転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第427話 村人転生者、事後報告を行う

天窓より月明かりの注ぐ深夜の礼拝堂、そんな場所に一人身を置く青年。

 

“パサッ”

大きく広げられた布地、それはテーブルを彩る飾り付け。

 

“カタンッ、カタンッ、カタンッ”

礼拝堂の明かり置きに並べられた魔道具のランプが室内を明るく照らし、燭台の蝋燭が楽しげな雰囲気を醸し出す。

青年はそれらの配置を終えると満足気な笑みを浮かべ、部屋の中心部の魔法陣の上で膝を突く。

 

“ボワッ”

深夜の礼拝堂に光が走る。床から伸びる六本の光柱、それは神秘的な緑の光を放ち部屋全体を照らし出す。

 

「天上界におわしますいと尊き御方、あなた様に申し上げます。

本日は新作、“コッコの甘々厚焼き玉子”をご用意いたしました。

甘木汁を作り出す事に特化した聖霊樹の眷属“甘太郎”の作り出せし樹液と、我が家の鷹の目コッコ飼育場で生み出されたコッコ卵の夢の競演、是非ご堪能ください」

 

敬虔なる信徒の祈り、それは礼拝堂の女神様像を通じ天上界におられる御方様に届けられる。青年はそんな奇跡を信じ、ただ黙って祈りを捧げる。

 

かくして祈りは届けられる。

“パァ~~~”

輝きだす女神像、天上より降り注ぐ光、白く美しい翼を持つ天使が光の中より顕現する。

天使はまつ毛の長い瞼をゆっくりと開き、美しい唇を動かしお言葉を述べられた。

 

“申し開きはありますか?”

「新作をお届けするのにお時間を要した事、誠に申し訳なく。

ただいま調理人共々鋭意新しいレシピを模索中でありまして」

 

青年はその高位存在に対し心よりの謝罪と共に、新レシピ作製の難しさを訴え掛ける。

 

“そうですね。料理の進歩は日々の研鑽から。人類の文明が一足飛びに進歩しないのと同じように、料理もまた弛まぬ努力からしか生み出す事は出来ないのでしょう。

信徒ケビン、あなたがコッコ卵に真摯に向き合い新しいレシピの創造に心血を注いでいる事、コッコ飼育に全力を傾けている事はあなたの心から良く伝わっていますよ。

 

って言うかコッコ飼育の事で一杯じゃないですか。“コッコ肉の油揚げ”って凄く気になるんですけど!?

動物油脂を使った揚げ物とは隔絶した味わいってなんでそれがここに無いんですか、岩塩をパラパラと振り掛けてってエールのお供に最適じゃないですか!

わたしはマルセル村のエールと“コッコ肉の油揚げ”を所望します!!”

 

うん、こちらの高位存在、めっちゃ俗物。まぁお呼びした俺も厚焼き玉子の事しか考えなかったけどもさ。

ちわっす、深夜の居酒屋ケビンです。

 

“だからあなたは口で話しなさい、口で。

どうせ考えを読めるんだからいいじゃんとか考えてるんじゃありません。それって長年連れ添った夫婦が離婚する原因の一つだったりするんですからね、“言わなくても分かるだろう”ではなくそれをきちんと口に出してこその会話、相互理解とは会話と付き合いから始まるっていうのが天上界でも常識ですよ?”

 

あぁ、アレですね、飲みにケーションは村の団結の基本とか言ってる男衆と同じですね。女衆の場合これが甘味の品評会に代わるっていうね。

うちの村も随分と変わったよな~。以前は明日のお肉様の心配しかしてなかったのにな~。

 

「えぇっと、お忙しい所お越しくださいましてありがとうございます。

まぁ俺の口から詳しく語らなくともご存じだとは思いますが、このところ色々とやらかしてますんでそのご報告ですかね。

直近だとアスターナ男爵領の戦場の奴とかバルカン帝国の奴とか?

トリニア砦の奴は問題になってないですよね? あれってば見てただけだし」

 

俺の言葉に頭を抱えるあなた様、一体何があったんでしょうか?

 

“あぁ、うん、分かってる分かってる。ケビンが何の考えもなく“これって使えるよね”的な発想でしでかしたんだって事は分かってるわ。

結論から言うわね、大問題だから、良くも悪くもね。オーランド王国とバルカン帝国の担当者から目茶苦茶クレームが来てるのよ。

何で私に言うのって聞き返したら“あの特異点はあなたの担当でしょう”って意味解んない。そんな担当無いから、あったら人事変更を願い出るから。

私もう堕天したくないから。

 

それで私が良くも悪くもって言った点は魂の回収ね、一般的に災害や病死と言った場合人の魂は天の導きに従い天界に上り来世に向かい旅立つの。

魂は流転する、それがこの世界での在り様でありシステムね。

でもこれが犯罪により殺されたといった場合、魂は深い恨みと共に地に縛り付けられる傾向があるわ。いつだかあなたが浄化した森の悪霊がそうね。

こうした地に縛り付けられてしまった魂を再び天の導きに戻し来世に向かわせる事も、私たち天使の仕事なのよ。

 

そして今回の件ね、戦争は犯罪行為とは若干異なるの、人々が己の信念の下戦う、そこに善も悪も無いわ。

その為例え戦死したとしてもちゃんと来世に向かう魂が大半よ、通常はね。でも今回のように数万という将兵が全滅する様な殲滅戦では失われた魂が天に上る事の方が稀、ほとんどの場合その場に留まり悪霊と化す。

世界に点在する死霊タイプのフィールド型ダンジョンと呼ばれるものの大半がそうして生まれてるの。

殲滅戦で悪霊化しないのは鬼人族くらいね、彼らって戦場で散るのは(つわもの)の誇りって考えが浸透してるから。

だからあの国って年中殺し合いしてる割りに闇属性魔力の発生が少ないのよ、不思議でしょう?

 

話が逸れたわね。そういう訳で今回の三カ所の戦場、トリニア砦前とアスターナの草原、ダイソン公国脇の草原はアンデッドモンスター蔓延る暗黒地帯になるはずだった訳。

でもそれをケビンが食い止めた、それに関しては素直に称賛するし天上人として、天使として感謝の言葉を送るわ。本当にありがとう”

 

そう言いゆっくりと頭を下げられるいと尊き御方。俺はそのお姿に涙を流し・・・。

 

“あっ、そういうのもういいから。って言うかいい加減おふざけは止めなさい。

で、肝心な話はここから、“救魂(きゅうこん)(ほむら)”ってなんなのよ!一地方の天空を覆い尽くすほどの黒い炎、降り注ぐ火の粉は大地に降る雪の様ってどこの神話なの?

“奇跡の一夜”、愛する者たちが再び現れ言葉を交わす。

何で死霊たちがあんなに理性的なの?その誰もが生前の囚われから解放され悟りを開いたような状態になるって、悪霊を説得して天の導きに戻すのって大変なのよ?

よく聖女とかが<ターンアンデッド>とか唱えて悪霊を送って来るけど、後始末するのってこっちなんだからね?本気で勘弁して。

 

それでケビン、あなたの浄炎よ。浄化の炎で生前の欲や囚われを燃やし尽くして来世に向かわせる。

“善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや”でしたっけ?あなたの前世の世界での思想だったかしら。その考えが具現化したものがスキル<送り(びと)>であり<浄炎>。

こんなこと、この世界であなたにしか出来ないわよ。死者に対する捉え方がこの世界の者とは根本的に異なるんですもの。

ケビンって人に対する恨みや辛みとは全く無縁なんですもの。<死なば仏、そこに善人も悪人も無し>、武神がこのタイトルであげた名場面集が物凄い反響を呼んでたわよ。流石自然人、魂の根源に迫る名言とか言ってね。

 

それでケビンが蘇らせた死霊たちを支配してバルカン帝国軍にぶつけたって事だったら大死霊使いの誕生って話だったんだけど、あなた、死霊を唆したでしょう。

英霊だの勇者だの戦士だの散々持ち上げておいて、“だがここに、その戦いを汚さんとする者がいる、この地に再びの戦を呼び込まんとする者がいる。戦いに疲れ眠るのもいいだろう、今一度大地に立ち、信念を燃やすのもいいだろう。愛する者に言葉を伝える事を許す”なんて言われたら誰だって参戦しちゃうでしょうが。

愛する者の為、この仮初の命を燃やし尽くすってなっちゃうわよ、あなたやり口が悪辣すぎ。

結果十三万の死霊の大規模スタンピード、天上界でもライブ視聴してた連中が呆気に取られてたわよ。

 

それで今度は新しい死者を含めた十七万近い魂が一気にやって来たもんだから堪ったものじゃないっての、急遽応援に呼ばれた私の有休を返しなさいよ、お給料清算じゃなくて有休消化がしたいの、酒樽抱えてゴールデンハニーベアになりたいのよ~!!”

 

天上人の魂の叫びが礼拝堂に響く。俺は無言で酒樽を取り出すと、光属性魔力マシマシマシマシカクテル(ジャイアントフォレストビー甘木汁バージョン)をグラスに注ぎ入れる。

 

“#$%&@*!?”

差し出されたグラスに口を付け驚きに目を見開くあなた様。

 

「こちら、新作のカクテルになります。これまでのものよりも甘さと爽やかさ、何より神聖さが違うかと。

蜂蜜の新たな可能性に着目した一品となっております」

そう言い収納の腕輪からガラスの小瓶に入った蜂蜜を取り出す俺氏。

それはランプの魔道具に照らされ、琥珀色に煌めく。

 

“クッ、この私を物で懐柔できるだなんて思わないでよね。私はこれでも中級天使、女神様に仕える者として下の者に示しの付かない真似は”

 

「懐柔だなどとんでもございません。私はただ地上界の者の為に御心を砕いて下さるあなた様に日頃の感謝の気持ちを示したいと思ったまで、その御心を乱そうだなどとんでもないことでございます。

常日頃捧げております献上品と何ら変わりませんとも。全ては女神様の御心のままに」

そう言いテーブルの上に小瓶を置き、恭しく頭を垂れるケビン。

 

“定命なる者よ、女神様を敬うその心、決して忘れてはいけませんよ?

この世は全て女神様の御慈悲のもとに成り立っている。

それは私達天上人とて変わらないのですから”

 

そう言いサッと小瓶を収納するあなた様。やはり持つべきものは話の分かる上司、持ちつ持たれつって素晴らしい言葉だと思います。

 

「あっ、そうでした。話は変わりますがいつかお願いした暗黒大陸の魔王様の件、何か分かりました?

前にあなた様から伺った話だと、今はシステムとしての魔王は存在しないって話だったじゃないですか。でも魔王四天王のゼノビアさんから聞いた話ではどう考えてもシステム的な魔王にしか思えないんですよね。

多くの戦場を共に戦ったゼノビアさんから見ても現魔王の成長速度とその濃厚な闇属性魔力は破格らしいですし、それって周囲から闇属性魔力を吸収するシステム魔王の特徴じゃないですか?」

 

“あぁ、その件ね。私もケビンに言われて改めて暗黒大陸の魔王アブソリュートの記録を見直してみたのよ。確かにケビンの指摘するようにおかしな点が多々見られたわ。

そこで**#@様に上申して上位者権限で詳しく調べて貰ったの、そうしたらどうも前に降格処分を食らった貴族気取りの連中が一枚かんでたみたい。それはそうよね、システム魔王は天使の権限を使わない限り作り出す事は出来ないんだもの。

ただ現在は魔王自体が暴走していないという事で天上界としては静観の構えを取る事に決まったの。

このまま何も問題が無ければ魔王アブソリュートの死後、その魂から闇属性魔力を回収して終了ね。ただ今回の件は完全に天使の越権行為、その目的が何であれ関係者に処分が下されることは必至ね。

ケビンには**#@様から感謝のお言葉をいただいてるわ。今の死霊たちの魂の処理が終わったら、扶桑国で見つけた美味しいお饅頭の詰め合わせを下さるって言ってたわよ?”

 

グホッ、流石は上級天使の本部長様、褒章の御品のセンスが光ってらっしゃる。俺はあなた様に深々と礼をすると、本部長様によろしくお伝えくださいと礼をするのでした。

 

「あっ、これは完全についでなんですけど、例の<友達生成>と<自己領域>、早速試してみましたよ。

そしたらなんか男装の女性執事と孤島の秘密基地が出来ちゃいまして。

いや~、スキルってやっぱり謎だらけですね。

それじゃまた何かありましたらご報告いたし“ちょっと待って、それってどういうこと?”・・・」

俺が今回の報告を終わりにしようとしたところ、何故かあなた様から待ったが掛かってしまいました。

 

「・・・えっと、呼びましょうか?一応魔物なんで、<出張>で呼び出せますが」

“コクコクコク”

無言で頷かれるあなた様。

 

「あっ、残月、今大丈夫? 悪いんだけどこれから呼び出すからこっちに来てくれる? それと秘密基地の扉も持って来て欲しいんだよね、持ち上げてくれれば一緒にこっちに持って来れるから。

それじゃ行くよ?<出張:残月>」

 

礼拝堂の床に浮かび上がる七色の煌めき、光り輝く魔法陣の中心から大きな扉を抱えた人物が姿を現す。

 

「マスター、お呼びでしょうか。それとこちらは? これまで観測した事の無いレベルの高位存在の波動を感じますが。生体ユニットの記録から天使と確認。こちらの御方様と残月の生体ユニットは生前面識があるようです」

 

残月の驚くべき告白、そんな残月を見ながら混乱するあなた様。

“えっ、はぁ? 何で? あなた“放浪の大聖女”よね、あなた五百年前に亡くなった筈よねって言うか生前の功績が認められて下級天使をしてたんじゃないの?

部署が違うから就任式以来会ってないけど、こんな所で何やってるのよ”

 

・・・どうやら大聖女様、天上界で就職なさっていた様でございます。良かった良かった。




本日一話目です。
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