転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第424話 三英雄、王との謁見に挑む

そこは巨大な門であった。

オーランド王国王都バルセン、その玄関口と言われる王都南街門。

オーランド王国を訪れる全ての者がその威容に感嘆し見上げるそこは、巨大な街門を固く閉ざし、訪問者の訪れを拒絶しているかの様な異様な静けさに包まれていた。

 

王都の空は暗雲に閉ざられ、未だ雷鳴が聞こえる。

街壁の向こうから聞こえていた多くの兵の怒号、その後に続いた絶叫。

何も状況の分からない王都民は、唯々身を震わせ恐怖する。

 

“ガタン、ガッガッガッガッガッガッガッガッ”

 

歯車が動き、鎖が音を立てる。南街門を閉ざしていた機械式の閂が外され、その巨大な扉がゆっくりと開かれる。

 

“カッポ、カッポ、カッポ、カッポ”

 

銀の鎧を身に纏い、マントを靡かせた三人の騎士が、騎馬の集団から進み出る。

真ん中の一人、深紅のマントを靡かせた騎士が歩み出た時であった。

天が割れた。

天空から伸びた一筋の光が、深紅の騎士を包み込むように照らし出す。

 

“スーーーッ”

腰より引き抜かれた一振りのロングソード、騎士はその光り輝く剣を天に掲げ声高に宣言する。

 

「私は旧ダイソン侯爵家息女、アイリス・ダイソン。

長きに渡るダイソン公国とオーランド王国の戦を終結させる為、正統なるダイソン侯爵家の最後の者として王都にやって来た」

 

雲が切れる、伸びた光はまるでその隣にいる者を示すかのように、蒼きマントを靡かせた騎士を照らし出す。

 

“スーーーッ”

「我はテレンザ侯爵家三男、ロナウド・テレンザ。

戦いの時代は終わる、いや、終わらせる。

オーランド王国に再びの平和を取り戻す為に」

 

掲げられたロングソードが、騎士の強い意思を表すかの様に陽の光に煌めく。

 

天の光が注ぐ、それは暗雲の下、白きマントを靡かせた騎士をを照らしだす。

 

“スーーーッ”

腰から抜かれたサーベル、天空の光に照らされ鋭く輝くそれは、切る、その一点に集約された逸品。

 

「私はタスマニア・グロリア辺境伯閣下の姪、アルバート子爵家長女、パトリシア・アルバート。

私は帰って来た、全ての因縁を捨て、この戦争を終わらせる為に、これ以上の血を流させない為に」

 

「「「我らは誓う、オーランド王国に平和を取り戻すと、オーランド王国の民が笑い合える日常を取り戻すと」」」

 

“パーーーーーーーーッ”

それは光りの道、まるで彼らを王城に導くかの様、天より差し込んだ光が大通りを照らし出す。

 

“カッポ、カッポ、カッポ、カッポ”

三騎の騎馬が街路を進む。

その後ろを五騎の騎馬が付き従う。

 

「オーランド王国万歳、平和万歳、三英雄万歳、平和万歳!」

誰かが叫ぶ。

その声は静まり返った王都の大通りに響き渡る。

 

「お、オーランド王国万歳、平和だ、戦争が終わったんだ!!」

「オーランド王国万歳、三英雄万歳、平和万歳、平和の使者万歳!!」

人々の間から次々と上がる称賛の声。

戦争が終わる、平和が訪れる。あの騒がしくも楽しい日常が帰って来る。

 

「「「「オーランド王国万歳、三英雄万歳、平和万歳、平和の使者万歳!!」」」」

人々の願いが、希望が、大きなうねりとなって王都を埋め尽くしていく。

 

“ブワッ”

暖かな風が吹き抜ける、それは季節外れの春の風。

騎士の背中に括り付けられた旗竿、そこに掲げられた赤・青・白の長旗が力強く踊る。

 

それは合図であったのか、あれほど厚く垂れ込めていた暗雲がまるで舞台の幕が明けるかのように晴れて行く。

差し込む日の光が、戦争という重く苦しい時代の終わりと、訪れる平和を象徴するかのように眩しく王都を照らし出す。

 

「「「「オーランド王国万歳、三英雄万歳、平和万歳、平和の使者万歳!!」」」」

三色の長旗がはためく。多くの民衆に見守られながら、騎士たちはオーランド王国王城へと向かう。

戦争を終結し、笑顔溢れる日常を取り戻す為に。

 

―――――――――――

 

「ご報告申し上げます!

王都南街門が開かれ、旧ダイソン侯爵家息女アイリス・ダイソン、テレンザ侯爵家三男ロナウド・テレンザ、アルバート子爵家長女パトリシア・アルバートの三名の騎士を先頭に、アルバート子爵家騎士団の五名の騎士が王城に向かい進行しております」

 

オーランド王国王城、その謁見の間には多くの貴族が集い、事態の進行を見守っていた。

 

「はぁ!?それは一体どういう事だ!!

王都南街門前には王宮第一・第二・第三騎士団を始め、我々の各貴族家の騎士団も展開していたのだぞ!!

奴らはそれだけの目を掻い潜り侵入を果たしたとでも言うのか!

南街門は決して開くなと申し渡しておいたはずだ、騎士たちがその申し付けを破ったとでも申すのか!

 

・・・これは、もしや魅了?そ奴らの中に魅了のスキル持ちがいる。しかも相当に強力な、であればすべての物事に説明が付く。

陛下、謁見はなりません。大至急そ奴らを討伐するよう御命令を、でなければ我が国は魅了持ちによって乗っ取られてしまいますぞ!!」

 

発言権を持つ高位貴族の怒声が謁見の間に響き渡る。

だが報告者は身を震わせながら言葉を続ける。

 

「いえ、閣下、その可能性は低いかと。

南門前の騎馬は騎士も馬も気を失っておりました。回復魔法により意識を取り戻した者も全てが恐怖に身を震わせて叫び声を上げるばかり。

王宮騎士団は実質的に壊滅したと言っても過言ではありません。

あの惨状を見ればそれが魅了などという生温いものによって引き起こされたものではないという事が一目で分かります。

我々は決して手を出してはいけないナニカに触れてしまったんです」

 

「貴様!国王陛下の御前で偽りを申し御心を惑わすつもりか!我が国の王宮騎士団にその様な腰抜けが居るはずなかろうが!

誰ぞこの者を引っ捕らえよ、その背後を吐かせるのだ。どうせどこぞの田舎者の差し金に決まっておろうがの」

 

高位貴族がそう叫び報告者を捕えさせようとした、その時であった。

 

“グォッ”

「「「「!?」」」」

それは力の奔流、全身を押し潰さんばかりに圧し掛かる力の濁流に、謁見の間の貴族たちは次々と膝を突く。

近衛兵たちは国王を守らんと周囲を警戒し展開するも、それが一体どこの誰の仕業なのか見当も付かない。

 

「あぁ、申し訳ない。どうやら彼らが到着したようですな。

まぁどうせ城門での問答が面倒になった鬼神が威圧を兼ねて覇気を発したのでしょう。

なに、本気で暴れようとはしてない様子、特に問題はございませんよ」

そんな中ただ一人涼しげな顔で佇む、グロリア辺境伯家前当主マケドニアル・グロリア。

 

「マケドニアルよ、これがただ覇気を発しただけと申すのか!?

これ程強大な・・・」

「これは陛下、不用意な発言をいたしましたこと深くお詫びいたします。

ですが陛下もご存じではなかったのですかな?

昨年我がグロリア辺境伯家とランドール侯爵家の間で起きたいざこざを、そしてそれがどの様に解決されたのかを。

無血開城、その様な夢物語を現実のものとした確かな力、鬼神ヘンリーとはよく言ったものです。

この戦はアルバート子爵家騎士団が動くと決めた時点で既に終わっていたのですよ」

 

そう言い謁見の間の扉に目を向けるマケドニアル。

 

“ガチャッ、スーーーーーッ”

静かに開かれた扉。

 

“ズゥゥッ”

濃紺の鎧に包まれた巨漢、双角のヘルムから覗く眼光が、その場の者たちを鋭く捉える。

 

“ニチャ~ッ”

「「「「ヒーッ」」」」

後継者になったばかりの者たちが悲鳴と共にバタバタと気を失い倒れ伏す。

 

「これこれヘンリーよ、国王陛下の御前である、もう少し控えよ。

ふむ、そこの近衛兵は儂らに殺気を向けておるのかの?それは果たし状と受け取ってよいのかの?

おぉ、何と素晴らしい。儂は一度でよいから誇りを懸けた御前死合いというものをしてみたかったんじゃ」

“グワ~ッ、グシャッ”

剣鬼ボビーに覇気を向けられた近衛騎士が、その場で倒れ伏す。

 

「お二人共、その辺で。このままでは話が進みません、それでは国王陛下に御迷惑をお掛けしてしまいます」

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ”

それは若く美しい者たちであった。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、バサッ”

赤・青・白のマントを靡かせた若き騎士たち、その力強い眼差しは真っ直ぐに国王グランの瞳を捉える。

 

“カツンッ、カツンッ、カツンッ、ザッ”

玉座の前に歩み出た三人の若き騎士は、片膝を突き頭を垂れる。

 

「国王陛下、御前に御目通り叶いました事、心よりお礼申し上げます。

我ら三名、ダイソン公国・北西部貴族連合・南西部貴族連合の使者として、ダイソン公国とオーランド王国との不戦条約の締結並びにダイソン公国の承認をお願いいたしたく参った次第でございます。

両国の間には多くの血が流れました、その事を水に流せとは申しません。

ですがこれ以上国が乱れ多くの命が失われる事は、オーランド王国の国益に反すると愚考いたします。

何卒ご英断をお願いいたします」

 

深紅のマントに大鷲の紋章を刻みし騎士が、はっきりとした口調で言葉を発する。

それに対し、オーランド王国国王ゾルバ・グラン・オーランドは、謁見の間にいる全ての貴族諸侯に聞こえる様に言葉を返す。

 

「ダイソン公国の独立宣言、それはダイソン侯爵家が我がオーランド王国に対し反旗を翻した事に他ならない。

それはダイソン侯爵家がオーランド王国の国土を簒奪し、国民を奪った事に他ならない。

その事、貴公はどう考える?」

 

「はい、確かにオーランド王国侯爵であった義父デギン・ダイソンは王家の臣下でありながら王国を裏切り、独立を宣言した事に間違いありません。オーランド王国内で逆賊と呼ばれ、万軍を虐殺せしめた悪鬼と呼ばれ様とも否定は致しません。

先程も申し上げましたが、この戦、そしてダイソン公国とオーランド王国の間の溝をなかったものにしたいとは思いもしませんし、それは不可能でございます」

 

「であるのならダイソン公家の者の身柄を差し出し、領土を返上するが筋ではないのか?」

 

国王の言葉、それはオーランド王国貴族の誰しもが思う最善の落としどころであった。

 

「はい、オーランド王国貴族として最も正当と思われる解決方法は国王陛下の仰る通りであるかと。

ダイソン公国は失われ、この独立戦争に関わった全ての将兵は処刑されるべきである。

ダイソン公国の独立を許しそれを看過した南西部貴族はその責を負うべきである、自治領などと謳い王家に刃向かう姿勢を見せる北西部地域貴族は今の内にその芽を摘むべきである。

 

国王陛下ならび王家、そして多くの中央貴族と呼ばれる方々はその様にお考えの事でしょう」

 

深紅のマントの騎士、アイリス・ダイソンの言葉に、先程まで恐怖に震えていた中央貴族を中心とした者たちが息を吹き返す。

自分達が正しい、貴様らは我らの言う事に従い粛々と滅べばよいのだと。

 

「国王陛下は滅亡をお望みか?」

“ブォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

抑え込まれていた力が一気に解放される。

その身から立ち上がるそれは、覇気とも魔力とも呼べぬ第三の力。

その絶対的な力を前に意識を保てず次々と倒れる貴族諸侯。

 

「この戦は多くの犠牲者が出た、それは覆す事の出来ぬ事実。それぞれがそれぞれの正義や信念を胸に散っていった、その英霊たちを汚す事は何者にも許されない。

であればこそ残された者は勇気をもって平和への道を模索しなければならない。

それが三勢力の不戦条約の締結であり三勢力の同盟。

我々は、我々に残されたものの為に戦う。それは民の平和であり家族の安寧。

筋を通し、誇りを選ぶと仰られるのでしたらそれを否定するつもりはありません。それがオーランド王国の意思である、オーランド王国王家の選んだ道であるのですから。

 

ですが我々も全力で抗わせて頂きます。奪おうだなどと思いません、支配し簒奪する様な余裕など我々にはありませんから。

生き残れるのはどちらか、これはそういった戦いなのですから」

 

“バッ”

アイリスの言葉が終わるや立ち上がる騎士たち。彼らは踵を返すと謁見の間を後にする。

 

「待たれよ、未だ話は終わってはおらん。

其の方らにはオーランド王国の国王として国の意思を伝えねばならんのでな。

皆の者、ダイソン公国・北西部貴族連合・南西部貴族連合の使者よりその意志は伝わったであろう。

今度は其方らの番だ、諸君らの意思を聞こう。

ダイソン公国との不戦条約締結及びダイソン公国承認に反対である者は前へ出よ、直答を許す」

国王ゾルバの声が謁見の間に響く。

だがその声に応えて動こうという者は誰一人としていない、この場で動く事は彼ら三勢力を敵に回すと同意義、それは即ち目の前の死に自ら首を差し出すという事。

 

「うむ、誰もおらぬ様であるか。であれば我の口から述べよう。

我がオーランド王国はダイソン公国の建国を認める事は出来ない、それは国の成立そのものが王家並びに王国に砂を掛ける行為であったからに他ならない。

ではあるがこの一年に及ぶ戦乱で国内が乱れ国力が大幅に弱まった事も事実、これ以上の戦乱は我も望むものではない。

 

よってダイソン公国の存続を消極的ではあるが承認するものとする。また両国間に不戦条約を締結し、国内情勢の安定化を図るものとする。

以上をオーランド王国の総意とし、国王ゾルバ・グラン・オーランドの名において宣言する。

 

この決定に不服のある者は今すぐ申し出よ。

誰もおらぬようだな。

使者殿、貴公らの申し出、国として確かに受け取った。ご苦労であった。

タスマニア・フォン・グロリア辺境伯、スコッティー・テレンザ侯爵、いつまでも若者に仕事を任せてないで前へ出よ。条約の調印は貴公らの仕事であろうが」

 

国王ゾルバの言葉に参列した貴族の中から姿を現す両者。

 

「ハハハ、若者には経験を積ませよと申しますからな。息子の成長した姿を見るのは親として喜ばしい、つい見入ってしまいました」

「まったくそうですな、いつぞやは下らぬ企みで人生を閉ざされたと思われた姪が、ここまで立派に逞しくなった姿を見せるとは。

伯父としてこれほど嬉しい事はありません」

にこやかに親ばかぶりを発揮するテレンザ侯爵と、チクリと毒を含ませるグロリア辺境伯。そんな二人に苦笑いを浮かべる国王ゾルバ。

 

「して、ダイソン公国の代表はアイリス・ダイソン嬢、その方でよいのかな?」

国王の問い掛けに首を横に振るアイリス。

 

「いえ、ダイソン公国は建国したばかりであり外交に関しては脆弱です。ですのである御方のお力添えをいただく事となりました」

「そういう事ですな、ゾルバ国王陛下。この度ダイソン公国宰相の職を給わりましたマケドニアル・グロリアと申します。

これからは隣国同士、よしなにお願いしますぞ」

そういいニヤリと笑う老人に、頭を抱えたくなる国王。

 

こうしてオーランド王国とダイソン公国との一年の長きに渡る戦乱は幕を閉じる事となったのである。

 

「しかし本当に大変なのはこれからである。我々の本当の敵、バルカン帝国の侵攻が目前に迫っている事は貴公らも承知しておろう。

我らは一刻も早く国内をまとめ上げ、奴らの侵攻に対処せねばならない」

国王ゾルバの言葉に頷きで返す三者。

ダイソン公国との戦いは終わった、だがそれはまだ物語の序章に過ぎない。全ての事態の元凶、バルカン帝国による侵攻。

オーランド王国の本当の戦いは、これから始まろうとしているのであった。

 

「あ、なんか盛り上がってるところ悪いんだけど、それ、暫くないから」

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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