転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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本日一話目です。


第429話 村人転生者、辺境子爵とお話する

高位存在への悲しみの報告会が終わった翌日、マルセル村では盛大な祝勝会が行われた。

一年に及ぶ戦乱は幕を閉じた、オーランド王国に再びの平和が訪れた。

ここマルセル村が直接戦渦に巻き込まれるという様な事はなかったものの、国内が乱れた事により逃げ延びた難民たちの姿や戦場の恐ろしさを自らの目で見て来た多くの村人たちは、戦争が終息した事を心から喜び、自分たちが戦争終結に関わる事が出来たという事を誇りに思った。

 

宴は大いに盛り上がり、互いの無事を祝うと共に、その働きぶりを讃え合った。その中ではケビン・ドラゴンロードの使用人による“王都南街門三英雄の奇跡”という演目の芝居も行われ、実際王都に行く事が出来なかった村人たちに好評を博する事となった。

 

「ケビン君、今回の祭りに掛かった費用の事についてなんだけども」

「あぁ、アルバート子爵閣下。領都の武器装具工房ヘンドリック武具店の支払いは既に済ませておきました。ロナウド様のロングソードは私の手持ちの物を拵えと鞘を作り直す事で対応させて頂きましたんで良かったんですが、パトリシアお嬢様のサーベルが流石になかったもので、手持ちの総ミスリル製の剣を鋳潰してゾイル工房で作り直して貰いました。

それと村人の装備作成ですね、マルコお爺さんだけでは手が足りなかったのでミルガルの職人の方々にお越しいただいての作製となりましたのでその人件費ですか。

ただ今回使用した村人装備の素材、“魔物鉄”なんですけどミスリルよりも高性能の魔力伝達金属らしいんですよね~。

これらの素材を買い取りとなるとご予算が。

ですので村人装備は無期限貸し出しで所有権をケビン建設にしていただいた方が良いかと。村人たちの武器も私共の持ち出しですので。

 

まぁ三英雄様の装備を返せって訳にも行きませんでしょうし、それらを踏まえまして諸々換算いたしますとこちらの金額となります。

いや~、戦争って碌でもないですよね~」

 

宴の最中言葉を掛けて来たアルバート子爵閣下に今回の祭りの請求書をお渡ししたところ、何故かピタリと動きを止められてしまわれました。

ってこの請求書、破格もいいところなのよ?普通こんな予算じゃ碌な軍事行動取れないから、お馬さんを飼育するのだってタダじゃないのよ?

 

「ハハハハ、うん。この請求書の金額があり得ない程破格であるという事は分かるんだけどね、今のアルバート子爵家にはそこまでの予算がね。

本邸の建築費用とその他の支払いで以前グロリア辺境伯家からいただいた報奨金は底をついてしまってね。

村の収益は設備費等に回さなくちゃいけないし、ハハハハ、申し訳ない」

 

そう言い頭を下げるアルバート子爵様。

まぁそんな事になるだろうなって事は分かっていましたけどね、俺の方だってゴミ屋敷の清掃やら戦場のお片付けやらで臨時収入が入ってなければ、謎の実力者ムーブで暗殺者ギルドから情報を買うなんて真似は出来ませんでしたっての。

 

本当世の中金ですよ金、金の無いところに難しい問題の解決を持ち込むんじゃないっての、グロリア辺境伯家はせめて資金提供ぐらい申し出てもいいじゃないかと思わなくもない。

 

「今回の件に関してグロリア辺境伯家からは何かお話が来てないんですか?大元のお話の出所はグロリア辺境伯家ですよね?

引退なさったとは言えマケドニアル閣下が持ち込まれたお話ですよね?

百歩譲ってヨークシャー森林国の一件はいいとしても、ダイソン公国遠征にアルバート子爵家が手を貸す義理はなかった訳ですし、相談されたからこういう解決方法もありますがどうしますかと提示した、それに乗ったのはマケドニアル閣下でありグロリア辺境伯家だった。

であれば寄り親として寄り子たるアルバート子爵家に褒賞なりなんなりがあってもおかしくはないと思うんですけど?」

 

俺の言葉に引き攣り顔を更に深くするアルバート子爵閣下。

 

「あぁ、まぁ、うん。普通はそうなんだけどね。でもその褒章が行われるのって大分先になるんじゃないかな~。

今回北西部貴族連合、南西部貴族連合は正面から王家に脅しを掛けただろう?連合内の結束をより強くして中央貴族に負けない発言力を確立しようと躍起になってるはずなんだ。

そうなると身内の者に対する褒賞なんかはどうしても後回しにされてしまう。

我がアルバート子爵家は第二夫人としてデイマリアが嫁いでいるからね、血縁者として近しい間柄と見られるんだよ。

パトリシアも現当主タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下の姪と名乗って登城しただろう?

身内の者の戦果は状況が安定してから大々的に祝うというのは貴族社会の習わしでね。普通はそんな大戦果を挙げる身内がこんな貧乏子爵家の者って事自体あり得ないんだが、アルバート子爵家は色々と特殊な事情により誕生した家だからね」

 

アルバート子爵の言葉にこめかみを揉む俺氏。

 

「次からは予算不足を理由に断りましょう。大体領地や国の大事に関わる事柄を辺境の村長や村人に相談しに来る方がおかしいんです。

ここは僻地なんです、貧乏なんです、産業だって少しづつ育ててるんです。

 

そう言えばさっき蒼雲さんが今年から漸くマルセル茶の収穫が行えるって言ってました。聖茶の様な精神安定効果はありませんが、スッキリとした味わいで心休まるいい茶葉でしたよ。

マルセル村の事業として軌道に乗せるにはまだ数年は掛かりますが、今後茶畑を増やしていってお茶の里マルセル村としてやっていく形でもいいんじゃないんですかね。

それと魔の森の一部を切り開いて植樹した甘木の苗ですが、予想通り順調な生育を見せています。プラウド侯爵閣下からお伺いしたお話では、植え付けた苗木から甘木汁採取が行えるようになるのに少なくとも八年は掛かるとの事でしたが、その半分の四年ほどで本格的な採取が行えるようになるのではないかと予測しています。

これは御神木様も同意して下さっているので間違いないかと。あの御方は樹木の専門家ですから」

 

御神木様と言う名前に「あぁ、そうだったね~、御神木様は御神木様だったんだよね~。あまりに自然と村に馴染んでるからすっかり忘れていたよ。紬ちゃんと言い、ベネットさんの所の若い子達と言い、人と見分けのつかない子が増えたよね~。

残月さん何て完全に人だし、どうしようか、彼らも村民登録しておく?」と聞いてくるアルバート子爵閣下。

 

「ハハハ、そうですね。御神木様はともかく紬たちはガッツリマルセル村に住んでますしね。今度聞いておきます」

「うん、そうしておいて。それはそうとブー太郎君は元気なのかな?

前は良く村にも遊びに来ていたけど、最近姿を見せないじゃないか」

 

お調子者のブー太郎、その大きな身体からは想像出来ないユーモラスな振る舞いに、すっかりマルセル村の人気者になっていた様です。

 

「あぁ、今日も来てはいるんですけどね、秋に進化した関係で見た目が少々。ちょっと呼びますね。

お~い、ブー太郎、ちょっとこっちに来てアルバート子爵閣下にご挨拶しなさい」

 

俺の言葉に、テーブルに並べられた料理に舌鼓を打っていた者が顔を上げる。その者は黒い頭巾を目深にかぶり、フードで顔を覆った偉丈夫であった。手足の長いすらりとした体形、その身のこなしの様子から高い武芸を修めた者である事が見て取れる。

 

「お久し振りでございます、アルバート子爵閣下。

ブー太郎、お呼びに寄り参りました」

そう言い頭を下げるブー太郎に、顔を引き攣らせるアルバート子爵閣下。

 

「ケビンく~ん」

「イヤイヤイヤ、違いますから、ブー太郎がしゃべれるようになったのは訓練の賜物ですから。

ほら、よく冒険者のお話でもオークキングなんかが片言で話しをするって場面が出て来るじゃないですか、知能の発達したオークは訓練次第で言葉を話せるようになるんですっての。

ただブー太郎はあまりそうした事に興味が無いんで大変でしたけど。

それで痩せちゃったのは進化の影響ですって、より素早く柔軟に動くにはあの巨体は不向きだったって事なんじゃないんですか?

進化後のブー太郎、めっちゃ強くなってますんで」

 

そう言い「な~、ブー太郎?」と同意を求める俺に、「イヤイヤイヤ、そんな事ないですから、俺はただの森のお店屋さんの店長ですから。アルバート子爵閣下も騙されないでくださいね?どうせケビンさんは碌でもない事を考えてるだけですから」と早口で言葉を繋ぐブー太郎。

チッ、カンの良い奴め。

 

「そ、そうかい。何にしても元気そうで良かったよ。

ブー太郎君の事は村人みんなが心配していたからね。今日はゆっくりと楽しんで行ってくれ。

それとマルセル村の中ならそのフードは取ってくれて構わないよ。今更ブー太郎君の事を恐れる村人はいないから。私達はブー太郎君も立派なマルセル村の一員だと思ってるんだからね?」

 

そう言いフードを脱ぐように勧めるアルバート子爵閣下。

 

「いや、その、やっぱり俺もオークですし?人前に顔を晒すのはよろしくないんじゃないかな~と・・・」

「ブー太郎、アルバート子爵閣下がこう仰って下さっているんだ。

大丈夫、マルセル村にブー太郎の事を嫌がるような心の狭い者はいないよ。ブー太郎はマルセル村の一員だとアルバート子爵閣下も仰って下さっただろう?」

 

俺は慈愛の籠った瞳で善意百パーセントの微笑みを向け、ブー太郎に頷きで応えます。

そんな俺たちの様子を窺っていた村人たちからも、「ブー太郎、元気だったか?こっちで一緒に飲もう」とか「ブー太郎ちゃんはマルセル村の子供だよ」とかの声がですね。

 

そんな周りの様子に、「クッ、この理不尽、こんな手で来るとは。これ断れない奴じゃないですか!!」と何か見当違いな言葉を呟きながらも、渋々フードを取るブー太郎。

 

“バサッ”

そしてその場から言葉が失われる。

ある者は手に持つスプーンを取り落とし、ある者は口に付けたエールを脇から零しながらも、視線が一点から離せない。

 

降り注ぐ陽の光に照らされキラキラと輝く金色の髪を首の後ろで束ね、涼しげな切れ長の瞳を正面の人物に向ける者。耳は伝説に謳われたエルフの様に人のモノより大きく尖っている。

鼻は大きめで上を向き豚のような形であると言われればそうなのだが、全体から醸し出される雰囲気からむしろそれが自然であり、だからこそ美しいとさえ思えてしまう。

 

「すみません、やはり驚かせてしまいましたね。俺自身はよく分からないのですが、周りからは別物の様だとか言われるんですよ。

ケビンさんなんかは「進化してスッキリ痩せるって、ブー太郎最高」とか言って大笑いするし。

あまり印象が変わってしまうのもあれだったんで、中々お顔を出しづらかったんですよ。

でもマルセル村も落ち着きを取り戻したと聞いたものですからついお伺いさせて頂きました。

皆さん、これからもよろしくお願いしますね」(キランッ)

 

ブー太郎の爽やかな挨拶に黄色い歓声を上げるアルバート子爵家のメイド様方。

 

“ガシッ”

「ブー太郎ちゃん、こっちの席で私達とお話しようじゃないか。

おや、立派な身体付きだね~。すっかり男振りが上がっちゃって、お姉さんは嬉しいよ~」

 

ブー太郎氏、確保。マルセル村のお姉様方に連行されて行くブー太郎氏、俺たちは決して君の勇姿を忘れないよ。

俺は左胸に右の拳を当て、去り行く友に別れを告げるのでした。

 

「ハハハ、ケビンよ、何やら楽しい事になっておるようじゃの。

そろそろ儂らもお楽しみと行こうではないか」

「そうだぞケビン、酒宴の席と言えば恒例のアレが残っているじゃないか」

そう言いいつの間にか木剣の大剣を持ち背後に立つ修羅二匹。

 

「月影、残月、戦闘訓練を開始する。相手は鬼神ヘンリー、剣鬼ボビーの二名。得物は訓練用木剣を使用、武装状態にて目標を沈黙させよ!」

「「ハッ、ご主人様の御命令のままに」」

 

俺の声に姿を現すメイドと男装の執事。

 

「メイドとは主人の盾にして矛、旦那様に御用の際はまず私達にお声掛けを。来なさい“常在布武”」

メイドのブレスレットが光を放つ。その光はメイドを光の繭で包み込み、メイドを次の次元へと昇華させる。

“ブオッ”

「“冥土”月影、お相手致します」

 

「マスターの要請により、戦闘支援へ移行」

黒き炎が男装の執事を覆う。その炎が晴れた時、執事は主人の剣として生まれ変わる。

 

“ゴウンッ”

「生体ユニット残月、戦闘支援行動を開始します」

 

 

「「・・・なぁケビン、これってお前の趣味か?」」

「違うから!!本人たちの希望だから!!」

 

手にはガントレット、足にグリーブ。胸当てを付け、頭部に金属製のカチューシャを付けた丈の短めなスリットの入ったスカート姿のメイド月影。

身体のラインにピッタリな黒い全身鎧に身を包んだ、いかにも黒騎士と言わんばかりの女性執事残月。

そんな二人の登場に、村人全員から生暖かい視線が送られる。・・・俺に。

いいじゃん、似合ってるんだから、格好いいじゃん。

俺別に強要してないからね、だから汚物を見るような目で見ないで!?

 

祝勝会と言う酒宴の席、そこに登場したコスプレと言う新たな価値観とその衝撃。

「俺は無罪だ!!」というケビンの叫びも空しく、「やっぱりケビンも男性だったんだね」とか「そっか~、ケビンは高度な趣味人だったんだな~」と口々に言われる様になるのは致し方のない事なのであった。

 




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