転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第430話 辺境子爵、王都の使者を迎える

“ザクザクザクザク”

温かい日差しが降り注ぐ畑脇。目の前ではファームドラゴンワームの緑と黄色が冬場に休ませていた畑の土起こしを行い、見た目ドラゴニュートのキャロルとマッシュがビッグワーム肥料を撒いて、地力回復作業を行っている。

時は流れる、季節は巡る。

オーランド王国が戦乱と言う冬の時代を終え、新たな春を迎える様に、ここマルセル村でも春の作付け作業の季節がやって来た。

 

マルセル村は農村である、誰が何と言おうと本業は農家であり、村の主要産業は畑作である。

畑のお肉、角無しホーンラビット干し肉、聖水布と様々な事業展開を行っているものの、その根幹は美味しい野菜と豊かな小麦なのである。

 

「ケビン殿、よいか?」

「あっ、蒼雲さん。どうしたんですか、こちらに足を延ばすなんて珍しい」

 

声を掛けてきたのはお茶農家の蒼雲さん。この村唯一のお茶農家さんでお茶の木の栽培から収穫、茶葉作製までを一人で熟して貰っている。

 

「あぁ、この冬に作り置きしておいた聖茶が大分溜まっていたんでな。

ケビン殿はそれどころではなく忙しかっただろう?村の問題も一息付いた頃合いだったんで納品しに来たんだよ」

 

そう言い時間停止機能付きのマジックバッグを掲げる蒼雲さん。

出来上がった聖茶は皆このマジックバッグに保管しておいてもらっています、品質劣化を心配しないでいいなんて本当に凄い魔道具です。

 

「残月、検品と小分けを頼めるか?終わったら保存庫に積んでおいてくれ、必要に応じて収納の腕輪に入れておくから」

 

俺の言葉にスッと姿を現した残月は、マジックバッグを恭しく受け取ると音もなく姿を消すのでした。

 

「相変わらずケビン殿の所の使用人は神出鬼没だな。

扶桑国にはシノビと呼ばれる集団がいたが、奴らでもあんな真似が出来るのは一部の上忍と呼ばれる者ぐらいだぞ?」

「あぁ、月影の指導がいいからですかね。でも白の奴もあれくらいなら出来ますよ?白玉が“自身の気配を自在に操作できなくて魔境で生き残れるか!”とか言って徹底的に仕込んでましたから。

そう言えば今度魔境に挑むとか言ってたな、それを持って免許皆伝とするとかなんとか。

俺も頑張ってはいたんですけど、遂に白の奴に抜かれちゃいましたよ。強さ的にも俺や父ヘンリーともいい勝負するんじゃないんですかね。

後は場数ですかね、色んな経験を積めば俺よりも強くなると思いますよ?」

 

俺の言葉に何故か乾いた笑いを返す蒼雲さん、イヤイヤ、本当だからね?

白ってめっちゃ強いから。

 

「ハハハ、冗談でもそう言って貰えると親としては嬉しいものだな。アイツには親らしい事なんて何一つしてやれてないからな」

「そんなことないですって、白は蒼雲さんの背中をしっかり見てますよ。

お茶農家の親父は凄いっていつも言ってますから。

マルセル茶の生育も順調な様ですし、本当に期待してるんですから。

それとこないだ頂いた式神符、大変役に立ちました。

斥候役としてこれほど優秀な魔道具はないんじゃないかってくらい便利ですね。式神が見て来た状況が使用者にも伝わるしちゃんと指示も聞いてくれますんで」

 

そう言いケビンは収納の腕輪から式神符を取り出して見せる。

 

「まぁ元々そうした物を作るのが生業であったからな。式神符はそんな中でも様々な工夫が行える分製作のし甲斐がある仕事だったんだ。

もっともそれだけの性能を発揮したのは、ケビン殿が持ち込んだ魔道具作製用インクと媒体となるビッグクローの羽の相性が良かったからだとは思うがな。基礎となる魔物があまり頭のよくない個体だとやはりそれなりの働きしかしないが、優秀であれば使える式神が出来上がる。

それらの選定も符術師の腕の見せ所と言われた物さ」

 

蒼雲は差し出された式神符を繁々と眺め、満足そうに頷くのだった。

 

――――――――――

 

“カッポカッポカッポカッポカッポカッポカッポカッポ”

まだ完全に冬の明けきらぬ枯草の草原を、一台の馬車がやって来る。

行商人のモノとは異なるそのやや豪華な造りに、本日の村門係をしていたギースは警戒の色を強くする。

 

「ごめん、突然の訪れ失礼する。我々は王都より参ったハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下の使者である。

ドレイク・アルバート子爵様に御目通り願いたい」

「口上、確かに受け取りました。

今屋敷に確認を行いますのでしばしお待ちいただきたい」

 

ギースは御者台の者にそう言葉を返すと、村門脇の待機小屋に向かい、暫く後に一匹のグラスウルフと共に姿を現す。

 

「ではお屋敷への伝言、頼んだぞ?」

“ウォン”

ギースの言葉に応えるかのように颯爽とその場から離れるグラスウルフ、その様子を御者台から眺めていた御者が声を掛ける。

 

「つかぬ事を聞くが、先程のグラスウルフは貴殿が使役しているものか?随分とよく仕込まれている様だが」

「ん、あぁ、違いますよ。彼らは通信配達用のグラスウルフ隊ですね。

アルバート子爵家の御屋敷と門番詰め所、それとゴルド村にも一体待機してますね。

只この時期はまだ冬眠期なんで、交代制で村門に待機してるだけなんですけどね。春になれば村の中を何頭ものグラスウルフがウロウロしてる姿を見ることが出来ますよ」

 

そう言い事もなげに答えるギースに、やや顔を引き攣らせる御者の者。

 

“タッタカ、タッタカ、タッタカ、タッタカ”

「おっ、早かったな、お疲れさん。

ハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下の使者殿、我が主ドレイク・アルバート子爵閣下がお会いになるとの事です。

このまま真っ直ぐお進みになっていいただくと村役場がございますので、そちらにお声掛けください」

 

「相分かった、面倒を掛けた」

 

“カッポカッポカッポカッポカッポカッポカッポカッポ”

再び馬車は進み出す、村門を抜けマルセル村村役場に向かって。

その後ろ姿に目をやるギースは、“あぁ、また面倒事だ。アルバート子爵閣下、御愁傷様です”と未だ執務に励んでいるだろう主に黙祷を捧げるのであった。

 

―――――――

 

「ケビン君、ちょっといいかな」

俺が納税用の畑の土起こしと追肥を終え、癒し草の新芽の煮出し茶を飲みながら一休憩していると村役場のボイルさんが声を掛けて来た。

 

「どうしたんですか、ボイルさんがわざわざこんな所・・・すみませんボイルさん、ちょっとお腹の調子が。あれ~、昨日食べた物の消化が悪かったのかな~。

これはお布団様でゆっくりしないと“ガシッ”」

「アルバート子爵閣下からの伝言です。“逃がさないからね”だそうですよ」

そう言い俺の襟首を確りと掴むボイルさん。

 

「いやだな~、逃げるだなんて人聞きの悪い、ただちょっとお腹の調子がですね」

「それは直接アルバート子爵閣下に仰ってください。行きますよ」

問答無用とばかりに連行される俺氏。本当に逃げませんからこの襟首を掴むのは止めてくれません?

駄目ですか、そうですか、分かりました。

俺はまるで拾われた野良猫の様に、村役場まで連れて行かれるのでした。

 

“コンコンコン”

「失礼します。ケビン・ドラゴンロード、お呼びにより参りました」

 

向った先は元村長宅現村役場の村長執務室。アルバート子爵家本邸が出来上がった際には政務の中心はそちらに移るそうですが、村の諸々の仕事はこちらの村役場で行うとの事。

ボイルさんはその際村役場の最高責任者に就任なさるんだそうです。御出世、おめでとうございます。

ですんでもうお仕事にお戻りになっていいんですよ?流石にここまで来て逃げたりしませんから。

 

「あぁ、忙しいところ悪かったね、入って来てくれ」

 

アルバート子爵閣下の言葉に扉を開け中に入る。

室内は簡素だが品のいい家具が揃えてある落ち着いた場所、アルバート子爵閣下が執務を行う机と来客用のテーブル。

そのテーブルには既にティーセットが出されており見慣れないお客様がお座りになっていて・・・。

 

「アルバート子爵閣下、大変申し訳ありませんが風邪を引いてしまったようでございます。急に頭痛と眩暈、それに胃の痛みが。

お客様にうつしてしまっては申し訳ありませんので、この場で失礼させていただきたく」

「あ、ケビン君、それ風邪じゃないから。大丈夫、今その症状にとてもよく効くお茶を用意させるから」

 

そう言いにこやかな笑みを向けるアルバート子爵閣下、逃がす気はないという事ですね、了解です。

俺は大きなため息を吐きたい気持ちをグッと堪え、アルバート子爵様方が座る来客用テーブルへと向かうのでした。

 

「ケビン君、紹介しよう。こちらは王都からいらしたハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下の使者の方々だ」

「はじめまして。ハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下に仕えております、オットー・カラキータと申します。

本日は貴重なお時間をお邪魔し申し訳ありません」

「お久し振りでございます。前回お伺いした際はロベルト・エラブリタイン伯爵閣下が大変ご迷惑をお掛け致しまして申し訳ありませんでした。

オーベルシュタインと申します、本日はハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下の使者としてお伺いさせて頂きました」

 

そう言いこちらに礼をする二人の客人。俺は今度こそ我慢が出来ず大きなため息を吐く。

 

「オーベルシュタインさんも大変だね。仕える主人が破天荒ってのも考え物だよね。

ガーネットさんとリンダさん、二人の警戒は正しいよ、こちらはその事について何か言うつもりはないから安心して。

アルバート子爵閣下、着席させていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、あぁ。構わないが一体どうしたのかな?普段のケビン君らしくもない」

俺がもう疲れちゃったといった態度で着座の許可を取ると、顔を引き攣らせながらその理由を聞いてくるアルバート子爵閣下。

まさかといったお顔をなさる子爵閣下のご心配、大正解です。

 

「さて、着座から失礼いたします。アルバート子爵家騎士ケビン・ドラゴンロードと申します。

春が近付いてきたとはいえまだまだ寒いこの時期の馬車のご移動、さぞや大変だったことでしょう。

本日はどの様なご用件でこの辺境マルセル村にお越しになられたのでしょうか?

王都諜報組織“影”の総帥、ハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵閣下」

 

俺の言葉に口元の笑みを深め、にこやかに微笑む男性。そして隣で項垂れるアルバート子爵閣下。

子爵閣下、伯爵閣下の前でその様な態度を取られては不敬に当たりますよ?

俺の囁きに急ぎ身を正されるアルバート子爵閣下は苦労人の鑑です。

 

「ハハハハ、うん、流石だね、報告で聞いていた以上の才覚だよ。

はじめましてだね、ハインリッヒ・ベルツシュタイン伯爵だ、どうぞよろしく。

因みにどうして私がベルツシュタインだと分かったのか聞いてもいいかな?」

そう言い先程までの従者然とした態度を止め、とても砕けた口調になるベルツシュタイン卿。

 

「まずは影の者たちの位置取りですね。何か事があった際直ぐに主人を庇う事が出来る様に、重心位置や筋肉の緊張、魔力の状態を調整していた事。他者に違和感を感じさせない様にしながらも立ち位置の調整を行っていました。

それとベルツシュタイン卿の名乗られたお名前、いくら私を試す為とは言え“オットー・カラキータ”はないでしょう。

“こんな事も分からなかったの?ちゃんと情報は与えたんだけどな~”とか言いながら帰りの馬車で一人ほくそ笑もうとしていた事がバレバレです。

これから行われるのは恐らくですが王都の会議の結果をアルバート子爵閣下にお伝えするといったご使者としてのお仕事、そんな最中に悪戯を挟み込んで来る辺り破天荒と言わずしてどう表現すれば?

オーベルシュタインさん、王都に疲れたらアルバート子爵家騎士団の者が大人しくしているか監視する為とかの名目でマルセル村にいらしてください。開き直る事が出来ればマルセル村は食べ物もおいしいですし過ごしやすいところですから。

詳しくは後程メイド隊のお二人からお聞きください」

 

そう言い顔を向ける俺に、微妙な表情を返すお二人。

あれ~、おっかしいな~。お二人なら分かってくれると思ったのに。

常識破壊の精神負担は思いのほか大きいと、そうですか、それは申し訳ない。

 

「アッハッハッハッ、イヤイヤイヤ、想定以上、オーベルシュタインが「決して手を出してはいけない」と言っていた言葉の意味が理解出来たよ。

そんな君に残念なお知らせです。国王陛下は今回の件で相当にケビン・ドラゴンロードという人物に警戒心を持っていてね。出来れば内に取り込みたいと思っていた様だが、そこは我々が押し(とど)めておいたよ。

“眠れるドラゴンを起こした結果がどうなったか、身を持って体験しただろう”と言ってね。

ランドール侯爵家との戦いから始まり、ヨークシャー森林国の疫病対策、ダイソン公国との戦い、そして王都の終戦。

その全ての糸を引いていたのが君だったという事は調べが付いているんだ、恐れるなと言う方が無理がある。

 

権力者が最も恐れるのはね、超常の力を持った存在なんかじゃない、自分たちと同じ舞台で戦う事の出来る知恵者なんだよ。

だってそうだろう、君なら今の治世を全く変える事無く影から操る事も可能なんだから、その様な者が市井にいれば恐怖以外の何ものでもないさ。

 

でも手は出せない、手を出したらどうなるのか、王都南街門前の惨劇が全てを物語ってるからね。

オーランド王国は実質的にケビン・ドラゴンロード、君に敗北してるんだよ」

 

そう語りテーブルのティーカップに手を伸ばすベルツシュタイン卿。

何をどう間違えたんだか。

辺境の片田舎で村人の皆と笑って暮らしたかった。飢えに困らず、寒さに困らず、襲い来る害意に怯える事無く。

結果オーランド王国の敵になったどころか、オーランド王国を敗北させた男認定をされてしまった。

好きな事をしながら平穏に暮らすのって本当に難しい。

俺は目の前でにこやかに微笑む王都の偉い人を前に、天を仰がずにはいられないのでした。

 




本日二話目です。
いってらしゃい。
by@aozora
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