転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第428話 村人転生者、事後報告を行う (2)

“コトッ”

差し出されたティーカップに口を付ける。

癒し草の新芽の煮出し茶の香りが、心を鎮め穏やかな気分にしてくれる。

口腔に感じた仄かな甘さは甘木汁か?

スプーン一杯程度を加える事で優しい口当たりに仕上げているところが心憎い。

 

「残月、また腕を上げたね」

「ありがとうございます、マスター。マスターのお好みは日々データを分析させていただいておりますので」

主人の側に立ち静かな笑みを浮かべる女性執事は、軽く礼をすると後ろへと下がる。

 

“・・・趣味?”

「違います。残月は初めから執事服でした、これは彼女のポリシーです。

って言うか皆して最初にそこを聞くけど、俺って特殊な性癖とか無いですからね?

相手に何かを強要したりとかもしないですから」

 

俺の言葉に何故か訝しみの視線を送るあなた様、大変心外です!

 

“えっと、それであなた、残月って言ったかしら。どう見ても私の知る“放浪の聖女”の姿にそっくりなんだけど、これって説明して貰えるのかしら?”

 

「はい、私は生活支援機構N401、生体ユニット名“残月”と申します。

マスターにより生体ユニットを与えられた生活支援プログラムとなります。どうぞよろしくお願いいたします」

 

そう言い胸に手を当て美しい礼を見せる残月。あなた様は“こいつ、一体何を言ってるの?”とよく分からないといったお顔をなさっておられます。

 

「あ~、そうですね。あなた様はバルカン帝国が作り上げた兵器、精霊砲と言うものはご存じですかね?

オーランド王国南西部、アスターナ男爵領で十二万もの将兵を殺戮した広域破壊兵器なんですが」

 

“えぇ、その存在はこちらでも確認しているわ。大賢者の広域魔法に匹敵する威力を数名の術者により再現する画期的な発明でしょう?

今回は兵器として使われたみたいだけど、応用の仕方次第では様々な可能性を秘めてるって一部で話題になっていたわね”

 

「その中核となっているのが大きな魔力結晶なんですが、その魔力結晶に掘り込まれた複雑な魔法陣やら魔方陣で出来上がった制御機構がさっき残月が言っていた生活支援機構N401ですね。

あの精霊砲という兵器、兵器なのに制御してたのが兵器とは全く関係の無い生活支援プログラム、要するに使用人プログラムだったんです。

今回俺がスキル<友達生成>の使用実験を行うのに当たって、基になる素材の一部としてその魔力結晶を使ったんですよ、そうしたらこんな事に。

元が主人のサポートを行う為の制御術式ですからね、肉体を得たことで本来の仕事が出来るって張り切ってるんです」

 

そう言い肩を竦める俺にこめかみを揉むあなた様。

 

“使用人をやってるって事は分かったわ、その魔力結晶に刻まれていた生活支援術式が影響した、そういう理解ね。

何で兵器にそんなものがって疑問は残るけど、それは置いておきましょう。肝心なのは何で“放浪の聖女”がここにいるのかって事よ、彼女五百年前に亡くなってるのよ?”

 

「あぁ、それは聖女様の御遺体が“呪い人形”にされていたからですね。

前にドラゴンのゴミ屋敷清掃でドラゴンの卵と干物騎士を引き取った話をしたじゃないですか?あの時の干物騎士は“生き人形”と呼ばれる生者を素体にした“呪い人形”だったんですけど、こっちは本来の“呪い人形”、死者を操り生前の力を引き出すって奴ですね。

聞いた話では亡くなった人物の半分くらいの力を発揮出来るものだとか、俺も知らずに所持していただけだったんですが、聖女様の“呪い人形”であればその辺の治癒術師なんかには負けないくらいの治療が出来たみたいです。

 

で、今回のスキル実験の素体に使ってみたらまるで別人のようになってしまいまして。“呪い人形”の聖女様、どう見ても干物だったんですけどね、今じゃ生き生きとってどうなさいました?」

 

俺の話に再びこめかみを揉まれるあなた様、簡単な概要を説明しただけなんだけどな~。何かおかしな点でもあったんだろうか?

 

“うん、相変わらずケビンがケビンしたって事ね、どうせこの件も報告しなくちゃいけないんだし、悪いんだけど鑑定させてもらっていいかしら?”

俺はあなた様の申し出に快く了承の意を示しました。

 

“<管理者権限、鑑定:残月、モニター表示>”

“ブオンッ”

 

礼拝堂の壁際に映し出される鑑定表示画面。俺たちは揃ってその表示内容に目を向ける。

 

<鑑定>

名前:残月

種族:アルティメットリビングドール

年齢:0歳

スキル

執事の心得 空間支配 身体支配 魔力支配 解析演算 模倣学習 剣聖 空間収納 聖女化

魔法適性

全属性

称号

理不尽の執事 生物兵器

 

「・・・すみません、俺、魔物についてそこまで詳しくないんですけど、アルティメットリビングドールってどういう魔物なんですか?」

 

“・・・えっ、あぁ、ごめんなさい。リビングドールね、簡単に言えば動き出した人形ってかんじ?

よく見られるのはダンジョンかしら、中には人族そっくりな精巧なものもいると聞いた事があるわ。でもリビングドールは普通どこか作り物といった違和感が残ってしまうんだけど、残月にはそうしたところが無いのよね。そういった意味でアルティメットリビングドールと観測されたのかしら?リビングドールの最上位、全く新しい種族になるわね”

 

あなた様の言葉に何故かドヤ顔の残月。見た目分からないレベルですが、ケイトの表情を見抜いていた私にはバレバレなのだよ。

 

“<空間支配>に<身体支配>、<魔力支配>に<剣聖>ってもう立派な勇者様じゃない、その上<空間収納>まであったらいつでも魔王討伐に行けるわよ。なんか見慣れないスキルもあるから詳細を見てみるわね。

<鑑定:執事の心得:解析演算:模倣学習:聖女化>”

 

<執事の心得>

執事とは影、主人に寄り添い主人の全てを支える者。主人のあらゆる要求を完全以上に熟す者。

 

<解析演算>

全ての事象を解析し、算出する。その力の前に分からぬものは無い。

 

<模倣学習>

あらゆる技術の伝承は模倣から始まる。模倣し学び取る、それこそが学習である。

 

<聖女化>

聖女とはただ癒す者にあらず。浄化し、導き、光を与えし者、それが聖女である。

 

“・・・えっと、一人英雄譚?もう残月一体に任せておけばいいんじゃない?勇者と賢者と聖女、全部熟せるわよ?

しかも学習次第でどんどん強くなるって、どんだけ?意味解らない”

 

「ハハハハ、何なんでしょうね~。残月、この聖女化ってどんなスキルだか分る?」

「回答:生活支援機構における医療支援が該当、確認の為医療支援に移行します」

“ブワッ”

白色の炎が残月の全身を包み込む。その炎は姿を変え、形を変え、残月の新たな一面を作り出す。

 

その者はただ佇む。純白のローブを羽織り長い髪を靡かせて。

だがその身から溢れる神聖な気配が、その者が聖なる存在である事を知らしめる。

 

「$$%&様、お久し振りでございます。あなた様とお会いしたという記録は、この身に確かなものとして刻まれております。

でもそうですか、私の魂は死後天上世界に認められたのですね。

私の行いが全て無駄という訳ではなかった、そういう事でしょうか。

そうであったのならば喜ばしい事です」

 

そう言いニコリと微笑む姿は、これまでの残月のものとは違った全く別人の者。

 

“えっ、あなた“放浪の大聖女”なの?でもあなたの魂は確かに天上界に迎え入れられたはず、それじゃあなたは一体・・・”

あなた様の呟き、それに対し残月はニコリと微笑んで言葉を返す。

 

「私はこの肉体、“放浪の大聖女”と呼ばれた肉体に宿る記憶です。生前の人生、死後“呪い人形”として扱われていた時の記録、その全ては使用者の魔力を介し記憶として肉体に刻まれる。

本来であればそれはただの記録でありそこに思考や感情は生まれなかった。ですが私は生活支援機構N401という制御システムの力を借りる事で記録でありながら記憶として存在する事を許された。

 

マスター、一つお願いがあるのですが、“ふわふわ卵の甘トロオムレツ”を一皿いただく事は出来ないでしょうか?」

 

突然の残月からのお願いに何の事かよく分からないものの、収納の腕輪から予め作り置きしておいた料理の皿をテーブルに取り出すケビン。

 

「ありがとうございます、マスター。$$%&様にお願いがございます。この料理を天上界の“放浪の大聖女”の魂に渡してはくれないでしょうか?」

 

残月からの願い、それは天上界で再就職した元大聖女に“ふわふわ卵の甘トロオムレツ”を届けて欲しいというもの。

 

「これは死ぬ寸前、私の記憶に色濃く残った思い。最期を迎えたあの日、義娘(むすめ)が作ってくれた卵料理を食べる事が出来なかった事が悔やまれてならなかったのです」

“でもあなた、確かその義理の娘に毒を盛られて殺されたんじゃ・・・”

 

あなた様の言葉に首を横に振り寂しそうに微笑む残月。

 

「あの義娘()が作ってくれた物を、母親である私が食さない訳がありません。例えそれが毒入りの料理だったとしても、あの義娘()にはそれをしなければならない訳があった。であるのならそれを甘んじて受けるのも母親の務め。

あの義娘()と過ごした日々、あの義娘()が私に与えてくれたものを考えればそれは些細な事。

乾杯したワインを口にした直後、辺りがどんどん暗くなっていく視界の中、テーブルの上の卵料理だけが何故かはっきりと残っていた。

あの卵料理はどんな味なのだろう、あの義娘()が私に作ってくれた最後の一皿、それが私の唯一の心残りだった。

マスターの料理はあの義娘()のものとは違います。ですがその食する者を包み込むような優しい味わいは、私の心に残るわだかまりを溶かしてくれるはずです。

肉体である私が言うのだから間違いありません」

 

そう言うと残月はまるで暖かな春の木洩れ日の様な慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、あなた様に“ふわふわ卵の甘トロオムレツ”の盛られた皿を差し出すのであった。

 

―――――――――

 

“ザバ~ン、ザバ~ッバシャ~ン”

岸壁に打ち付ける波の音が、暗闇に響く。

天を見上げれば満天の星空が広がり、自身の悩みの小ささを思い知らされる。

 

「どうぞ、ホットワインです」

差し出されたカップからは暖かな湯気が立ち昇る。飲み込んだ熱いくらいのワインが、海風に晒されていた身体を内側から温めてくれる。

 

“ケビン、どうもありがとうって違うから!

何なのよここは、何で何の変哲もない木製扉を潜った先が爽やかな潮風吹く岸壁なのよ、降って来そうなほどの満天の夜空ってあなたいつの間に転移の魔道具を開発したのよ、また天上界に激震が走る偉業を打ち立てたってこと?**#@様に連絡する?”

 

何か混乱して訳の分からない事を仰るあなた様、ここはホットワインを飲んで少し落ち着いていただいてですね。

俺はお代わりのホットワインを空のカップにお注ぎするのでした。

 

“ザバ~ン、ザバ~ッバシャ~ン”

夜の暗闇に聞こえる波の音、砂浜の満ち引きの音もいいですが、岸壁のバシャバシャいう音もいいですよね、なんかサスペンスの香りがして。

在りし日には二時間ドラマのクライマックスでなんでわざわざ岸壁?っていつも疑問だったんだけど、これはロマンだったんですね。俺の配役は中盤に出て来る真犯人を強請(ゆす)ってる悪人かな?月の無い夜中に岸壁に呼び出されて突き飛ばされて殺されちゃう役。

ここってそんなシチュエーションにピッタリなんだよな~。

 

「えっと、スキル<自己領域>の使用実験をしたんですけどね。偶々なんですけどお城を手に入れまして、お城と言ったら断崖に打ち付ける波の音かなと思ったもんですから。

後は発想の飛躍、男なら誰もが思い描く南海の孤島の秘密基地をですね。

夢はでっかく果てしなくって言うじゃないですか、全力で挑ませて頂きました。

大体これまで溜め込んだ魔力の七割くらい使ったかな~。元が劣化版スキルですから魔力効率がよくないみたいで、ダンジョンコアに相談したら自分がそれだけ魔力を貰えたらグロリア辺境伯領並みの広さの階層を百以上作れるって言われちゃいましたよ、いや~お恥ずかしい」

 

そう言い頭を掻く俺をよそに、眉間の皺を揉むあなた様。

 

“まぁそうね、ダンジョンってある意味とんでもない存在ですものね。

ってあなたダンジョンコアとも親しいの?そんな人族初めて聞いたんですけど?本気で意味解んないわ。

それでここってどれだけ広いの?”

 

「さぁ、ちょっとよく分からないんですよね。この島もそれなりにデカいですからね、一度調査しないと。

それに空と海もな~。流石に星々は映像を再現しているだけでしょうけど、あの雲、ちゃんと浮いてるんですよね~。

大福がドラゴンモードで余裕で飛び回れるってどんだけ広いんだかって大丈夫ですか?」

 

世界は人の身に余る事象に溢れている。だがその様な事象を人の身で引き起こせるような者の存在を知った時、その管理を行う者たちはどう反応したらよいのだろうか。

 

“ケビン、これ**#@様に判断を仰がないといけない案件だから、一度調査が入るから、暫く使用禁止ね”

 

「え~、それじゃ悪の秘密結社から奪ってきたお城の地下施設の検証が出来ないじゃないですか~。人造キメラとか改造人間作製記録とか色々あったのに」

 

“あなたなんてもの拾って来てるの!!そんなの駄目に決まってるでしょう!!没収です、没収!!”

 

上位存在からの容赦の無い宣言に両手両膝を突きガックリと項垂れる青年。

秘密基地は秘密であるからこそ価値が有る。それを公にした時、子供の夢は大人の都合により容易く奪われる。

そんな当たり前で残酷な現実を知った、青年ケビン十四歳の春なのでありました。(涙)

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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