと思われます」
そう言い深々と礼をする女性執事、その脇では大きな黒いフォレストウルフがお座りをして頭を下げる。
「ご苦労様。残月にはもしもの場合の連絡役を務めて欲しいから、<短期雇用契約>を「<長期雇用契約>でお願いします」・・・それじゃ、<長期雇用契約>を結んでおくね。
<長期雇用契約:残月>」
両者の間に繋がる何か、女性執事は主人との間に結ばれた確かな絆に、満面の笑みを浮かべる。
「ご主人様、私とも<長期雇用契約>を」
「だからこれは魔物専用なの、月影は人種でしょうが、無理なものは無理なの、何度も試したでしょう?
それと“改造人間になればあるいは”ってのはなしだからね、本気で止めてね!!」
物凄く悔しそうにするメイドにドン引きするも、黒衣の者は改めて全員に指示を出す。
「はい、全員が揃ったところで改めまして。
え~、今回の祭りは本日が最後となります。大事な場面ですので、皆さん気を抜かずにお願いします。
恐らくですが民衆に紛れ襲い掛かって来る者たちが複数組いるものと予想されます。これは理屈ではなく感情ですので止めようがありません。
皆さんはそうした者たちを押し
こちらは全体の演出を行いますので、細かな判断は各自にお任せいたします。
それでは散開してください」
“バッ”
黒衣の者の言葉にその場から消える面々。
「太郎とブラッキーにはご褒美のエクアドルラの内臓肉を用意しておいたから、俺の影の中で休んでいてくれる?
太郎は用件が済んだらジミーの所に戻すからね、それまでゆっくりしておいて」
“ニュイッ、ニュイッ”
黒衣の者の言葉に嬉しそうに影に潜っていく二匹の獣。
「さて、それでは始めますか。<出張:団子>」
黒衣の男が呟く、それと同時に地面に描かれる光輝く魔法陣。
緑色の光と共に一陣の風が吹き荒れる。次の瞬間、子供の背丈ほどもある大きなホーンラビットが、手に杖を持ち二足で立ち上がった姿勢で姿を現した。
「団子、頼めるか?」
“キュキュッ、キュイ!!”
団子と呼ばれたホーンラビットが手に持つ杖を大きく天に
「よし、ここからが大事だからな。
団子先生、タイミングの調整とスポットライト位置、それと雲を散らす際の合図は俺が出すから、微調整の方よろしく」
“キュキュッ”
黒衣の者は任せろとばかりに胸を張るホーンラビットを抱き抱えると、一瞬にしてその場から姿を消す。
裏路地にはまるで初めから誰もいなかったかのように、ただ静けさだけが広がるのであった。
―――――――――――
その日の王都はある種異様な雰囲気に包まれていた。
王都南街門、その前に立ち塞がる様に隊列を組む騎士たち。
それは王都を守護する王宮第一・第二・第三騎士団の姿であり、各貴族家の騎士団と騎兵たちの姿であった。
「皆の者、聞けい!!
これは我らの誇りを掛けた戦いである。
此度の内戦、我らは国を守る要として参戦を許される事はなかった。
だが国を思い、国を憂う心は、散っていった同胞と何ら変わらない。
国王陛下は仰られた、「此度の使者の来訪を謁見の間にて迎える。条約締結に反対の者はその場で意見を述べよ、反対する者が半数に達するようであればオーランド王国の長として徹底的に戦う」と。
だがそれでは遅い、遅いのだ。
逆賊と手を組み、その存在を承認した者どもをどうして国王陛下の御前に立たせることが出来ようか。
否、断じて否である!!
国王陛下は「反対する者が半数に達するようであればオーランド王国の長として徹底的に戦う」と仰って下さったのだ。
それはすなわちこの場に集いし心ある臣下の意思をくみ取って下さるとのお言葉に他ならないのだ!
今こそ我らの忠誠心を示す時、オーランド王国の旗の下、我らの正義を貫くのだー!!」
「「「「「オォーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」
“ピカーーーーッ、ゴロゴロゴロゴロゴロ”
轟く雷鳴、王都を覆う暗雲。
人々は漸く訪れた平穏が再びの戦渦に巻き込まれるのではないかと、心をざわつかせる。
かくして、その一団は現れた。
先頭の者の背に括られた旗竿、そこに掲げられた三色の長旗が風に暴れる。
「我が名はギース、アルバート子爵家騎士団所属騎士、ギース・ブレイド!!
我々は北西部貴族連合の使者としてパトリシア・アルバート嬢、南西部貴族連合の使者としてロナウド・テレンザ様、ダイソン公国の使者として旧ダイソン侯爵家アイリス・ダイソン嬢と共にオーランド王国王家に対し戦争の終結とダイソン公国の承認を求め交渉に参った使節団である。
王都バルセン南街門前に集いしオーランド王国の忠臣の者たちに告げる。
戦いは終わったのだ、これ以上の血は不要、その様なものは誰も求めていない!!
この一年で国内は乱れ、多くの民が苦しんだ、これ以上の犠牲を生む事は王国の誰も望んではいない。それは散っていった者、国の為、愛する家族の為に命を捧げた者を冒涜する行為に他ならない!!
お前たちも見たはずだ、聞いたはずだ!!
彼らの思い、彼らの言葉、彼らは皆残された者の幸せを願って旅立って行ったのではないのか!?
矛を収め、道を開けられよ。
その勇気ある決断を笑うものなど、何処にもいはしないのだ。
己の信念を示されよ!!」
その大きな声はどこまでも強く、南街門前に待ち構える騎士たちの下に届けられた。
彼らの脳裏に蘇ったのはあの奇跡の一夜の出来事、二度と会えないと思っていた肉親との再会、再び見る事の出来た友の笑顔、そして覚悟を決め旅立って行った英霊たちの後ろ姿。
「えぇ~い、何をしておるか!あの様な逆賊の戯言に心乱されおって、それでも貴様らは誇りあるオーランド王国の騎士であるのか!!
王宮第一・第二・第三騎士団、我らが騎士とはどういったものか、その範を示す!
皆の者、我に続けー!!」
「「「「「オォーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」
騎士団長の号令の下動き出した王宮騎士団、その完成された武力が僅か八騎の騎馬を飲み込まんと迫ろうとした、その時であった。
「ほう、面白い。王国最強と謳われる王宮騎士団、存分に堪能させてもらおうか」
“ズウォッ”
鬼神が笑う。
「のうヘンリーよ、儂らの分もちゃんと考えておるのじゃろうな?
いつぞやのスタンピードの時の様に、独り占めは許さんぞ?」
“ブワッ”
剣鬼が遊ぶ。
「あぁ、すみません。第二騎士団は私に譲って下さいませんか?彼らとは少々縁がございまして。特に団長と副団長、あの二人にはよくよくお世話になったのですよ」
“ズズズズズッ”
執事がほくそ笑む。
「対人戦か、かつては最強と呼ばれた事もあったんだが、随分弱くなったからな~。勘を取り戻すにはいい機会かもしれんな」
“グワッ”
閃光が微笑む。
「王都か~、いい思い出無いな~。とっとと終わらせてマルセル村に帰ろう。えっと、取り敢えず全部ぶった切ればいいんだよね」
“ズオンッ”
旗持が肩を竦める。
いま、辺境の修羅が解き放たれる。
機会は与えた、それを蹴ったのは自分たちだ。
膨れ上がる膨大な覇気、高まる強大な魔力。それは互いに絡み合い、新たな力へと昇華する。
「「「「「<覇魔混合>」」」」」
“ビカーーーーーッ、ドドドドドドド~~ン”
王都南街門前を照らしだす閃光、激しい落雷が樹木を裂き、炎で包み込む。
“““““ヒヒ~~~ンッ”””””
軍馬として調教された筈の魔馬たちが恐慌に震え、騎乗する者を振り落とし暴れ出す。
隊列を組んでいた騎士たちはパニックに陥り、馬から振り落とされ気を失う者、馬上で身を縮こまらせ恐怖に震える者、訳も分からず走り出す者。
最早それは騎士団と呼べるものではなく、唯々恐怖に逃げ惑う烏合の衆。
「さぁ、互いに準備は出来た様だな、存分にやり合おうじゃないか」(ニッチャ~)
「「「「「ヒィーーーーーー!!」」」」」
地位、名誉、名声、矜持、そんなものが何になる。
目の前に迫る確実な死、勝算も無しにそんなものに飛び込むのは阿呆のやる事だ。
「ヒィーーーー、も、者ども、向え、向うのだ!!正義の刃を突き立てるのだ!!」
「ほう、まだ生きの良さそうなのがいるじゃないか。そうだよな、戦いは年齢じゃない、心意気だよな~。
さぁ、存分にやり合おう」
それはいつの間にか自身の真横に現れた巨漢。双角のヘルムから覗く狂気に満ちた眼光、大きく愉悦に歪んだ口元、こいつは普通じゃない、騎士でもなんでもない、人の形をした狂気そのもの。
“シュウィーッ”
巨漢の背中から二振りの鉄塊が引き抜かれる。それは死を振りまく為だけに生まれたナニカ。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
修羅が吠える、戦いに飢えた狂気が爆ぜる、膨大に膨れ上がった力が南街門前を覆い尽くす。
鬼の咆哮が収まった時、そこには閉ざされた街門へと続く一本の道と、その道を避けるように倒れ伏す人や軍馬の姿。
“カッポ、カッポ、カッポ、カッポ”
「ヘンリー殿、ボビー殿、ザルバ殿、グルゴ殿、ギース殿。
脅かし役、ありがとうございました。
どうも王都の騎士の方々はおっかながりの様だ、先程黒子の皆さんがせっせと道を開けてくださいましたよ。
それでは私達も向かいましょう、王城で多くの方々がお待ちです。
次はローラの番だ、しっかり頼むぞ」
「お任せください、ロナウド坊ちゃま。このローラ、昔から舞台役者に憧れていましたので」
「「「「「「「「アッハッハッハッハッハッ」」」」」」」」
惨状に広がる笑い声、八騎の騎士は楽し気な笑顔を浮かべたまま、王都南街門へと歩を進める。
王都の人々に次の演目を披露する為に。
本日一話目です。